SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 はい、前回バサッとカットした一次会を載せたいと思います。.5話なので半分ほどです。
題名は、まあ、他に思いつかなかっただけです。では、どうぞ。


#25.5 打上

 五月十六日、SAOクリアのオフ会が開かれた。エギル――本名アンドリュー・ギルバート・ミルズが経営する御徒町の喫茶店、《ダイシー・カフェ》で。

 御徒町でも寂れた雰囲気のある路地にその店はあった。二つの賽子が重なっている看板には、『本日貸切!』と書かれた札がかけられている。

 店の前で丁度、制服姿の三人に出会った。帰還者学校の制服を着ている和人と明日奈、それから恐らく彼女の通っている高校の制服を着ているリーファ――和人の義妹の直葉だ。

 

「あれ? 翔君、制服じゃないの?」

「うん、着替えてきたからね」

 

 春から僕は一人暮らしを始めた。その部屋がある場所は御茶ノ水なので、御徒町に来る前に寄ってきたのだ。

 

「私服でも白なんだな」

「いやぁ、SAOから白にハマっちゃってね。気づいたら私服の大半が白くってさ」

「で、でも似合ってると思いますよ」

「そう? ありがとうね、直葉ちゃん」

 

 他愛ない世間話を交わしながら、和人が木製のドアを開けた。

 

「……おいおい、俺達遅刻はしてないぞ」

 

 ドアから最初に中の光景を見た和人が呟く。後ろから覗き込むと、店の中には僕達を除いた今日の参加者が全員揃っていた。

 

「へへ~ん! 主役は最後に登場するものですからね! あんた達にはちょっと遅い時間を伝えておいたのよ!」

 

 元気そうな声で僕らを出迎えたのはリズベット――篠崎里香だ。

 里香はそのまま僕と和人の腕を掴み、木箱の上に立たせる。

 

「えぇ、それでは皆さん、ご唱和ください。……せーの!」

「「「「「キリトとレント、SAOクリアおめでとう!!!」」」」」

 

 叫ぶと同時に各人がクラッカーの紐を引き、手書きで『Congratulations』と書かれた白い幕が頭上から降りてきた。

 僕は慌てて避けたが、呆気に取られた和人はクラッカーの残骸まみれになった。その姿を見て、笑い声が響く。

 

「かんぱ~い!!!」

 

 ワチャワチャガヤガヤと喧騒が広がる。主役などと宣ったくせに、BGMが流れ出すと僕らを取り残してたちまち歓談が始まった。僕と和人は溜息を吐いてカウンターに座った。

 この場にいるのは、僕と和人を中心に親しかった人々だ。アルゴは都合がつかず来れなかったが。しかしそもそもの交友関係が狭かった僕には大した友人がいないので、集まったのは和人の友人と言っても良いだろう。エリヴァやタロウも和人の友人に入るだろうし。

 

「なんだ……烏龍茶か」

 

 隣で馬鹿なやり取りが行われていたが、気にせずに今も話に出たタロウを探す。

 

「紘一さん」

「ん? ああ、レントさんですか。お久し振りです」

「お久し振りですね。それと、僕は翔です。電話で伝えたでしょう?」

「ああ、そうでしたね。これは失礼しました。つい、癖で」

「分かります。未だにタロウさんですから」

「あ、そう言えばですね! 聞いてくださいよ! 翔さん!」

「は、はい。何ですか……?」

「うちのタロウに子供が出来るんです!」

「おお、それはめでたいですね。…………犬ですよね?」

「もちろんそうですが?」

 

 愛犬の名前という噂はどうやら本当だったらしい。このタロウ、いや本石紘一はとあるベンチャー企業の社長だ。IT関連の新興企業で、これからというときにSAOに囚われてしまったらしい。二年間も社長不在で何とか切り盛りしていたらしいのだから、優秀な人材が豊富なのだろう。しかも社長の席は空けていてくれたそうだ。帰ったら無職なのかな、などと呟いていたこともあったが、全くそんなことはなかった。

 そしてそのベンチャー企業とは、新生ALOの運営をしているブックス・トーンだ。

 世間話を交わした後、エリヴァのもとに向かう。

 エリヴァはあの世界でとても世話になった恩人である。この世界でもお礼ぐらいは言っておきたい。

 エリヴァ――南部敦はSAOよりも幾分か細くなっていた。帰還後すぐにまた働き出さなければいけなったので余り肉をつける時間がなかったのだという。

 それにしても、僕ももう少し交友関係を築くべきだったかなと、周囲と仲良く会話する和人を見て思った。

 今日この場に来ているのは、《風林火山》のメンバー、今の二人、里香と、和人と明日奈、中層で話題になっていた《竜使い》シリカこと綾野珪子。それから《軍》のトップだったシンカーにその妻ユリエール。場所の提供者であるアンドリュー。そして店の隅でグラスを両手で持って椅子に一人で座っている直葉だ。

