彼女のキャラが濃くなるのは、カズマがいるからだと思うので。
この異世界に転生し、クリスとのパーティを組んでからなんだかんだで一週間が経とうとしていた。
初日に行ったカエル討伐も、二日に一回のペースで行っている。
今でも複数対のカエルを相手取れないが、それでも一日で三体以上倒せるようになっていた。
これは転生の際に授けられた、“成長する才能”のおかげだろう。
本来、中級の冒険者が戦うような相手と対峙しているせいかレベルアップ速度も早い。
今ではもう、俺は七レベルになっていた。劣っていた体力や筋力のステータスも良い感じに成長していて、何より驚いたのがスキルポイントの量である。
クリスが驚いていたので、これは間違いなく異例なのだろう。
通常の二倍近く、俺はスキルポイントを獲得出来ているらしい。
おかげで、ランサースキルも結構覚えることが出来た。
「よっ、はっ! ズェアッ!!」
俺は今、住んでいる馬小屋から少し離れた広場で槍の素振りを行っている。
スキル『槍』のおかげで槍を使う際に補正が付き、槍捌きも初期に比べて大きく上達した。
あとは、素早さを上げてくれる『スピードアタッカー』のおかげで攻撃速度や体の動きも良くなっている。
他にも跳躍力をあげる『ジャンプ』や、槍を投げた際に攻撃力と命中率をあげる『投擲』など……ランサーとして、俺は順調に成長していた。
まぁ、まだジャイアントトード以外と戦ったことはないのだが。
アクセルはその名が示す通り、駆け出し冒険者の街だ。なので、初心者が戦うべきモンスターのほとんどは狩り尽くされてしまっているらしい。
しかし、では何故ジャイアントトードが中級者向けなのだろうかと考えた時にクリスから、
『ジャイアントトードは、打撃攻撃を軽減しちゃうんだよ。あの体が衝撃を吸収するからさ』
と言われて納得した。
打撃軽減というちょっとした対策が必要なモンスターともなれば、確かに初心者向けのモンスターではない。
格闘やメイスなど、刃物が着いていない攻撃に対してジャイアントトードは滅法強いのだ。パーティを組んで戦うことを推奨されるのも頷ける。
あと、実際に戦ってみてわかったことだが……あのカエルどもは何かと体力がある。分厚い脂肪のおかげで、少し槍で突き刺しても効果が薄いのだ。
勿論、頭や心臓を穿てれば話は別だけど。そういうことを上手くやるには、俺もまだまだ力が足りない。
なので、ジャイアントトードに対して俺が編み出した禁断の奥義がある。
それは、わざと舌に捕まって口に入る際に体内に直接、槍を突き刺すというものだ。
代償は、全身が粘液でぬめぬめのネバネバになることである。二度と使いたくはない。
「……さて、と」
素振りを終え、馬小屋の近くにある井戸から組み上げた水で汗を流す。
最初こそ馬糞の臭いや敷かれた藁がやけにチクチクとするので快適な生活とは程遠く感じていたが、住めば都という言葉が示す通り慣れてしまえばどうということもなかった。
だからと言って、ふかふかのベッドや清潔感のある部屋を諦めたわけではない。クリスへの借金もしっかりと返せているし、近い将来、宿屋への引越しも視野に入れている。
そのためにも、ジャイアントトードをしっかり一定量狩れるようになっておく必要がある。
命を担保に日当くらいにしかならないクエストでも、討伐数などで報酬の上積みが出来るのはそこそこな旨味だ。
調子に乗って足元をすくわれないよう、今は着実さを重視しているがその内複数に対して攻撃出来る手段も手に入れておきたいな……。
「良し」
体をタオルで拭き、乾かしていたワイシャツとジーンズに着替えて俺は出かける準備を整える。
一応、槍は装備しておこう。何かがあった時に対応出来るように。
今日はジャイアントトードを狩らない日、つまりは静養日であるがクリスからギルドの方へ来てくれと言われている。
なんでも、紹介したい友人が居るのだとか。
俺としては、この世界でクリス以外に友人と呼べる存在が居ないから彼女の申し出はありがたいとしかいいようがなかった。
