SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 今回は無双エピソードです。どうぞ。


#18 悪魔

 脱領してから、まずは拠点になる中立都市を探した。レネゲイドでもPKから保護されているのは中立都市だけだからだ。

 腰を落ち着けた僕は、次にこれからの方針を決めた。

 一つ目、これからはPKを主軸にプレイする。そもそもALOはPK推奨ゲームであるし、SAOではご法度だったPKを満喫しようと思う。

 二つ目、重荷スプリガンを狙う。恨みというほどではないが、やられっぱなしは性に合わない。訴えを取り合ってくれなかった領主(ミルネル)に報復するまでは続ける気だ。

 三つ目、央都アルンを目指す。アルンとは世界樹の麓の街のことだ。中立都市で、何かと使い勝手が良いらしい。本格的な拠点には最も相応しいだろう。

 四つ目、全種族に名前を知らしめる。スプリガンとしてではなくなってしまったが、全種族のトップになる目標を捨ててはいない。全種族に『会ったらヤバい』と思わせるようなプレイヤーに成ってみせようではないか。

 さあ、スプリガン狩りの始まりだ。

 

******

 

 アバターが上書きされてから数日後、菊岡は再びやって来た。

 SAOでの話を前回の続きから話した。今回で五十層まで話は進んだから、彼と会うのも残り一、二回だろう。

 面会の最後に、レッドリストを渡して殺してしまった九人の情報を要求した。

 

「これは?」

「レッドリスト、殺人を犯したプレイヤーの一覧です。誰が誰を殺したのかも書いてあります。ただ、一部は犯人が分からなかったため実際はもう少しいるでしょう。僕の記憶に不備があるといけないので、《アルゴ》というサバイバーにも話を聞いてみてください。彼女と一緒に調べたデータですので」

「――分かったよ。このデータは大切に保管させてもらうことにしよう。罪には問えないだろうけど、そこは諦めてくれ」

「それは分かっていますので安心してください。あの世界での罪をなかったことにしたくないというただの私情ですから」

「……頼まれた九人のデータは可能な限り調べてくるよ。それと君の知り合いの連絡先もね」

「本当に良いんですか? どう考えても違法行為ですよね?」

「ふふ、僕もこれから君とお近づきになりたいからね」

「そう、ですか」

 

 つまり僕は彼に借りを作ったというわけだ。まあ、国家権力との繋がりなら困ったときに役立つから良いだろう。

 そして名残惜しかったが、ナーブギアを引き渡した。

 

「……あの」

「何だい?」

「実は、その、ついナーブギアでALOにログインしてみたんです。そしたら、SAOのデータが上書きされたというか、何というか……」

「ああ、……ああ!? ――うーん。仮説とすれば、ナーブギアに残ってたSAOのデータを読み込んでしまったってところかな。SAOとほぼ同じ構造をしているからね、ALOは。ま、誤作動だね。どうする? 修正はできないこともないだろうけど」

「……完全修正はご遠慮したいですね。なんだかんだ言って思い入れのあるデータですから、できればダウングレードというかナーフできないかなぁ、と。はは、都合が良いですかね」

「うーん……。それは結城さんにかけ合うしかないかなぁ」

 

 結城さんとはレクトCEOの彰三のことだろう。

―――《仮想課》、ねぇ。

 流石に現行唯一のVRMMORPGを運営する企業との繋がりはあるのだろう。しかし図らずもまた一つ頼み事をしたようになってしまった。少し注意しなければ。

―――それにしても菊岡誠二郎、言動に違和感のある人だ。仮面をつけているような……。

 

******

 

 スプリガンを中心にPKを始めてから一週間ほどが経った。スプリガン狩りには今日で一区切りをつけるつもりだ。

 今日は領主を筆頭に、スプリガンの有力プレイヤーが揃って狩りに行く。ここらで有名な未探索ダンジョンに行くのだ。年末にある選挙に向けて実力を示したいのだろう。行動指針の変わらない分かり易い人物だ。

 僕はそれを狙う。一レイド――四十九人には及ばないが、四十人近い攻略隊を潰そうと思う。一人で。

 多くの人が無理だと思うだろう。しかしこの程度もできないようでは、最強のプレイヤーなどなれるはずもない。このために爪を研いできたのだ。それに秘策も準備してある。勝つ気しかなかった。

 

******

 

~side:ディラン~

 俺は未探索ダンジョンの攻略に引きずり出されていた。領主や執行部等の種族のトップが勢揃いしたレイドの一人として。馬鹿なことだとは思うが、彼らとの関係を切る気もないため嫌々ながら参加している。向こうからしても、恐らくスプリガンの中でトップの実力の持ち主――レントが脱領したからなのだが――の俺を手放そうとは考えていないのだろう。

