向日葵に憧れた海   作:縞野 いちご

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#8 スペシャルサポーター

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきまで自分の部屋にいたのに、いつの間にか見慣れたひまわり畑に私はいた。たくさんのひまわりの間からは雨が振ってきている。

 

私が起き上がると、どんよりとした雲が空一面に広がっているのが見えた。その空のせいでひまわりもみんなショゲてしまっている。

 

 

いつものひまわりはどうなっているんだろう

 

 

 

私と曜ちゃんがよく遊んでいた場所に咲いている大きなひまわり。

まるで木のようにしっかりとしていて、私たちを見守ってくれた。

 

 

ひまわりをかき分けて進んでいくと

 

 

 

千歌「あっ…。」

 

 

 

私の見慣れたひまわりは枯れてしまっていた。

 

千歌「ひどい…。」

 

頭を下げたまま枯れてしまっているひまわりは、疲れ果ててしまっているかのように見えた。

 

今まで、このひまわりがここまでグッタリとしているところは見たことがなかった。それだけにショックも大きい。

 

 

私が近づくと、ひまわりの後ろに誰かがもたれかかっているのが見えた。

 

 

誰か?

 

 

 

いや、あの後ろ姿が誰かなんて一瞬でわかる。

 

 

 

千歌「ようちゃん…」

 

 

降りしきる雨は私の小さい声なんてすぐにかき消してしまった。

 

曜ちゃんは雨が降っているのに気にせず、上を向いていた。顔を上向きにして、ただじっとしていた。

 

 

千歌「曜ちゃん。」

 

 

今度はしっかりと声が出たからか、曜ちゃんはひまわりに寄りかかるのをやめた。

 

 

どんな顔をしてるんだろう。この雨の中、ただじっと上を向いていただけなんて…

 

 

疲れてる?怒ってる?泣いてる?

 

 

 

 

その全ての私の予想は裏切られた。

 

 

 

 

 

 

 

曜ちゃんは笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは今までで一番私が見たくなかった笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

曜ちゃんは笑ったまま静かに、こっちに歩いてきた。

なぜ笑っているの?

そんなのわかってる。

なら、この後はどうなるの?

 

 

 

ガシッ

 

千歌「!?」

 

私は曜ちゃんに右手を掴まれた。

あまりにも一瞬の出来事だったので、私は身動きも取れなかった。

 

怖かった。今の曜ちゃんが何をするかなんて考えられないから。

 

 

すると、曜ちゃんは私の右の手のひらに何かを渡した。それはアクセサリーのような小物だった。

 

 

曜「……。」

 

 

曜ちゃんは何も言わずに私の顔をじっと見つめてる。

 

何か言ってほしい。

でも、曜ちゃんには私と話す気持ちなんてなさそうに見える。そのときだった。

 

 

曜「バイバイ。」

 

 

 

そしてそのまま曜ちゃんは私の右手を離して、私の後ろのひまわり畑へといなくなってしまった。

 

追いかけたかったのに足は動かなかった。

 

 

私は曜ちゃんが私の手のひらに置いた物が何かを確認したくて、自分の手のひらに視線を落とした。

 

 

 

千歌「え…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢から目覚めると、部屋には眩しい光が射していた。台風も過ぎ去って、すっかり晴れてしまったみたい。

 

 

昨日のことをみんなに謝りたかった私は、部室に向かうことにした。一応、今日もちゃんと練習日だし、みんな練習にくるはずだから。

 

学校に向かうためのバスに乗ると、先に善子ちゃんが乗っていた。

 

 

 

善子「…っ。」

 

明らかに気まずいといった空気を出していて、可哀想な気持ちになる。

 

 

千歌「善子ちゃん、おはよう。」

 

善子「……おはよう。」

 

千歌「昨日はごめんね。みんなにあんなに迷惑をかけちゃって。」

 

善子「…気にしてないわよ。」

 

千歌「善子ちゃんは優しいね。」

 

善子「…ヨハネよ。」

 

 

それからしばらくの沈黙が続いて、私と善子ちゃんはバスから降りた。

 

 

 

善子「…ごめん。」

 

千歌「え?」

 

善子「千歌さんのこと、何も考えてなかった。」

 

 

歩きながらポツポツと善子ちゃんは話し始めた。

 

 

善子「曜さんのことしか頭に入ってなくて、千歌さんがどういう気持ちなのか、どれほど辛かったのかって考えてなかったの。」

 

 

私が善子ちゃんを見ると、善子ちゃんは私と顔を合わせようとしなかった。

 