空は快晴。雲ひとつない陽気に当てられながら、巾着のような財布をベルトに結んで馬小屋から出立した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆このすば!◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「お、来た来た。ダイナー、こっちこっち!」
ギルドに向かうまでの道のりも慣れてきたもので、問題なくたどり着いて中へと入ると奥の席から俺を呼ぶクリスの声がした。
その手にはクリムゾンビアがなみなみと注がれたジョッキが握られており、顔もほんのりと紅潮している。
こんな昼間っから酒を飲んでやがるぜ、あの盗賊美少女。
何故ギルドで酒を飲めるかと言えば、ここは酒場も兼業しているからだ。朝、昼、夜と食事処も兼ねていてそれもギルドの収益になるらしい。
「待たせたか? というか、昼間から酒飲むとか何してんのさ」
「いやー、昼間から飲むお酒は格別だよ? 最近はキミのおかげで楽に稼がせてもらってるしね」
俺のツッコミに、気をつけるような素振りもなしなクリスは笑顔を浮かべてジョッキをあおる。
そりゃあ、四~五人でパーティを組んで向かうジャイアントトード討伐に二人で行ってるから、単純に配当が多いし。
というか、俺の意向で若干クリスの方が取り分多くしているしね?
「おねえさーん! ジャイアントトードの唐揚げひとつくださーい!」
そんなことを考えている俺を尻目に、勢いよく手を上げたクリスが料理の注文を行う。
多分、昨日俺たちが倒したジャイアントトードの肉が使われているんだろうなー、なんて何となく思っていると。
クリスの隣に、鎧姿の女性が席に着いた。綺麗な金髪をアップに結ぶ、相当な美人さんだった。
「クリス、すまないな。少々手洗いが混んでいて」
「お、来たねダクネス。丁度良かった」
美人さんの名前はダクネスと言うらしい。彼女は何がだ、と言いたげに眉を
だが、すぐ俺がいることに気付いたようで顔を綻ばせた。
「ああ、彼がクリスの言っていた将来有望な冒険者か」
「そうそう」
「おい、クリス」
どういう伝え方をしているんだと、抗議の視線を送る。
何が将来有望な冒険者だ。俺など、まだまだ駆け出しのニュービーだぞ。
「実際、最近はジャイアントトードを一人で狩ってるようなものでしょ。そんなことが出来る新人なんて、よっぽど潜在能力の高い奴くらいだよ?」
「それは、クリスが万が一の時助けてくれるからであってだな。あのクエストに一人で行く気は、今のところないぞ?」
後ろに助けてくれる仲間がいるから、多少の無茶が出来るのだ。そうでなければ、万が一ジャイアントトードに捕食された時、消化される運命になってしまう。
あの舌での巻きつけは、単純な筋力で解くことが出来ないのだ。それは多分、あのカエルの肉質が関係しているのだろう。
「フフ、最近は珍しく臨時ではないパーティを組んでいると思ったが、随分と仲が良いのだな」
「まぁ、色々とあってね。……っと、きたきた」
出会い方から色々と特殊ではあるが、クリスと仲良く見えるなら嬉しいな、と心の中で呟く。
彼女はそんな俺の気持ちなどよそに、ウェイトレスが運んできた揚げたての唐揚げを頬張り始めていた。うまそうに食いますね、あーた。
「そうだ、自己紹介がまだだったな。私の名はダクネス。クルセイダーをしている。普段、クリスとはコンビを組んでいるんだ」
「あ、どうも。俺は東道大那って言います。ランサーやってます。よろしくお願いします、ダクネスさん」
唐揚げ美味そうだな、俺も頼もうかなと思っていたところにダクネスさんが自己紹介をしてくれた。
俺もそれに倣う形で返す。しかし、改めて見ても本当に美人さんだ。あの鎧の胸の膨らみを見るに……いや、やめておこう。これは本当に失礼になってしまう。
「敬語もさん付けも良い。見たところ、年齢は近そうだからな。ダイナと呼んでも?」
