バカとE組の暗殺教室   作:レール

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イトナの時間

 携帯電話ショップでシロさんの襲撃を受けた僕らは、連れ去られたイトナ君を助けるために飛び出した殺せんせーを追いかけて走り出す。

 

「足の速い奴は先行して奴らを叩くぞ! 律を通して状況報告するから後続は合わせろ!」

 

「ねぇ雄二! シロさん達が何処に行ったか分かるの!?」

 

 取り敢えず皆と一緒に僕も走り出したけど、シロさんは多分自動車だし殺せんせーはマッハで見えなくなった。

 雄二は先行するって言うけどいったい何処へ向かってるんだ?

 

「イトナを引き摺っていった方向に行けば多分いるだろ! そう遠くまで殺せんせーから逃げられるわけねぇ!」

 

「殺せんせーを殺すために準備してる場所があるだろうね。減速して追いつかれたら元も子もないから大通りを逸れてはいないはず」

 

 雄二の言葉をカルマ君が補足してくれる。なるほど、確かにそう言われたらその通りだ。

 それに幾らイトナ君が肉体強化されてるっぽくても、自動車で長時間引き摺られたら耐えられないと思う。もしイトナ君が死んだら殺せんせーを釣るための囮としても使えない。待ち伏せしてる場所は遠くないってことか。

 

「ムッツリーニ! 使えそうなものは何がある!」

 

「…………ナイフ一本、スタンガン二本、カッター四本、ワイヤー、ロープ、ガムテープ」

 

「なんでそんなに持ち歩いてるのよ!?」

 

 ムッツリーニの手持ちを聞いた片岡さんが驚いている。まぁ普通じゃないよね。

 でも今はムッツリーニの非常識さが頼もしい。それだけの物があれば即席である程度の状況にも対応できそうだ。

 

「じゃあ木村と岡野にスタンガンを渡しておけ! 敵がいたら速攻でまず二人潰す!」

 

「俺らかよ」

 

「木村、どっちが早いか競争ね」

 

 指名された木村君と岡野さんは、ムッツリーニから投げ渡されたスタンガンを受け取る。特に岡野さんはやる気満々だ。

 

「片岡! 奴らが見えたら全体を収められる場所で携帯のカメラを向けておけ!」

 

「分かったわ! 任せておいて!」

 

『バッチリ後ろの皆さんに情報をお伝えします!』

 

 これで一先ずの布陣は出来たかな。あとは実際の状況を見てみないと動きようがない。

 と、しばらく走っていると異様にライトで照らし出されている場所があった。その真ん中に殺せんせーとネットに包まれて倒れているイトナ君がいる。

 全方位から狙撃手が対先生弾でイトナ君を狙っていて、それを殺せんせーが守っている形だ。殺せんせーは当たる攻撃に敏感だから、それを踏まえてのイトナ君狙いだろう。

 

「狙撃手が木の上に左右三! トラックの荷台に三! まずは木の上の奴らから突き落とすぞ!」

 

「ちょっと待て! 木の上から突き落としたら下手すれば大怪我だぞ! 体格良い奴らは下で受け止めてくれ! 相手が動けそうなら拘束も頼む!」

 

 問答無用で木の上から突き落とす指示を出した雄二に対して、磯貝君が相手のことも考慮した指示を加えてから左右に分かれた。

 僕は右側へ木村君、ムッツリーニとともに木の上の相手へ向かう。気配を消してフリーランニングで木を登りつつ背後を取る。

 

「ぐあっ!?」

 

 そして木村君がスタンガンで三人のうち一人を気絶させ、その呻き声で残った人の気が逸れた瞬間に僕は首を絞めて意識を落とした。

 相手を突き落として怪我させないように配慮した首絞めだ。それに出来るなら下にいる松村君、吉田君も動けるようにしておいた方がいいだろう。

 

「吉井! 銃貸して!」

 

 そう言って速水さんが僕のいる木の下にやってきた。自分の足元を見ると、首を絞めた際に手放した狙撃手の銃が木に引っ掛かっている。

 

「はいよ!」

 

 その銃を速水さんへ向けて蹴落とすと、銃を受け取った彼女はトラックの荷台にいる相手へ向けて射撃した。

 

「うっ!」

 

