バカとE組の暗殺教室   作:レール

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これまで訳あって放置していましたが、またゆっくり執筆再開していこうと思います。
以前以上の亀更新になるとは思いますが、もしよかったら再び「バカとE組の暗殺教室」をよろしくお願いします。


音の時間

〜side 渚〜

 

 わざわざ来てくれた吉井君に下がってもらった僕は、上着を脱ぎ捨てて少しでも動きやすくなってから鷹岡先生へ向き直った。

 

「お〜お〜、カッコいいねぇ。ナイフを使う気満々で安心したぜ。スタンガンはお友達に義理立てして拾ってやったというとこか」

 

 僕と同じように鷹岡先生も上着を脱いでから戦闘態勢を取った。興奮していたさっきまでとは明らかに違う。まるで隙がない。

 でもどういう状況であれ僕に出来ることは暗殺だけだ。戦闘で鷹岡先生に勝てる可能性なんてほとんどないだろう。

 前に鷹岡先生と戦った時と同じだ。自然体で気配をフラットにして近づき———

 

 即座に蹴りを食らって吹き飛ばされた。

 

 防御どころか受け身も取れず痛みで悶えそうになるが、なんとか堪えながらすぐに体勢を立て直す。

 

「おら、どうした。殺すんじゃなかったのか」

 

 その僅かな間に接近してきた鷹岡先生へ向けてナイフを振るうが、簡単に往なされてカウンターの拳を入れられてしまう。

 それからどれだけ攻めても鷹岡先生に僕の攻撃が届くことはなかった。体格も技術も経験も、分かっていたことだけど戦闘能力は僕とは比べ物にならない。

 しかしどれだけ攻撃を加えられても絶妙な力加減で大怪我にはなっていなかった。先生の気が済むまで痛めつけるつもりなんだろう。

 

「へばるなよ。今までのは序の口だぞ」

 

 絶えず攻撃を繰り出していた鷹岡先生が手を止めると、今まで使わず足元に置いたままどったナイフを手に取った。

 

「そろそろ俺もコイツを使うかな。手足を切り落として標本にしてやる。ずっと手元に置いて愛でてやるよ」

 

 素手の鷹岡先生に手も足も出なかったのに、ナイフまで使って本気で殺しに来られたら確実に死ぬ。これまで以上に殺気立っているし、先生はこれで終わらせるつもりのようだ。

 

 

 

「———もう、我慢できない……!!」

 

 

 

 そんな鷹岡先生を見て、今まで後ろに控えてくれていた吉井君が声を荒げた。

 鷹岡先生に注意しながら吉井君を見ると、血の滴った手でナイフを構えている。どうやら掌に爪が食い込むほど力を込めて堪えていてくれたらしい。

 割り込んできた吉井君に対して、鷹岡先生はこれまで以上に不機嫌さを露わにする。

 

「そこまで死にたいなら先に相手してやる。お前を殺してからコイツを嬲り殺しにする方が邪魔されずに済みそうだ」

 

「上等だ!殺れるもんなら殺ってみろ!」

 

 二人とも殺気を滲ませていて一触即発の状態だ。吉井君に関してはすぐにでも飛び掛かりかねない雰囲気である。

 ボロボロにされた僕を見て怒ってくれる優しさは嬉しいけど、まだ吉井君に手を貸してもらうわけにはいかない。

 

「待って、吉井君……僕は大丈夫。だからもう少しだけそこで見てて」

 

「でも……!」

 

「吉井君、お願い」

 

 落ち着いて諭すようにお願いした僕の言葉を聞いて、吉井君は不承不承ながら再びナイフを仕舞って下がってくれた。

 良かった。今ここで吉井君も参加して乱戦になったら、鷹岡先生の意識が僕から逸れてしまう。それじゃあ()()()()()()が上手くいかないかもしれない。

 

 ようやくロヴロさんに教わった技、それを使う条件が全て揃っている上にそのお膳立てまでしたんだ。鷹岡先生には技の実験台になってもらわないと。

 戦闘能力に圧倒的な差がある鷹岡先生にも通じるかもしれない技なんだ。そのための準備が無事に済んだことで思わず自然と口角が上がってしまう。

 

「ッ………!?」

 

