SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 おかしいな……。大会は三話の予定だったのに……(前話の時点で気づいて慌ててタイトルを変えました)。
 にもかかわらず尺の関係でキリトVSユウキは割愛です。内容は原作で確認してください。では、どうぞ。


#63 大会-中盤

 ベスト四が決まった。僕とキリト、ユウキ、そしてディランだ。一旦の途中休憩が入ったため控室に揃った四人。これからの戦いを想像して危険な視線の交差が……行われていなかった。

 

「それにしてもディラン、格好つけ過ぎじゃないですか?」

「はは、確かにな。ちょっとやり過ぎた感じはある。キリト、リーファちゃんに謝っといてくれ」

「別にあれはリーファの方が言い過ぎだったから気にしてないだろ」

「でも確かに格好良かったよね! 『風妖精は地に墜ちた』とか!」

 

 和気藹々とした雰囲気である。というか、先程の八強の時点でも既にそうであった。あのときはまだユージーンがいたため締まっていたかもしれないが、今では彼もいない。

 

「次はキリトとユウキちゃんか」

「ああ。一回負けてるからどうなるかは分からないな」

「え~? 一回勝ってるからボクが勝つと思うな~?」

「こらこら。あんまり挑発しない。リーファちゃんの二の舞だよ? それにどうせならそういうのは観客の前でやりなよ」

「それは少しサービスが過ぎるだろ。別にそこまで観客は気にしなくても」

 

 ディランの言葉に僕は首をしっかりと横に振る。

 

「いいえ。僕はこういうところで好感度を稼がないと、垢BANまで通報される可能性がありますから」

「いやそれはお前だけだろ……。ってか、そのプレイスタイルが問題なだけで俺らには関係ないじゃないか」

「はは、バレました?」

 

 軽口を叩き合う。SAOでは余りできなかったこと。当時そんなことができたのはキリト、エギル、エリヴァくらいなものだ。クラインは顔が広い、というかフレンドリー過ぎるからやや避けていたし、アスナには軽々しく声をかけるとKoBが怖かったし、タロウはこちらから話しかければ――向こうからでもだが――痛い目に遭ったし。

 思い返せば、僕はかなり交友関係の狭い哀しいソロプレイヤーだった。それに比べて今はどれだけ良いことか。

 

「と、そろそろ時間だな。行くぞ、ユウキ」

「うん! よろしくね、キリト!」

 

 二人は連れ立って出ていく。仲の良い近所のお兄さんみたいな光景である。

 そうして、二人のデュエルが始まった。

 

******

 

******

 

「――ふぅ」

 

 思わず息を吐く。緊迫した試合内容であった。結果はユウキの二度目の勝利に終わったが、キリトの攻撃があと一瞬早ければ結果は覆っていただろう。

 このトーナメントにおいて時間切れで決着した試合は数えるほどだ。それも大半は決がつかないような、言い方は悪いが実力が足りていない試合であった。それが彼らでは違う。純粋な実力の拮抗、互いの策に対する適切な対処が重なった結果だ。非常にレベルの高いデュエルだった。

 僕とディランは運営に呼ばれるまま互いに言葉を交わさずに控室を出る。それはキリト達の試合の余韻に浸っていた上に、ディランがさっきの冗談を真に受けてくれた、つまり僕を心配してくれたということでもある。

 少し頬が緩んだが、次に向かい合えば敵同士。僕も真剣にならねばならない。

 デュエル初期位置に立ち、相手を視界の中央に収める。正面から見れば分かる。ディランの立ち姿、いかにつけ込むことが難しいか。彼の周囲のどこから仕かけても、彼が反応できる速度である限り対応されるであろう。彼の認識を超えた速度で攻撃を終えねば完璧な奇襲は成り立たない。

 ディランが語りかけてくる。審判はもう諦めの表情だ。

 

「さて、久しいな、レント。思えば俺らがお前の最初の獲物だったか。あれを機にお前は名を売った。なら、今度はお前を踏み台に俺が名を売ろうか」

 

 リーファのときよりも大分優しい挑発だ。ただただこちらを倒すという宣言に過ぎないのだから。

 

「僕は大人しく踏まれるような人間、いえ、悪魔ではありませんから。今回も貴方の頭の上を通って差し上げましょう」

 

 僕も大人しめな挑発に留める。ディランはそれきり口を開かず、居合を行う構えになる。

 僕もいつもの構えに移る。呼吸を整え、こちらの様子を窺っている審判に目をやる。目が合った審判は一度頷くと、手を挙げた。そして、それを振り下ろす。

 

「はじめっ!」

 

 僕のファーストアクション。それは手が下ろされるのとほぼ同時のしゃがみ込み。頭の上を一切容赦のない横薙ぎが走る。そのまま黒い刀は刃を下に向け襲いかかってきた!

