そうしてこうして、私とモゼに与えられた短い三日間は短いままに終わりを告げた。私としてはモゼの成長は著しく、三日間で到達できると考えていた水準よりも遥かに上まで達したと思える。だがそれでも不安は残る。
「……大丈夫かしら」
「きっと大丈夫だよ。彼は僕に一撃当てて見せたんだから」
あの大柄なスキンヘッドの水妖精が先頭に立っているレイドへ単身で向かっていくモゼを心配を込めて見つめていたら、隣にいつの間にかレントが立っていた。
そう、昨日、モゼはあのレントに一矢当てたのだ。実際レントは手加減をしていた。剣を抜かず、決してパリィせずに全ての矢を回避していた。対象の排除ができない長時間の回避というレントにとって非常に不利な状態だった。それでも
それに今のモゼには現環境を変える希望のケルビエルの光矢がある。
「それでも心配なものは心配よ。……彼には対多の経験が足りな過ぎるわ」
レントの訓示を受けたとはいえ、対多での実戦経験がモゼにはない。それどころか、たった三日ではまともな実戦を積む時間はなかった。
私は一応この場に、スキル枠を増やす分に加えていくらかの気持ち分を渡せるほどのユルドを準備してきている。支払わずに済むことを願うだけだが。
「さて、そろそろ始まるかな」
レントの声に目をレイドの方に向ける。スキンヘッドの彼がモゼとレイドの間に立って話を進めているようだった。
そしてどこか苦笑した様子のスキンヘッドの彼とモゼがこちらに飛んできた。
「どうかしたかしら」
「シノンさん、お願いしたいことがありましてね」
「シノンさんも共に戦って良いと!」
「――なるほど、さては一瞬で終わられると実力も測れないとでも言われましたか」
スキンヘッドの彼は一瞬レントに胡乱気な視線を送るが、すぐに正体に気づいたようでやや口の端が引き攣る。それにしても初対面の相手に《白い悪魔》として振る舞うその癖はどうにかならないものか。本人が一種の切り替えのように使っているのは知っているが、まるで私の知っているレントではないような気がして少し居心地が悪い。
「は、はい。それで、こちら側は俺とモゼとシノンさん、それからシノンさんと一緒に暇そうにしている白服のプレイヤーでパーティを組んでうちのレイドと戦うことになったんですが……。まさか、《白の剣士》さんだったとは、どうしましょうかねぇ、明らかに戦力過多でしょうし……」
「構いませんよ、僕は今回剣を抜かないという条件で参加しましょう。モゼさんの所属が懸かっていますからね、補助に回りますよ」
《白の剣士》と呼ばれたからだろうか、口調を普段のものに戻したレントはスキンヘッドの彼、ラムズ――流石に教えてもらった――の話を快諾した。まさかの徒手空拳宣言だが、確かにモゼの実力を示すためなら前衛は敵を落とすことは程々に、後衛を守ることを主とした方が良いのだろう。
―――まったく、どうなっても知らないわよ?
