向日葵に憧れた海   作:縞野 いちご

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千歌ちゃん視点です。


#9 曜の願い

#13

 

 

 

 

 

 

 

 

曜『だぁぁぁぁい嫌い!!』

 

 

目をつむって叫んでいる曜ちゃんの顔がいつまでも頭から離れなかった。

 

どうしてこうなっちゃったんだろう…

 

 

 

 

 

果南「千歌っ!!」

 

 

果南ちゃんの声で私は目が覚めた。

 

千歌「かな……ちゃ……」

 

果南「千歌っ!」

 

ルビィ「千歌ちゃん!」

 

ダイヤ「千歌さん!」

 

 

目を開けると、私はAqoursのみんなに囲まれてベッドの上に寝ていた。

 

千歌「わ…ゴホッゴホッ!」

 

みんなに話しかけようとしたけど、喉がカラカラになっている感じがしてうまく喋れなかった。

 

善子「無理しないでいいわよ。」

 

善子ちゃんの瞳が優しくて、心のどこかで安心した自分がいた。

 

千歌「ううん。だい…じょぶだと思う。」

 

果南「バカチカ!」

 

千歌「!?」

 

果南「どれだけ悲しかったのかわかってるの!?」

 

果南ちゃんの眉が逆ハの字になっているのが見えた。タレ目で穏やかな顔をしている果南ちゃんからは想像できないほどの怒った顔だった。

 

 

ダイヤ「果南さん!千歌さんは今起きたばかりですよ…?」

 

果南「しょ、正直…、千歌がこんな状態じゃなきゃ、一発ひっぱたいてるよ…!」

 

ダイヤ「果南さんっ!!」

 

 

千歌「ダイヤさん。果南ちゃんの言う通りだよ。みんなにどれだけ悲しい思いをさせたのかはわかるから。」

 

ルビィ「それじゃあ、なんで…」

 

 

ルビィちゃんの声で部屋の中が静まり返る。病室の空調の音だけが延々と聞こえる。

 

 

その沈黙を破ったのは善子ちゃんだった。

 

善子「曜さんに会いに行ったんでしょ?」

 

花丸「よ、善子ちゃん……」

 

 

果南「だからこそ許さないっ!」

 

果南ちゃんが私の胸ぐらを掴んだ。ベッドに座っていた私の体は少し宙に浮いた。

 

 

ルビィ「ピギッ!」

 

ダイヤ「おやめなさいっ!!」

 

花丸「お、落ち着くずらっ!」

 

 

ダイヤ「第一、千歌さんが責められるのなら、貴女だって同じことをしたじゃありませんか!?」

 

 

同じこと?

果南ちゃんが……?

 

 

果南「確かに私も2人を追いかけるように海に飛び込んだよ…」

 

千歌「とび…こん…だ……!?」

 

 

私は衝撃と悲しさで胸が苦しくなった。頭が痛い。自分の呼吸が乱れていることも感じた。私のせいで果南ちゃんがそんな危ないことをしたのかと考えたら、恐ろしさで震えが止まらなかった。

 

 

果南「それで夢の中でね、曜と会ったんだよ。」

 

善子「っ。」

 

ダイヤ「夢の中…ですがね。」

 

 

夢……

 

 

 

 

曜『だぁぁぁぁい嫌い!!』

 

 

 

果南「…泣いてたんだ。曜が。」

 

 

泣いてたって…

 

 

果南「……曜はね、私と約束してくれたんだ。千歌を必ず帰すんだって。」

 

千歌「そんな…約束……」

 

知らない。勝手に決めないでよ…

 

 

果南「私は諦めてた…。千歌は曜のところに会いに行ったから、きっと帰ってくるつもりはないんだって。」

 

千歌「…そうだよ。」

 

花丸「そん…な…」

 

千歌「だから、みんなの前にいることがちっとも嬉しくないんだよ!!」

 

 

私が叫んだ声が部屋に響き渡る。

 

 

でも、それ以上の怒号が廊下から聞こえた。

 

 

 

鞠莉「ようが…曜がどんな気持ちだったのかわかって言ってる!?」

 

 

 

 

今まで部屋にいなかった鞠莉ちゃんが、ドアを開けてこちらに向かって叫んでいた。今までの誰よりも鋭くて突き刺さる視線だった。

 

 

 

 

鞠莉「どうしてっ……どうして……」

 

 

睨んでいた鞠莉ちゃんはすぐに膝から崩れ落ちてしまった。

 

その姿を見て、みんなの顔が俯いてしまった。ルビィちゃんと花丸ちゃんは目に涙を溜めているのが見えた。

 

 

 

鞠莉ちゃんの言葉、みんなの様子から私は嫌でもどんな状況かわかる。

 

 

 

 

千歌「連れてってよ……」

 

 

 

いやだ…

 

 

 

千歌「つれてってよぉ……」

 

 

 

そのあと私は頭の中がグチャグチャで考えたくもなくて、ただただ大きな声で泣き叫んだ。

 

 

ダイヤさんが状況を察してか、1年生の3人を連れて廊下に出て行った。ルビィちゃんや花丸ちゃんの泣きじゃくる声が廊下から響いてきて、罪悪感に苛まれる。

 

 

果南ちゃんと鞠莉ちゃんと私しか病室にはいなくなり、鞠莉ちゃんがさっきよりも近くに来て話しかけて来た。

 

 

鞠莉「…聞いて、ちかっち。」

 

何も聞くことなんて、ないよ。

 

 

鞠莉「曜はずっと悩んでいたの。」

 

 

キライな私と一緒だったからだよね。

 

 

 

鞠莉「どうすれば、ちかっちを支えてあげられるんだろう。どうすれば、ちかっちが輝けるんだろうって。」

 

 

なに…?

