#7
千歌ちゃん……
なんで…
曜「千歌ちゃん!!」
なんで私を追いかけてきたの…
果南ちゃんが黙っていた意味が本当なら、私は悔しさかない。
自分のせいで千歌ちゃんの輝きたい気持ちが消えてしまったのなら、私は最低な親友だ。
だから早く千歌ちゃんの目を覚まさなくちゃダメなんだ。
曜「千歌ちゃん…千歌ちゃん…」
私は暗くなりかけている海岸を走っている。沈んでいく夕日には背を向けて、私は必死に走っている。
曜「どこ…なの……」
ずっと走り続けられるはずもなく、私は膝に手を置いて立ち止まる。こうしている間にも千歌ちゃんや梨子ちゃんは……
私が震える膝を叩いて無理にでも走ろうと顔を上げたときだった。
曜「え?」
梨子「……曜ちゃん。」ギュッ
曜「り…こ…ちゃん……?」
後ろを振り向くと、そこには私に抱きついている梨子ちゃんがいた。
曜「梨子ちゃん?どうしてここに……」
どこかで会うかもしれないと思っていたけど、まさか梨子ちゃんの方から私を見つけてくるとは思わなかった。
梨子「会いに来たんだよ。」
曜「私に?」
梨子「うん。」
曜「どうやって?」
梨子「それは内緒。」
何をしたのかはわからない。でも間違いなく梨子ちゃんは危険なことをしたからここにいる。
曜「帰ろう。ここは梨子ちゃんが来る場所じゃないよ。」
梨子「……。」
梨子ちゃんは口をキュッと結んで一文字にさせた。
曜「こんなことしても、誰も喜ばないよ。」
梨子「そんなことない。」
私の言葉に食ってかかるように梨子ちゃんは目尻を上げて言った。
曜「そんなことあるよ。」
梨子「私じゃなくて、曜ちゃんがいればいいの!」
本当にそんな気持ちでここに来たの?
曜「それ、本気で言ってるの?」
梨子「本気だよ。」
梨子ちゃんに対して、今までのベクトルとは違う意味で怒りの沸点が最高潮にまで達した。
曜「ねえ、一発殴ってもいい?」
梨子「!?」
梨子ちゃんの驚いた表情が目に入って、私は肩に入れた力を抜いた。
曜「……しないけどね。」
梨子「……。」
私の顔を見て梨子ちゃんは何も言えなくなっていた。冷静を取り戻そうと私は梨子ちゃんに話しかけようと思った。
曜「ねえ、梨子ちゃん。
梨子ちゃんの思いやりのあるところ、私は大好きだよ。」
梨子「……。」
曜「でもね、今回の梨子ちゃんの行動は思いやりとか、優しさとかじゃないよ。梨子ちゃん自身がこれ以上傷つくのが怖いって思ってるだけなんだよ。」
梨子ちゃんの表情がハッとする。
梨子「そ、そんなつもりじゃ!」
曜「それより、他にやらなければいけないことがあるはずだよ。」
私は少し間を開けた。梨子ちゃんが私の方を向く。
曜「今、梨子ちゃんまでいなくなったら、一人ぼっちになっちゃうよ。」
梨子「ひとり…ぼっち…。」
曜「…千歌ちゃんを一人ぼっちにさせるつもりなの?」
梨子「あっ……」
曜「千歌ちゃん、いきなり友達を二人も失ったらどうなっちゃうと思う?」
梨子「…二人も失うなんてはずないよ。だって私は…私は、曜ちゃんのためにここに来たの。私が代わりになれば、曜ちゃんが生きられるんだよ!?」
パシンッ!!
私の右手は梨子ちゃんの左頬を叩いていた。何が起きたのか自分でもわからない。
叩いた?私が?やっぱり梨子ちゃんを傷つけることは平気だってことなの?
