向日葵に憧れた海   作:縞野 いちご

55 / 68
梨子ちゃん視点です


11.5 前日の決意

 

 

 

 

 

私は部室の中にいた。

 

状況がよくわからないし、これは夢?

 

周りを見るとAqoursのメンバーが集まっていて、円を描くようにみんなは立っていた。

 

 

その中心には

 

 

 

曜「ごめんなさい。」

 

正座をしながら、顔を上げずにただひたすらと謝る曜ちゃんがいた。

 

曜「みんなを傷つけてごめんなさい。」

 

声をかけたいのにうまく言葉が出ない。

 

曜「自分勝手でした。」

 

曜ちゃんが自分勝手?そんなわけがない。

 

曜「ワガママでイジワルでした。」

 

曜ちゃん、顔を上げて。誰もそんなこと思ってないよ?

と思った時だった。

 

千歌「梨子ちゃんに何て言ったかわかってるの?」

 

千歌ちゃんの冷たい声が曜ちゃんにかけられた。千歌ちゃんがどうして曜ちゃんを責めるのかわからなかった。

 

曜「私は…梨子ちゃんを……」

 

鞠莉「うまくいかないのを梨子にぶつけるのは筋違いじゃない?」

 

ダイヤ「チームの和を乱すような人はチームには良くない影響を与えますわ。」

 

やめて!そんなこと、曜ちゃんだってわかってる!それをわざわざ強い口調で言わなくてもいいのに!

 

 

曜「許してください……」

 

 

救えない。

 

私の声は曜ちゃんに届かず、曜ちゃんを安心させることも、守ってあげることもできない。

 

 

善子「出てけ。」

 

花丸「出てけ。」

 

ルビィ「出てけ。」

 

 

曜「ごめんなさい。」

 

 

次から次へと「出てけ。」の声が聞こえ始める。

 

鞠莉「出てけ。」

 

ダイヤ「出てけ。」

 

果南「出てけ。」

 

 

曜「いやだ……」

 

 

それが波のように曜ちゃんを襲った。

 

 

千歌「出てけ。」

 

 

 

曜「いやぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

曜ちゃんの泣き叫ぶ声と共に私以外のメンバーは消えた。

 

 

 

 

 

曜「…ごめんなさい。ごめんなさい。」

 

 

耳を塞ぎながら目をつぶって、うずくまる曜ちゃんはあまりにも可哀想で、私は涙が止まらなかった。

 

曜「許して…。本当にごめんなさい…。私がいなければ…Aqoursは…みんなはラブライブに出れたんだ…」

 

 

違う。それは違うよ、曜ちゃん。

曜ちゃんが居なければ、Aqoursのメンバーは誰か一人でも欠けたら、ここまで来れなかったんだよ?

 

 

曜「みんなの夢を…私は………」

 

 

 

この残酷な夢はいつまで続くの…?

そもそもこれは夢なの?現実?なら、なんで私は動けないの?声が出ないの?

曜ちゃんを助けられないの?

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか朝になって明るくなっていた外に目がくらみ、私はカーテンを閉めた。

 

 

最悪な夢だった。

 

 

もし、曜ちゃんがずっとあんな気持ちでいたのだったとしたら、私は曜ちゃんの不安を取り除いてあげないといけなかった。

 

 

いや、私がそんなことしたらむしろ…

 

 

 

 

わからない。正しい答えが何かなんてわからなかった。

 

ただ一つわかっていることは、私は間違ったということだけ。

 

 

砂浜に横たわる曜ちゃんと泣き叫ぶ果南さんの姿が私のしたことが間違いだったと物語っている。そして、その光景は未だにまぶたに焼きついて離れない。

 

失うことの恐ろしさは知っているはずだった。今までの全てを簡単に壊していく、それも一瞬で。

わかっていたはずだったのに…!

 

 

梨子「……千歌ちゃんの声。」

 

 

不意に家の外で、誰かの叫ぶ声が聞こたから耳を澄ましていると、千歌ちゃんが何かを叫んでいることがわかった。

 

私は窓を開けて、千歌ちゃんが何を言っているのか聞いた。

 

その後に聞いてしまったことを後悔した。だって、それは私を責めている言葉だったから。

 

 

千歌「返してっ!返してっ!!」

 

 

もちろん千歌ちゃんは私に向かって言っているわけではない。千歌ちゃんは人を傷つけようとしたりする子じゃないから。

 

 

千歌「返してよ…。曜ちゃんを…返してよ……」

 

 

潮風に乗って聞こえてくる千歌ちゃんの心の奥の叫び声は、私の胸をキリキリと締めつけていった。

 

梨子「ごめんね。」

 

私はこうして謝ることしかできない。

 

 

梨子「何もできなくてごめんなさい。」

 

 

私の小さな声はドアの開く音にかき消された。

 

梨子ママ「梨子、お友達よ。」

 

私が振り向くと、そこには紙袋を持った果南さんが立っていた。

 

 

 

