向日葵に憧れた海   作:縞野 いちご

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#6 松浦 果南

 

 

鞠莉ちゃんと別れてから私はすぐに果南ちゃん探しを始めた。

 

曜「果南ちゃん…果南ちゃん…!」

 

早く探さないと、鞠莉ちゃんとの約束が守れない。

 

曜「お願いだから…。」

 

 

 

果南ちゃん。

 

昔からの友達であり、お姉ちゃんがいない私にとっては唯一のお姉ちゃん。

 

かっこよくて頼りになって、でも可愛いところもあって、ずっと憧れだった。

 

でも

 

曜「果南ちゃん……」

 

目の前の果南ちゃんは生気のないような目でただ海を眺めているだけだった。

 

果南「やっぱり。」

 

曜「え?」

 

果南「ちゃんと会えたじゃん。」

 

果南ちゃんは何を言っているんだろう。

 

果南「鞠莉が言ってたんだ。『そんなことしても、曜と千歌には会えない。』って。」

 

曜「鞠莉ちゃんの言ってることは間違ってないよ。」

 

果南「合ってるか間違ってるかはどうでもいいよ。とにかく私は曜に会えればよかった。」

 

この果南ちゃんからは今までのみんなの中でも壊れてしまってることが伝わってくる。

 

曜「私は果南ちゃんが見てる幻想に過ぎないかもしれないのに?」

 

果南「幻想?」

 

曜「そうだよ。果南ちゃんの目の前にいる私は果南ちゃんが想像した『渡辺曜』なだけかもしれないってこと。」

 

私は何を言っているんだろう?こんなことを言って、私は果南ちゃんに何を伝えたいの?

 

果南「ははは…。じゃあ、今見えてる曜は私が勝手に作ったかもってことか。」

 

曜「かも、だけどね。」

 

項垂れる果南ちゃんは見るに耐えかねる姿だった。果南ちゃんにはなんとか元の世界に帰ってもらわないといけない。そのためには元気づけさせてあげる何かを言わないと……

 

 

果南「どうして私は曜のことを考えてあげられなかったんだろう……」

 

曜「果南ちゃんは別に考えてなかったわけじゃ…」

 

果南「考えてたら曜が危ないことするのだってわかったはずだよ!」

 

曜「そんなことは…」

 

果南「止められたんだ。

止められるのは私だったんだ……」

 

曜「果南ちゃん……」

 

果南「ごめん……

こんな幼馴染でごめん……」

 

曜「私は……」

 

ここで言葉が詰まってしまった。

何を言ってあげればいいかわからなかった。

 

果南「いいよ。言わなくてもわかってる。

曜のことだから、私は鞠莉たちのところに帰れって言うんでしょ?」

 

目尻に涙が溜まった瞳は私の心を捉えていた。そのことに私は動揺が隠せなくて、ドキッとした顔になる。

 

果南「……帰る。帰るよ。

曜の考えてる通りだよ。きっと。」

 

曜「私が何を考えてるかわかるの?」

 

果南「何年幼馴染をやってると思う?」

 

段々と語気や口調が柔らかくなっていくのがわかった。果南ちゃん自身で落ち着いてきてるんだ。

 

果南「こんなことしたって、って鞠莉が言う気持ちもわかる。曜のみんなを傷つけるって気持ちもわかる。でもさ」

 

自然と果南ちゃんの腕は私を包み込んでいた。

 

果南「私も辛かったんだ…。」

 

曜「……。」

 

こんなに果南ちゃんの辛い気持ちが伝わってくるハグは今までになかった。なんでだろ…。辛い。本当に辛い。

 

果南「曜が一番辛いのはわかってる。

なのに、そこに甘えるなんてわた」

 

曜「ありがとう。」

 

果南「え…」

 

私は果南ちゃんへの言葉が見つからなかった。その中で見つけた簡単な言葉。

 

ありがとう。

 

曜「やっぱり落ち着くなぁ。果南ちゃんのハグは。いつぶりくらいかな?中学生の時とかしてもらったっけ?」

 

果南「…嬉しいの?私にハグされるのが。」

 

曜「果南ちゃんだからね!」

 

果南ちゃんの暖かい熱が感じられる。私が果南ちゃんを元気にさせる。その想いが伝わったのかもしれない。

 