曜「っ!梨子ちゃんを……
ごめんね、痛かったよね。」
梨子「……。」
曜「ごめんね……」
唇を噛む梨子ちゃんの表情を見て、私は梨子ちゃんに謝ることしかできなくなってしまった。
曜「…ごめんっ……」
私は顔を上げられなかった。
危ない思いをして梨子ちゃんはここまで来てくれたのに、私がしたことは梨子ちゃんを悲しくさせることだけなんて最低すぎる。
梨子「私ね、曜ちゃんが眠ってから、ある夢をよく見るようになったんだ。
それはずっと曜ちゃんが謝ってる夢。でも、あれは私の夢だから私の想像したことなんだって思ってた。」
そこまで言い終わると、梨子ちゃんは私の近くに来た。
梨子「でも夢じゃなかったんだよ。ずっとみんなに謝ってたんだよ…ね?」
私は確かにみんなに謝っていた。でも、それは直接みんなに言うことはできなかった。それは謝ったって言えない。
だから私は梨子ちゃんの問いに何も答えられなかった。
梨子「つらいよ。」
つらいよ……」
梨子ちゃんが考えていることがイマイチ私にはわからなかった。
どうして梨子ちゃんが泣くの?私が本当に苦しかったかどうかなんてわからないのに、なんで辛いって思えるの…?
梨子「そんなのつらいよ!
なんで?なんでよ!?なんで曜ちゃんばかりこんな……こんな……ひどいおもいを……」ポロポロ
そっか…私が辛そうに見えたからなんだね。
曜「おはよーそろー。」
梨子「……。」
私は梨子ちゃんに抱きつく。
曜「おはヨーソロー。」
目に涙を浮かべた梨子ちゃんの視線に疑問符がついていた。
曜「おはヨーソロー!」ニコッ
梨子「どうして曜ちゃんは笑っていられるの?」
どうして、か……
曜「梨子ちゃんにも笑ってほしいからかな。」
梨子「私が笑ったって、曜ちゃんは戻ってこられないんだよ……」
そんなことわかってるよ。
だからこそ梨子ちゃんには
曜「それと…私にはできなかったけど、梨子ちゃんには千歌ちゃんを元気づけてあげさせられるから。」
梨子「そんなこと……無理だよ。」
曜「じゃあ…やめる?」
梨子「……。」
私特有の千歌ちゃんを奮起させるための魔法の言葉。梨子ちゃんにも効いてっ!
梨子「……やめない。」
効いた…?
梨子「私は千歌ちゃんを元気にさせる。」
曜「…ありがとう。」
私のおまじないは千歌ちゃん以外にも効果があった。梨子ちゃんにもちゃんと通じて、私はホッと胸をなでおろす。
梨子「だから」
ん?
梨子「どこにも行かないで。」
抱きついていた私は梨子ちゃんに抱きつき返される形になった。
梨子「一人ぼっちでどこかに行ったりしないでよ!」
曜「……。」
どこにも行かないで…かぁ。
曜「そのために、おはヨーソローの呪文があるんだよ。」
梨子「え?」
曜「だって、梨子ちゃんがそう言ってくれるだけで、梨子ちゃんの中には渡辺曜が残るでしょ?そうしたら、私は一人ぼっちじゃないから。」
梨子ちゃんと目を合わせて私は笑った。
曜「大好きだよ…。」
梨子「!!」
梨子ちゃんの顔が驚きに変わったのが見えた。
ちゃんと伝えられた。
曜「よしっ。
梨子ちゃんと千歌ちゃんの明るい未来へ!フルアヘッツ!」ガシッ
梨子「うわっ!?」クルッ
私は梨子ちゃんを後ろ向きにした。
曜「全速前進っ!」
私の行動の意味に気づいた梨子ちゃんが必死に抵抗しようとしていた。
梨子「そんなお別れっ…!」
私は決めた。
梨子ちゃんに私の想いを託すって。
曜「…バイバイ。」
これで最後だよ。
曜「頑張ってね。」
梨子「いやあぁぁっ!!」
私は思いっきり梨子ちゃんを海の方へと押した。そして梨子ちゃんはバランスを崩しながら海の中へと放り込まれた。
その時の梨子ちゃんの表情は悔恨、懺悔、色々な悔しさが溢れ出していた。
結局、私は最後まで梨子ちゃんに酷いことをし続けてしまったんだと思う。
曜「……。」
私のおはヨーソローのおまじないは、彼女にとってはきっと私の呪いの呪文だと思われてしまう。
きっと梨子ちゃんにとって、思い出すのが辛い存在だとずっと思われるんだ。
曜「っ。」ポロポロ
涙が止まらない。
嫌だ。大好きだったのに。
私は梨子ちゃんのこと、本当に大好きだったのに。
曜「…どう…して…かなぁ……」ポロポロ
私は梨子ちゃんといれば、きっとまた傷つける。また無理をさせる。
そんなの嫌だ。なら私はどうするべきなの?
曜「決まってる…よね。」
鞠莉ちゃん、果南ちゃん
ごめん。
曜「…千歌ちゃん待っててね。」