 もちろん対先生弾だから少し痛いだけで衝撃はそこまでない。倒すまでは行かないだろう。

 しかしその怯んだ一瞬でも、殺せんせーにとっては十分な隙だ。射撃が止まった瞬間にトラックの荷台へ移動した殺せんせーは、イトナ君を包んでいるネットを根本から外した。

 そうしているうちに後ろから来ていた皆も追いつき、ムッツリーニの持っていた道具を使って木の上から落とした相手を拘束していく。反対側の狙撃手も磯貝君、前原君、杉野くんが上手く制圧したみたいだし形成逆転だ。

 

「……お前ら、なんで……」

 

 僕が木を降りたところで、横たわったままのイトナ君から呆然とした様子の呟きが聞こえてくる。

 イトナ君、意識はあったのか。ぐったり倒れたままだったから気絶してると思ってたよ。

 

「勘違いしないでよね。シロの奴にムカついてただけなんだから。殺せんせーが行かなけりゃ私達だって放っといてたし」

 

「速水さん、今時珍しいくらいの正統派ツンデレだあ痛っ!」

 

 軽い冗談で言ったら速水さんに頭を叩かれてしまった。ちょっと恥ずかしかったのかもしれない。考えなしに親父ギャグとか言ってしまった時の感じだろう。

 などと緊張感のないことを考えている間にも状況は進んでいく。

 

「去りなさい、シロさん。イトナ君はこちらで引き取ります。貴方はいつも周到な計画を練りますが、生徒達を巻き込めばその計画は台無しになる。当たり前のことに早く気付いた方がいい」

 

 殺せんせーがシロさんに向けてイトナ君の引き渡しを告げる。まぁ拒否しようものなら今度こそ、ぶん殴ってでも言うことを聞かせるしかないね。

 

「……モンスターに小蝿達が群がるクラスか。大層うざったいね。だが確かに、私の計画には根本的な見直しが必要なのは認めよう」

 

 シロさんは何かを考えるように口元へ手を当てながら黙っていたが、考えが纏まったのかそう言うとトラックの荷台へ乗り込んでいった。

 

「くれてやるよ、そんな子は。どのみち二、三日の余命。皆で仲良く過ごすんだね」

 

 そのままトラックは発進してこの場から去っていく。どうやらこれで本当に手を引くことにしたらしい。

 取り敢えずイトナ君を捕らえていた対先生繊維のネットを外して、拘束していた射撃手を解放する。シロさん達に置いていかれて不憫だなぁ。

 とはいえまだ終わりじゃない。あとは暴走したイトナ君の触手を何とかしないとなんだけど……。

 

「触手は意志の強さで動かすものです。イトナ君に力や勝利への病的な執着がある限り、触手細胞は強く癒着して離れません。そうこうしている間に肉体は負荷を受けて衰弱してゆき、最後は触手もろとも蒸発して死んでしまう」

 

「つまり身体も残さず消えるということか……何とも辛い最後じゃのぅ」

 

「それは幾らなんでも可哀想だな」

 

 触手が暴走すると宿主がどうなるか分からないってことだったけど、最終的には消えてなくなるなんて凄まじい代償だ。

 更に触手がついている間は激痛に苛まれるって話だし、それを理解した上で受け入れたのだとしたらその執念は尋常じゃない。

 

「後天的に移植されたんだよね? なんとか切り離せないのかな」

 

「彼の力への執着を消さなければ……そのためにはそうなった原因をもっと知らねばいけません」

 

 片岡さんが殺せんせーに問い掛けるが、殺せんせーをもってしても力尽くで切り離すのは難しいようだ。根本的に解決するにはイトナ君の身の上を知らないといけないらしい。

 

「でもこの子、心閉ざしてっからなぁ……身の上話なんて話してくれないんじゃない?」

 

「…………無理に聞き出すのは逆効果」

 

 中村さんやムッツリーニの言う通り、僕らが強引に聞き出そうとしても上手くいかないだろう。下手をすれば更に暴走する可能性だってある。

 この手のケアは殺せんせーが得意とするところだけど、今回ばかりはどうしようもない。得体の知れない触手を使ってまで、殺せんせーを殺すことに執着しているんだ。その相手に対して今の状態で心を開いてくれるとは思えない。

 

 皆がどうするか行き詰まっていたところで、不破さんが声を上げた。

 

「そのことなんだけどさ。気になってたんだ、どうしてイトナ君は携帯ショップ襲ってたのか」

 

 そういえばイトナ君が携帯電話ショップを襲っていた理由については謎のままだったな。その話を今するってことは何か分かったのだろうか。

 僕らが静かに耳を傾ける中、不破さんは話を続ける。

 