 慌ててそれを横に避けつつ転がり、距離を取る。

 ディランの姿は開始の合図から一切見えなくなった。彼は僕の認識以上の速さで動けないので、僕の影がある背後に飛んだと類推したが合っていたようだ。

 距離を取ったはずが、目の前にディランがいた。

―――影か!

 食らってみればいかに面倒な能力か分かる。太陽の方を向けば背後に回り込まれ、太陽を背にすればいつ胸元に踏み込まれるか分からない。

 僕は十字斬りを後方宙返りからの側転で躱す。しかし躱してもディランは一瞬で距離を詰める。体勢を整える暇もなく、剣を出す隙もない。そもそも斬られる寸前で何とか躱す様だ。

 

「くっ!」

「はは! その程度か! レント!」

 

 その言葉に応えるとしようじゃないか!

 僕は自分の剣から手を離し、振り下ろされるカゲバミを両手で挟む――俗に言う真剣白刃取りだ――。足元に落とした自らの剣は足で蹴り上げ、左手でカゲバミの刃を握り――ややHPが減った――右手で剣を再び取る。

 剣を掴まれた状態ではどうやら転移はできないようだ。この至近距離で一方的に攻撃できるチャンス。まあ、ディランがそんなものを許してくれるはずがないのだが。

 

「ふんっ!」

 

 ディランは一度カゲバミから手を離し、僕の剣を躱した。その後カゲバミにしがみついて無理矢理僕の手の中で刀身を一回転させた。左手が裂ける。独特のダメージフィードバック、だが離さない。ディランは少し刀を押し込むと、一気に引き抜いた!

 僅かに生まれた隙間を狂いなく斬り裂きに来る。そこまでダメージを負うわけにはいかないため、僕はカゲバミを手放さざるをえない。だが距離を開けることまでは許さない!

 後退するディランを追う僕。先程とは攻防が逆転した光景。一つ違うのは、僕が翅を使えることだろうか。

 ディランは翅を使うわけにはいかなかった。なぜなら僕の方が速いから。彼は僕に追い縋るため、追い詰めるためにカゲバミを使うことを余儀なくされていた。つまり移動方法においては僕の方が自由度があるということだ。

 僕の影がある方向からしか攻撃できなかったディランと違い、僕は押し込みながら上下左右全ての方向から斬撃を送る。左に回り込む様子を見せてから踏み切って逆から襲いかかる。そのようなフェイントを駆使してもディランは崩れない。

 翅を使った。無論小回りを利かせられる、制御できる速さだ。だがこの程度の速さでは、リーファのあの攻撃を捌ききったディランには通用しない。精々二ヒットだ。先程の左手のダメージとトントン。

 ここは競技場の底の遮蔽物のない決闘場だが、壁がある。そこまで追い詰める気で攻め立てた。しかし壁が近づいた瞬間、ディランは壁まで転移してしまった。よく見るとその足元には僅かばかりの壁の影がある。

―――オブジェクトの影にも移動可能か。

 中々に面倒だ。包囲して嵌め殺しのように追い込んでも影があるだけで抜けられてしまうのだから。

 ディランは肩で息をしながらこちらを眺めている。僕は翅を使って大きく距離を取った。

 わざわざこの距離まで転移しなかったのは、恐らくあの転移能力には距離限界が存在する――存在しなければバランス崩壊だ――からだろう。しかしこの距離で転移したのはなぜか。ようやく射程に影が入ったからか。ディランのことだ、そう思って射程を見誤っているときに奇襲を仕かける気かもしれない。だから僕は大きく距離を取る。