 

「直葉ちゃん、ごめんね。つまらないでしょ、知らない人ばっかで」

「あっ、……いえ、ついて来たのはあたしですし……」

「それでもね。みんな久し振りに会うから羽目を外しちゃってるみたいで。SAOにいなかった直葉ちゃんじゃちょっと混ざりにくいよね」

「いいんです、あたしは見てるだけで。お兄ちゃんが楽しそうにしてるの見るの結構好きなんですよ?」

「そう? まあ実は僕も余り顔は広い方じゃないからね。知らない人と飲み会みたいにするのはまだハードルが高くってさ」

「そうなんですか? レn……翔さん顔広そうなのに」

「そう、なだけだよ。SAOの時は本当に攻略しかしていなかったからね」

「考えられないですよ、今のれ、翔さんからしたら」

「自分でも当時の生活を思い出すと無味乾燥でびっくりだよ。それと、呼びづらいならどうやって呼んでも構わないよ?」

「ありがとうございます、やっぱり翔さんって呼ぶのは慣れないんですよね。……あの、師匠って呼んでいいですか!?」

「え?」

「いや、昔稽古つけてくれたときがあるじゃないですか! それから、つい、レントさんを見ると、師匠っ! って呼びたくなっちゃうんです」

「そ、そう。まあ別に構わないけど……。ただ、時と場所を選んでね?」

「良し!」

 

 よく分からないが、喜んでくれたならそれは嬉しいことだ。これだけ元気ならば問題ないだろう。店の隅でしょげているように見えたから話しかけたのだが。

 僕はまた別の人に声をかけに向かった。

 

******

 

~side:直葉~

 

「ふ~ん、それでリーファちゃんは二回も同じ人に振られちゃったわけね」

 

 したり顔でリズさんが頷く。

 師匠がいなくなった後にリズさんとシリカちゃんが話を聞きに来たのだ。キリト君とのALOでの旅の話を。

 

「へぇ、流石キリトさん。カッコいいですねぇ」

「ねー、義妹まで手を出しちゃうなんてね」

「手ッ、って! そ、そんな言い方しないでくださいよ!」

「あはは、そうあんまり怒らないで」

 

 てっ、手を出すなんて、そんな、一線を越えたみたいな言い方は誤解を受けるから止めてほしいものだ。

 打って変わって、リズさんは真剣な表情になった。

 

「う~ん、それで失恋の悲しみを紛らわせるものねー、何かある、シリカ?」

「うぅん。やっぱりこういうのって、何か気分転換をした方が良いと思うんですよ」

「気分転換、ねぇ」

「――そうだ! 新しい恋を探しに行けば良いんですよ!」

「あ、新しい恋ぃ!?」

「あっ、シリカ! それ良いわね! その案で行きましょ!」

 

 勝手に話を進められても困るのだが。

 

「っと、その前に……」

 

 やっとこっちの意見を聞いてくれるのか。

 

「リーファちゃんの好みのタイプは?」

「ブッ!!」

「ああ! 汚いなぁ、もう!」

 

 既にあたしは了承したことになっているようだ。恐らくここは素直に答えておいた方が身のためだろう。

 

「えと、やっぱりあたしより強い人が良いですよね」

「「強い?」」

「あー、色んな意味でですよ? VRでもリアルでも」

「ふーん、他には?」

「後は、優しい人、とかですかね。気を遣ってくれたりするのは凄い嬉しいですね」

「確かに、キリトさんそういうところだけは気配り上手かったですよね」

「そういうところだけは、ね」

 

 昔からその人の気持ちを中途半端に感じ取る能力は長所にも短所にもなっていたことを思い出し、変わっていないのだと少し笑みを零す。

 

「あ! それならレントなんてどうよ」

「レントさん……?」

「あっ、そっか。シリカは会ったことないんだっけ。ほら、あのキリトと一緒に立たせたイケメンよ!」

「ああ、あの人ですか! 確かにカッコいいですよねぇ」

「お、シリカもあっち行っちゃう? たしかフリーのはずよ?」

「もう! リズさんったら! そうやってライバルを減らそうっていう魂胆でしょ!」

「えへへ、バレちゃったかぁ」

 

 二人の声はもうあたしの耳には届いていなかった。

 

「師匠、かぁ」

 

 二人のお陰で少し前を向けたかもしれない。




 フラグ、建ったのかなぁ。
 フラグが成長するかは分からないがな!

リズ「実はレントってかなりの良物件よね。てか、私達はキリトに先に惚れたからあれだけど、レントが先だったら……」
リズ「この女たらしどもめぇ!!!」
黒&白「え?」

 次回からはGGOです。お楽しみに。

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