オーバーロード "Mondo Diverso Alla Tomba"   作:ごむまり

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02 - M & P

 

 

 ──はしゃぎすぎた。

 

 現在は円卓の間の片隅でタブラさんと並び正座中である。全身骨で疲れ知らず──つい先程のおいかけっこで判明した。アンデッド故なのだろう──なこちらはともかく、ぶよぶよとした身体を持つタブラさんはバランスを保つのに苦労している様だ。

 垂れ下がる触手でなんとか平行を計るその姿は、正直なところ笑ってしまいそうな程には滑稽と言えた。勿論笑うわけはないのだが。むしろ笑っている暇がないと言えるか。

 

「──という状況なんですよ。全くお二人共、判ってますか?」

 

 ぺしぺしと全身の蔓をしならせながら行われるぷにっと萌えさんの問い掛けには、二人して同じ様に頷き答える。仮にここで無駄口を叩いたりあまつさえ首を横に振ろうものならば、待ち受ける未来は真っ暗である。

 過去のPvPにおいてぷにっと萌えさん提案の作戦を故意に──出番が無くてつまらないからと──破って突撃した脳筋組(武・弐・鳥)が、ぷにっと萌えさん曰く()()を済ませた後では、一言一句従う程の忠実さを見せたと言えば判るだろうか?

 それ以降強襲役というほぼ捨て鉢にしか見えない役割を持たされた三人であったが、文句の一つも無かったのだから驚きの効果だと言えるのだろう。尤も詳細について聞いても、頑なに口を閉ざすばかりで判らなかったのだが。

 

『モモンガさん。優しいだけでは参謀にはなれません。如何に指示に従って貰えるか、心を込めてお願いする事が大切なんです』

 

 優しい笑み(エモート)を浮かべてそう言ったぷにっと萌えさんの姿が今、再び目の前に居る彼に重なって見える様であった。心なしか背筋が伸びてしまうのは致し方無いことだろう。

 

たかだか半時間放っておいたぐらいで怒らなくても。自分だけ遊べなかったからって拗ねちゃって────「すみませんタブラさん。よく聞こえませんでした」 うっひぇ!?」

 

 ……あーあ、墓穴掘った。タブラさんも黙ってれば良かったものを。

 そんな売られ行く子牛の目をしてもどうしようもありませんって。というか、人を巻き込もうとしないで下さいよ! 死なば諸共の精神は今要りませんから!

 ほらこっちじゃなくてあっち向いて下さい。しっしっ。

 

「……そういえばタブラさん、賭け分の取り立てがまだでしたよね?」

「いや、それは明日でも良いとぷにっと君もさっき──「さっき?」 は言って無かったかな~って……」

「私は少し()()が過ぎてしまったみたいでして、喉が渇いてしまったんです。生憎と頃合いの蜜は手持ちにありません。ああ、こんな時に高原産の美味しい蜜で喉を潤せれば……」

「要するに今すぐ賭け分の清算をしろと。しかし、私も手持ちには無いことは知ってるよね?」

「<転移門(ゲート)>使えますよね?」

「今から取りに行けと? それでも一番近くのマーカーから一時間は──」

()()()()一時間じゃありませんか。先程の見事な逃走劇で見せた飛行なら、もっと早くなるんじゃないですか?」

「……量は?」

「そうですねー……三食分で結構ですよ。急げば宴にも間に合うかもしれませんね」

「Aye,Sir! 全く回りくどいなぁ、もう! 半時間で済ませてやりますよ、チクショウ!」

 

 タブラさんは悪態を付きながらも見た目とは裏腹の素早い身のこなしで立ち上がり、そのまま円卓の間から転移して出ていった。

 ……空耳かもしれないが、えらい罵声の声がナザリックに轟いた様に思える。

 

 思わずハッとして前方に焦点を合わせればにこやかな、それはもうにこやかな表情のぷにっと萌えさんが立っていた。顔部分の蔓や葉がニコリと笑みの形となっているのだから間違いない。

