ユージーンを倒したレント達一行はヨツンヘイムへと迷い込む。そこで戦っていた二体の邪神の片方を助けようとリーファは訴える。果たして一体どうやって助ければ良いのか――
……やってみたかっただけです。では若干短いですが、どうぞ。
僕はリーファを連れて凍った湖を目指し走っている。
キリトと僕は考えた。象クラゲはクラゲなのだから、実は水中の方が強いのではないか。水中に引き摺り込めば四腕巨人に勝てるのではないか――と。
キリトが囮となり二体の邪神を湖に誘き寄せ、僕はもしも氷が邪神の重さで割れなかった場合に氷を割る。広範囲に強力な攻撃を放てるのが僕だけだからだ。リーファは……特に何もない。
別にハブにしているわけではない。そもそもこの作戦は僕すらも必要ない可能性が高いのだ。
湖へと辿り着く。凍りついていて簡単には割れそうにないが、割れるという確信はあった。
邪神同士が戦っているなんて状況が特殊なイベントでなくて何だ。それに加えて近距離に解決の手段があるのだから、イベントであると確信しても良いだろう。だから、割れる。
「き、来ました! レントさん!」
「うん、分かった」
キリトは囮の役目をきちんと熟しているようだ。一時休戦なのか、二体の邪神が共に追いかけてくる。
「こっち! 急いで! 巻き込まれるよ!」
キリトがその異常な敏捷値を使って駆け抜ける。僕がいる湖の縁を越えたから、これで大丈夫だろう。
数秒遅れて四腕巨人が氷に踏み込む。すると、
バキィィィィィィン!!!!!!
……ちゃんと落ちてくれた。やはり僕も要らなかったようだ。遅れて追いかけてきた象クラゲは水の中にいる巨人に飛びかかり、絡みつき、電撃を流して殺してしまった。こちらも予想通り水の中の方が強いようである。
「さて、リーファちゃん。邪神救援作戦は成k、うわぁ!」
振り返ってリーファに確認を取ろうとしたら、触手に巻かれた。先程の巨人の末路が目に浮かぶ。キリトやリーファも捕まっているようだ。
ああ、恩知らずな野郎なのか。と諦め半ばに思っていると、僕ら三人は背中に乗せられた。その様子は鼻で物を掴む象のようだった。
「あぁ、焦ったぁ。まさか背中に乗せてくれるとはな」
「ね! 助けて成功だったでしょ! キリト君!」
「いや、リーファちゃん。残念ながら状況は一切好転してないよ」
「そうですよね……」
意気消沈するリーファ。別に気落ちさせたいわけではないのだが、事実だから仕方ない。
象クラゲの背中はふかふかだった。絨毯のように柔らかい白い毛に覆われているのだ。加えて平らで座り易いのだが、元々は騎乗用だったのだろうか。
象クラゲは間もなく動き出した。のそり、のそりとゆったりとした動きだが、何せサイズが違う、ある程度のスピードが確保されていた。しかし、進行方向は中心を向いている気がする。徒歩よりも早く四方の出口に辿り着けるかと一瞬期待したのだが、象クラゲを制御する方法がない以上はどうしようもない。
僕は寝心地の良い背中に仰向けになって寝転がった。そして寝落ちしない程度に意識を曇らせる。SAOでもダンジョン内でよく使ったテクニックだ。眠りには及ばないが、多少疲労を回復させられる。
薄い意識の中、キリトとリーファがこの象クラゲに《トンキー》と名前をつけたような気がした。縁起悪くないか、それ。
******
夢現だった僕は邪神――トンキーが止まった衝撃で目を覚ました。
「ん? どうかしたの、トンキー?」
リーファの問いにトンキーは答えず――鳴き声を上げなかった――、触手を折り畳んでいく。
トンキーの胴体部分が地面に触れたタイミングで僕らは背中から降りた。
二十本近くあった触手を胴体の下に仕舞い込んだトンキーは、外からはまるで饅頭のようにしか見えない。
「トンキー、トンキー? どうしたの?」
リーファが再度問いかけるが、リアクションはない。そして心配そうにトンキーに触れた瞬間、リーファは驚いた様子を見せた。
「ちょ、キリト君、レントさん! トンキーが硬くなってる!」
「え? どういうことだ?」
言いつつ、僕らもトンキーに触れる。
絨毯のようだった柔らかい毛の面影はどこにもなく、真反対の金属のような硬質な皮膚がそこにはあった。
「……何が起こっているんだ?」
「分からないけど、トンキー自身からは鼓動も感じるし、生きてるみたいだね。睡眠、かな? この皮膚は睡眠中の防護用ってところかもしれない」
「んぅ、もう。折角良い感じだったのにー。トンキー、起きてー!」
「良い感じ、って、何か進展があったのかい?」
「ああ、お前は聞いてなかったか。ユイが周囲をリサーチしたら、丁度この真上辺りに地表に通じる出口があるらしい」
「へぇ、真上ねぇ。あのヨツンヘイム中央の謎の逆ピラミッドのことかな」
「逆ピラミッド?」
「うん、あれだよ。あの氷で出来てる天井から生えてる奴。ダンジョンっぽいんだけど、あそこまで行けないからオブジェクトじゃないかって言われてる」
「そ、それじゃあ、あそこには行けないってことですか!?」
「だって、飛べないしねぇ。あそこに行く手段がない」
「ん? 洞窟でも飛べるんだろ? 後のことを考えなければ……」
「それがね、このヨツンヘイムは飛行禁止区域だからさ」
「ああ、山脈の上みたいな?」