あのレイドは敵に回してはいけない人間に喧嘩を売ったように思える。レントが本格的に敵対行動を取るならば、たとえレイドといえども壊滅を避けることは難しいだろうに。
―――ま、関係ないか。
私としてもいまだにケルビエルから手に入れた弓矢の試運転すらできていないのだ、あのレイドを試金石とさせてもらおう。
諸々の鬱憤を晴らせる見込みが立った私は、口角が上がるのを抑えることができなかった。
******
四人で少し作戦会議をした後、私達は空中で今回の相手となるレイドと睨み合っていた。
レイドと表現したが、実際には大体一と半レイド分くらいの人数がそこには集合していた。中々の規模のギルドであることが窺える――全員がここに集合しているわけではないだろうから――。当然効率や高度なプレイを追い求めるギルドであろうし、だからこそ弓は嫌厭されたのだろう。
その大集団の先頭に立つ音楽妖精の青年――恐らくギルド長だろう――が声を張り上げた。
「それではこれから特例のギルド入団試験を始める! そちらの四人とこちらの十パーティで戦って、その中で水妖精のラムズ、及び同じく水妖精のモゼの実力を見て入団を認めるか否かを決める! それでは、散開!」
その言葉でそこにいたプレイヤーは同時に逆側へと距離を取る。今回はボス戦のように正面からの戦闘となる。こちらの戦力は後衛で弓使いの私とモゼ、前衛として大剣を操るラムズと限定的に素手で戦うレントだ。これは敵にも確認されている。対して敵は……一.五レイドもいれば弓以外の全ての武器種が揃っていて陣も整っていると見て良いだろう。プレイヤーの数だけで戦力分析は十分だ。
レントはどこに隠し持っていたのか、GGOの普段着のような薄灰色のフードのついた布装備に黒手袋、それから焦げ茶のブーツを身に着け、タートルネックの黒いインナーを口元まで上げて顔を隠している。明らかに普段とは違う装備で、これは相手に《白の剣士》と気づかせる気はなさそうだ。
―――貴方、白くない装備持ってたのね……。
リアルの普段着からして白の系統色が多いレントが、まさかこんな装備を持ち歩いているとは思っていなかった。……いや、持っていたとしても持ち歩いているのはおかしいか。ということは彼はこの展開を予測していた、もしくは期待していたのか。戦闘狂のようになってしまうから予測していた方であってほしいが。
さて、他の三人が持ち場についたことを確認して私は徐に光弓を取り出した。実はこれが他者への初公開となる。私が普段使っている弓を知っているレントやモゼは驚愕を示し、ラムズも光弓の仰々しい見た目に目を瞠っている。
左手に光弓を構え、右手で光矢を番える。私の少し右下では同じようにモゼが弓に光矢を番えていた。
モゼに光矢を持たせるかどうかは最後まで悩んだ。正直に言えば光矢ではなく弓として認められたかったのだが、ここで出し惜しみをして認められなければ本末転倒だ。私は昨日の最後にケルビエルの試練――光弓獲得のためのものより簡略化されていた――をモゼに受けさせ、モゼはそこで特訓の成果を見せつけてクリアしたのだ。
開戦の合図は相手側が出すことになっていた。それをただ待つ。私とモゼよりも前方で構えるラムズが緊張しているのが後ろから見てもよく分かった。レント? 彼がレイド相手であっても緊張なんてするはずがない。その悠然とした立ち方は安心感を与えると共に、余裕に満ちた立ち姿――飛んでいるが――は自分が緊張していると無性に苛立つ。
―――少し意地悪してやろうかしら。
そんなことを考えていたとき、法螺貝のような音が戦場に響き、敵の前衛が雄叫びを上げながら突撃を開始した!
こちらの前衛も前に飛び出したことを確認して、私はこの戦闘の嚆矢を放つ。
放たれた光矢は
「は……?」
それは誰の口から漏れた声だったか。何にせよ、私の第一射は狙い通りの効力を発揮した。
以前述べたように、《弓》の弱点として挙げられるものの一つに距離減衰の激しさがある。放った矢は重力に引かれ落ちていき、また速度も同様に遅くなっていく。ところがこの《光矢イグジスタンス》はその名の通り光のような矢なのだ。真っすぐ限界射程まで速度を落とさずに飛んでいく。まるで魔法のような挙動をする矢というわけだ。
またこの光矢、どうやら光矢自体ではなくそれが纏っている光を矢の形状にして放つという設定らしく、光矢が光り輝いている間ならばどれだけでも矢を放て、更に光を失ったとしてもMPを消費すれば回復することができる。つまりは大量に矢を持ち運ばなければならないという欠点もこの光矢は克服しているのだ。