 すわ雷かと身構えたのだが、

 

「ふぅ……モモンガさん、少し大切なお話をしましょうか。ああ、もう正座はいいですよ」

「え? あ、はい」

 

 拍子抜けする程のそよ風に暫し唖然と宙を見つめる事暫し。そんな俺の状態に気が付いたのか、彼は今度こそ苦笑混じりの笑みを溢してこう続けた。

 

「ふふっ……流石にさっきのは演技ですからね。私もそこまで子供ではありませんし? まぁ、二人して遊んでたのは若干苛つきましたけど……要するに予定通りの流れです」

「えぇぇぇー……。変に緊張したこっちの身にもなって下さいよ!」

「あはは、変わりませんねモモンガさんは。ですが話があるのは本当です……むしろ、こちらが本題と言えます」

 

 ぷにっと萌えさんはゆっくりとかつて自らが座っていた席に腰掛けると、懐かしむように机を撫で彼の言う本題を切り出した。

 

「──モモンガさん、単刀直入に伺います。貴方はかつての現実世界、此処ではない元の世界に帰りたいですか?」

「いいえ、帰りませんよ私は」

「おや、即答ですね」

「当然ですよ! 働いて寝るだけの生活よりもよっぽど充実しそうですし。何よりユグドラシルの延長な様な世界です。帰れたとしてもお断りします!」

 

 思わず帰らないとまで言い切ってしまった。

 いや、実際にリアルとこの世界を天秤に掛けたなら傾くのは今のこの世界だ。言った通り働いて寝るだけの生活で、唯一の楽しみがユグドラシルという具合。誰が望んでそんな生活に戻りたいと思うのか。

 確かに、これから過ごすにあたっての不安も無いとは言い難い。違和感すら感じないこの身体や、自らの意思で動き出したNPC達。更にはその者達から向けられる忠誠と、それにもし応えられなかったらという懸念。 

 だがそれは所詮不安でしかなく、不満しか持てない現実となんて比べる事さえ烏滸がましい。

 

「成る程ーそれなら一安心です。いやー、折角の生ナザリックですからね。少しは堪能してみたいじゃないですか。今すぐ帰る! なーんて言われなくて助かりました」

「あはは、それこそ私は駄々っ子じゃありませんよ」

 

 どこかおどけた仕草で肩を竦めるぷにっと萌えさんは薄く笑い声を上げながら席を立った。

 

「ふふっ、そうでしたね。モモンガさんは既に大人の階段を一つ登ったんでしたっけ? お赤飯でも用意させますか?」

「いやいや未遂で──って、なんで知ってるんですか!?」

「お二人が遊んでいる間にセバスやマーレから聞きましたので」

「うっわー、なんて言われてたのかめちゃくちゃ気になる。そのー……セバス達はなんと?」

「直接聞いてみればどうでしょう?」

「聞けませんよそんなこと! そもそもマーレに聞きに行ったら犯罪的な絵面過ぎますし」

「ニッチ過ぎて犬も食わないと思いますけど……あー、拾いそうな奴が何人かは居ましたね。まぁ、モモンガさんがそう易々と卒業するとは思ってませんから。しかも使用履歴ゼロでその姿(アンデッド)ですしね、大賢者の職を手に入れたら教えてくださいよ?」

「なっ!? ……そういうぷにっと萌えさんだって、蔓しか無いじゃないですか!」

「私はヤろうと思えば受粉できますし?」

「……へ?」

「──ま、それはともかく。折角なのでナザリックを少し見回ってみます。それではモモンガさん、また後程」

 

 一瞬白になった頭が正常に戻った時には、ぷにっと萌えさんの姿は扉の向こうへと消えていた。扉の隙間からはゆらゆらと振られた蔓の先が垣間見えている。

 

「受粉って……あの、おしべとめしべ、だよなぁ……。ここは敢えて触れるべきか? それとも一切話題に出さない様にするべきか?」

 

