SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 お久しぶりです。今日でこの小説三度目の三月十五日です。いわゆる二周年、明日から三年目ですね。どうぞ。


#66 霊刀-攻城

「うーむ、分からん!」

「クラインさん、諦めるのが早いですよ」

「そうだぞ、クライン。まさか運営だって完全ランダムに設定してはいないだろうし、どこかにロジックがあるはずなんだ……」

「あはは。私達はゆったりやりましょうか」

「アスナちゃぁん」

 

 アスナの方に寄りかかりかけたクラインにキリトからペンが飛んだのはご愛嬌。

 さて、僕達が現在何をしているのかと言えば、伝説級武器(レジェンダリーウェポン)獲得の準備だ。

 今回狙っている伝説級は《霊刀カグツチ》。クラインが以前より欲しがっていたものだが、今回本格的に獲得に向けて動くことにしたのだ。

 《霊刀カグツチ》の存在が確認されたのは去年のことだ。その発見は相当量追加された伝説級の中でも早かった。しかし現在に至るまで霊刀は個人所有となっていない――正確に言えばその姿を目視した者はいない――。

 その理由はダンジョンの攻略難度の高さだ。霊刀はクエストの達成報酬ではなくダンジョンの攻略報酬なのだが、そのダンジョンの名前は《霊城カグツチ》。その所在地は……誰も知らない。

 霊城カグツチは毎度毎度異なる場所に期間限定で出現するのだ。毎週日曜日の午前零時から午後十二時までの丸一日の間、和風の城の天守閣がダンジョンとして現れる。そのダンジョンの入口にある立て札に、攻略報酬《霊刀カグツチ》の情報が載っていたのだ。それがカグツチの発見である。

 この霊城は出現場所が変わるだけでなく毎週ごとにその中身も変わる。流石にダンジョンとしての大枠――階層ごとのコンセプトや出現する敵――は変わらないのだが、マップ情報がすっかり変わってしまうのだ。そのため攻略はたったの一日で行わなければならない。加えて出現場所が分からないので丸一日を攻略に使えるわけではない――ダンジョン自体の捜索時間が要るのだ――。

 その結果、全五階層らしいのだがいまだに第三階層に至った者すらいないのだ――ただ、誰かに先取りされないために情報が秘匿されている可能性もあるので何とも言いがたいのだが――。

 というわけで、そんな霊城の攻略のために、僕等は必須とも言える出現場所の割り出しを行っていた。

 現在この場(ALOのキリト達の家)にいるのは霊刀を望んでいるクラインと、僕、キリト、アスナだ。主に働いているのは僕とキリトとも言える。

 今までに確認された出現場所と日時の一覧を眺めてうんうんと唸り、手元にオブジェクト化した筆記具で考えを進める。

 

「……でも、やっぱりこれを人力でやるのは厳しいんじゃないかな?」

「ああ……。だが、本来人が解く問題なんだから解けるはずなんだよなぁ」

 

 髪をクシャクシャと掻き回すキリト。その胸ポケットから小妖精が飛び出してきた。

 

「駄目です。日付、前回の場所、その日の天候、世界の主要言語による日付、どのパターンからでも法則性を見つけられませんでした」

 

 申し訳なさそうに首を振るユイ。しかしユイでも分からない問題ではどうやって解けば良いのか。

 

「ユイちゃんも駄目かぁ。なあキリの字、本当にこれ法則性なんかあんのか? その日の気分とか、乱数で決めてたらどうしようもねぇよ」

「…………」

 

 ユイも駄目ということで場の空気は諦めに向かっていた。明確に口には出さないものの、アスナの目もそう言っている。だがそういうときにこそ、この黒の剣士はやってくれるのだ。

 

「――分かった、かもしれない」

「……本当に?」

「かもしれない、だ」

 

 そう言うと、キリトは一覧の横に文字を書き加えていく。それは少し見れば何をしているのか分かる光景だ。――日付の数字を平仮名に置き換えていた。「1」は「ひ」、「2」は「ふ」、「3」は「み」、つまり語呂合わせだ。

 

「語呂合わせですね、パパ!」

「ああ。ユイは試したか?」

「いえ。そういう文化があるとは知っていたのですが、失念していました」

 