「そういうこと」
キリト達と会話をしながら周囲の状況を探る。
トンキーが眠りに落ちた場所は大きな穴の淵だった。黒々とした大穴に近づくと、底がないとユイに忠告されてしまった。底の設定がされていないとは、茅場が作っていないとはいえ流石に手抜きではなかろうか。一般プレイヤーが口を出すことではないのかもしれないが。
ヨツンヘイムは平坦なためかなり遠くまで見渡せる。その範囲に邪神――象クラゲも四腕巨人も――は確認できなかったので、リーファとキリトは力を抜いた。
「……気になるなぁ」
何か、見られている気がした。
ただの感覚でしかないのだが、気になるものは気になるので《看破魔法》を使用する。看破魔法はかなり初歩的な魔法だが、《サーチャー》という使い魔を放って隠蔽魔法を強制解除させる使い勝手の良い魔法だ。使い魔は各種族ごとに異なり、レネゲイドの僕が放つのは白蛇だ。
数匹の蛇が僕を中心に放射状に進んでいき、その内の一匹が一人のプレイヤーを探り出した。
「うおっ! ――ああ、別にPKをする気じゃなかったんだ。だから剣を下ろしてくれないか」
「――では、どうして僕らにハイド状態で近づいたのでしょうか」
「アンタらがその邪神を狩る気があるのかないのか、聞きに来たんだ。狩らないんなら俺らに譲ってもらえないかな?」
「狩っ!!」
いきなり飛びかかりそうなリーファの口を抑え込む。正直、彼の言い分の方が通っている。邪神は狩るもの、助けようなんて発想がおかしいのだから。声をかけてくれた分だけありがたい。
「――狩らないし、譲りたくもないと言ったらどうしますか?」
「そしたらこちらも力尽くで行かせてもらう。メンテ前にもう一体倒しておきたいところなんでな。たかが三人だ、動かない邪神を狩れるならPKだってするさ」
ALOはそもそもPK推奨だ。それはヨツンヘイムでも変わらない。邪神の方がおいしいからわざわざ狙わないだけだ。声をかけてきた青年はウンディーネだし、問答無用でPKされても文句は言えないのである。
「――僕達はこの邪神で生態調査、とでも言うんですかね。そういったことをしているので狩られるのは非常に困るのですが」
「はあ? 生態調査ぁ? 何言ってんだ?」
「――この象クラゲ型の邪神が非アクティブだって知ってますか?」
「なっ! おちょくってんじゃねぇぞ! そいつがアクティブ型なのは散々知ってるわ!」
「――武器類を装備せず、防具からも金属を外した状態だと非アクティブになるんです。その状態を維持して、テイムじゃないですけど友好関係を結んだのがこの邪神です。そうでなければここまで近くで寝てくれませんよ」
「むむむ、ちょっと待ってろ。相談してくる」
一旦は誤魔化すことができたようだ。その間にこちらも作戦会議と洒落込もうではないか。
「さて、キリト君。この状況どうやって改善する?」
「んんん、駄目だ。俺にこういう交渉事が向いてないのは知ってるだろ。任せた」
「私も、こういうことには全く自信ありません……」
「はぁ、そんなだと将来苦労するよ? ――ま、一レイドだろうし、戦闘になっても何とかはなるんだけどね。トンキーを守るためにもそれは避けたいからなぁ」
「あっ、そういえばさっき言ってたことって本当なんですか? 生態調査は嘘にしろ、非アクティブの方は……」
「もちろん、大嘘。ブラフ、はったり、ネゴシエーション」
「ですよねー……。キリト君と言い、もう……」
「でも、アクティブにはなってないからね、現状」
「まあそうですけど……」
「あと戦闘になったら二人ともトンキーを優先で守って。僕があいつらを潰すから」
「はい! ――って、やっぱりレイド潰せるんですか……」
そこで、青年が仲間を連れて戻ってきた。
「皆と相談したが、近くに別の邪神もいない、メンテの時間が近いってことで悪いが狩らせてもらうぞ」
「――そうは、させかねますね」
「なら剣を取れ。邪神ごと潰してやる」
この展開は予想できた。相手のレイドがウンディーネだけなのは厄介だが。結束的な意味で。
「――戦闘もしたくはないので、こちらをお渡しすることでお引き取り願えませんか?」
「む、これは……」
「――邪神一体分の報酬金です。熟練度等は補填できませんので上乗せしていますが」
「……良いだろう。我々はここから退かせてもらう」
「――それでは、お元気で」
「ふんっ」
鼻を鳴らした青年が仲間に号令をかけている。どうやら解散するようだ。向こうに僕を知っている人間がいなかったのが幸いだった。いれば、確実に争いになっている。
「わぁ、凄い! キリト君見た? レントさん簡単に退かせちゃったよ!」
「ああ、相手も邪神と戦わないで済むならそれが良いからだろうけど、よくやるよ」
「お褒めにあずかり恐悦至極にございます……なんてね。ところで、キリト君とリーファちゃん。トンキーがおかしいんだけど、気づいているかな?」
こちらを見てしきりに感心する二人を振り返り、その意識を邪神に向ける。
「ん?」
「わっ、トンキー光ってる!?」
そう、光っているのだ。眩しい光の中で目を凝らせば、硬い皮膚に亀裂が走っているのが分かる。そこからパリッ、パリッと割れ目が広がり、
ブムヲォォォォォォォォォォォン!!!!!