 一体何があればあんな平坦な声でこんな事実を伝えられるのだろうか? 軽く装って見せた様だが、あからさまに声の調子が普段とは違って思えたのだ。

 消え行く蔓を見送り少し変わってしまった風な友に対し、どう接するべきなのかをこんこんと考え込んでしまう。

 

 

 そして気が付いた時には案内のメイドから宴が始まる頃だと聞かされた。未だに答えは見つからず、もやもやとした気持ちを抱えながら歩を進めるのであった。

 

 

 

 

 ▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 洋風めいた意匠を施された部屋の中央。そこに置かれているのはおよそこの場にそぐわない見た目の事務机とパイプ椅子。胸中には懐かしさが沸き上がると共に、自身のなんてことのない癖を思い出しては小さく苦笑する。

 

「昔から何かを考え込む時には、こういう無機質な机が性に合ったんですよねー……いやはや、それにしても景観とか台無しだし。我ながら酷い内装だ事で」

 

 円卓の間を後にした私は、モモンガさんに伝えた事とは裏腹にかつて愛用していた自室へと真っ直ぐ向かった。道中でセバスへと<伝言(メッセージ)>を掛けた際に『準備が整い次第御迎えに上がります』との事であった為、判りやすい方が良いだろうと考えたからである。

 ──少し誤算があったのはナザリックのNPCの存在。それらの思考を甘く見積もり過ぎた様で、今回はメイド達が当然の様に部屋まで付いてきた。今は一人になりたいからと追い払ったものの、これからは色々苦労しそうだなぁとも思う。

 

 軽く内装を確認して簡素なパイプ椅子に腰掛けるとギシッと軋む音が鳴る。

 私は別段リアル思考では無かったので、こういった細かなギミックは付けていなかった筈……これも現実となった影響かなと一応メモに加えておくとしよう。

 

 

 視界を閉ざして深く、深く、息を吸う。勿論今の私では口らしき物があるだけで、実際は蔓や葉の表面で呼吸するばかりなのだけど。更に加えるならば全身から()()()訳でして、あくまでもこれは私という人格が持つイメージが、頭を切り替える為に必要な過程と言えよう。

 

「──────」

 

 さてとこれからの事を考えようか。

 彼にはああ言った問い掛けを投げたけども、私とて帰るつもりは更々ない──まぁ、()()()()と言った方が正しいのだろうけど。これが今の私達の現状であった。少なくとも私がなんとか知りえた情報の中での話だが。

 尤も百年をこちらで過ごした今となっては今更帰っても、という思いもあるわけですが。

 

 そもそも転移した要因が全く判らないときた。キーとなったのがユグドラシルの終了、という事は確実で間違いないのだろうけど。その他の手掛かりは無いに等しく、その上で今現在に至るまでの間に元の世界へと繋がる道を見付けたか、或いは方法を作った等という話は伝わっていない。

 

 しかしそれも過去五百年間は、という注釈が付く事を忘れてはいけない。これ以前では今ある魔法体系? や勢力図の頒布等も丸っきり違っていたらしい。

 この様な曖昧な表現に成らざるを得ないのは、世に伝わる八欲王伝説が原因……というかこいつらが元凶と言える。大戦の影響で資料も消え去り、叡知を持つ者も消え去り、最後には自らも消え去ったと言われる奴等ではある。

 果たしてそれは本当なのか? 情報の出所が彼の国という点でも怪しいけど……いや、これも一つの視点からしか見えていない訳だから鵜呑みにするとダメですね。

 もう少し探れる場所が増えたら良いんでしょうけども……。うむむ。

 

「──ふぅ。少し脱線気味かな?」

 

 うん。全てを知ろうと考察する癖は我ながら悪癖ですねー……まぁ、これが性分ですし。情報アドを得るためには必要な事なのですが。

 

 それはさておき、今後のナザリックの身の振り方も考えておかないと。余程が来なければ恐らくは大丈夫でしょうが……過去を紐解けば安泰とも言い難いのが現実。表に出ないだけで、私達の様な者が幾人かは居るのでしょうし。