 ユイは人格があるために自分で要不要の判断だったり創意工夫だったりができる。しかしその分虱潰しの作業を避ける傾向がある。無駄を省くためなのだろうが、たまにはその無駄が必要になったりするのだ。

 その点キリトはトライ&エラーを旨とする性格だ。無駄なこともするかもしれないが、したことは無駄にしない。それを経験にして歩む。それが、一体どれだけパターンがあるか分からない語呂合わせに取り組ませた。

 僕とアスナ、クラインも顔を見合わせ、それぞれ別の語呂合わせで日付の変換を始めた。

 ユイが変換後の平仮名と出現場所の関連性を探り、僕達で平仮名に変換する。そうしてしばらくが経過したとき、ユイが皆にその取り組みの成功を告げた。

 

******

 

「という苦労があって、今日、ここに集まってもらいました」

 

 日曜日の午前零時、特定された場所に攻略メンバーは集合した。

 攻略メンバーは、クライン、僕、キリト、アスナ、ユウキ、リズベット、シノンだ。毎度のごとくの一パーティ。僕達も決して望んでそうしているわけではないのだが、そもそも仲が良く一緒に攻略できる――領主勢は残念ながら除外される――メンバーとなると、集めても三パーティ。各々が参加できない事情があり、どうせなら切りの良いパーティ単位で、となれば一パーティ(七人)での攻略も致し方なしだ。

 

「……にしても、本当に一パーティでいけるの?」

 

 リズベットが疑問の声を発する。その視線の先に聳えるのは、全五階層、石垣から始まり幾重もの屋根を備えた和風の天守。集合した場所は城の周囲に巡らされた堀に架かった橋の手前にある立て札の前だ。

―――確かになぁ。

 これを見て不安になるのも分かる。だが、

 

「大丈夫さ。俺達はスリュムヘイムだって一パーティで攻略しただろ?」

 

 キリトの言う通りだ。既に経験のあることに何を怯えるのか。今回は緊急事態ではないのでユイのサポートは封印だが、その分余裕がある。出現ロジックは見つけられたから別に攻略は来週以降でも構わないのだ。

 全員がカグツチ城を見上げていた視線を下ろしたところで、キリトが腕を突き上げた。

 

「それじゃあ、攻略するぞ!」

「「「「「「オー!」」」」」」

 

 僕らはキリトに続いて腕を突き上げ、気炎を上げる。そしてキリトを先頭に、立て札の前を通り過ぎて鉄の門扉へと向かった。

 カグツチ城の第一層は石垣だ。中はそれに対応してかひんやりとしている。情報ではこの第一層のコンセプトは迷路。どうやら外身から計算できる体積よりも中身の方が大きくなっているらしい。そこで迷わされるというわけだ。

 だが侵入した僕らにそれを冷静に感じる余裕はなかった。

 七人が侵入したからか、七体の骸骨武者が現れたのだ。奴らは和風の鎧を身に着けているが、四肢の部分は己の骨が露出している。その細い骨の腕ではそれぞれが刀を構えていた。

 僕らはアイコンタクトを交わすと、それぞれが一体ずつ正面に相手取った。

 いきなり出てきたのには驚いたが所詮は雑魚だ。これに手間取っているようではいけない。倒せるのは当たり前、タイムアタックだ。

 僕は自分が相対した敵にまず一合振るう。その剣閃はこちらに振られた刀の一撃を防ぐのと同時に、骨の上腕を斬りつけた。そして僕はHPの減り方からこの雑魚モンスターが高耐久であることを知る。同じような行動に出て、他の六人もややうんざりした。