 彼我の距離は大きく変化したが、HPの変動は少なく、僕らは再び睨み合う。この距離では転移はできないであろう。ならばどちらかが前進し、転移範囲に入ったタイミングでディランが転移することで次の剣戟は始まる。

 ……いや、ディランが次も転移するとは限らないな。ディランが転移するとなると、いかに体勢を工夫しようとも僕の方が先に動ける。そうなれば先程の焼き直しか、僕が大ダメージを与える結果になる。

 それに先の二度の攻防で推測するに、カゲバミの転移能力には一定範囲内の何かの影、それも両足で立てるサイズがなければならないことが分かる。長く続いたデュエルトーナメント、既に日――ゲーム内のものでリアルの時間とは無関係なのだが――は傾いていて、転移できるような影は僕の前方の僅かなスペースだけだ。つまり転移は読み易い。

 僕とディランの視線がぶつかる。互いに押され続ければ負けるということは理解した。そしてカゲバミの能力を使えば、攻防の形勢が一瞬で決まることも。上手く決まれば僕の不利、僕に読まれればディランの不利だ。

 互いにほぼ同時に乾いた地面を蹴って飛び出す。両方向から距離を詰めるのだ、すぐに接敵する。明らかにカゲバミの効果範囲内に入った。……動きは、ない。

 油断せずに影を間合いに入れつつ、ディランの間合いに踏み込む。

 風を斬りつつ迫る剣先。テンポをずらして通過させる。ディランも慣性に逆らわず、しかし素早く手元に刀を返す。僕は距離を更に詰めて剣で薙ぐ。刀と剣、いくら片手剣といえども短剣や細剣、刺剣でない限り剣の方が重い。ディランは正面から打ち合わせることを避け、刀身を剣に斜めに当てて流す。だが、読めている。

 流された勢いのまま回転斬り。一歩退かれて当たらず。急制動をかけ刺突。狭い攻撃範囲にディランが留まっているはずもない。フェイントをかけられるが、惑わされず左へと剣を振るう。ディランはそれを屈んで躱すと下からの斬り上げを僕に送った。

 刀の間合いは測りにくい。反りがあるせいで思わぬところで身体を掠る。そしてそういった場合、切先は遠心力によって加速しており切れ味の良い刀だとパックリいく。

 だがクラインと散々共に戦ってきた僕が、曲刀使いのmobが大量にいたSAO上がりの僕が、目測を誤るはずがなかった。……だが事実、僕の頬は裂けた。確実にスウェーバックで避けたのに。なぜ、どうして。想定外の事態に僕は思考を乱される。そしてそれは決定的な隙だった。

 土手っ腹に十字斬りを刻まれる。赤いダメージエフェクトが零れる。HPバーが一気に減る。見れば、カゲバミにはライトエフェクトが残っていた。

―――くっ!!

 なおも接近しようとするディランをマタドールのように躱し、立ち位置を替える。コンパクトに回転した僕は、勢いのままにやや進んだディランよりも先に体勢を立て直す。振り返った直後のディランに斬りかかるふりをして、

 

 

 僕は後ろへ剣を突き出した。

 

 

「かっ……!」

「焦りましたが、逸りましたね、ディラン」

 

 剣戟の際目測を誤った。否、ディランはカゲバミを用いて前へ転移したのだ。僕にも分からないほど僅かに。だから当たった。そして混乱のまま太陽との位置関係を入れ替える。その状態で斬りかかられたところを後ろに回り奇襲する。距離を詰めての激しい戦闘の隙間に転移を混ぜる、実に高度なテクニックだ。しかし多用し過ぎだ。

 ソードスキルを決められるほどの隙を見せた、だがそれだけの時間があれば僕とてトリックは見破れる。トリックは見破れたのだが、動揺していて敢えて見せられた隙だと気づかずディランの攻撃を受け流した。このときに僕は罠だと気づいたのだ。ディランが振り返るのが余りにも遅かった。あのディランが止まれないほどの勢いで斬りかかるだろうか、ソードスキルでもなく、この接近戦の最中に。

 疑念を抱けば、影の向きを思い出すことは容易かった。そうすれば次の手は読める。先程考えていたことだ。カゲバミの能力が上手く決まれば僕の不利、それが読めればディランの不利。一発目は決められたが、二発目は読めた。

 深く斬り込んだディランの腹部には僕の白い剣が刺さっている。剣を押し込みつつ僕は振り返る。ディランは押されるがままにその慣性で剣を抜く気か。確かに下手に左右に揺さぶり体内から斬られるよりも、既に貫通している剣を押し込まれて傷口が僅かに広がる方がましだ。

―――それを許す僕だと思うか?

