私と千歌ちゃんは、あれからダンスをすぐにぴったり合わせた。
練習を続けてきて、今日は予備予選当日。
私が1日、梨子ちゃんになる日。
昨日、梨子ちゃんから電話があった。私と千歌ちゃんがうまくやってるか気にしていた様子だった。
曜「本当に心配してくれてたんだね。」
そう思うと、さらに身が引き締まる思いを感じた。
梨子ちゃんになりきるんじゃない。私は梨子ちゃん。私は桜内 梨子だ。
千歌「曜…ちゃん…?」
曜「ああ、ごめんね!少しボーッとしちゃった。」
千歌「…。」
ダイヤ「さあ、会場入りしますわよ。」
みんな「「「「はーい。」」」」
花丸「うぅ…。やっぱりライブ前は緊張するずら…」
ルビィ「ダイジョウブ。ダイジョウブダカラ…」
善子「ルビィが大丈夫じゃ、ないじゃない!」
ダイヤ「ついに、ですわね。」
鞠莉「ええ。2年間温めてきた想いだもの。私たちのバーニング!した熱い想いを見せれば大丈夫よ。」
果南「そうだね。今日は頑張ろう。」
ダイヤ「ええ。」
梨子ちゃんなら、こういう時どうするんだろう。私はこういう勝負前の時は、なるべく自分のペースで行動していた。ルーティーンというと、またちょっと違うんだけどね。
でも、そうしてしまうと結局私のままなんだ。
曜「…緊張、してきたね…。」
これは私の本音だ。もしかしたら、今までのどのライブよりも緊張しているかもしれない。
千歌「曜ちゃんも緊張してるの?」
曜「それはそうだよ。私だって緊張するよ。」
千歌「…曜ちゃん?」
曜「どうしたの?」
千歌「…ううんううん。なんでもない。」
そう言って、千歌ちゃんは背を向けてしまった。何か言いたげな様子だったのが気になる。
曜「言いたいことがあるなら、ちゃんと言わないとじゃない?千歌ちゃんの方がよっぽどそういったことが嫌いでしょ?」
すると、千歌ちゃんは私に向き直ってこう言った。
千歌「なんか…曜ちゃんらしくないなって。」
……。
千歌「なんていうか、梨子ちゃんみたいな雰囲気だから。」
千歌ちゃんは微妙な空気を感じとっていた。もしかしたら、みんなも感じてはいるのかもしれないけど。
千歌「あ、ごめんね!余計なことを言っちゃった。えーと、なんだっけ?緊張しないおまじない!」
曜「え?ああ! おはヨーソロー!」ビシッ
千歌「そうそう!それそれ!!
おはヨーソ……ってやっぱり恥ずかしいよ〜!」
曜「あははっ!今恥ずかしい思いをしておけば、ステージでは緊張なんてしないのであります!」
千歌「そうかな?
でも、曜ちゃんが笑顔になってくれたから、緊張もなくなってきたよ。」
あっ……
千歌「いつもよりも表情が固かったから……ちょっと心配だったんだ。」
曜「そ、そっか……」
千歌ちゃんは私のために……
千歌「でも、今はいつも通りの曜ちゃん。元気で頼りになる顔をしてる。」
曜「!」
いつも通りの私!?
曜「……。もう。そんな心配してくれなくても大丈夫だよ?嬉しいけど、千歌ちゃんも準備とかしないとでしょ?」
千歌「え……。」
ダイヤ「お二人とも準備はよろしくて?もう直ぐ私たちのステージですわよ。」
千歌「…うわわぁっ!ちょ、ちょっと待って!すぐに準備しますからぁ!」
曜「……。」
千歌ちゃんは梨子ちゃんからもらったシュシュを腕につけて、ダイヤさんのところへ走っていった。
曜「……私も行かなきゃ。」
完璧に梨子ちゃんになるのは、無理だったけど、ちょっとの間だけでもいい。このステージでは桜内 梨子でいろ!渡辺 曜!!
