SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 やることが多過ぎて折角買ったポケ〇ンが進まず、投稿もできませんでした。悔しいです。どうぞ。


#76 星錬-陥穽

 アールヴリッグは頭が足りない。だから、狙い通りフレンドリーファイアを引き起こすことができた。

―――完成度の高いAIだ。

 ブックス・トーンがAI開発に力を入れていると聞いたことはないが、あの《狸》のことだ、そういった策謀を練っていても不思議ではない。性格付けされたAIの開発は一大利益を生む可能性を秘めている。

 そんな思索はさておき、僕らの目の前でアールヴリッグはのそのそと立ち上がった。

 

「許さない……!」

 

 そして蛇の絡まった杖を捨て、また別の杖を取り出す。その杖は先程までの木製の杖とは打って変わった材質で、象牙か石で出来ているのだろう、褐色のマーブルな表面に光が反射していた。頂点には翼を広げた猛禽類の像がついている。新しい伝説級武器の登場だった。

 

「はぁ……!」

 

 アールヴリッグがそれを掲げると、その猛禽像から雷撃が走る。上手く制御できていないようで直接僕らに迫りはしなかったが、工房の中で弾けた複数本の雷撃は辺りのオブジェクトを弾け飛ばした。

―――高威力攻撃!

 分かり易く単純だが、同時に強力なエクストラスキルだ。ここまでの戦いを見たところ、このドワーフ達は多くの伝説級武器を使うが、その扱いに長けているわけではない。あくまで製造者であるということだろう。単純な強攻撃はその欠点を補うものだ。

 新しい二振りの伝説級武器の能力を把握し、エギルが声を張り上げた。

 

「作戦変更! 連携には連携だ。俺、シリカ、レントの組と残りの三人の組でローテーションを組む! シノンは変わらず援護を。雷撃の奴を中心に!」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 ドワーフ達も連携を取るようで、雷撃を放つアールヴリッグは後方に構え、斧を構えるベルリングが前方に出るダイヤモンドフォーメーションを組んだ。

 まず走り出た僕らはベルリングと激突する。戦斧の一撃はエギルが相殺、その隙に身軽さを活かしてシリカがその腕を駆け上がってベルリングの肩口を切り裂く。それを狙うグレールの槍を僕がパリィし、シリカが離脱すると同時に復帰したエギルがドヴァリンの短剣を弾く。

 

「スイッチ!」

 

 ベルリングの再度の振り下ろしを弾きながらキリトが走り込む。態勢を崩していたドヴァリンにクラインとミトが集中攻撃し、グレールには後方からシノンの援護射撃を見舞わせる。

 

「みんなから離れろ!」

 

 そこでアールヴリッグが杖を掲げる。放たれた数本の雷撃は、しかし至近距離では的の大きなドワーフに引き寄せられ、三体のHPが大きく削れた。

 

「アールヴリッグ、何をしよる!?」

「この脳足りんめ!」

「冷静に使いなさい!」

 

 その隙に三人が離脱し、代わって僕らが前に出る。ベルリングが動けない隙に今度はグレールに集中攻撃をしかければ、ベルリングがその斧を振り上げる。

 

「させないわ!」

 

 そこにシノンがOSSの五射を撃ち込む。妨害性能に優れたその矢はとうとうベルリングのスタン耐性を突破し、彼に膝を突かせる。

 

「目障りじゃのう!」

 

 後方に控えるシノンに、ドヴァリンの伸びる短剣が鞭として迫る。高度なAIは連携のカバーをするシノンを正確に捉えていた。

 

「させると思うか?」

 

 だから、当然対策はしている。スペルを唱え終わり、火属性に風属性を加えることで火力を上げた最大魔法、通称《魔砲》を解放する。

 ドガアアアア! そんな轟音を立てながら火柱は真っ直ぐドヴァリンに向かう。

 

「ぬぅうん、させるかぁ!」

 

 直撃すれば間違いなくドヴァリンのHPバー一本目を吹き飛ばすそれを見て、ベルリングは無理矢理腕を動かす。スタン回復はしていないため腰は浮かせられないが、それでも戦斧を振った。

 瞬間、空色の球体が広がる。それに呑まれた火柱は消滅する。魔法属性の消滅、だがそれは同時に別の物も消滅させていた。一つは、同じように援護のために放たれていたアールヴリッグの一撃、もう一つはドヴァリンの伸ばした鞭だ。

―――魔法なら何でも消すのか!