 その僕の表情を見た鷹岡先生が一気に強張ったのが一目で分かった。

 何か策があると警戒しているのか、どうやら上手く先生の緊張を高めることができたらしい。これならより確実に技を決められる。

 僕は緊張して神経が過敏になっている鷹岡先生へ向かって、ゆっくり近づいていく。

 

 この技は窮地に“必ず殺せる”理想的状況を造り出すため……必ず殺すための技だって教えられた。それで鷹岡先生に有利な“戦闘”となったこの場を、僕に有利な“暗殺”へと引き戻す。

 

 技を発動するタイミングは、鷹岡先生の意識が極限までナイフに向けられる間合いの僅かに外だ。そこまで僕は自然体のまま歩みを進めていく。

 わざわざボロボロになるまでナイフで斬り掛かったんだ。確実に先生は僕の間合いを見切っているはず。技の発動をギリギリまで遅らせて最大限まで効果を高めてみせる。

 そうして限界まで鷹岡先生へ接近したタイミングで、僕はナイフを空中に手放し、

 

 

 

 

 

 ノーモーションから最速で、最も遠くで最大の音量が鳴るように———“猫だまし”を発動した。

 

 

 

 

 

 ただ手を叩いて音を出すだけじゃない。音の塊を手から発射するような形で、音の爆弾によって相手の神経を破壊する。

 その衝撃で鷹岡先生は体勢を崩し、一瞬だけ真っ白になった意識が身体を固めて隙を生む。

 

「な、にが、起こっ———」

 

 その数瞬を逃さず寺坂君から借りたスタンガンを抜き、鷹岡先生へ叩きつけて電流を流し込んだ。

 

「ぎッ!?」

 

 電流を浴びせられて身体が痺れたらしく、鷹岡先生は膝から崩れ落ちて座り込む。

 “猫だまし”が上手くいって良かった。実戦で使うのは初めてだったから少なからず不安はあったけど、結果として鷹岡先生を倒すことが出来た。

 

「とどめ刺せ、渚……首辺りにたっぷり流しゃ気絶する」

 

 僕と鷹岡先生の戦いが終わって静寂が辺りを包み込む中、小さいながらも寺坂君の声が聞こえてきたので言われた通りスタンガンを先生の首元へ当てる。

 あとは指先一つで全てが終わる。だけど僕の中に今あるのは鷹岡先生に勝った優越感でも戦い終わりの高揚でもなかった。

 

 この人からは沢山のことを教わった。

 殺意を、殴られる痛みを、実戦の恐怖を……殺意に飲み込まれた時の危うさや、その殺意から引き戻してくれる友達の大切さ。

 酷いことをした人だけど、それとは別に授業への感謝はちゃんと言わなきゃいけないと思ったんだ。

 

「鷹岡先生、ありがとうございました」

 

 だから僕は笑顔で鷹岡先生にお礼を述べた後で、スタンガンのスイッチを入れて先生の意識を落とした。

 これで今度こそ僕の戦いは終わりだ。

 

「よっしゃぁぁああ!元凶(ボス)撃破!」

 

 鷹岡先生が倒されたことで、屋上で待っていてくれた皆から歓喜の声が沸き立つ。

 さっきまで鷹岡先生に脅されて皆は身動きが取れなかったけど、その先生が倒されたため動くことが出来るようになった。ヘリポートへの連絡通路が爆破されて帰れない僕と吉井君のため、連絡通路の代わりになるものを探してくれている。

 と、最後まで手を出さずに見ててくれた吉井君が隣まで来た。

 

「渚君、お疲れ。凄かったね」

 

「ありがとう、吉井君。ごめんね、わざわざ危険を冒してヘリポートまで来てくれたのに一人で全部しちゃって」

 

「そんなの別に気にしなくていいよ。それよりも渚君が無事で本当に良かった」

 

 そうこうしている内に何処かから梯子を持ってきてくれたので、ヘリポートに立て掛けた梯子を降りて皆の元へと戻った。

 皆も吉井君と同じように僕のことを心配していて、鷹岡先生に勝ったことを喜んでくれる。正直ちょっと照れ臭いけどそれ以上に嬉しい。

 

「よくやってくれました、渚君。今回ばかりはどうなるかと思いましたが……怪我も軽そうで安心しました」

 

 殺せんせーも僕のことを褒めてくれた。先生にもどうなるか分からないって状況で自分でも上手く立ち回れたと思う。

 でもまだ深刻な問題が一つだけ残っている。

 