果南「もしさ、私が鞠莉やダイヤだったら、曜や千歌の気持ちに気づいてあげられたのかなって考えると苦しくなるんだ。」

 

曜「果南ちゃんじゃなかったら、そもそも学年も違うのにこんなに仲良くなかったって。」

 

果南「そう…かな。」

 

曜「そうだよ。」

 

私が笑顔でそう言うと

 

果南「曜は本当に優しいね。」

 

果南ちゃんも優しく微笑んだ。

 

果南「だからこそ悔しいんだ。もっとなんとかなったはずなんだって。」

 

曜「それは言いっこなしだよ。そんなこと言い始めたら、私の方が何回どうにかなったことがあったのか……」

 

果南「そうだね。」

 

曜「だから果南ちゃんは見守っていてほしい。私は全速前進って決めたら前しか見れなくなるから、道を踏みはずしちゃうんだけど、それじゃあダメなんだよ。それじゃきっとみんなと笑って一緒にいれない。」

 

果南「今までは飛び込みだったからね。個人競技だし、チームワークはあまり関係なかったかもしれない。」

 

曜「だから私は果南ちゃんが必要だし、向こうで待っていてほしい。」

 

私が懇願し続けたのが果南ちゃんには効いたみたいで、ただ一言

 

果南「わかった。」

 

と呟いて海に向かって歩いていった。

 

やるべきことを果たしたと肩の荷が下りたと思った矢先、肩を掴まれた。このタイミングで肩を掴める人なんて1人しかいない。

 

曜「さっき果南ちゃん言ったよね…。帰るって。」

 

果南「千歌…。」

 

 

ドクンッ

 

 

果南ちゃんから千歌ちゃんの名前を聞いただけで、吐き気すら感じるほどの胸が鳴った。

 

果南「千歌に会った?」

 

曜「会ってないよ。」

 

果南「……ここにいない?」

 

果南ちゃんは察してるんだ。ここがどういう場所なのか。

 

曜「ねえ。果南ちゃんは千歌ちゃんがどうなったか知ってるの?」

 

果南「……。」

 

果南ちゃんは何も話さない。それが私の不安を余計に煽る。

 

曜「何があったの?症状は…」

 

果南「千歌は砂浜で見つかった。」

 

曜「すなはま?」

 

果南「曜が眠っていた場所だよ。」

 

曜「……。」

 

よりによって、同じ場所でなんて……

 

果南「……でも曜のときと違ってさ、すごい幸せそうな顔をして眠ってたんだ。」

 

曜「幸せ?」

 

なんで……

 

果南「曜に会える。そう思ったからだと思う。」

 

どうして……そんなことを……

 

曜「千歌ちゃんは眠ってるだけ?」

 

果南「……。」

 

果南ちゃんの無言がすべての答えを教えてくれた。

 

 

そのとき、私は壊れそうになるくらい感情がメチャクチャになった。

 

曜「…ふぅ……ふぅ……。」

 

今までのみんなが壊れてしまったのが理解できる。こんなことになって耐えられる方が異常だ。

 

 

果南「千歌を守れなくて…本当にごめん。」

 

曜「…まだ、だよ。」

 

 

でも

 

果南「え?」

 

 

曜「まだ、ここで諦めちゃいけないんだよ!」

 

 

私は諦めたくない。一度壊してしまったみんなの気持ちを私は立ち直させなければいけない。

 

果南「曜…。でも…」

 

曜「なんとかする!私が!

私がなんとかする!やれるかどうかじゃないんだってわかる。やらなきゃいけないんだよ!」

 

私は果南ちゃんの目を見てはっきりと言った。

私が挫けたら、ここで終わっちゃう。

みんなには笑っていてほしい。

 

果南「っ。

……信じるよ。」

 

そう言って今度こそ果南ちゃんは海の中に消えていった。

海岸は果南ちゃんに会う前と同じように静まり返っていた。

 

 

曜「うぅぅ……ううああぁぁぁ!」ポロポロ

 

千歌ちゃんやAqoursのみんなをめちゃくちゃにして、泣いていいわけがない。そんなことわかってても涙が止まらなかった。

 

 

曜「ごめんね……ごめん…ちかちゃん…」

 

 

私の涙が収まった頃には、私がここに訪れて初めての夕日を見た。

今までずっとお昼だったのが夜になろうとしてる。それが何を表しているのかということを私はうっすらと感じていた。


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