 一人で倒せるのは当たり前と言ったが、これは一人で倒せる難度でも時間がかかるかもしれない。面倒なことだ。

 諦めて僕は今回の目的の一つを実行し始める。それは《光剣クラウ・ソラス》の実戦チェックだ。

 先のデュエルトーナメントで勝ち取った賞品だが、いまだに実戦で扱ったことはなかった。性能等の確認は済ませてあるものの、使って初めて分かることもある。

 取りあえずは振り心地を数回の斬撃で確認する。少し調()()した。

 一発、ノックバック重視のソードスキルを発動させる。ソウル・ソードよりもソードスキルの()()が悪い気がする。武器に対する愛着の違いだろうか。

 こちらの硬直の間に骸骨武者がノックバックした分の距離を詰めてきた。襲いかかってきたところ悪いのだが、丁度硬直が切れたところであるから、的にしかなりえない。

 骸骨武者の振り下ろす太刀をパリィ。がら空きの胴体目がけて思いきり剣を握った右手を振るう。

 振り始めるタイミングで、右手の光剣は()()()()()()()。そして骸骨武者に当たる瞬間に、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 巨大化した剣が骸骨武者の鎧と兜の間で守られていない首の部分に真っすぐ入り、その勢いが移ったような勢いで骸骨武者の頭部が跳ね飛んだ。間もなく首を境に分離した上下が共にポリゴン片へと変わる。

 

「…………」

 

 予想していたよりも威力が出て、行った自分でびっくりしてしまった。事象の説明を後で皆に求められる気がしたが、それはさておき隣で戦っていたリズの手助けに……行こうとした。

 リズが握るメイスは《雷鎚ミョルニル》だ。《聖剣エクスキャリバー》の獲得時におまけのような形で手に入れた伝説級武器で、そのエクストラスキルは《ライトニングチャージ》。たしか武器に電撃を纏わせて単純に攻撃力を上げ、確率で麻痺を付与するという強いと言えば強い能力だったはずだ。

 想定していたクラウ・ソラスの火力が実際の方が上だったように、ミョルニルの破壊力も僕は過小評価していたのだろうか。雷を纏ったミョルニルの一撃が入った骸骨の身体に連鎖的に雷撃が発生、そのまま骸骨武者は爆散した。

 追及しようかとも思ったが、リズがふるふると首を振るので一旦は頭から疑問を追い出す。

 さて次に骸骨武者を突破したのはユウキだ。隙を見て即座にOSSを叩き込んだ。ユウキのOSSを全てクリティカルで受けてなお立っていたら、いくら耐久が高いとはいえmobの枠を超えている。

―――いや、十分凄いんだけどね。

 そもそもアンデッド系の中でもスケルトンに刺突技をフルヒットさせるにはかなりの力量が必要になる。僕らのパーティにはそれが可能な人間がもう一人いるが。

 ユウキの隣でアスナが、デュエルトーナメントで見せたOSSから格闘技に繋げるスキル・コネクトを撃ち込む。どうしてもOSSはユウキのものよりも火力が落ちる――オールクリティカルヒットは当然だが――ため、そこをスケルトンに有効な打撃技である《体術》のソードスキルで補ったのだ。やはりスケルトンに刺突や斬撃で挑むのが間違っているのだろう。ミョルニルの火力も相手がスケルトンだからこそか。

 四人が骸骨武者を屠った。残るはキリトとクラインとシノンだ。そして武器種と単独戦闘力から考えて、僕がサポートするべきはシノンだ。

 しかし今度も僕の予測は外れる。

 シノンは細剣以上にダメージを出しづらい弓を主武装とする。だが彼女は弓を矢を放つ武装として用いなかった。弓の本体で武者の刀を一度柔らかく受け止めてから大きく回して刀を足で押さえる。素早く弓を引き抜くとそれを武者の頭へ振り抜いた。武者の頭は後ろへ弾かれ兜も吹き飛ぶ。しかし武装としてカウントされていない弓での攻撃では、見た目は派手でもダメージは伸びない。

 そこでシノンは貫き手にライトエフェクトを纏わせ、ちょうど露わになった武者の咽喉に突き刺した。弱点部位への容赦のないクリティカル。シノンは一瞬の硬直を終え、ノックバックから回復して同様に行動可能になった骸骨武者の顔面に右手で裏拳を入れ再度動きを制限、左手は鎖骨の辺りの隙間から体内に差し込んで捻った。

 バキボキと鎧に隠れた内側から不協和音がする。悶える顔面に対しては右手での殴打で応える。今度は左手を無理矢理引き摺り出し、よろよろと武者が後ずさって出来た空間を使ってソードスキルを発動させた。