 

善子「…なのに出しゃばって、何でも知ってるかのようなことを言ってた。」

 

千歌「善子ちゃん…」

 

善子「本当にごめんなさい。」

 

 

振り返って私に謝った善子ちゃんの目には涙が溜まっていた。

善子ちゃんは昨日のことを後悔していたんだ…

 

 

千歌「ありがとう。」ギュッ

 

私は善子ちゃんにハグした。ハグして気がついたことが一つ。善子ちゃんが小刻みに震えている。

 

千歌「本当はね、私は今日はみんなから怒られようって思ってたんだよ。

それなのに、善子ちゃんは私の心配をしてくれた。」

 

私がハグした時から、善子ちゃんの嗚咽が始まっていた。とても悩ませてしまったみたいだった。

 

千歌「だから嬉しいんだよ。こんなに仲間思いな子がいてくれるから。」

 

 

善子「…わた…しは…っ……ち、か…さんったち、に…かん、しゃ…して、る…から…!」

 

嗚咽交じりになってしまっている善子ちゃんの声は心の叫びだった。

 

千歌「ありがとう。」

 

私は善子ちゃんの背中を撫でて、善子ちゃんが泣き止むまでハグしていた。

 

 

 

 

善子「…///」

 

千歌「何で顔を合わせてくれないの…?」

 

善子「恥ずかしいからよっ!///」

 

 

恥ずかしがって顔を合わせない善子ちゃんと部室に向かうと、すでに部室にはダイヤさん、ルビィちゃん、花丸ちゃんがいた。

 

 

ダイヤ「…ち、千歌さん!?」

 

千歌「こんにちは。遅れてすみません。」

 

ダイヤ「い、いえ…。」

 

ルビィ「もう大丈夫なの?」

 

千歌「私は大丈夫だよ。

昨日はみんなに迷惑をかけちゃって本当にごめんね。」

 

花丸「それは…もう気にしてないよ。」

 

ルビィ「ルビィも千歌ちゃんが元気になってくれたから良かったかな。」

 

みんな優しい顔で私を出迎えてくれた。

 

 

千歌「みんな、ありがとう…」

 

ダイヤ「ただ、今度困ったことがあれば、みんなに相談するのですよ。」

 

千歌「うん。そうするね。」

 

花丸「そういえばどうしたの、善子ちゃん?目が真っ赤ずら。」

 

善子「ふふっ。私の魔力が高まると、魔眼としての力を抑えきれ

 

花丸「あ、そういえばこんな物が部室にあったずら…」

 

善子「質問したからには最後まで聞けー!!」

 

千歌「ん…?」

 

花丸ちゃんが指差した先を見ると、机の上に大きな紙袋が置いてあった。

 

 

 

千歌「これは?」

 

ダイヤ「それがよくわからないのです。」

 

善子「中は見てないの?」

 

花丸「そうしようか迷ったんだけど…」

 

ルビィ「この部室に持ってきたってことは誰かのものだし、見ない方がいいのかなって…」

 

善子「でも誰かが見てあげないと誰のものかわからないじゃない。」

 

ダイヤ「そうだと思って、次に来る人のものでもなければ、見てしまおうと思っていたのです。」

 

千歌「それじゃあ、確認しようか。」

 

 

私が袋の中に手を入れると、色々な物が入ってることがわかった。

 

 

千歌「…?なんだかいっぱい入ってるよ。」

 

ルビィ「1つずつ出していくのがいいかな…」

 

千歌「それじゃあ、この本から。」

 

 

私が取り出すとそこには、『ダンスに必要な体力トレーニング』と書かれている本が出てきた。

 

 

ルビィ「え?」

 

善子「ちょっとよくわからないわね。」

 

花丸「あっ!よく見たらマルの名前が書いてあるずら!」

 

 

確かに本の上には『花丸ちゃんへ』という付箋が貼ってあった。

 

 

ダイヤ「体力作りということは果南さんな気がしますが、果南さんは本なんて読まないですし…」

 

 

今のダイヤさんの一言で私はこの紙袋が誰のものかすぐにわかった。

 

 

 

曜『走り込みも必要なんだけど、ダンスのステップって反復横跳びもやらないと鍛えられないんだよ。』

 

 

 

千歌「っ!」ガサッ

 

ルビィ「千歌ちゃん!?」

 

 

次に私が手に取った二冊のノートには、それぞれ『善子ちゃんへ』と『ルビィちゃんへ』と書いてあった。

 

 

 

善子「だ…誰よ…いきなりこんなプレゼントを置いていったのは……」

 

ルビィ「あっ!このノート凄いよ!