 そのレントが襲撃に来るかもしれないとは領主に提言した。しかし、ミルネルはまともに取り合わなかった。まあ、無理もない。執行部なんかは実力も兼ね揃えた猛者たちだし、このレイドには四十人近くが参加しているのだ。俺でもこの集団を襲撃するのは無理だ。

 しかしレントには何かある。恐らく魔法だ。俺は結局あいつが魔法を使って戦っているところを見なかったのだが、あいつは全種類の魔法を極めると言っていた。剣の実力もそうだが、真に注意すべきはそちらだ。

―――レント、今の俺は領主の護衛だ。敵として立ち向かってやる!

 俺の意気込みは、しかし空回る。予想外にダンジョン攻略は上手くいった。未踏破部は残るものの、十分な成果と戦利品を抱えてデラニックスへ飛び立つ。拍子抜けしつつ今回は見逃したのかと思った瞬間、

 

 

 

 仲間が消えた。

 

 

 

 一瞬の内に周りにいた四十人のプレイヤーが消えたのだ。エンドフレイムすら見えなかった。それは生きていることに証左になりうるか。

 

「――ご機嫌よう、皆さん。ご存知とは思いますがレントです。以後お見知りおきを」

「――さて、仲間が消え果てて慌てていることとお察ししますが、種明かしをしましょう」

「――僕は()()()()透過魔法をかけました。そのためにお互いが見えなくなっているのです」

 

 案の定いつの間にか現れていたレントの言葉に耳を傾ける。つまり、誰かが看破魔法を使えば良いのだ。

 

「――おっと、看破されては困りますね」

 

 言うと同時、レントが飛び出す! 止める間もなく、計九つのエンドフレイムが見えた。

 九人というのは今回の攻略隊にいた高位のメイジだ。恐らく下調べされていたのだ。レントの魔法は高位のメイジでもなければ解除は難しいだろうから、これでこちらにレントの魔法を破る術はなくなった。

―――いや、一つだけある!

 俺は思いついた策を実行に移す! 得物である刀を抜き、レントに斬りかかる。

 

「――おやディラン、お久し振りですね。僕は一人ですから僕を動かせば自分の存在を他の人にアピールできる、と。やはりそう来ましたね」

 

 レントが俺の考えを当てるが、それは俺がいることを示しているに過ぎない。何が目的だ。刀は簡単に避けられてしまったが、もう一度距離を詰めようとした。そのときだ、レントの周囲で四つのエンドフレイムが発生した。

 

「――アイデアは良いんですけどね。他にも同じ発想をした人のことを考えないと、こんな風に同士討ちが起こってしまいますよ?」

 

 誰がやられたのかは分からないが既に四分の一がやられている。最初に九人がほぼ同時にやられたということは、レントは一撃でこちらを沈められるということ。それをしないのは弄んでいるからなのか。

 緊急離脱しようにも、ここはスプリガン領ではなく、即時ログアウトはできない設定になっている。

―――領主だけでもっ……!

 俺はミルネルがいたと思われる場所に向かった。そこらを手で探れば、ミルネルに当たってその姿が現れた。透過魔法は接触でも解除されるからだ。

 

「デ、ディランか。皆、私を守れ!」

「――残念でした、ディラン。ちょっと人手が足らないようですよ?」

 

 俺が必死にミルネルを探している間に、あいつは更に数人を炎へと変えていた。一対一の状況であいつに勝てるかは俺でも確証はない。

 互いにぶつかったことで露わになった俺達は、ミルネルを含めて十五人まで減っていた。

 

「……レント、お前強すぎじゃないか?」

「――それほどでも。これでも今まで無為に過ごしたわけではないのです」

「見逃してくれたりはしないか?」

「――さあ、そろそろデラニックスに帰るお時間ですよ? 歩くのも面倒ですから、すぐに送って差し上げましょう」

 

 そう言って浮かべた笑みは獰猛で、恐怖心を掻き毟るものだった。恐怖に震えたプレイヤーが爆散する。

 

「……へ?」

 

 ……これがレントの厄介なところ。噂に聞くシルフの《スピードホリック》よりも速いと思われるスピードだ。それをホバリング中から突発的に出すのだ。止まっている状態から、見たこともない高速で間合いに入られる。それは目視して反応できるようなものではない。

 慌てて、レントが通り抜けていった後ろを振り返る集団。

―――あいつが真っすぐ飛んでいるわけがないっ!