「……うん、僕は平気だけど……」

 

 僕は鷹岡先生から奪った三本の治療薬を取り出す。ほとんどの治療薬が爆破されたから皆への薬が全然足りない。仮に培養できるとしても一週間でどれだけ作れるのか……。

 鷹岡先生を倒せたとしても根本的な問題が解決できないんじゃ意味がない。その事実を前に皆も黙り込んでしまった。

 

「……とにかく此処を脱出する。ヘリを呼んだから君らは待機だ。俺が毒使いの男を連れてくる」

 

 

 

 

 

「フン、テメーらに薬なんぞ必要ねぇ」

 

 

 

 

 

 烏間先生がホテル内へ戻ろうとしたところで、屋上の入り口からそんな言葉が聞こえてきた。

 僕らは驚いてそちらへ振り向くと、そこにはホテル内で倒した三人の殺し屋達が揃っていた。しっかり拘束して人目のつかない場所へ押し込んでおいたのに、いったいどうやって拘束から逃れたんだ?

 そういった疑問はさて置き、僕らはすぐさま臨戦態勢を取っていつでも戦えるようにする。一人でも難敵なのに三人同時というのは……真正面から戦って何処までやれるか。

 

 僕らを庇うように先頭に立った烏間先生が三人の殺し屋と話をする。

 

「お前達の雇い主はすでに倒した。戦う理由はもう無いはずだ。これ以上互いに被害が出ることはやめにしないか?」

 

「ん、いーよ」

 

 ……え、いいの?

 拍子抜けする返答に僕らは揃って気が抜けてしまった。

 そんな僕らを余所に殺し屋達は話を続ける。

 

「“ボスの敵討ち”は俺らの契約にゃ含まれてねぇ。此処に来たのは()()を渡すためだ」

 

 銃使いの殺し屋がそう言うと、毒使いの殺し屋が何かの瓶をこちらへ投げ渡してきた。

 それを烏間先生が受け取って中身を確認する。

 

「これは……」

 

「栄養剤だよ。お前らに盛ったのは食中毒菌を改良したものだ。コイツを飲んで寝てれば倒れる前よりも元気になれるぜ」

 

 ……食中毒菌を改良したもの?ってことは……誰も死なないで済むの?

 彼らが言うには、交渉期限が一時間なのであれば殺すウィルスじゃなくても取引できる。だから三人で相談して別のウィルスを使用することにしたらしい。

 

 つまり最初から僕らを毒で殺すつもりはなかったってことだ。鷹岡先生に治療薬を爆破された今、もし本当に殺すウィルスを使われていたとしたら本気で危なかった。

 だけどその殺し屋達の行動に岡野さんが疑問の声を上げる。

 

「……でもそれって鷹岡(アイツ)の命令に逆らってたってことだよね。金もらってるのにそんなことしていいの?」

 

「アホか。プロが何でも金で動くと思ったら大間違いだ。カタギの中学生を大量に殺した実行犯になるか、命令違反がバレてプロとしての評価を落とすか。どちらのリスクが高いか秤に掛けただけだよ」

 

 と、そこで烏間先生の呼んだヘリが屋上のヘリポートに到着した。僕らが乗る分と鷹岡先生を乗せるための二機である。

 

「……信用するかは生徒達が回復したのを見てからだ。事情も聞くし、しばらく拘束させてもらうぞ」

 

 殺し屋達はその烏間先生の指示にも逆らうことなく、鷹岡先生を乗せたヘリへと大人しく乗り込んでいく。

 

「……なーんだ。リベンジマッチやらないんだ、おじさんぬ。俺のこと、殺したいほど恨んでないの?」

 

 素手の殺し屋がヘリへ乗り込もうとしたところで、カルマ君が挑発するように話しかけていた。わざわざそんな刺激するようなことしなくていいのになぁ。

 

「殺したいのは山々だが、俺は私怨で人を殺したことはないぬ」

 

 だけど素手の殺し屋はカルマ君の挑発には乗らず、軽く挑発を受け流すとカルマ君の頭に手を置いた。

 

「誰かがお前を殺す依頼を寄越す日を待つ。だから狙われるぐらいの人物になるぬ」

 

「そーいうこった、ガキ共。本気で殺しに来て欲しかったら偉くなれ。そん時ゃプロの殺し屋の本気の味(フルコース)を味合わせてやるよ」

 