弓使いとしては喉から手が出るほど手に入れたいアイテムだ。そしてそれはいまだここにいる二人の弓使いしか所持していないアイテムでもある。
先程の第一射は牽制が目的であり威力は出ない。それでも吃驚して足――翅か――を止めた前衛は、ラムズの大剣によるソードスキルでエンドフレイムと化した。
これがまず最初の作戦。先手必勝で流れを掴むというヤツだ。
ここから第二の策に移る。
ソードスキルの硬直で隙を見せたラムズに三人の前衛が飛びかかるが、その三人はすかさず放たれたモゼの連射によりスタンが入り逆にラムズの一振りで薙ぎ払われる。レントの方でも同様に複数人がかりによる攻勢が行われるが、こちらには私の射撃による援護が行われる。レントも徒手空拳で受け流しを中心に、翅を止めずに退路を断たれないように動いている。
第二の策は簡単なものだ。前衛一人に後衛一人、ツーマンセルで集団に対抗するというだけ。これが上手く働くのは偏に圧倒的な人数差があるからだ。
これだけの人数差があると一斉攻撃にも無理が生じる。そもそもターゲットがただの人型一つとなれば群がれる人数にも限界があるし、後方からの斉射などは前衛へのフレンドリーファイアの可能性が高過ぎて行えない。前衛同士ですらレントは同士討ちをさせている。乱戦になればこちらが圧倒的に有利なのだ。そもそも数の有利を最大限に活かせるのは、的が大きい場合か持久戦のときかだ。
また敵から手に取るように伝わってくるのは侮り、嘲りだ。これ程の戦力差は基本的に油断を誘う。十パーティというのは、つまりは七十人だ。対するのが四人ともなればそこに緊張感がなくなるのも頷ける。それがこちらの狙いでもあるのだが。
敵の七十人は後衛が二十人ほど、前衛が三十人で予備戦力として中陣で浮いているのが二十人だ。三十人の前衛は半々に分かれてレントとラムズに当たっている。しかし十五人で一人を囲いながら攻撃することは難しいため、一撃離脱で前後を入れ替わりながら攻撃している。要するに一度にレント達が対処するのは七、八人というわけだ。
モゼが装備している弓はSTRの要求が高い、いわゆる強弓という部類のものだ。それゆえ放った矢の威力は高く重い衝撃を与え、加えてスタン蓄積率が高く足止めに特化している。光矢は一々番える必要がないため連射性能に長けており、現在モゼは威力の高い矢を高頻度で放てている。
ラムズの前衛としての資質は中々に高いようで、モゼの援護によって八人の包囲にズレが生じた隙を決して逃さない。大剣の振り回しと巧みな体捌きによりまともな被弾は今のところ確認できない。
レントに至っては元々のプレイスタイルと合っているのだろう、八人を両手で捌きながら同士討ちを誘い敵を完全に弄んでいる。その上口元に微笑を浮かべているところから察するにまだまだ余裕を残している。
ツーマンセルと言ったが、レントに援護は必要なさそうなので私は狙いを乱戦中の前線から更に奥、敵の後衛に合わせた。
心を落ち着かせてソードスキルを発動させる。放たれたのは五連射。五本の光の矢は真っすぐ飛び、魔法の詠唱を始めていたメイジの注意を引きつける。いくら減速がないとはいえ距離があり過ぎて矢は避けられてしまったが、相手の注意がこちらに向いたのを感じる。
―――さて、と。
ここからが私の腕の見せ所だ。後衛対後衛の戦いは基本的に私に任せるようにモゼには言ってある。そもそもダンジョン攻略、並びにボス討伐が主目的のレイドへの入団試験なのだ。後衛への対処などというダンジョン攻略では起こりえないことは私が行っても構わないはずである。
取りあえずは弾幕として矢をばら撒く。残り本数を気にせずに撃てるだけ撃てるのは本当に素晴らしい。光の矢にも限度はあるが、どれだけ撃とうがたったの一戦で使いきることはないだろう。
弓矢と魔法、連射性能はそもそもとして数少ない弓が上を取れる点だ。それが光矢のお陰で向上しており、二十倍の人数がいようが一人で同じかそれ以上の数の弾幕を張れている。重力の影響は微々たるもの――それこそ光に与える影響と同程度――であるため狙いがつけ易いことこの上ない。
私が放った矢の半分は敵の魔法を越えて敵陣深くへと飛ぶ。後方の安全圏からの攻撃に慣れ切ったメイジはこの距離があっても這う這うの体で避けざるをえない。そんな状況では詠唱も中断され飛び交う魔法は減る。更に残りの半分の矢はこちらへ飛んでくる魔法に合わせる。
魔法と矢の形をした光。接触した端から花火のように弾けるものもあれば、音もなく消え失せるものもある。
