誰にも会いたくなかった
会えば絶対にその人を傷つけるから
なのに
「そこにいたのですね。」
どうしてみんな私の前に現れるの?
曜「……。」
ダイヤ「必ず会えると思っていましたわ、曜さん。」
今の私はダイヤさんから見てどんな顔をしているんだろう。
嫌そうな顔をしているのか、それとも安心した顔をしているのか。
ダイヤ「ずっと…こんな場所にいたのですか?」
曜「……。」
何か喋らなきゃ、とは思っても言葉が前に出て行かない。参ってしまった。さっきの花丸ちゃんとのやりとりでここまでになるなんて思ってなかった。
ダイヤ「ルビィが言っていたんです。会いたいと思えば、曜さんに会えると。このような場所にたどり着けると。」
ここへ来れたのはルビィちゃんと一緒の理由みたいで安心した。
危ないことをしてなくてよかった。
ダイヤ「曜さんは言っていましたわ。『頼れる先輩で私のことを考えてくれていて、優しくて大好きでした。Aqoursのことになるといつも真剣で、大変なことはみんなのために背負ってくれて、感謝しています。本当にありがとうございます。』でしたね?」
私の送ったビデオレターの言葉。
ダイヤさんは覚えてくれていたんだ。
ダイヤ「私は本当に頼れる先輩だったのでしょうか?」
あ……。
まただ……
ダイヤ「後輩が苦しんでいるのに、ちゃんと向き合ってあげなかった私が、本当に頼れる先輩だったのでしょうか
?」
どんどんと歪んでいくダイヤさんの表情を見るのが辛くて、私は顔を背けてしまう。「当たり前じゃないですか。」とか「ダイヤさんが居てくれたからAqoursはあるんですよ。」って言いたいのに言葉が出せない。
ダイヤ「今の曜さんの沈黙が『答え』のようですね。」
今のやたら含みのある言い方。嫌な予感しかしない。
すると、ダイヤさんは今までの一年生とは違って、私に背を向けて何も言わずに歩いていってしまった。
曜「ダイヤさん……。」
私はようやく声が出た。でも、すでにその時にはダイヤさんの姿は私の前にはなかった。
このままでいいのだろうか。
これが最後なのかもしれないと考えたら、私はこのままでいいはずがないと思った。
追いかけなきゃ。
私はダイヤさんが歩いた方に走った。体力自慢なはずなのに、なぜか息が切れる感じがした。視界が霞んでいく。
曜「ダイヤ…さん…。」ジワッ
泣いてる。また泣いてる。枯れたと思ったらまた溢れてくる。
このまま誤解されたままお別れしたくない。きっとダイヤさんは私のせいで傷ついた。私は無言というナイフで、無防備なダイヤさんを刺したんだ。
鞠莉『ダイヤは曜が大好きってことよ。』
私は……私はっ
「っく……ひっく……」
泣いてる声、ルビィちゃんの声…?
違う…!
ダイヤ「……。」
ダイヤさんの泣いてるところを初めて見た。この姿を見ると、やっぱり姉妹なんだと感じてしまう。そしてそれが私の胸に深く突き刺さっていく。
曜「ダイヤさん。」
ダイヤ「っ!?」
曜「ごめんなさい。」
ダイヤ「な、なにを言って…」
曜「私、ダイヤさんのことを本当に頼りにしていました。」
ダイヤ「私が泣いていることに同情をして、無理に言わなくていいのですよ。」
曜「ダイヤお姉ちゃん!」
ダイヤさんの目が大きく開いた。
ダイヤ「お…ねえ……ちゃん?」
曜「本当だったら、もっといっぱい甘えたかったよ。」
私は表情を緩めて言った。
ダイヤ「私は曜さんにお姉ちゃんと呼んでもらえる資格はありま」
曜「あるよ!」
ダイヤ「曜さん……」
曜「私が辛かったときに、助けてくれようとしてた。」
ダイヤ「しかし私はあなたに黙って話し合いをしてしまったのです。」
曜「知っています。そしてその理由もわかってるつもりです。
それでも……いや、だからこそ尊敬できるんです。」
ダイヤさんの表情が変わっていくのがわかる。なんとしても誤解を解きたいって気持ちが伝わっているのかもしれない。
ダイヤ「尊敬できるところなどあるはずが…」
曜「だって、私が苦しんでることに気づいたって、誰かに任せれば良かったのに、わざわざ泥仕事をしたんだよ?」
ダイヤ「それは!」
曜「私に恨まれるかもしれないのに。」
一つトーンを下げて言った私の言葉は、何か言おうとしているダイヤさんに重く響いた。
ダイヤ「曜さんは今でも私のことを恨んでいますか?」
曜「そんなわけないよ。ダイヤさんが嫌いだなんて思ってない。」
私がそう言い切ると、ダイヤさんは涙の溜まっていたダムを決壊させた。
曜「今までダイヤさんを追い詰めてごめんなさい。」
ダイヤ「こちらの方が謝りたいのに、涙が止まらないんです。良かったと安心してしまって……」
曜「良いんですよ。心配なんかしなくて。ダイヤさんを恨むことなんて何もないですから。」
そう。ダイヤさんを恨むのはおかしい。だって間違っていたのは自分なんだから。花丸ちゃんも梨子ちゃんも、私が憎かったわけじゃないんだ。
ダイヤ「突然ですが、わがままを言ってもいいですか?」
曜「どんなこと?」
ダイヤ「少し目を閉じたくなってしまって…。安心したら少し眠たくなってしまいました。」
ダイヤさんっぽくないあどけない表情は、本当に安心したことを表していた。
曜「いいよ。ゆっくり眠ってね。」
そしてこれはきっとお別れの合図。
ダイヤ「それでは申し訳ありませんが、少しお暇させていただきます……」
ダイヤさんは私の膝の上で横になった。スゥスゥと息を立てるダイヤさんはいつもと違って可愛らしかった。
曜「本当に姉妹なんだね。」
しばらくして私はダイヤさんを抱えて海岸に出て、海の中にできた渦を見つけると、そこにダイヤさんをそっと沈めた。
ダイヤさんはきっと救われたと思う。ダイヤさんが抱えていた苦しみはもうなくなっただろうから。
曜「私が想いを伝えるんだ。」
善子ちゃんが言っていたことを考えると、きっとこれから会う子も心が傷ついている。
なら、私がみんなを笑顔にする。そうすればきっと、きっと……
私の胸の中の罪悪感も収まってくれるはずだから。