 珍しい突進系の《体術》ソードスキル。七連撃のそれが後退するエネミーに突き刺さる。ややオーバーキル気味のそれの最後の一撃を振り下ろした場所にはポリゴン片が舞うだけだった。

 

「「「「…………」」」」

 

 それを眺めていた僕ら四人は呆然としていた。まさかシノンがここまで、その、暴力的な手段で敵を倒すとは思っていなかった。GGOにおいても、ALOにおいても、シノンは遠距離戦が主体のプレイスタイルであり、彼女が近接戦闘を熟す姿を見たことは少ない――デュエルトーナメントはその稀少例の一つだ――。

 そしてそれが驚きだったのは僕達だけではない。

 時を置かずしてそれぞれがソードスキルで相手を粉砕したキリトとクラインも、自分達よりも先に上がったシノンを見つめる。六人の視線を集めたシノンは視線を明後日の方向へと向けて呟いた。

 

「私も、近接戦やってみようかなって、思っただけだから」

 

―――……それなら、短剣とかから始めてはいかがでしょうか?

 その心意気は素晴らしいと思うが、なぜ素手なのだろうか。大いに問い質したい。だが一旦それは置いておくしかあるまい。僕らには時間が限られている上に再び骸骨武者に襲われても面倒なので、その場を急いで離れることにした。

 迷路と言えば『左手法』が有名な攻略法だろう。このカグツチ城の広さも流石に無限ではないだろうから、いつかは確実にゴールに辿り着く。

 しかしこの手法にはある問題がある。それは時間だ。内部が拡大されているため、この迷路はどれだけの広さがあるかも分からない。つまり同様にどれだけの時間がかかるかも分からないのだ。今までの挑戦者の多くはこの迷路に時間を奪われたと言う。

 そこで今回僕達は迷路をパズルとしてでなく、ゲームとして攻略しようと思う。

 《聖剣エクスキャリバー》を装備状態にしたキリトに、僕はあるアイテムを渡す。そのアイテムの名前は実に単純明快の《行先案内機》。確率で立っている場所から目的の場所への道のりを示してくれるアイテムだ。便利なように思えるが、その確率は低いと思えば低い、高いと思えば高いという程度だ。はっきり言ってダンジョン攻略に使えるほどの実用性はない。通常ならば。

 《伝説級武器》には必ず特殊スキルが付随してくるのは周知の通りだが、《聖剣エクスキャリバー》のエクストラスキルは《キングキャリバー》という名前のスキルで、効果は現状システムに認められている範囲のバフを全てかけるというものだ。

 なんだその程度か。

 そう思うのも仕方はないだろう。しかしその簡素な説明に反して実際は中々に実用的なスキルなのだ。STRやAGIといったALOにおいては隠しステータスとなっている部分へのバフが常時発動し、スペルによって実現できるスキル熟練度上昇率アップやソードスキルの威力上昇、クールタイム並びに硬直時間の減少、その他様々なバフを発動させられる。そしてその中の一つに存在するのがLUK値上昇だ。

 ALOの隠しステータスの中でも特にLUKの値にはプレイヤー間の差はほぼないとされている。実際にこの間サイコロを二つ同時に何度か放るという方法でその差を確認しようとしたが、僕らの結果に大きな差は生まれず確認は成らなかった。

 しかし聖剣を装備したキリトは違かった。十二回の試行で僕らは必ずどの目も一回は現れた。そこをキリトは十二回の試行で五と六の目しか出さなかったのだ。ゲーム内でのこういった運要素は全てLUK値が関わってくる。普段なら上げにくいそれは、上げられる者とそうでない者との間に大きな差を生む。

 そのため僕らが使えば――曲がり角の度に使用しなければならないため――途方もなく低い確率でしかゴールを見つけられないアイテムでも、聖剣を装備したキリトなら十分に見つけられる可能性があるのだ。

 走り出して最初の丁字路。キリトは《行先案内機》を使った。

 

「右だ!」




 思えば一年目は本編を完結させましたが二年目はOS編と少ししか更新しませんでした。そして三年目、投稿数はもっと減る可能性が高いですが今後ともよろしくお願いします。

 また注意点として、これ以降は伝説級武器のインフレが起こります(既に微妙に手遅れ感)。

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