「で、さっきまで律と何度かやり取りしてたんだ。機種とか戸籍とか、彼に繋がるものを調べてもらって……そしたら、“堀部イトナ”って此処の社長の子供だった」

 

 そうして律が僕らの携帯画面に映し出してくれたのは、“堀部電子製作所”という町工場についてのネット情報だった。

 世界的にスマホの部品を提供してた町工場だったそうだけど、小さな町工場で負債を抱えて倒産してしまったらしい。それで社長夫婦は息子……つまりイトナ君を残して雲隠れしたそうだ。

 

 何となくではあるけど、イトナ君のことが分かってきた。特に“力”や“勝利”に執着する理由が。

 小さな町工場が潰れる切っ掛けとして考えられるのは、他の大企業に買収されたり経済的にやっていけなくなったりとかだろうか。

 とにかくどんな形であったとしても、大きな力には敵わないって現実を突きつけられたんだと思う。そこから強さを求めるようになったとしてもおかしくない。

 

「ケ、つまんねー。それでグレただけって話か」

 

 皆がイトナ君の境遇について思いを馳せる中で、寺坂君はどうでもいいと言わんばかりに暗い雰囲気を一蹴した。

 

「皆それぞれ悩みあンだよ。重い軽いはあンだろーがよ。けどそんな悩みとか苦労とか、色々してるうちに割とどーでもよくなったりするんだわ」

 

 そのまま寺坂君はいつも一緒にいる狭間さん、村松君、吉田君を連れてくると、倒れているイトナ君の服の襟を掴んで強引に立たせる。

 

「俺らんとこでコイツの面倒見させろや。それで死んだらそこまでだろ」

 

 ということで、他に妙案もないためイトナくんの命運は寺坂君達に託されたのだった。……僕が言うのもなんだけど、寺坂君で大丈夫なのかなぁ。

 

 

 

 

 

 

〜side 竜馬〜

 

 俺らでイトナの面倒見させろって言った以上、他の奴らは邪魔だからどっか行ってもらった。まぁ心配して適当に後つけてんだろ。

 取り敢えずイトナの触手を抑えつけんのに、対先生(タコ)のネットに布を挟んで即席バンダナにした。暴走したら止めらんねーだろうが……そん時はなるようになるしかねぇ。

 

「――さて、おめーら」

 

 確かイトナの触手を切り離すためには、コイツの心を開かせて執着を消す必要があるんだっけか。

 会社が潰れて親がいなくなったイトナが、力を求めるようになったっつーのは分かった。それを踏まえた上でコイツの執着を消すためには……。

 

「……どーすっべ。これから」

 

 何かいい作戦がないか三人に聞いてみる。

 

「って考えてねーのかよ! 何にも!」

 

「ホンット無計画だな、テメーは!」

 

「うるせー! 四人もいりゃ何か考えの一つでもあんだろーが!」

 

 他人の心開くとか繊細なコト俺に出来るわけねーだろ! 俺のガサツさ舐めんなよ!

 

「村松んち、ラーメン屋でしょ。一杯食べたらこの子も気ぃ楽になるんじゃない?」

 

 男三人で言い争ってるところに、狭間から飯を食いにいく提案が出てきた。

 そういや俺も腹減ったな。イトナが来るまで晩飯抜きで待ち伏せしてたしよ。ついでに食わせてもらうか。

 

「――で、何でテメーらまで居んだよ!」

 

 つーわけで村松んちの“松来軒”に来たわけだが、なんでか吉井と磯貝もカウンターに座ってラーメンを啜ってやがる。吉井はともかく磯貝まで何やってんだ。

 

「だってラーメンをタダでいっぱい食べるって聞いたから」

 

「いっぱいじゃなくて一杯だよ! どんだけ食う気だ!」

 

「落ち着けよ寺坂。俺達が言い争ってても仕方ないだろ。今はイトナのことをどうにかしないと」

 

「言い分は正しいけど磯貝、アンタもラーメン食いながらじゃ説得力ないわよ」

 

 どんだけ食いもんに飢えてんだよ……そういやコイツら、あんま金ねーんだったか。

 にしても磯貝は吉井に毒され過ぎだろ。金無さ過ぎて常識どっかに売っちまったのか。

 

 まぁ予想してねー乱入もあったが、取り敢えず村松の作ったラーメンをイトナも啜る。

 