 やはり側面から襲ってきた必殺の剣を、俺は何とか勘で弾く。

 

「――おや、ディラン。これを防ぎますか」

 

 あいつが止まった。要注意だ。この状態は抜刀術なら刀が鞘に入っている状態。つまり、臨戦態勢だ。

 

キィィィィィン!!!

 

 ……何とか、防いだ!

 

バァァァン!!

 

 刀で剣を受け流したばかりに、後ろで別のプレイヤーが爆炎へと変わる。

―――しまった!

 今の俺は後ろに守らねばならない人を抱えているのだ。一人で生き残ることより余程不可能に思える難題に顔を顰める。

 自分とミルネルを除いて残り十一人。

 

「固まれ! 円陣を組むんだ!」

 

 俺の指示でミルネルを中心に円を組む。どこからでも反応できるように。

 

「下に降りるぞ。空中じゃ分が悪い」

 

 これも事実だ。地表近くでは流石にあのスピードは出せない……はずだ。

 そうしている内にレントは自分に透過魔法をかけたようで、どこにも見えなくなっていた。

 地面へと降り、円を組んで警戒したままスプリガン領に向かって歩くこと数分。一人が息を吐いた。

 

「――ほら、油断しちゃ駄目ですよ?」

 

 ……一人欠けてしまった人数で円陣を組み直す。いつ、どこから来るか分からない必殺の剣。それは人の精神をじりじりと削る。

 

「ま、まだスプリガン領には着かんのかね」

「……飛んで、十数分かかりますからね。全然ですよ」

「くそぉぉ。まだか、まだなのか」

 

 戦闘要員よりも先にミルネルの精神が削れそうだ。

 領主が倒された場合、倒したプレイヤーに領主館に貯えられている資金の三割を問答無用で奪われる。更にそれから十日間、領内の街に好きに税金をかけられるため馬鹿にならない被害が出る。そのプレッシャーに震えているのだろう。

 

「――まだかまだかと催促され、嬉しいのか嬉しくないのか複雑ですね」

 

 今度は二人やられた。レントは姿を俺達に晒したままだ。

 

「――これ以上お待たせするのは悪いかと思いまして、どうぞかかって来てください」

 

 ……ミルネルめ、余計なことを言いやがって。思わず胸中で吐き捨てる。ミルネルは倒させるわけにはいかない。残りの九人で一斉に襲いかかるのが正解か。

 

「――残念、時間切れです。こちらから行かせてもらいます」

 

 言うと同時、突っ込んできたレントに応戦する。姿――敵のも味方のも――が見えており連携が取れるためまともな戦いが成立している。しかしそれは見かけ上の話であり、ダメージレースは一方的だった。

 SAO上がりのレントの地上戦に対する慣れは言うまでもない。こちらの攻撃は掠りもしないのに、あいつからの攻撃は届く。今は掠っているだけだが、それでも蓄積ダメージで人数は減っていくだろう。

―――どうする、どうする!?

 

「――抜けました」

 

 レントの剣の一振りで三人が散る。あいつの剣は一撃必殺、隙を見せた瞬間に()られる。しかも隙とも思えないところを隙と認識してくるから防ぎようがない。

 三人が目の前で屠られ、怯んだプレイヤーは三人の後を追った。

 レントが聞いたこともないスペルを唱え始めた。警戒する。

 まだ終わらない。

 二十単語を超えた。詠唱の長い魔法はその分超強力な魔法だ。他の四人が明らかな動揺を見せ、一人がスペル詠唱中のレントに斬りかかる!

―――確かにそれが正しい!

 スペルの詠唱は細心の注意が必要だ。ならばその集中を乱せば良いのだ!

 しかし、そう簡単にレントが弱点を見せるはずがなかった。ALO全体で見ても何人ができるかも分からない、戦いながらの詠唱という神業をあいつは見せた。流石にこちらを撃破するほどの冴えはなかったが、五人からの攻撃を冷静に捌き詠唱を続けるなど人間業とは思えない。

 あいつの詠唱が終わる! 結局詠唱失敗(ファンブル)させることは叶わなかったが、全精力をもって警戒する。

 レントの周囲に緑色の真空弾が現れた。それが飛来する! 一人は回避に失敗。リメインライトになった。

―――一撃でHPを削りきる攻撃力っ!

 他は回避に成功したが、一人、その隙を突かれレントに殺される。残り三人!

 真空弾は折り返してもう一度襲いかかる! 一人がそれに当たる!