果南「…。」

 

お母さんはその場を察していなくなっていた。果南さんと私の沈黙が続く。

 

 

梨子「…その、どうしたんですか?」

 

果南「渡しに来たんだ。」

 

梨子「え?」

 

果南「これを。」

 

私は果南さんから紙袋を受け取ると、中を見て驚愕した。

 

梨子「この衣装は……」

 

果南「梨子ちゃんの分だけなかったでしょ?でも、曜はちゃんと完成させてたみたい。」

 

 

私がピアノのために東京に行った日のライブ。私が歌うことのなかった『想いよひとつになれ』。そのときの衣装を曜ちゃんは……

 

 

果南「…曜としてはそれが梨子ちゃんに対する置き土産だったみたい。」

 

梨子「……。」

 

果南「他にもさ、各メンバーに思い思いのプレゼントを残していってさ。勝手に抜けてごめんって。」

 

 

曜ちゃんはそんなことまでしていたんだ。信じられないよ…

 

 

果南「…私はビデオレターもらってさ。涙が止まらなくなって、このまま離れ離れになるかもって思った。」

 

梨子「果南さん…」

 

果南「どうしたら良かったんだろうね……」

 

梨子「……。」

 

果南さんの沈痛な表情が私を責め立てていた。果南さんに悪気はない。それでも、ズキズキと私の胸に刺さっていった。

 

 

 

果南さんが帰った後も私は家から一歩も出ることができず、曜ちゃんのお見舞いもせずに1日を終えようとしていた。

明日はついに……

 

…もう考えたくないよ。

 

 

 

千歌「ねえ。」

 

梨子「!」

 

 

目の前には千歌ちゃんがいた。

どうやってこの部屋に入ってきたの?音も立てずに…

 

 

千歌「あなたなんだよね?梨子ちゃんって。」

 

梨子「え…?」

 

 

暗がりでよく見えてなかったけど、千歌ちゃんは制服を着ていて、リボンの色も黄色かった。

 

 

千歌「…曜ちゃんはあなたのことをそう言ってた。」

 

 

この千歌ちゃんは何者?私が見てるただの幻想?

 

 

千歌「ねえ。どうして曜ちゃんは一人ぼっちなの?」

 

ズキッ

 

梨子「ぁ……ぉ……」

 

言葉にならない。私からは息が漏れるだけで、千歌ちゃんに伝わらない。

 

 

千歌「私にとってね、曜ちゃんは一番大事な友達だから、もしその曜ちゃんが傷つけられることがあったら、私はその人を絶対に許さない。」

 

 

 

 

わかってるよ。だからこそ、謝りたい。せめて謝りたいの。

 

 

 

千歌「…でもね。」

 

私の顔の前に千歌ちゃんの顔が現れる。

 

千歌「あなたはずっと曜ちゃんを守ろうとしてくれていたんだよね?」

 

梨子「!?」

 

千歌「…ありがとう。」

 

 

違う。守りたかったのは本当。でも、守れなかった。曜ちゃんを助けてあげることはできなかった。

 

 

千歌「それなのに…ごめんね………」

 

 

ああ…

 

お願いだから…

 

 

千歌「わたしが……よーちゃ…を…っ…きず…つけ……ちゃ…た……」ポロポロ

 

 

千歌ちゃんが傷ついたりしないで……

 

 

 

梨子「…お願い。もう泣かないで。」

 

千歌「…っ…ぁぁ……ぁぅ…」ポロポロ

 

梨子「自分を責めたりしないで…」

 

 

 

 

曜『…ごめんなさい。』

 

 

梨子「っ。」

 

なぜ、私は千歌ちゃんにはこうして慰めてあげようとするのに、曜ちゃんにはしてあげなかったの?

 

 

曜『……ごめ……ん……』ポロポロ

 

 

 

わたしは

 

 

 

千歌「……り…こ…ちゃん?」

 

 

梨子「……。」

 

 

本当にずるい。

 

 

千歌「さっき…自分が言ってた…よ?自分を…責めないで…って…」

 

 

私はこうしてまた許されてしまう。

 

 

ダメ。

 

 

 

私は曜ちゃんを取り戻すまで許されちゃいけない。

 

 

 

梨子「…千歌ちゃん。」

 

千歌「…なに?」

 

梨子「…必ず曜ちゃんを取り戻すからね。」

 

千歌「……」ギュッ

 

無言の抵抗。この千歌ちゃんは多分、私と初対面だ。それなのに、抱きついて裾を捕まえて、行かないでと言わんばかりに涙を流し続けた。

 

 

梨子「…本当にあなたって変だよ。」

 

千歌「……」

 

梨子「だけど」

 

 

 

 

本当に優しくて、友達思いの子。

 

 

 

 

 

 

 

もちろん、あなたもだよ。

 

 

 

私の目の前には、ここにはいないはずの少女が笑顔でこっちに手を振っていた。

 

 

 

 

 

梨子「…待っててね。」

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。