 それにこの世界での勢力図も、どこか作為めいた感じがするんですよねぇ……あくまでもこれは予感がするだけで根拠も何もありませんが。

 

 うーん……やはり先を見据えるには必要な情報が足りません。モモンガさんにもお願いしなきゃいけないかなぁ。

 

 

 こうして一先ずの考えを纏めていれば、コンコンと控え目なノック音が静けさを破る。返事をすれば約束通り迎えの者が来ている様だった。

 

「──失礼致します。ぷにっと萌え様、宴の用意が整いましたので御案内させて頂きます」

「ん……了解」

 

 案内に従うままに九階層の廊下を歩けば目に写るはその絢爛さ。ふわふわな赤い絨毯に装飾が施された燭台、等間隔で顔を見せるシャンデリアと見れば見るほど豪華だなぁと思う。

 過去には「ちょっと拘りすぎでは?」と意見を述べた事があったけども。実際に使う身となれば凝り性のギルメンには感謝しないといけません。誰しもみすぼらしい小屋よりかは、豪華なお屋敷に住みたいと思うものですし。

 

 豪華と言えば金持ちの象徴とも言えるお手伝い──所謂執事やメイドが出てくるけども。ここナザリックでもそれは例外無く、一人一人に専属メイドが侍る事となっていた。

 尤も個人の希望(欲望)に応えていると何時まで経っても完成しない、ということで計画倒れとなったのだが。思い浮かべて欲しい、アインズ・ウール・ゴウンの我が強すぎるメンバー達を。それを×41(全員分)ともなれば収拾がつかなかった事はお判り頂けるだろう。

 

 その様な事情もあり、今も無駄な足音無く先を行くメイドは一部のメンバーが纏めて創った物となる。

 さすがに多すぎて、誰がどの娘をメインに創ったかまでは把握してないけどね。大方は造型(ク・ドゥ・グラース)外装(ホワイトブリム)AI(ヘロヘロ)で分担したとは話に聞いたけれど。

 

「そういえば、君の名前は聞いてなかったよね?」

「えっ……? あ、はい! ナザリック一般メイドが一人、シクススと申します。よ、宜しければお見知りおきを!」

「シクススか、よろしくー。……一般メイドといえば、あいつ(ホワイトブリム)が描いてた漫画の元ネタだっけな?」

「まんが、でしょうか?」

「ああ、漫画が判らないか……んー、コマ割りした絵に台詞がメインで描かれる本の事、ですね。ホワイトブリム(メイドバカ)が一般メイドを主役にした漫画を描いていたから、少し気になってね」

「ホ、ホワイトブリム様が私達をですかっ!?」

 

 余程驚いたのだろうか?

 先程までのメイドとは斯くやと言った振る舞いが抜け、彼女は目をキラキラと輝かせていた。興奮気味に尋ねる様は只の年頃の娘にも見える。

 

「一般メイドの一人を参考に描いていると言っていたから……あー、確か大図書館に何冊かあったような?」

「そそそれは真でしょうか!? あっ、いえ! 至高の御方であられるぷにっと萌え様の御言葉を疑っている、という訳では決して──」

「……うん。少し落ち着こうか」

 

 可笑しい。普通に話していた筈なのに、何故彼女は跪こうとするのか。日常会話をしていた相手が突如として平伏してくるとか理解不能過ぎます。もしやこれがモモンガさんの言っていた、ナザリックNPC特有の忠誠心というものでしょうか?

 あーうん。そんなに涙目になって心配そうに見詰めないでもいいから。別に怒ってないですし、「黒棺送りにはならないのでしょうか?」とかは要らない心配だからね。

 

「はいはい、判ったのなら早く元に戻る事。こっちの精神的な意味でも早くお願いします……それよりも、何故黒棺送りになると思ったんでしょうか? ああ、別に答えたからといって罰しませんし、本当の事をお願いします」

「じ、実は私の創造主たるホワイトブリム様が頻りに『ぷにっと萌えを怒らせると黒棺で缶詰』と仰られておりまして……てっきりそうなさるのかとばかり」

「ああ……成る程」

 