「ああ、良いよ。それじゃ、俺も遠慮なくダクネスって呼ばせてもらう」
どうやら歳が近いらしい。ということは、彼女の年齢は十八歳前後ということになる。
クルセイダーと言えば、聖なる力を扱える前衛系の上級職だ。その年齢で上級職につけるということは、よっぽど実力のある人なんだろう。
「しかし、先ほどクリスが言っていたことは本当か? 実質一人でジャイアントトードを狩っているなんて」
「まぁ、一応は。出来るだけ一体一で戦える状況にしてるからな。複数体出てきたら、真っ先に逃げてる。あ、すいません! ジャイアントトードの定食ひとつください!」
ダクネスの質問に、気恥ずかしさを覚えながら答える。ついでに、ウェイトレスさんに注文をしておく。
気恥ずかしさを覚えたのは、どこか羨望と感服するような目で見られていたからだ。
金髪碧眼の美人にそんな目線を向けられて、恥ずかしくならないわけがない。
「なるほどな。一体一なら何とかなると」
「それも逃げて、避けて、刺しての繰り返しだよ。誇れるような戦い方はしてないさ」
ようやくその繰り返す回数も減っては来ているが、カエル相手にはこの戦法が確実なのだ。時間が掛かるという難点を除けば、背に腹は変えられない。
命を賭けて金を稼ぐ以上、出来るだけ危険の少ない手段を選ぶ。そうでなければ、明日は来ないのだ。
「そう言えば、この間ダイナがやった事には肝を冷やしたよ。わざわざカエルの舌に捕まって、その勢いで体内に槍を突き刺すなんてさ」
「なんだと!?」
「……もう二度とやりません。あんなこと」
「そうなのか!?」
え、何。どこにそんな残念そうにする要素あるのダクネスさん。
「あー、それと! わざとあたしのところにジャイアントトードを誘導したことあったでしょ! あの時のこと、まだ謝ってもらってなかったよね!」
「謝ったよ!? 俺、あの日帰ってからクリスに夕飯奢ったよね!?」
「わざと、誘導だと……?」
いや、なんでそんな目を光らせていらっしゃるのですか、ダクネスさん。
「そうだっけ?」
「そうだよ。あ、もしかして俺からたかるつもりか!?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ。ごめんごめん」
あはは、と誤魔化すように笑って謝るクリスに俺は小さく嘆息を吐く。
酒を飲んでいるせいか、彼女は普段よりも口の調子が良いようだ。
そうこうしている内に、俺の頼んでいたジャイアントトードの定食が運ばれてくる。
どことなく日本のファミレスで出てくるような定食を思わせる、そんな見た目と品目の種類だった。
この世界には米がある。多分、味噌もある。日本人に馴染み深いものもある。
そう言えば女神が俺の他にも転生者がいるような口ぶりをしていたので、多分そういう人たちの影響なのかもしれない。
「……その、ダイナ。ジャイアントトードに食われたとき、どうだった?」
「どうだったって……。嫌なもんだったよ、粘液で体中がぬめぬめのネバネバになるわ、俺は頭から行ったから薄暗いけど体内が見えるわで」
「ぬめぬめ……ネバネバ……んんッ!」
いや、なんですかその反応。なんかすごい嫌な予感がしてきたんですけど。
「あー、気にしないで良いよダイナ。ダクネスのそれは病気みたいなものだから」
「……ああ、そういう」
「病気とはなんだクリス! 私がおかしいような言い方はやめてもらおう!」
いつの間にか注文していたらしい、追加のクリムゾンビアの入ったジョッキを握りながら言ったクリスの言葉に、何となく察しが着いた。
つまり、彼女はそういう人種なのだ。そういうことが好きな人種なのだ。
「まぁ、悪いことだとは思いませんが」
「ちょっと待てダイナ! なんで敬語を使う!」
「いや、ごめん。思わず」
頬を蒸気させているダクネスを見て、ああ、うん、そうなのねという気持ちになったからであって、別に距離をとりたいなとは思っていない。
本当だよ? 嘘じゃないよ?