そして私たちの番になり、ステージに上がると私は千歌ちゃんの後ろに立つ。
音楽がかかり、千歌ちゃんが歌い始める。千歌ちゃんの伸びきった声が、会場全体に広がっていく。
ピアノの旋律が聞こえる。と、同時にメンバーみんなでピアノを弾くポーズをとる。私も同じように、でも、みんなよりもっと繊細に踊る。
ギターの音が鳴るとすぐに前に飛び出して、千歌ちゃんの背中に手を乗せて、軽くジャンプ。いつもの私よりは抑えめの力にする。
ここでいきなり私と千歌ちゃんのパート。いつもより落ち着いた声で歌う。
その後、各メンバーのパートが歌い終わり、いよいよ問題のパートへと移る。
私と千歌ちゃんが近づきながら、背中合わせになって歌う。
梨子ちゃんのように。梨子ちゃんのように!!
曜・千歌「なにかを つかむことで
なにかを あきらめない!」
上手くいった!!
その後、みんなも同じメロディで続く。
ここから私は走りすぎないように、セーブをかけながら踊る。ここ辺りから千歌ちゃんは私より若干、遅れはじめてしま……
わない!?
千歌ちゃんが私に合わせてきてくれた。信じられない!体力が残ってる!?
結局、私は私の元々のステップで踊り、私たちのステージは終わった。
舞台袖にはけた私たちは、やりきった満足感でいっぱいになった。
ダイヤ「す、すごいですわ!」
ルビィ「今までの中で一番良かったよね!?」
鞠莉「私たち最っ高にShinyだったわ!」
みんなの中での手応えもだいぶある。
千歌「やったね!…っとっと!」ガクッ
花丸「ち、千歌ちゃん!?大丈夫ずら!?」
果南「やっぱり……。かなり千歌にしては最後まで飛ばして踊ってると思ったよ。」
やっぱりって……
曜「まさか今日は無理してたの!?」
千歌「いやぁ。なんかやらなきゃ!って思ったら、勢いがついちゃって。
最後まで速いテンポのままでも踊れそうだったから踊りきっちゃった!」
鞠莉「Oh!ちかっちもメラメラ燃えていたものね♪」
千歌「そう!まさに、千歌のバカ力!」
善子「はあ??」
千歌「今のはね?千歌と力をね?」
花丸「親父ギャグずら…」
ダイヤ「もしかして、火事場の馬鹿力とかけていますの?」
善子「その言葉、多分千歌さんは知らないと思う。」
でもそれって結局、千歌ちゃんは無理してたってことだよね!?
千歌「曜ちゃん。」
曜「ち、千歌ちゃん…?」
千歌「楽しかった?」ニコ
曜「!!」ドキッ
確かに最後は私として踊れた気がする。千歌ちゃんと2人で…
鞠莉「と〜〜〜っても楽しかったっ♪って曜は思ってるヨー、ソロー!!」
曜「ま、ま、鞠莉ちゃん!?」
果南「だってさ、千歌。良かったね♪」
千歌「うん!それなら良かった♪」
曜「なんか勝手に私が言ったみたいになってる!?」
果南「じゃあ、楽しくなかった?」
千歌「ええっ!?そ、そんなぁ。」
曜「うっ……!はい!とても楽しかったし、とても感動しました!!」
ルビィ「えへへ。良かったね!」
ダイヤ「さあさあ、あまり舞台袖ではしゃいでいると、他のスタッフにも迷惑がかかりますわよ?ここはもう帰りましょう。」
善子「灼熱の砂漠から抜け出した天使たちを癒すための聖都へ…!」
花丸「沼津ずら。」
結局千歌ちゃんには聞くことができなかったけど、私は梨子ちゃんとしてではなく、渡辺 曜として最後はステージに立てていた。
鞠莉「『想いはひとつ』。でしょ?」
曜「!」
鞠莉「さあっ、今日はみんなで打ち上げパーティーデェス♪」
予備予選、結局私は
桜内 梨子
としてではなく
渡辺 曜
としてステージをやり遂げた。
ありがとう
みんな
千歌ちゃん