 ……あのメイドバカは一体何を吹き込んでるのでしょう。いやまあ、大方の想像は付きますけど。一時期は鬼軍曹呼ばわりされたものですし。その名を広めたであろう鳥頭(レイン)は絞りましたけど。

 しかしこれは困りました。ある意味で身から出た錆と言えなくもありませんけど、過度に畏怖の念を抱かれているとすれば接し方も考える必要がありますね。ナザリックの者達には主に諜報面で期待している部分もある訳で、正直言ってこの状態では宜しくない。

 とはいったものの、イメージというものは早々簡単に覆せるものではない。赤色は熱く青色は寒いと思うように、NPCからすれば私は鬼軍曹なのでしょう。けれど、手がない訳でもない。

 

「まあ、とりあえず事情は判りました。別段怒ってないからシクススも気にしないで良いからね? 後、他にもモモンガさんとタブラさんのイメージを教えて貰えますか?」

 

 要するに他のメンバーにぶん投げれば良い。適材適所という奴です。コミュニケーションを取るならば印象が良く、接しやすい者が一番な訳ですし。

 タブラさんはともかく、ギルド長で率先して皆の潤滑油となってくれたモモンガさんならばNPCからのウケも良い筈だろう。

 

「はい、まずはタブラ・スマラグディナ様ですが────で、────。そしてモモンガ様は────」

 

 

 

 

 ▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

「ああ……モモンガさんも、今から向かうところですか?」

 

 メイドに促されるままに廊下を歩く、そんな案内の道中で件の彼と鉢合わせた。ぼんやりと歩いていたせいかあまり周囲に目を向けていなかったので、声を掛けられてから初めて気付く始末である。

 改めて確認すればヴァイン・デス特有の形成された蔓が、心なしかふるりと震えた様に見えた。

 

 しかし、うん。どうしようか。

 こうもバッタリと鉢合わせするとは思ってもみなかった。つまり今俺の頭は真っ白で、折角考えていた当たり障りのない言葉(二十通り)が全て無駄になってしまっていた。

 

「えぇ、そんなところです。……それよりも、ぷにっと萌えさん」

「改まってどうかしましたか?モモンガさん」

「ぷにっと萌えさんにお似合いの女性(植物)、きっと見付かりますよ!」

 

 だから、ということでもないんだろうけど。思わずうっかりと発言してしまったのは不可抗力だったと言えるだろう。

 それにぽろりと零れた発言ではあったが肩(?)に手を添え、良い笑顔とサムズアップを加えられたおかげで印象は悪く無い筈である。

 

「──っ、ふっ、くくっ、モモン、ガさん? 私を笑い死に、ふふっ、させるつもりで、っ」

「え゙っ!? なんでそんな大笑いを……?」

「ぷっ、ふは。っこれ、が智謀の、王って──」

 

 ぷにっと萌えさんは何故かお腹を押さえる様にして笑い始めた。

 俺、何も変な事は言ってない……よな? もしかして種族特性で笑いのツボも変わったのか? 仮にそうだとすれば今までと同じ様に話すのは難しくなるな。

 色々と相談したい事も多いし、折角だからそこのところを詳しく聞いてみようか?

 

「すみませんが今後の為に、笑いのツボとか何が可笑しいのかを教えて貰えませんか?」

「──っ、──っ、も……やめ、っ」

 

 終いには床をたしたしと叩きながらその場に蹲るぷにっと萌えさんが居た。案内役を務めていたメイドの二人が慌てて駆け寄るも、どうすればいいのか判らず右往左往するばかりである。

 

「えー……」

 

 よく判らない内によく判らない事態となっていた。

 仕方がないのでぷにっと萌えさんの笑いが収まるのを待って──かれこれ十分間は笑いの波が引かなかった様だが──詳細を尋ねる事にした。

 その間悶え苦しむぷにっと萌えさんと、様子に気が付いて駆け寄るメイド達が焦る場面が続き、軽い混乱の波が九階層に拡がった事は言うまでもない。

 ちなみに返答はというと、

 