大きな鳴き声と共にトンキーは脱皮した。その体躯は二回りほど大きくなり、四対八枚の翅が新しく生えている。
「おお、トンキー! お前飛べるようになったのか!!」
「凄いね! トンキー!!」
きっとクエストフラグだったのだろう。この邪神を助けることで、邪神が蛹になった後羽化する。羽化した邪神に乗ってあの氷塊に向かうという段取りなのかもしれない。
予想通り、トンキーは僕らを再び触手で持ち上げ背中に乗せると、飛行を開始した。
どんどんと上昇していく。氷塊の横脇を通るタイミングで、リーファが叫んだ。
「何かあるっ!」
「「え?」」
「あの氷塊の先、何か光った!」
「―――――!」
シルフは素の視力が優れている。だから見えたのだろう。
迷わず遠視の魔法を使ったリーファによると、氷の中には巨大な迷宮があったそうだ。そしてその先端部分に、
やがてトンキーが空に張り出した岩場に止まる。そこには二つの道があった。地上に向かう道と、氷のダンジョンに向かう道。
「…………」
「……キリト君。またいつか取りに来ようよ。私も協力するから」
「キリト君、時間考えてる? メンテナンスが近いからダンジョンとかやってる暇ないからね? それに死んだらスイルベーン行きでしょ? 目的は世界樹じゃないの?」
「――ああ、そうだな。ちょっとでも迷ったりしてごめんな」
「ううん、全然。仕方ないよ、MMOやってたら誰でも惹かれるって」
「さて、決心したところでこの長い階段を上りますか」
「……長い?」
「はい。ニイの言う通りです。この先にある地上に通じる階段は迷宮区並みの高さがあります」
「うへぇ、そんなにかよ……」
「迷宮区?」
「ああ、こっちの話だよ、気にしないで」
線を引くようなことを言ってしまったが、SAOサバイバーと知られるのは余り良いことではない――個人情報的な意味で――。リーファには悪いが仕方ない。
長い階段の一段目に足をかけた。
******
階段の先はアルンだった。階段を上りきり扉を開くとアルンの街中に出たのだ。振り返れば、出てきた扉は上手く建物の壁に擬態して見えなくなっていた。
「へぇ、ここがアルンか。たくさんの種族がいるもんだな」
「じゃあ僕はここで別れるよ。また明日……じゃなくて今日の午後になるかな。世界樹の根元で」
「ああ、頼むよ」
「それと、キリト君。絶対に、絶対に世界樹に挑んじゃ駄目だよ。分かった? 攻略法も判明してないんだからね? 絶対だよ?」
「ああ。でも、そんなに言われると……」
キリトが世界樹に挑もうが死に戻り先が
流石に眠かったのでそこでキリト達とは別れ、借り部屋に向かってログアウトした。
******
「ふあぁぁぁぁ」
ALOからログアウトした僕は、大きく欠伸をする。もう午前四時だ。目に薄く水が張っている。
睡眠欲求がひたすらに起き上がることを拒否している中、僕は何とかベッドから起き上がった。
シャワーを浴び、着替えてから再び木製のベッドに横たわる。そうすれば意識はALOではなく夢の世界へとすぐに旅立たった。
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「はい、やはり僕の推測は当たっていたようです。――――分かりました、では今日中に送っていただけますか? ――――――――はあ。まあ、良いでしょう。その分を除いた情報は削除したいのですが。――――――――――なるほど、そうですか。では会社の方はよろしくお願いします。中からは僕が行いますので。何かあればまたお電話します。――――――はい。では、今日突破してしまう可能性も僅かながら存在しますので至急お願いしますね」
「ありがとうございます、菊岡さん」
桐ヶ谷兄妹の問題には踏み込めないので、アニメ二十二話はカットされます。残念。
筆者はキリトって冷静にやれば世界樹突破できたんじゃねって思ってます。だから主人公は突破したのですが。
現在、ネタ枯渇中。ALOってあんまり自由にできないんですよね。アスナを助けるのが目的なので。一回くらい主人公にはキリトと敵対してもらいたいところです。そして潰したい(笑)。
さて、では明後日に兄妹喧嘩です。カットしますが。