また誰かに会ったとしても話しかけない方がいいんじゃないか。心の中でそう思いつつあった。
ルビィちゃんも善子ちゃんも私に帰ってきてほしいと言ってきたけど、それって無理なことだし、私には希望を与えて傷つけることしかできなかった。
ルビィちゃんも善子ちゃんも、本当に同じ夢を見ていたとしたら、どんな気持ちになったのかな。
曜「きっと……」
何も考えたくないから、とりあえず寝てしまおうかな。なぜかお腹は減らないし、喉も乾かないから寝てるだけでも大丈夫そうだしね。
夢の中で寝ちゃうなんて、なんだか面白いね。これで夢から覚めて起きれたりしないかなぁ……
うん?
あれ?学校の屋上だ。
夢の続き?
それとも夢の中の夢?
そういえばなにか頭に柔らかい感触が……?
花丸「起きたずら?」
会いたくなかったのに会ってしまった
曜「どうして花丸ちゃんがここに?」
花丸「曜ちゃん、寝ちゃってたから、寝違えないように膝枕してたんだよ。」
曜「そう…なんだ……」
花丸ちゃんの表情が柔らかかった。
最近は悲しそうな顔をした花丸ちゃんしか見てなかったから、とても心が落ち着く。
花丸「曜ちゃんはやることがいっぱいあるから疲れちゃうよね。」
曜「まあ、ね。でも、みんなが笑ってくれるから、全然嫌じゃないよ。」
花丸「本当ずら?」
私の髪を撫でながら、花丸ちゃんは微笑んだ。
曜「本当だよ。」
なんかこうしてると、後輩だって思えなくて、お母さんみたいで一緒にいて安心してしまう自分がいた。
花丸「マル、全部聞くよ?」
曜「え?」
花丸「マルは全部受け止める覚悟はできてるから。話して。」
まっすぐな目。
逃げられない。私の真意を見抜いている目だった。
曜「…本当だよ。辛くはなかった。」
花丸ちゃんの唇がへの字に歪む。
曜「でも、自分で何をしてるのかわからなくなっちゃってさ。」
私は花丸ちゃんに話そうとしてることが整理できていなかった。
花丸「曜ちゃんは何がしたかったずら?」
私のしたかったこと……
曜「千歌ちゃんと何かしたかった。」
花丸「そう…だよね。」
花丸ちゃんの顔を見て今のは良くなかったと悟った。これじゃあまるで花丸ちゃんたちはどうでもいいって言ってるように聞こえる。
花丸「マルも一緒ずら。」
曜「え?」
花丸「マルもルビィちゃんが勇気を出せるようにって思ってAqoursに入ったんだよ。」
そう言えばそうだった。花丸ちゃんはあの時、ルビィちゃんはスクールアイドルが大好きだから入れてあげてほしいって言っていた。
花丸「だからマルはルビィちゃんさえ入ってくれれば辞めていいって思ってたずら。」
曜「今はどうなの?」
花丸「今はAqoursの活動が大好きで、読書や食べることよりも夢中になってるよ。」
曜「そっか……」
そう言ってもらえたら、千歌ちゃんはきっと喜ぶだろうな。
花丸「だから、もちろんラブライブには出たいよ?マルたちが頑張ってきた結果を残したいって思うずら。」
ラブライブに出たい……
花丸「でもマルは9人で行きたい。」
9人で……
花丸「Aqoursが好きで、スクールアイドルが好きだったのはAqoursのみんなが居てくれたからなんだよ。」
花丸ちゃんの瞳から溢れた涙が私の頰に落ちた。
そこで私は目が覚めた。
さっき寝ていた景色と変わってない。
たった一つを除いて。
花丸「起きて…くれたね。」
涙を溢れさせながら花丸ちゃんは私の目の前に座っていた。
曜「花丸ちゃん。」
花丸「わかるよ。曜ちゃんの言いたいこと。」
曜「……。」
花丸「マルはワガママは言わないずら。これが運命なら仕方がないし、何よりも曜ちゃんがこれ以上苦しむ姿を見たくないから。」
次の瞬間に花丸ちゃんの顔がクシャッと歪んだ。
花丸「でも……でも…………
こんなに悲しい気持ちになったことなんてないから、辛いよ…………」
私のことでこんなに泣いてくれる後輩は今までいなかった。
いや、花丸ちゃんはただの後輩じゃなくて
大事な『友達』でありかけがえのない『仲間』なんだ。
曜「花丸ちゃん。」
花丸「……っ。よぉ…ちゃん……。」
曜「こっちにおいで。」
花丸「っ。」ギュッ
それは花丸ちゃんだけじゃなくて、ルビィちゃんも善子ちゃんも。
一年生だけじゃなくて、三年生のみんなも。
梨子ちゃんも、そして千歌ちゃんも。
花丸「悲しいよ……よぉちゃん…」
曜「ごめんね…」
花丸「いやだ…いやだよ……」
普段は達観してるような花丸ちゃんの涙。それは私の心の中にジワジワと罪悪感が広がらせていった。
曜「……許して。」
花丸「…っ。よ」
曜「許して…ください…」ポロポロ
私が泣いちゃダメだろ!
でも、もう止められない…
花丸「あ…あぁ……」
私の腕の中で花丸ちゃんの顔が青ざめていく。私がみんなを傷つけたあのときと同じように。
私は傷つけて、傷つけて、傷つけて……
曜「ごめん…なさいっ」
腕の中にいたはずの花丸ちゃんはいつの間にかいなくなっていた。
私は一人でしばらく懺悔しながら、泣き続けるしかなかった。