「──モモンガさん。それ割と本気で聞いてます? あーうん、もう良いです良いです。これ以上は私の腹筋が壊されそうですしー? それよりも私のせいで待たせちゃいましたから、さっさと向かいましょうか」

 

 何故だか呆れられた視線を向けられる羽目となった。

 やっぱりそっとしておいた方が良かったのだろうか? いやそれなら笑うよりも先に叱責が飛んで来そうだよなぁ……だとすれば何か見当違いでもしたのか? うーん、判らん。

 こういう時の機微に聡いのは主にやまいこさんや教授(死獣天朱雀)だったよなぁ。こんな事ならコツとか聞いておけばよかった。やっぱり指導する立場になると自然と身に付いていくのだろうか?

 

 指導といえばナザリックに属する者達の事もある。理由は結局判らないが、狂信的な忠誠心を持った彼ら彼女らを統率し率いていかなければならない。

 ……軍属でも無し、部下を持った経験すら無い平リーマンの俺がである。考えれば考えるだけ頭が……いや、無い筈の胃が痛くなってくるな。

 

「ぷにっと萌えさん」

「? はい、なんでしょうモモンガさん」

「アンデッドにも効く胃薬とかありませんかねー……」

「あー……うん。がんばー」

「えぇー……めちゃくちゃ他人事ですけど、そうも言ってられませんからね!」

「さて、どーでしょうかねぇ……ところで話は変わりますけど、セバス達は一体何処で開催するつもりなんでしょう?」

「あぁ、確かに私達の場合だと円卓の間で済ませちゃいますからねぇ。皆さん覚えてないかもしれませんけど、九階層にはパーティールームなる部屋がありまして──」

 

 左横を歩くぷにっと萌えさんはどうやら会場となる部屋に当てがない様だった。まぁ、九階層の娯楽室は制作者以外が知らない様なものばかりなので、仕方がないといえるが。

 按摩、フィットネス、バー等の実用的なものから釣り堀、レトロゲーム、()()()バンジー等の個人趣味全開の部屋、更には重力室、地中、工事現場等の用途不明なものまで盛り沢山なのだから。それをギルド長だからといって全て無理矢理体験させられたのは、良くも悪くもいい思い出である。

 

 そして今回の目的地はパーティールーム。呼んで字のごとくパーティー会場になるように設計された部屋である。尤もユグドラシルでは皆が集う関係上、円卓の間に役目を奪われていたと言える悲運な部屋だろう。

 ちなみに制作者はナザリックのお祭り男こと──自称だが──るし★ふぁーである。

 

 …………。

 

 あれ?

 物凄く嫌な予感がするんだけど。大丈夫……だよな?

 

「モモンガ様、ぷにっと萌え様。案内役の私共はこれにて失礼させて頂きます。改めまして御帰りなさいませぷにっと萌え様。──どうぞごゆるりと御寛ぎ下さいませ」

 

 俺の内心をよそにパーティールームへとついに案内され、恐る恐る周囲の様子を探るものの見た限りでは極々普通に見えた。幾つかの丸テーブルには料理が盛り付けられ、シャンパングラスの盆を持ったメイドが待機している。他にも娯楽室専門のNPCまで集っている様だ。

 部屋の中にはダーツやビリヤードが各所に備え付けられており、他より一段上がったステージにはカラオケ設備まである。

 

「──モモンガ様、ぷにっと萌え様が到着なされました。どうぞ盛大な拍手で御迎え致します」

 

 そしてそのステージ上には既にアルベドがスタンバっており、手に持つマイクで口上を述べている。

 

 途端に広がる強烈な拍手喝采に、どうしましょうと隣を歩くぷにっと萌えさんを窺えばその姿がどうも見えない。ぐるりと首を回して探してみれば素知らぬ顔をして料理に手をつけている彼が目に入った。

 