「どーよ。不味いだろ、うちのラーメン。親父に何度言ってもレシピ改良しやしねぇ」

 

「そんなことないよ、松村君。塩水よりも味があるし、何より普通に食べられるじゃないか」

 

「吉井はいいから黙ってラーメン食ってなさい」

 

 狭間に釘刺された吉井は黙ってラーメンを啜り始めた。コイツは空気ってもんが読めねーのか。って読めてたらこの場にいねーか。

 

「……不味い。オマケに古い。手抜きの鶏ガラを化学調味料で誤魔化している。トッピングの中心には自慢げに置かれたナルト。四世代前の昭和のラーメンだ」

 

 村松に味の感想を求められたイトナは、ラーメンを食いながらも淡々と言う。コイツ、意外にラーメンのこととか知ってんだな。

 相変わらず何考えてんのかさっぱり分かんねーけど、ちょっとは人間らしい一面も出てきたじゃねーか。

 

「じゃ、次はうち来いよ。こんな化石ラーメンとは比較になんねー現代の技術見せてやッから」

 

「ンだとォ!?」

 

 吉田に化石呼ばわりされた村松が噛み付いてるが、吉田んちはバイク屋だからな。それに比べりゃ村松んちの昭和ラーメンは化石だわな。

 

「待って吉田君、僕まだ食べ終わってないから」

 

「村松、タッパー借りてもいいか?」

 

「もういいからテメーら帰れ!」

 

 いい加減に吉井と磯貝はラーメン持たせて帰らせた。マジでコイツら、ただラーメン食いに来ただけかよ。

 

 

 

 

 

 吉田んちの“吉田モーターズ”に来た俺らは、吉田がイトナとニケツでバイク乗り回すのを眺めてた。

 

「いーの? 中学生が無免で」

 

「アイツんちのバイク屋の敷地内だしな。偶にサーキットにも行ってるらしい」

 

 バイク飛ばして悩みも吹っ飛ばすってのは、如何にも吉田らしい考え方だ。触手を使うイトナにバイクのスピードが速く感じんのかは知らねーが、大人しく乗ってるっつーことは少なくとも悪くはねーんだろ。

 そんな風に走る二人を眺めてたんだが、何を思ったか吉田が高速でブレーキターンを決めてイトナを植木へ吹っ飛ばしていた。それはちょっとやべーだろ!

 

「馬鹿! 早く助け出せ! このショックで暴走したらどーすんだ!」

 

「いやいや、この程度じゃ平気じゃね?」

 

 んなわけねーだろ! 確かに教室の壁突き破れるアホみてーな身体してるが、触手は精神的なモンだってタコも言ってただろーが!

 とにかく弱って意識が朦朧としてるイトナを叩き起こす。そのためにまず俺が膝蹴りで活入れて、それでも目覚めねーイトナに吉田が水をぶっ掛けたところで目が覚めた。何とか暴走せずに済んだな。

 

 と、俺らがイトナを叩き起こしてる間どっか行ってた狭間が大量の本持ってやってきた。

 

「復讐したいでしょ、シロの奴に。名作復讐小説“モンテ・クリスト伯”全七巻二千五百ページ。これ読んで暗い感情を増幅しなさい。最後の方は復讐やめるから読まなくていいわ」

 

「難しいわ!」

 

 なんで精神的な(やべー)方にやべーもん刷り込もうとしてんだ!? コイツ、触手なんとかする気とかぜってーねーだろ!!

 

「狭間、テメーは小難しい上に暗いんだよ!」

 

「何よ。心の闇は大事にしなきゃ」

 

 んなもん大事になんざして堪るか。どっちかってーと今はその闇を晴らす必要があんだよ。

 

「もーちょっと何かねーのかよ、簡単にアガるようなやつ! だってコイツ、頭悪そう――」

 

 その時、イトナがなんか震えてるのに気付いた。

 水ぶっ掛けられたのが寒みー……ってわけじゃねーよな。

 

「やべぇ、なんかプルプルしてんぞ」

 

「寺坂に頭悪ィって言われりゃキレんだろ」

 

「吉井に言われるよりゃマシだろうが!」

 

 そんな理由でキレたんなら、触手どうこう関係なくマジで一回シメんぞコイツ。

 だがそんなふざけた様子じゃなさそうだ。

 

「……違う。触手の発作だ。また暴れだすよ」

 

 狭間の言う通り、暴走した触手が即席バンダナを突き破って出てきた。イトナの野郎も触手の暴走に引き摺られて目が血走ってやがる。

 