―――追尾機能!

 最後の一人は俺に向かって放たれた弾も食らい、消滅した。

 

「後は頼みました、ディランさn……」

 

 そしてガタガタ震えているミルネルと俺だけが、レントと向き合うことになった。

 

「――こんなときにも領主を庇いますか。正に護衛の鑑ですね」

「レント、お前こそオリジナルスペルなんてもんが使えるとはな。目指してた魔法剣士って奴そのものじゃねぇか」

「――ええ、さっきのは《風》と《炎》、《闇》を組み合わせてみました。使えるでしょう?」

「はは、怖いほどにな」

 

 乾いた笑いしか出てこない。俺はレントと向き合い、タイミングを計っていた。それはレントも同じなようで、そのまま一分ほど経ったのか、リメインライトは次々と消えていった。

 その一つが消えたタイミングで俺とレントは同時に地を蹴った!

 

カン、キィン、キキキキ、カキィィィン!

 

 レントの白い剣と俺の黒い刀がぶつかり、弾き合い、鬩ぎ合う。一度大きくバックステップを踏み、距離を取る。リメインライトは一つもなくなっていた。

 

「――ミルネルさんは貰いました」

「なっ……!!!」

 

 気づけば、場所が入れ替わっていた。そうなれば当然そちらにはミルネルが……、

 

「ヒィッ!」

「――さようなら」

 

 そしてミルネルはリメインライトになった。

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 俺は翅も使い、最高の勢いでレントにぶつかる! レントを森の中へと弾き飛ばし、混戦になる。

 これまた一分ほど経ってだろうか、鎬を削って戦っていたレントがその動きを止めた。

 

「はあ、ディランがいるなんて予想外でしたよ」

「…………」

「ああ、安心して下さい。言ったでしょう、ディラン()狙わないって。リメインライトが消えるまで待ったんですから」

「……ったく、領主が殺されてこっちはもう最悪だってのに」

「ああ、これどうぞ」

 

 そう言って渡されたのは金貨袋だった。ズシリと重い。

 

「さっきの領主館からの資金分です。別にそれが目的じゃなかったんでお返しします」

「は、はぁ!? ――まあ、ありがたく受け取っとくけどよ……」

「じゃあ、それでは。またどこかで会いましょう」

 

 こちらに疑問を挟ませる時間も与えず、レントは翅を震わせ飛び去った。

 金目的でないなら何が目的だったのかやら、あの奇妙な間を持たせた喋り方やら、聞きたいことはたくさんあったのに、結局俺が得たのは大量のユルドだけだった。

―――こんな大金、抱えて帰れってのかよ……。

 

******

 

 デラニックスに帰れば、そこは大変なことになっていた。

 領主が殺されたのだ。しかも最後まで残っていたミルネルが言うには、《ディラン》がその襲撃者と互角の戦いを繰り広げていたのだとか。

 噂が蔓延するそこに無事に帰ってきた俺は、多くの人に質問攻めにされた。

 

「何度言ったら分かる! レントは! 金が目的じゃないからって言って、俺にこの金貨を押しつけてきやがったんだよ!」

「なら! 何で私を襲ったんだ!」

 

 大方の予想はつくが、知らないことは答えようがなくミルネルとも言い合いになる。他の攻略隊メンバーもレントの情報を欲して俺を取り囲んでいた。

 一番辟易したのは、俺を次期領主へという言葉だった。最後まで襲撃者(レント)と渡り合う実力、領主を守ることを貫き通そうとした忠誠心なんかが評価の理由なんだとか。

 昔からある程度の知名度はあったため、実際に他薦で領主になってしまいそうである。皆、ミルネルの保身主義的なところが嫌になってきていたのだ。そこに現れた俺に飛びついたというわけである。

 ミルネルは隅の方でハンカチを噛んで悔しそうにしていた。

 

******

 

 この襲撃以来、レントはレイドをも崩壊させる戦力として恐れられることになる。

 全ての種族を対象にPKをし、その見た目と散々弄んだ末に止めを刺すことから、こう呼ばれることになる。

 

 《白い悪魔》と。




主人公の二つ名
SAO
・オレンジキラー
・白の剣士
・奇術師
・レッドキラー
・狂戦士
ALO
・バグリガン NEW(前話)
・白い悪魔 NEW

 ALOではこれ以上増えないでしょう。PKの時に弄んでいるのはただの趣味です。(主人公のです。筆者のではありません……多分)
 筆者の活動報告の方でちょっとしたアンケートのようなものを行います。よろしければご覧ください。

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