 結果としてシノンに向かう一撃はなくなる。そして今この瞬間はあらゆる魔法――そしてエクストラスキルが消失した。

 

「おらぁ!」

「どりゃあ!」

「それ!」

 

 そして我らはSAO上がりの近接戦闘屋だ。特殊攻撃を想定しなくて済むとなれば、戦い慣れていないドワーフ相手には一方的にラッシュをかけられる。

 パリン、パリンと連続してドヴァリンとグレールの一本目が割れる。二人も新たな武器を取り出した。ドヴァリンが取り出したのは大鎌、グレールは三叉の戟だ。

 空色の球が消える。僅か七人の妖精にしてやられ、四体のドワーフは怒髪天を衝く様だった。

 

「ゆるさない、許さない……!」

「塵芥の分際で!」

「粉々にしてやらぁ!」

「消し飛ばします」

 

 ドヴァリンの大鎌とベルリングの戦斧が同時に振るわれる。ただでさえ攻撃範囲の広いそれらに死角はほぼない。キリトとエギルがその二つをパリィする。

 

「こうです!」

 

 グレールが戟を地面に突き刺すと、そこから波紋のように揺れが広がっていく。それに触れた端から僕らのスタン蓄積値は急上昇し、その後に波紋をなぞるように戟から波が迫ってくる。クラインがスタンに入る直前に気刃で波を裂くことで僕らは難を逃れるが、とうとう全員がスタンする。

 そこに空中からアールヴリッグの雷撃が落ちてくる。漸く使い方を学んだのか、その狙いは僕らに定まっていた。僕がスタンしたことで不完全なまま解放された詠唱中の火柱がそれと直撃し四方に散らした。

 スタンから逃れた僕達は一度ドワーフから距離を取る。全員の顔に焦りが浮かんでいた。

 

「ありゃ不味いぜ」

「どう攻略する?」

 

 沈黙が満ちる。高威力遠距離魔法攻撃、広範囲物理攻撃、魔法消失空間の展開、高性能スタンと広範囲魔法攻撃、四体の構える武器は圧倒的な強さを誇る。

 ミトと何やら話し合っていたシリカが二人して口を開いた。

 

「外が駄目なら」

「中に入るしかないと思います」

 

―――それはそうなんだけど。

 全員の無言の反論を受け、シリカが一歩踏み出した。

 

「まず、頑張って避けます。斧と鎌はスルーして、スタンはシノンさんに止めてもらいます。近づけば雷は多分撃てないと思うので、きっといけるはずです!」

「…………よし、それで行こう」

 

 長い黙考の後、エギルは重たく頷いた。

 

「シノン、行けそう?」

「やるしかないでしょう? そういうの得意よ」

「頼もしいね」

 

 六人は改めて前に出る。怒りに満ちていた四体は、圧倒的な有利さに揃ってほくそ笑んでいた。

 

「性格悪っ」

「失礼ぞ、小娘!」

 

 ミトの言葉に反応したドヴァリンの横薙ぎの一撃で、再度の攻防が始まった。

 今度はドヴァリンが先走ったために戦斧との同時攻撃ではない。ドヴァリンの鎌にミトは自分の鎌を合わせ、その穂先を地面に逸らしながら鎌の刃を飛び越えた。そのまま鎖状に変えた柄をドヴァリンの首に投げつけて一気に距離を詰める。

 ミトによって足元に逸れた鎌を残りのメンバーで揃って飛び越えれば、ベルリングの斧が今度は真上から圧し潰すように迫っていた。

 

「ヤタガラス!」

 

 クラインの霊刀から霊鳥が飛び出る。ヤタガラスは僕らの上で大きく翼を広げ、その身に斧の一撃を受けて消滅した。それでもそれによって生まれた数瞬の間に全員が斧の下を潜り抜け、背後で地面に斧の刃が埋まる。そこから三度空色の球が出現した。しかしこの距離に寄ってしまえば寧ろ関係がない。地面に刃をめり込ませて体勢を崩したベルリングにエギルとクラインが貼りつく。この二人は特に魔法やソードスキルを用いずに大ダメージを与えられる組み合わせだ。その大振りな一撃もベルリングの元ではスマートに見える。

 至近にいるミトに鎌を当てようと藻掻くドヴァリンの足元に滑り込んだシリカは、的確な一撃でドヴァリンの膝裏を切り裂く。ピナのブレスも合わせてドヴァリンは片膝を折った。

 

「はぁッ!」

 

 手の届かない距離でグレールが戟を地面に突き刺そうとする。しかしその前に二本の重たい実体矢がグレールの両目を穿った。その実体矢には爆弾アイテムが括りつけられていたようで、それが炸裂してグレールは堪らず両目を覆う。その隙にキリトが一気に距離を詰め、戟をパリィして更にグレールを後退らせた。