「俺は適当にやってるお前らと違う。今すぐアイツを殺して……勝利を……」

 

 触手が暴走したら俺らじゃどうにもならねー。暴走に巻き込まれる前に退散――しようとしたが、イトナが絞り出したその言葉を聞いて足を止めた。

 そのままいつ暴れ出してもおかしくねーイトナと正面から向かい合う。

 

「おうイトナ、俺も考えてたよ。あんなタコ、今日にでも殺してーってな」

 

 E組で孤立して取り残されて居心地が悪かった一学期の期末テスト前、俺だってあのタコ殺したくてテメーやシロに協力したこともあった。

 だがそれは自分で殺すこと諦めただけの思考停止だ。無策で殺すとのたまう今のイトナと何ら変わりねー。それで結果だけ欲しがってんだからシロなんかに利用されんだ。俺も、触手に頼ったコイツも。

 

「でもな、テメーにゃ今すぐ奴を殺すなんて無理なんだよ。無理のあるビジョンなんざ捨てちまいな。楽になるぜ」

 

「うるさい!」

 

 俺の言葉に痺れ切らしたイトナが触手を振るってくるが、速度自慢の触手が情けねーくらいトロい。目で追えるくれーだ。

 俺は攻撃してきた触手を身体で受け止めて、手足で挟み込んでガッチリ固定してやった。

 

「二回目だし弱ってるから捕まえやすいわ。吐きそーな位クソ痛てーけどな……吐きそーといや村松ん家のラーメン思い出した」

 

「あん!?」

 

 いきなり名前出された村松がなんか言ってるが無視する。つーか触手の攻撃が痛くて村松に反応できるほど余裕ねぇ。

 

「アイツな、あのタコから経営の勉強奨められてんだ。今は不味いラーメンでいい。いつか店を継ぐ時があったら、新しい味と経営手腕で繁盛させてやれってよ」

 

 村松だけじゃねー。吉田だっていつか役に立つかもしれねーからって、タコに色々教えられてる。俺が知らねーだけで、きっと他の奴らも同じコト言われてんだろーな。

 

「なぁイトナ、一度や二度負けた位でグレてんじゃねぇ。いつか勝てりゃあいーじゃねーかよ」

 

 そうして今すぐ殺すことに固執してるイトナの固い頭を殴ってやった。

 今のコイツは前の俺と同じだ。勝ちへの執念だけが空回りして、周りのコトが全然見えなくなってやがる。

 

「三月までにたった一回殺せりゃ、そんだけで俺らの勝ちよ。……親の工場なんざ賞金で買い戻しゃ済むだろーが。そしたら親も戻ってくらァ」

 

 現実はそう単純じゃねーのかもしれねーが、少なくとも賞金がありゃ町工場の負債なんざすぐ返せんだろ。

 もし殺せなかったら地球ごと負債も俺らも纏めてパーだ。そうならねーためにも、あと半年の間でいつか殺せるようにすりゃあいい。今すぐ殺すことに拘る必要はねぇ。

 

「……耐えられない。次の勝利のビジョンが出来るまで、俺は何をして過ごせばいい」

 

「はァ? 今日みてーに馬鹿やって過ごすんだよ。そのためにE組(俺ら)がいんだろーが」

 

 俺の言葉を聞いたイトナの触手が力なく垂れた。さっきまで血走ってた目も元に戻ってやがる。

 

「俺は……焦ってたのか」

 

「おう、だと思うぜ」

 

 暴走してた触手が落ち着いたイトナの様子を見て、これまで黙ってどっかにいたタコが姿を見せる。

 

「目から執着の色が消えましたね、イトナ君。今なら君を苦しめる触手細胞を取り払えます」

 

 そう言うとタコは幾つものピンセットを取り出した。つーか執着がなけりゃピンセットで取れんのかよ。

 

「大きな力の一つを失う代わりに、多くの仲間を君は得ます。……殺しに来てくれますね、明日から」

 

「……勝手にしろ。この触手()も兄弟設定も、もう飽きた」

 

 どうやら何とかこれで一件落着みてーだな。

 ……ハー、マジで疲れた。ホント、他人の心開くとか慣れねーコトするもんじゃねーわ。




原作のシーツやガムテープは何処から出てきたのか、ということで何でも出せそうなムッツリーニに色々用意してもらいました。
ちなみに先行組は5段階中4以上評価の機動力がある生徒で編成しています。

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