スペルブラスト。以前キリトが攻略ギルドに対して披露した、技術の極致のようなシステム外スキルだ。それは俗称の当たり判定斬りの通り、魔法の当たり判定を的確に攻撃して相殺するというものだ。そして
しかしまだまだ実用的ではなく、どれだけ狙い澄ましても一パーセントも成功すれば良い方である。ただ弓に限って言えば、自分の付近ではない場所で魔法に攻撃を当てさえすれば誤爆させることが可能なのでさしたる意味のない技術ではあるが。
おっと、そんな無駄なことを考えている内にどうやら敵も痺れを切らしたらしい。いつまでも粘り続ける前衛の二人に、嫌らしいタイミングでのモゼの援護、一人で後衛と競り合う私、確かにたったの四人ということもあってフラストレーションも溜まることだろう。
敵の中陣が動き出す。前衛の二人にかかる圧力が増して邪魔が入るのを防ぐと、二十人の中陣は二手に分かれたりせずにモゼへと飛んでいった。
―――なるほどね。
モゼを落としてしまえば援護のなくなったラムズも容易く落とせるだろうし、ラムズの援護を私がしようとすれば今度は私が敵の後衛の圧、もしくは動き出した中陣によって捻り潰されるだろう。私達にたった一人で七十人と対峙するほどの力はないのだ。
そしてそうなってしまえば今回の挑戦は失敗だ。これはモゼとラムズが最大限戦ってこそなのだから。
前方でレントの周囲に大量の文字でできた円環が浮かぶ。魔法による援護を行う気なのだろう。相手の前衛は慌てて妨害しようと攻撃を重ねるがレントの詠唱は小ゆるぎもしない安定性を見せ、むしろ慌てて隙が生まれた相手のコンビネーションを割くかのように格闘でHPを削っている。
殺到する集団に対してもモゼは激しい動揺を見せなかった。これも教育の賜物である。私は霊城の最終戦において後衛を狙った攻撃というものに遭遇している。それへの対処を仕込まないわけがないだろう。
モゼの弓に鮮やかな緑青色の光が宿る。その光は番えた
直線的な攻撃しか光矢ではできないと分かっていたプレイヤー達は、当然のように直線の軌道を描いてモゼへと向かっていた。後衛のメイジとは違って彼らならば確かに光矢を見てから避けることも可能だろう。
だがしかしソードスキルならばどうだ? 光矢は見た目は派手だが所詮は通常攻撃、速度が落ちなくともそもそもの初速度は一般的だ。だがソードスキルは違う。システムアシストによって通常の何倍もの速さで飛ぶ矢に彼らは対応しきれなかった。
緑青色を放つ矢は手元から五つの光線になり五方向へと進む。そしてやや散開していた二十人の内の五人にクリーンヒットした。そこから炸裂し、周囲の人間を巻き込んで吹き荒れる旋風でクリティカルを受けた七人が脱落した。
この試験開始初の弓による脱落者に集団は動揺を見せ、その瞬間に発動したレントの砲撃魔法によって後方から狙撃された彼らはその人数を五人まで減らす。さしものレントもノールックでの砲撃ではやや狙いを外したようだ。
残りの五人は爆炎の最中肉薄したモゼによる二度目のソードスキルで一射の内に沈んだ。敵の隙を見逃さずに一呼吸の間に己の持つ最大火力を叩き込む。レントの援護で硬直時間を消化できたとはいえ見事な攻撃だった。
唖然とする敵陣を崩すため、私も仕かけを発動させる。
レントとラムズにアイコンタクトをして前衛を抑えてもらい、今度は逆に私が敵陣へと突入する。
メイジの慌てたスペル詠唱はレントに比べれば欠伸が出そうなほど遅い。魔法が放たれる前に十分に距離を詰め、私のOSSを発動させた。
「《シャッス・ヘカート》!」
弓を斜め上から斜め下へと振り下ろす。その途上で四度矢を番えて放つ連射技。空中で身を捻りながら発射したために四本の矢は地面と水平方向で拡散する。
二本の矢は敵陣に入り込み二人をそのままエンドフレイムへと変え、そしてそのエンドフレイムごと
これは闇属性魔法の自爆を敵に行わせるという表現が最も適した技だ。重いデスペナを無理矢理課すことはないが、エンドフレイムの消去による復活不能という絶妙に嫌らしい副次効果がある。
これで排除できたのは二桁に届かない数。残りの二本の矢が逸れた方向へと飛ぶのに油断したメイジ達に思わず口元が歪む。
―――エクストラスキル《ゴッズ・グローリー》発動。
メイジ達から離れていくはずだった二本の矢は軌道を急角度で変え、逆に集団へと突き刺さる。メイジ達はパニックのまま先程の焼き直しのように数を減らす。これで残るメイジは三人。
―――更に、発動……!