 腰の入らないまま振るわれるカゲバミの乱雑な斬撃を最小の動きで躱す。身体を僕の剣で貫かれて後ろ体重になっているディランは刀をまともに振るえない。

 翅を使っての急加速。慣性で抜ける? 止まらなければ良い。後ろに飛ばれる? それ以上のスピードで前に進めば良い。

 僕の翅を使った高速機動。未だに直線の移動スピードではリーファよりも僕の方が上だ。静止状態から一気に加速。このトップスピードでは競技場の何と狭いことか。剣先が競技場の壁にぶつかり、不快な甲高い金属音を立てる。

 

「くはっ!」

 

 一瞬で競技場の中央から壁まで飛んできたその空気抵抗は全てディランにかかる。更に言えば翅を出した僕と違ってディランは宙に体が浮いている。そして壁にぶつかった衝撃、諸々で響く腹の剣。様々な感覚フィードバックは軽減していようがディランを苛む。

 剣を抜き、ディランを壁際に追い詰めたままラッシュをかける。刀は基本的に円の動きだ。ここにカゲバミの刃渡りで円を描ける隙間はない。カゲバミの能力には影が必須だが僕が背中に太陽を背負った現在、ディランが立っている僕の影しか周囲に影は存在しない。

 

「ぐ、ぐおおああああ!!!!」

 

 しかし流石はディランだ。被弾を諦め身体を回転させることで無理矢理刀の有効斬撃を放つ。それを避けてこの場所を動けば、この絶好の嵌めポイントは失われる。それはできない。

 右腕から左腕まで刀が通り過ぎる。このALOにおいてダメージを負った箇所は赤く染まる。しかし部位欠損――武器破損と同じようなもので、関節でも狙わなければ滅多に起きない――でもなければアバターの稼働に影響は出ない。独特の不快感――GGOに比べればましだ――があるが、目を瞑れる。

 ダメージを確認、あと二発は同じものを受けられる。現在のディランの足の位置ではソードスキルは放てない。あれは体捌きも重要だからだ。

 スペル詠唱を始める。と同時に片手剣でもソードスキルを発動させる。スペル詠唱はソードスキルの最中でも行えるのだ。

 放つのは僕のOSS《ジャッジメント・エンター》。SAO時代の武器の名前を借りたものだ。

 三発の突きが左右に放たれる。これはディランには当たらない。所詮は牽制の三発、正面から外すように登録してある。続いて三本の斬撃。左上から斜め下、右下から横、左下から斜め上の三本。ディランは身を捩るが防ぐ術はない。ディランのHPが黄色、いや赤寸前まで落ちる。最後の一撃、剣の柄頭でディランの左側頭部を叩く。

 ディランの身体が左へと流れた。

―――軽い!?

 手応えが軽い! 図られた! ディランの背には翅が生えており、それで浮くことで衝撃を利用したのだ。

 硬直で動けない僕にディランがソードスキルを放つ。僅かでも動ければディランほどの実力者は身体の微調整で剣技を扱ってくる!

 

「くそっ!」

 

 開いて叫びが漏れたのはディランの口。僕の口は、詠唱を終え閉じたところだった。

 ディランの身体を緑色の真空魔法弾が貫く。スピードを第一に据え、コントロールも威力も、追尾などの特殊効果も捨てた魔法。それはディランのソードスキルが僕に届く前に、柄頭が奪い損ねた最後のHPを消し飛ばした。

 瞬きほどの間もなく、僕の身体にカゲバミが触れる。しかしそれは僕にダメージを与えられずに勝敗を告げるウィンドウに弾かれた。




 二戦連続魔法で勝負を決める主人公。決闘(デュエル)なのにそれで良いのでしょうか。
 そしてさらりと出た七連撃のOSS。ジャッジメント・エンターとか本当に厨二チックな名前ですね(まったく、誰がつけたんやら)。
 それではまた次回。ユウキVS主人公、お楽しみに。

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