 そう言い残すと殺し屋達はヘリに乗って去って行った。

 遠くなっていくヘリを眺めながら速水さんが言葉を溢す。

 

「……なんて言うか、あの三人には勝ったのに勝った気しないね」

 

「言い回しがずるいんだよ。まるで俺らがあやされてたみたいな感じで纏めやがった」

 

 彼らが見えなくなるまでヘリを見送った後で、僕らも残ったヘリに乗り込んで宿泊するホテルまで戻ることにした。命の心配がないとはいえ、苦しんでることに変わりはないから早く栄養剤を届けてあげないと。

 こうして僕らの大規模潜入ミッションはホテル側の誰一人気付かないまま完了した。

 

 

 

 

 

 

〜side 雄二〜

 

 あぁクソ、身体が怠いったらありゃしねぇ。

 

 他の奴らが発症した時は気怠いくらいだったが、今となっては動き回るだけでも億劫だ。

 念のためホテルへ向かうのは辞退したものの、これは着いて行かなくて正解だった。下手に途中で重症化してたら足手纏いになってただろう。

 

 しかしホテルに向かった奴らは上手くやってんのか?もう交渉期限の一時間は過ぎてんぞ。

 

「あの、坂本君……」

 

 潜入組の進捗状況を気にしていたところで、いつの間にか背後に居た奥田から声を掛けられた。

 作業しながら考え事をしてたとはいえ全く気配に気付けないとは……そろそろ本格的にヤバいかもしれねぇ。

 

「あぁ?何だ奥田、新しい氷嚢作ってたんじゃねぇのか」

 

「氷嚢はもう作り終えて皆さんに渡しました。それよりも坂本君、無理し過ぎです。絶対に発症してますよね?」

 

 まだ何とか普通に振る舞えてるとは思うんだが、やはり感染してることを気取られてたら発症してるのはバレるか。

 心配そうにしてる奥田に俺は至って平静を装ったまま答える。

 

「……無理でも動ければ問題ねぇ。緊急事態なんだ。少しでも動ける奴は手を貸すべきだろ」

 

「ですけど……」

 

「やることねぇならまた女子の汗を拭いてやれ。俺や竹林には出来ねぇからな」

 

 そう言いながら俺は絞り終えたタオルを奥田に押しつけた。それから何か言われる前にその場を後にする。

 今の俺達に出来るのは現状維持だけだ。竹林に多少の医療知識があったとしても、治療薬なしに治療するなんて無理がある。たとえ応急処置でウィルスの進行を遅らせたとしても、治療薬の奪取が叶わなかったら俺達は……。

 

 

 

 と、最悪の場合を想定していた時にその音は聞こえてきた。

 

 

 

「っ!ヘリの音……アイツらか!?」

 

 俺は急いでホテルを出るとヘリの音がする方向を見上げる。

 あれは……軍用機か?どうやら砂浜の方へ着陸するようだ。

 

「坂本君!」

 

「皆帰ってきたのか!?」

 

 遅れて奥田と竹林もホテルから出てきた。

 

「分からねぇ!とにかく砂浜へ向かうぞ!」

 

 このタイミングで軍用機のヘリが来る理由なんざ、治療薬の奪取に向かったアイツらに関係してるとしか考えられない。

 だが良い状況なのか悪い状況なのかは不明だ。全員無事なのかどうかも分からねぇ。もしかすると治療薬の奪取に失敗して打つ手なく帰ってきた可能性もある。

 幾つもの可能性を想定してヘリの元へと向かった俺達だったが、

 

 

 

「おーい!雄二!奥田さん!竹林君!」

 

 

 

 そんな馬鹿みたいに呑気そうな明久(馬鹿)の呼び声を聞いて、俺の考えていた可能性が杞憂であったことを悟った。

 ヘリのプロペラ音がうるさいため大声で明久と会話する。

 

「遅ぇぞ明久!治療薬はどうなった!」

 

「大丈夫だよ!そもそも皆に盛られた毒は死ぬような奴じゃないって!」

 

「あぁ?なんだよ、じゃあ毒で死ぬってのはハッタリ———」

 

 毒で死ぬことがないと分かって緊張の糸が切れた瞬間、俺は身体の力が抜けて砂浜に尻餅をついてしまった。

 あー、怠い身体に鞭打って砂浜まで走って大声出して……流石にガタが来たか。駄目だ、もう動きたくねぇ。

 