意識が足元の光の残滓へと向かう。
私はこの戦いで矢を大量に連射した。使い放題の光矢があるとはいえ普段の狙撃とは打って変わった乱射スタイル。それによってこの戦場一帯には私が放って外れた矢が大量に山積していた――光矢で放った矢は有効射程を越えると地に落ち、段々と光に解けていくのだ――。
解けてかけていた光が再び指向性を持って凝固し、三人のメイジ目がけて来襲する。大量の光の矢が眼下より昇ってくる様はメイジ達を混乱の坩堝へと叩き落した。そしてその混乱冷めやらぬまま、全身を大量の光に貫かれ急速にそのHPを減らしていく。
私はとどめとして三本の重い実体矢を放ち後衛を全滅させた。
振り向けば、ラムズも数人を真正面から撃破して敵の槍に貫かれたところだった。私やモゼとは違い奇策を用いれなかった彼が、多対一で戦果を挙げられているということに対して私は失礼ながら少し驚く。
まあ、その驚きもその隣で遂に徒手空拳で十五人を撃破したレントを見れば呆れに変わってしまうが。
結局、レントの魔法で復活したラムズを含めた四人で残った数人の近接プレイヤーを包囲すれば、彼らは両手を挙げて降参の意を示した。
「参った! いやはや、入団試験のはずがまさかこちらが壊滅することになるとは! 見事だ、ラムズ、モゼ、君達の入団を心から歓迎しよう! そして、そちらの二人は我がギルドに入る気はないかな?」
残った数人にはギルド長の音楽妖精もおり、彼は清々しい笑顔を見せた。ひとまずラムズとモゼの入団は保証されたようで私の肩の荷も下りる。
「そうね。私達二人の全力に耐えられるか試験してから考えましょうか」
「――はは、確かにそれもありかもしれませんね。ですが、彼の血盟騎士団も御せなかった悪魔を迎え入れる器があれば、ですが」
「……。これは、驚いた。なるほど、うちの連中が勝てないわけだ。それならすっぱりと諦めようじゃないか、我がギルドには《聖騎士》も《閃光》もいないのでね」
肩を竦めたギルド長は今度は私に向かってだけ話しかけてきた。
「ところで、今回のことを通してギルドで試験的に弓部隊を作ってみないか提案しようと思うんだが、弓部隊創設の暁には特別顧問としてシノンさんに協力を依頼したいんだが、この要請は受け入れてくれるかい?」
それに対する私の返答など、ここまでの流れを踏まえれば考えるまでもないだろう。
「またとない申し出ね。むしろ私の方から頼みたいくらいよ」
「つまり?」
「――喜んで。ビシバシ鍛えてあげるわ」
やっぱり質はともかく量の多い戦闘を書くと文字数が増えてしまいますね、今後の課題です。最終負荷実験をフルで書いたらどこまで長くなってしまうのか……。
ちなみにシノンさんが二十人くらいを撃破したのは通常運転です。ラムズが戦果を挙げられたようにそれほど練度の高くないギルドなので、このくらいなら可能です。が、モゼが大量撃破したのは相手の油断と動揺につけ込んだだけの要するに奇襲です。産廃の《弓》だろうが使い様、ということですね。
シノンさんのOSSはフランス語で《ヘカテーの狩猟》って意味……ではありません。そんな感じの単語を並べただけの言葉です。
ところでヘカテーってめっちゃ良いですよね。冥界の女神、しかし豊穣の女神であり、遠くへ力を及ぼす者という射撃に通じる名前を持ち、更にはワイルドハントの首領という側面も持つ。つまりシノンさんにヘカートⅡを持たせた川原先生は神。