 最後に僕がアールヴリッグの足元に滑り込む。彼の雷撃は巨大であるがゆえに小回りが利かない。この付近の僕に対しては拳や杖による打撃しか有効打が存在しない。やはりあの攻撃は杖に付随したものであり、彼自身に魔法の能力は備わっていないのだ。

 アールヴリッグが杖先を僕に向けて続けざまに突き出してくる。しかしそれらは大雑把なものであり、一瞬剣を添わせることでその突きの隙間に身を投じる。一気に接近し、ソードスキルでその体を切り裂く。

 

「レント!」

 

 声がかかる。片目で確認すれば、ドヴァリンを前後から挟み撃ちにするシリカとミトがこちらを見ていた。ミトは最初と同じように鎌の刃を絡め取る。

 

「スイッチ!」

 

 大胆な提案だ。僕はアールヴリッグの突きをあえて躱さずに受け止める。そもそも魔法の媒体となる杖であり、直接攻撃力は高くない。受け止めたそれに一瞬抵抗すれば、アールヴリッグは調子づいて更に力を籠める。そのタイミングを計り体を傾ければ、バランスを崩した巨人は勝手に体勢を崩して前方へとつんのめっていく。

 そこに直撃するのはシリカが体勢を崩し、ミトが誘導したドヴァリンの大鎌だ。アールヴリッグが大きく怯んだその隙に僕はドヴァリンへと飛び、アールヴリッグにとどめを刺しに向かうシリカとミトを襲うドヴァリンの鎌を弾いた。

 相対する敵の交換、それはほぼ同時にキリト達の方でも行われており、それに抵抗しようとした魔法属性消失の球が膨らむ。アールヴリッグが発動しようとした雷撃はその球に触れて消失し、ミトとシリカの連撃がそのまま決まる。

 僕に向かって振り下ろされる鎌を、僕はちらりとも確認せずに避ける。大鎌なんていう武器、取り扱うのがどれほど困難なことか。やはりドヴァリンの鎌遣いはおぼつかない。

 大振りを空振りして隙を晒したドヴァリンに《ジャッジメント・エンター》を叩き込む。そのついでにいくらかの魔法を放ち、離脱せずに再び転回してドヴァリンの足元を掬う。シリカとミト、それからピナが継続して斬り続けたドヴァリンの膝はそれによって部位限界に達し、がくりと膝を突く。目の前に下りてきた顔面に加えてソードスキルを放てば、ドヴァリンのHPバーは最後まで黒く染まった。

 

「ぐ、ぬぁ……」

 

 バタンと砂埃を巻き上げながらドヴァリンは力なく倒れ伏し動かなくなる。ほぼ同時にアールヴリッグとベルリングも地に伏せた。

 最後に残ったグレールにエギル、クライン、それからシノンの一撃が余さず集中してとうとう彼も地に倒れた。

 

「これで終わり、ですかね」

 

 シリカの不安げな声は、何も根拠のないものではない。

 

「……まだ、ある」

 

 キリトは半ば確信的に言いきった。メンバーの誰しもがそれに頷き、再び武器を構えた。

 事前に与えられたボス情報は、敵がドワーフであること、一度倒すごとにHPバーが一本増加すること、今はHPバーが八本であること、HPバーの減少とともに使う武器が変わることであった。その時点でも相当面倒な敵であったが、蓋を開けたら敵は四体に分かれていた。その情報を落とすことなどあり得ない。これは故意で行われた()だ。

 第一、一度倒すごとにHPバーが一本増えるならば、八回倒した後の今回は()()のはずだろう。つまり、まだ最後の一本に僕らは出会えていない。そしてこれ見よがしに倒れたままの四体のドワーフ。彼らはHPバーが黒く染まったにも関わらず、通常のエネミーと同じように消えず、体が残っていた。

 

「……ころ、殺してやる」

 

 その声がひっそりと聞こえてくる。音の発生源はアールヴリッグだった。彼はHPバーを黒く染めたまま立ち上がると、最後の武器、二又の槍を取り出した。その槍で他の三体を突き刺せば、ドヴァリン、グレール、ベルリングの体は粒子に溶けてアールヴリッグへと流れ込んだ。

 

「妖精どもめ……、捻り潰してくれてやりましょう」」」」

 

 次第に彼の声が何重にも重なって聞こえてくる。その口調も、まるで四体が複合したような不安定なものに変わる。体躯が膨れ上がって一回りほど強靭になると、咆哮した。

 

「うおおおおお!!!!」

 