 

 

なに…それ……

 

 

 

果南「千歌が曜になんて言われたかはわからない。でもね、曜は千歌のことが一番大事だった。それは間違いないんだ。」

 

 

ウソだ…よ…

 

 

千歌「よーちゃんは…わたしのこと、大キライって言ってた。」

 

果南「曜……」

 

鞠莉「……。」

 

 

 

鞠莉ちゃんは黙って首を横に振った。

 

 

鞠莉「逆の立場で考えてみて。」

 

千歌「逆の立場って言われても…」

 

鞠莉「心のどこかでは自分が死ぬかもしれないとわかってて、その状況で自分の大好きな子がずっと一緒にいたいって言ってきたとしたら、ちかっちならどうする?」

 

千歌「私は一緒にいるよ。」

 

 

また鞠莉ちゃんの顔が険しくなった。

 

 

鞠莉「…もう一度冷静になって考えて。

自分と一緒ってことは、その大好きな相手も自分と一緒に死ぬのよ?」

 

 

ドクンッ

 

自分の瞳孔が開いた感じがした。

曜ちゃんを殺す?そんなことできるはずがない。

 

 

果南「鞠莉。もうそのことを言うのはやめてよ。」

 

鞠莉「ちかっち……わかって…」

 

 

 

曜ちゃんが私のことを本当に嫌いだったわけではないんだ。ちゃんと考えれば何回も「大好き」って言ってくれてたじゃん…

 

 

千歌「ねえ…。

曜ちゃんって今はどこにいるの。」

 

 

 

果南「今は会わな」

 

鞠莉「隣の部屋よ。」

 

果南「まりっ!!」

 

 

 

鞠莉「…ちかっち。ちゃんと曜に会ってきて。」

 

 

 

 

 

会いたい。その気持ちで私は歩いていった。点滴をつけたまま、フラフラと壁をつたって隣の部屋まで歩いていった。

さっきまでいたはずのダイヤさんたちは、廊下にはもういなかった。

 

歩くたびにヒタッ、ヒタッと履いているサンダルが音を立てる。その音しか聞こえてこないせいで、この世界にまるで私しかいないような感覚にさせる。

 

 

隣の部屋の前に着くと、そこは私が覚悟していたような場所ではなく、普通の病室の中にいるようだった。

 

本当に私のいた部屋と同じ感じ。

 

 

 

ノックもしないでドアを開けると、そこには椅子に座ったまま背中を向けた梨子ちゃんと

 

 

 

 

 

 

相変わらず機械につながれたままの曜ちゃんがベッドの上で寝ていた。

 

 

ゆっくりと振り向いた梨子ちゃんは私を見つめると、何も言わずに泣き始めた。

 

私には梨子ちゃんの気持ちがよくわからなかった。

 

 

 

梨子「ようちゃん……。」

 

お互いに黙っていると、しばらくして梨子ちゃんが曜ちゃんの名前を呼んだ。そして

 

梨子「ごめんね…。」

 

 

 

このタイミングで言った一言を聞いて、私は梨子ちゃんの気持ちがわかった気がした。

 

 

 

そして曜ちゃんの気持ちもなんとなくわかった気がした。

 

 

そのときだった。

 

自分の服のポケットに曜ちゃんに渡したはずの髪どめが入っていたのがわかった。

 

 

 

曜『その髪どめは、もっと千歌ちゃんと寄り添ってあげられる人が持つべきなんだよ。』

 

 

 

ねえ、よーちゃん…

 

 

 

千歌「りこちゃん。」

 

梨子「…ちか…ちゃん。」

 

 

 

 

よーちゃんは…

 

 

 

 

千歌「りこちゃんに渡さなきゃいけないものがあるんだ。」

 

梨子「わた…しに…?」

 

 

 

 

 

 

これで本当に幸せなの…?

 

 

 

 

千歌「っ。」ポロポロ

 

 

梨子「ち、ちかちゃん……」

 

 

 

曜『千歌ちゃん。

 

本当の本当はね…』

 

 

 

千歌「これを梨子ちゃんに…持っててほしい……」ポロポロ

 

梨子「っ!

 

 

だめだよ…ちかちゃん。」

 

 

 

曜『優しくて、勇気をくれる千歌ちゃんが』

 

 

 

 

千歌「これがよーちゃんのお願いでもあるの…。おねがい……」ポロポロ

 

梨子「うぅ……うぅっ。

ようちゃん……どうしてなの……」ポロポロ

 

 

 

 

 

 

 

曜『だぁぁい……すき………』

 

 

 

 

 

私と梨子ちゃんは曜ちゃんの前で泣き続けた。やるせない気持ちをどうすればいいかわからないまま泣き続けた。

 

結局、梨子ちゃんは髪どめを受け取らずに部屋から出ていってしまった。

 

 

 

 

千歌「よーちゃん。」

 

目の前の曜ちゃんはなぜかさっきよりも悲しそうな顔をしていた気がした。

 

曜ちゃんを笑わせたい。

 

それは前から変わらない。

 

 

 

だから

 

 

千歌「……わたし、また前を向くよ。」

 

 

 

 

ラブライブ!で優勝する。

私の輝きを探して、見つけて、精一杯やりきって…。

 

 

曜ちゃんに「やったね。」って言ってもらえるまで

 

 

千歌「泣かない。泣くもんか。」

 

 

 

 

 

やれることをやりきったら、今度こそ

 

 

 

 

 

 

 

大好きって伝えにいくよ。

 

 

 

 

 

 

 


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