「こんな人だけど、根はとっても善人だし防御力の高さはこのアクセルで一番だと思うから。ダイナもダクネスと組むことがあったら、よろしく頼むわね」
「それは別に構わないんだけど。ダクネスほどの人なら、普通アクセル以外の街で活躍するものじゃないのか?」
この質問は、本気で疑問だったから。
普通、中級から上級になるような冒険者はパーティを組んで、アクセルから他のギルドがある街に向かうものらしい。
だから、上級職のダクネスがこんな駆け出しの街で燻っているのは何かあるのだろうか、と考えたからだ。
別に趣味趣向であれこれという話ではない。まぁ、それでパーティが組めないとすれば話は別だが……そこを弁えないような人でもないのだろう。
それは、クリスとコンビを組んでいることが何よりの証拠だ。
「その……私は不器用なものでな。武器が敵に当てられないんだ」
「……スキルで補正が付くはずなのに?」
「ダクネスはね、スキルポイントを全部防御系につぎ込んでいるから」
クリスの言葉で、理由がわかった。
攻撃の当てられない前衛職。防御力しか取り柄のないクルセイダー。つまりは、そういうことなのだ。
「……ある意味、尊敬するわ」
「ンンッ!!」
身をよじるんじゃあないッ!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆このすば!◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
次の日。
今日もジャイアントトードの討伐をクリスと行う予定だったのだが、少し趣向を変えるという提案が彼女から出された。
その手には一枚の紙が握られていて、どうやら依頼書のようだ。
内容は、アクセル近郊にある『キールのダンジョン』という場所に新しく住み着いたモンスターの退治依頼。
報酬がカエルの間引きなんかよりも割高で、クリス曰くそろそろ俺もカエル以外のモンスターと戦った方が良いからということらしい。
確かに、カエルばかりと戦うのにも少し飽き始めていた頃だ。とは言え、ダンジョンということは狭い路地なんかでの戦いなんてのもありえる。
ランサーである俺は、戦い方を工夫する必要があるだろう。
つまりは、そういう経験を積ませてくれるらしい。複数のパーティで事に当たるというので、俺たちだけが戦うわけでもない。いざという時は、周りを頼りにするのも良いだろう。
そして、
「暗闇が深くなってきたな。注意しておけ、ダイナ。躓くかもしれない」
「あいよ、ダクネス。気をつける」
このダンジョンアタックに、ダクネスも着いて来てくれていた。
流石に二人組みでダンジョンに潜らせるわけにはいかないという、どこからか聞きつけてきたダクネスの申し出だった。
攻撃が当たらないとしても、彼女は上級職のクルセイダーだ。断る必要などないし、クリスも一緒に来てくれるなら歓迎すると言っていた。
今はランタンを持ったダクネスと、盗賊スキルが使えるクリスが前を歩き、その後ろを俺が歩くような陣形でダンジョン内を歩いている。
クリスは『暗視スキル』というので、暗闇のなかであってもダンジョンの構造が見えるらしい。便利なものだな、と少し羨ましく思う。
「……この先にモンスターが居る。二人共、戦闘準備」
クリスが小さくハンドサインで制止を促したあと、彼女の持つ敵感知スキルが反応したのかそう呟いた。
ダクネスが大剣を構え、俺も槍を短く握る。狭い通路で槍を振り回せば、壁にぶつけたり味方に当たったりと危ない状況を誘発しかねない。
今回は、
「他の冒険者は?」
小声でダクネスが問う。
「……他の場所で戦ってるみたい。どうやら、群れで住み着いてるようだね」
「群れ、ということはゴブリンか何かだろう。これなら、ダイナでも倒せるだろうな」
「俺でも、ねぇ」
ゴブリンということは、小人系のモンスターか。ダクネスが言うには俺でも倒せるらしいが、複数体居るのなら気合いは入れておいたほうが良さそうだ。