 アールヴリッグは目を赤く充血させ、錯乱状態で僕らへと驀進した。

 

「決めるぞ、お前達!」

「「「おう!」」」

 

 エギルの声とハンドサインに従い、僕らはすぐさま態勢を整える。エギルとキリトが二人がかりで強力になったアールヴリッグの攻撃を弾き、すっかり息のあったシリカとミトが即座に細かなダメージを与える。ピナのブレスで攪乱しながら彼女達が離脱し、攻撃から立ち戻ったアールヴリッグの前に再びキリト達が現れる。

 その後方からシノンが矢を、クラインが気刃を、僕が魔法を連射する。四体の敵を捌ききった僕らの連携の前に、いくら強大化しようと手数の減った鈍重なアールヴリッグは完璧に対処されていた。

 もう魔法無効化の斧もなければ、強制スタンの戟もない。範囲攻撃の大鎌もなく、範囲防御の盾もない。遠距離物理攻撃の短剣も、遠距離魔法攻撃の杖も、フィールド汚染の槍も、高機動の杖もない。それでは、僕らのパーティを崩す一手を打つことはできない。

 ほんの五分、それがアールヴリッグの最後の生存時間だった。エギルの斧の一撃でHPバーは再び黒く染まり、今度こそ彼の体は砕け散った。僕らの前に撃破報酬のウィンドウが広がる。

 

「お、あったぞ、伝説級武器」

 

 ラストアタックを決めたエギルがそう声を上げ、彼の持つ斧が最後に見た二又の槍に変わった。

 

「名前は《冥叉プルート》。エクストラスキルは《スルーゲート》、効果は……お、こりゃ凄い、リメインライトの即時消去、もしくは回数制限の無条件蘇生だ」

 

 戦闘に直接役立つ能力ではないが、特殊アイテムか莫大なMPと引き換えの蘇生魔法が必要な蘇生を行えたり、一分間は敵の再来を気にかけなければいけないリメインライトを消したりと、ゲームシステムに大きく干渉する能力は、ここまでの苦労に見合ったものと言えるだろう。

 

「あ、私も面白いものがあった」

 

 ミトがウィンドウを操作して、掌の上に豪奢な装飾品を出現させた。

 

「《ブリーシンガメン》、だって。まだ素材アイテムみたい」

 

 アールヴリッグ、ドヴァリン、グレール、ベルリングの四人のドワーフによって作られたと北欧神話に語られる首飾り、それがブリーシンガメンだ。伝説級武器ではないが、その名に違わぬアイテムなのだろう。差し詰め《伝説級装具(レジェンダリーアクセサリー)》だろうか。

 

「《洞穴工房の鍵》、これだな、目的の物は」

 

 最後に声を上げたのはキリトだ。流石のリアルラックである。彼は前腕ほどの大きな――工房のサイズに比べたら小さいが――鉄製の鍵を掲げていた。

―――さて。

 

「それじゃあ、もう一戦やるとしましょうか」

 

 僕の言葉にクラインが不敵に笑った。

 

「やっちまっていいのか?」

 

 エギルがニヤリと笑う。

 

「ああ、良いだろう。ここまで騙されたんだ、今更味方を取り繕おうたってそうはさせねぇよ」

 

 シノンが無言で天井に向かって矢を放とうとしたとき、僕らが油断しているとでも思ったのか、()()が姿を現した。

 

「相手は七人、お前達、やっちまえ!」

 

 雄叫びとともに隠蔽魔法を破って現れる一レイドほどの集団。その陣頭で指揮を執っているのは、やはりというか、僕らをここに導いたシーロックだった。




 今ストーリーはまだしばらく続きます。
 前回に引き続き、伝説級武器の紹介です。

火槍マーズ
 武器種は《槍》。穂先の尖った、非常に無骨な朱槍です。穂の少し下に布が結ばれており、その両端に小さな宝玉が付いていることくらいが唯一と言っていい外見的な特殊性です。
 エクストラスキルは《ウォークライム》。効果は穂先の接触点より直径五メートルほどの範囲の床や壁を、接触すると継続ダメージの入る空間へと一時的に変更します。これ以降はドワーフが四体になるので難易度が上がり、エクストラスキルも強力になります。

木笏ジュピター
 武器種は《杖》。褐色のマーブル模様の象牙質の杖。頂点には翼を広げた猛禽類の像がついています。古代ローマの王笏がモデルです。
 エクストラスキルは《ライトニング》。効果は単純で、MP消費なしで強力な雷撃を扱うことができます。太陽神ソルスの広範囲殲滅攻撃のように、一定時間ごとに残弾が回復する仕組みです。

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