「ど、どうしたの雄二?……あ、もしかして安心して腰が抜けちゃった?まさか雄二がそんなに小心者だったなんて意外だよ」

 

 この馬鹿、全快したらぶっ殺してやる。

 

 

 

 

 

 

〜side 明久〜

 

 僕らは皆の待つホテルに戻ると、もう大丈夫なことを伝えて殺し屋からもらった栄養剤を飲ませてあげた。

 まだ皆しんどそうだったけど、殺し屋の言うことが本当ならこれで良くなるはずだ。一時はどうなることかと思ったけど、これで今回の騒動は無事に終わりである。

 

 治療薬を奪いに行った僕らは潜入の疲れで、毒を盛られた皆は体力を消耗していて騒動の後は泥のように眠ってしまった。

 そうして僕らが次に目覚めたのは二日目の夕方である。幾らなんでもちょっと寝過ぎたかもしれない。

 目が覚めた僕らは浜辺へと集まっていた。

 

「おはよー、元気になった?」

 

「おかげさまでね」

 

 日没前にはE組の全員が揃っており、昨日苦しんでいた皆も普段と変わらない様子だった。

 どうやらあの栄養剤は本当に効果抜群のようだ。僕も月末の仕送りがなくなった時期に欲しいくらいである。

 

「今あの中に殺せんせー居るの?」

 

 最後にやって来た岡野さんが浅瀬に建設中のものを見て確認する。

 そこには南の島のリゾート地には似つかわしくない巨大なコンクリート塊が積み上げられていた。

 

「うん。駄目元だけど、戻った時に殺せるようにガッチリ固めておくんだって。烏間先生が不眠不休で指揮を執ってる」

 

 その巨大なコンクリート塊の中、更に鉄板の箱の中へ対先生物質を敷き詰めた中に殺せんせーを閉じ込めている。先生の完全防御形態が二十四時間ほどで解除されるため、急ピッチで固める作業を進めているのだ。

 ……でも仮にこれで殺せんせーを殺せても僕らに賞金って支払われるんだろうか?最終的に殺したのは政府ってことになるけど……まぁコンクリート塊の作業費用を差し引かれるくらいは妥協しよう。

 

「改めて思うが本当に烏間先生は凄いのぅ。ワシらとホテルへ潜入して毒ガスも食らったというのに……全く疲れを見せておらん」

 

「…………人間を辞めてる」

 

 本当にどうやって訓練したらあそこまでの超人になれるのか。少なくとも烏間先生と同じ年齢の頃にあぁなれるとは到底思えない。

 

 そうして話しながら作業の様子を眺めていて、コンクリート塊が完成してあとは待つだけ———となったところで作ったばかりのコンクリート塊が弾け飛んだ。

 ってか今ので瓦礫が飛び散って危ないな。作業してた人とか怪我がなければいいけど。

 

「爆発したぞ!」

 

「殺れたか!?」

 

 遠くから見守っていた僕らも爆発に驚きながら事の成り行きを見届けていたが、

 

「……ありゃ失敗だな。爆発したってことはエネルギーの一部を爆散させて対先生物質を吹き飛ばしたってことだろ。殺せんせーもどっかその辺に———」

 

 

 

 

 

「———先生の不甲斐なさから苦労させてしまいました。ですが皆さん。敵と戦いウィルスと戦い、本当によく頑張りました!」

 

 

 

 

 

 ふと背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。

 反射的に聞こえてきた声の方へ振り返ると、そこには久しぶりに感じる元に戻った殺せんせーが何食わぬ顔で佇んでいた。

 

「おはようございます、殺せんせー。やっぱり先生は触手がなきゃね」

 

「はい、おはようございます。もう完全防御形態で動けないのは懲り懲りですね」

 

 普段マッハで動き回れる殺せんせーが身動き一つ取れないというのは、やっぱりもどかしいものがあったんだろう。

 もしかしたら先生の完全防御形態を見るのはこれが最初で最後になるのかもしれない。暗殺で追い詰めた記念に写メでも撮っといたら良かったな。

 

 こうして僕らの沖縄離島リゾート二泊三日の旅行は幕を閉じたのだった。




執筆再開に伴って更新速度を少しでも上げるため、今話から後書きの会話形式は廃止にしようと思います。
何か疑問や質問があれば感想とご一緒によろしくお願いします。

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