あくまで、俺がカエル相手にこれまでこなせていたのは一体一の状況に持ち込めていたからである。乱戦は初めてなのだ。
槍を握る力を、少し強める。壁役のダクネス、何度もダンジョン探索を行ってきているというクリス。本音は、二人の活躍に期待したいところだ。
「行くよ、二人共」
接敵するのだろう、真剣な声音でクリスが言って俺たちが頷く。
すると、小さな足音に紛れて金属が擦れるような音が聞こえて来た。
緑色の武器を持った小人の群れが、奥の方から歩いてきている。
あれがゴブリンか。おおよそ、俺の持っているイメージ通りの背格好みたいだ。
数はおよそ十匹前後か? 囲まれてリンチにされたらたまったものではない。
「かく乱は任せろ! デコイ!」
「潜伏……!」
真っ先に突っ込んでいったダクネスが、囮を作り出すスキルを発動させる。
ゴブリンはいきなり襲ってきたダクネスに驚いたのか、一歩遅れて武器を構え始めた。
その隙に、クリスが潜伏で気配を消す。後ろに回ってダガーでの奇襲を仕掛けるためである。
俺は二人が攻勢に出たのを確認して、突撃するための構えを取る。
「……
深く息を整えて、へその下あたりに力を込める。歯を噛み締め、槍を握る手に力を込める。
ジャイアントトードを倒せたんだ。仲間が居る状態で、負けるわけがない。
そう自分に言い聞かせて、勇気を振り絞る。
「行くぞ!」
俺は気合いと共にクラウチングスタートの態勢を取って、弾丸のように走り出す。
目標は通路脇に居るダクネスに驚いているゴブリン二体だ。『突撃スキル』によって強化され、速度が乗った攻撃ならば!
「チェイサー!」
掛け声を叫ぶと同時に、渾身の突きを放つ。するとゴブリンの体を二体同時に串刺しにすることに成功した。
何とも言えない呻き声と一緒に、ゴブリンの口から血液が吐き出される。
俺は手前側にあるゴブリンに足を掛けて槍を引き抜くと、そのまま槍を振って血糊を払った。
「よし、行ける!」
確信した。これくらいのモンスターならば、俺の攻撃でも十分に倒すことが出来る。
暗闇の中という不慣れな状況ではあるものの、ダクネスの腰に括りつけられたランタンが光源となってくれているので見えないわけじゃない。
あとはモンスターの放つ敵意や殺気を感じ取り、そこへと槍を向けるだけだ。
「ダクネス!」
「大丈夫だ、この程度の攻撃ならば!」
光源を持っているというのもあり、集中攻撃を受けているダクネスの援護に向かおうとした時、俺は驚くべき光景を目にした。
俺が倒したゴブリン、それ以外の奴らがダクネスに群がっていたのだ。
刃物や棍棒を持った小人の群れだが、その攻撃全てを彼女は受けきっている。
鎧で弾き、剣で受け流し、篭手で受け止め、ゴブリンの猛攻が意味をなしていないのではないかと思えるほどだった。
これが上級職、クルセイダーであるダクネスが誇る防御力。まるで攻撃が通らないことに驚いているのか、ゴブリン集団の手が徐々に弱まっていく。
「はい、一匹追加」
潜伏状態になっていたクリスが、奥側に居た後ずさっているゴブリンの首にダガーを突き刺して倒す。
鮮やかな手前だった。悲鳴をあげることなく、首から血を滴らせたゴブリンはゆっくりと肉塊へと成り下がった。
「さて、ちゃっちゃと終わらせるよ! ダクネス! ダイナ!」
「おう!」
「わかった!」
それからはまさに、一方的だった。俺の槍が貫き、クリスのダガーが着実に止めを刺し続け、反撃をダクネスが受け止める。
まぁ、ダクネスの大剣が当たることはなかったが、それはご愛嬌としよう。本当に当たらないのだから。
こうして、『キールのダンジョン』に住み着いたモンスター――ゴブリンたちはアクセルの冒険者たちによって駆除された。
ダンジョンというから宝物などあるのかとクリスに聞いたが、ここは初心者向けで既に探索し尽くされた場所らしい。
少し世知辛いな、などと思うが……俺の初めてのパーティ戦は、こうして無事に終了したのだった。