 ──いやいやいや、これ気にならないんですか!? ってか、うっわぁ……蔓の先から吸収されてる……掃除機っぽいなぁ。

 そんな俺の心の叫びが聞こえたのかぷにっと萌えさんはこちらに視線を向けると、恐らく今日会ってから一番の笑顔でこう告げたのだ。

 

「皆、快く迎えてくれてありがとう。モモンガさんから一言貰い、始まりの挨拶と致しましょうか!」

「え゙っ゙!?」

 

 突然の無茶ぶりであった。

 ぷにっと萌えさんの言葉にやおら高まる会場の熱気。期待溢れるNPC達とはある種別の意味を感じるアルベドからの視線。高みの見物とばかりのぷにっと萌えさん(元凶)と一心不乱にダーツに興じるタブラさん……というか帰ってたんですか!?

 

 もうなんか色々と混沌と化して昂る気持ちがアンデッド特有の沈静化で収まり、いっそのこと思うままにやろうと開き直る事とした。

 

 軽く片手を上げればざわついていた会場が沈黙で満たさ──いや、タブラさんはいつまでダーツやってるんですか!?

 仕方がなくヒュッ、トトトン、ヒュッ、トトトンと刻む音のみとなった頃に声を上げた。

 

「ご紹介に預かったモモンガだ。本来、私は迎える側である為に目立つ真似はしたくはなかったのだが……我が友の頼みとあらば致し方あるまい。──それでは皆、我が友ぷにっと萌えとタブラ・スマラグディナの帰還を祝し、ここにアインズ・ウール・ゴウン再始動を宣言する!」

「「「「アインズ・ウール・ゴウン万歳! 至高の御方、万歳!」」」」

 

 この万歳合唱は暫く止むことがなく、我に返った俺が目にしたのは呆れ顔のぷにっと萌えさんとハットトリックを決めているタブラさんの姿であった。

 

 

 

 ××××××××

 

 

 

 ちなみに余談ではあるが、後日アルベドから「お探しの薬が見当たらず……申し訳ございません。しかし胃薬を御所望とは、私ども僕が何か至高の御方の負担となっているという事でしょうか!? もし宜しければ理由を仰られて下さいませ。それが御無理との事でしたら、私を負担の捌け口に、是非……!」との報告と共に迫られる羽目となった。恐らくメイド達から会話が漏れたのだろうが、これからはNPCが控えている際は話の内容にも気を向けなければならないわけだ。色々と頭が痛い。

 更には丁度その場に居合わせた二人から冷やかされる事にもなって頭痛も倍増だ。尤も「勿論、御創造主様もぷにっと萌え様も御好きな様に……」と息も荒げに加えられた発言には、皆して口を閉ざす他なかったが。

 

 なんとかアルベドを下がらせ(撃退し)てから、その日はタブラさんを問い詰める事となったのは言うまでもない。

 

 

 

 





 ※パーティー後の料理は一般メイドが残らず美味しく頂きました。



 箸休め回でございました。
 個人的にぷにっと萌えさんが動かしづらいのです。
 ある時はNPCの特性をつぶさに考察し始め、ある時はモモンガ様にヤンデレ紛いの言動を取り、またある時は新興宗教の神となる。
 以上の事が巻き起こり色々と書き直しまくりでした(3敗)
 皆はプロットを『再開、パーティー』とかいう単語だけで作った気にならないように、気を付けよう!
 少し見直して、内容をちょろっと書き直すかもしれません……。


 雑オリ設定紹介


・ぷにっと萌え
 ┗未だに口調迷子な人。本作では諸葛亮孔明であると共にハートマン軍曹である。割と悪戯っぽい。誰でも楽々~はモモンガ様に一部伝授。得意な戦闘は集団戦(指揮)。戦闘時の役割はバッファー&解析。意外とバフのお陰で殴りに強い。余談ですが彼の推測が当たっているとは限りません。


 またまた最後となりますが、未だに三話目で過分なる評価の数々……ありがとうございます!
 これからも「あっ、更新してる!」ぐらいのお気持ちでお楽しみ下さいませ。
 
 

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