たくさん可愛い衣装が描いてある!」

 

ダイヤ「ま、まさか!?」

 

 

 

 

千歌「これ、曜ちゃんのだ……」

 

 

 

 

花丸「ずらっ!?」

 

善子「は!?曜さんの!?

この部室に来たの!?」

 

ルビィ「でも、こういう可愛い衣装をたくさん考えられるのは曜さんくらいしか……」

 

 

私は小さなメモリーディスクを手にして、ダイヤさんに渡した。

 

 

ダイヤ「3年生のみんなへ……」

 

 

そして最後に残っていたのは大きな布製のもの。袋から取り出そうとして、途中で気がついた。

 

ピンク色……

 

 

ルビィ「そ、それ…!」

 

 

『想いよひとつになれ』の衣装

 

 

花丸「ルビィちゃんの…?」

 

ルビィ「違うよ!ルビィのやつはもっと濃いピンクだよ。」

 

ダイヤ「見たことのない衣装、ということですわね。」

 

 

善子「梨子の、ね。」

 

 

この衣装は予備予選のときに、梨子ちゃんが着ることのなかったライブ衣装だった。

 

 

ルビィ「完成…させていたんだ……」

 

花丸「確かにタグのようなところに梨子ちゃんへ、って書いてあるずら。」

 

 

言葉を出せない私は袋を覗き込んだ。

 

 

千歌「…手紙。」

 

 

私が手に取ると、みんなは私の側に集まって来た。

 

 

ダイヤ「千歌さん、読んでいただけますか?」

 

千歌「いいよ。」

 

 

私は文面を見ながら読み始めた。

 

 

 

千歌「『こんな勝手なことをして、みんなに迷惑をかけてごめんなさい。みんなを……

 

 

 

曜『とても悲しい気持ちにさせてしまったから、私はもうAqoursに戻るつもりはないです。でも、そんな私でも、みんなが受け入れようとしてくれて本当に嬉しかったです。

それでも私は全力で応援するよ。みんなは未来に向かって全速前進、なにがあっても振り返らないで走り抜けるのであります!

 

私はAqoursのメンバーではなくなっちゃったけど、みんなのことが大好きなのは変わらないから。ラブライブ!優勝はみんなにとっても私にとっても大事な夢、絶対叶えてね。本当に今までありがとうございました。

 

Aqoursのスペシャルサポーター

渡辺曜より』

 

 

 

 

花丸「……。」

 

ルビィ「…曜ちゃん。」

 

ダイヤ「本当に勝手です…」

 

ルビィ「お姉ちゃん!?」

 

ダイヤ「一番私たちが悲しむことを進んでやってしまったのですから…」

 

善子「やっぱり、直接話すべきなのよ…」

 

 

 

ブブッ!ブブッ!

 

 

みんなが話している中、私のスマホが鳴った。

 

 

 

千歌「みんな、ちょっとごめんね…。」

 

ダイヤ「構いませんよ。」

 

 

 

 

みと姉

 

 

 

 

千歌「もしもし、なに?」

 

美渡『……。』

 

千歌「みと姉?」

 

美渡『…ち……か…………』

 

 

明らかに電話越しのみと姉は様子がおかしかった。

 

 

千歌「みと姉、何かあったの?」

 

美渡『…ごめん。』

 

千歌「え?」

 

美渡『…やっぱり…あんたには………言えない…』

 

 

胸がざわざわする。すごい嫌な気持ち。

 

 

千歌「みと姉!なに!?何があったの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

美渡「…ようが……」

 

 

千歌「……。」

 

 

 

私は全てを察した気がした。

 

その先を私は聞きたくなかった。

 

 

 

美渡「曜が

 

プツッ

 

 

 

プーッ、プーッ…

 

 

 

 

 

千歌「…………。」

 

 

 

 

 

 

曜『…バイバイ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌「ねえ、違うよね。」

 

 

 

私がネガティヴに考えすぎなんだ。

 

 

 

千歌「曜ちゃん…」

 

 

 

きっとこれは私の思い違いなんだ。

 

 

 

千歌「っ。」

 

 

私は不意にこの前見た夢を思い出した。

 

 

曜ちゃんが居ないのに、みんなは舞台袖で必死に笑おうとしていた夢を。

 

何か辛いことを乗り越えようと必死に笑おうとしていたみんなの顔を。

 

 

 

 

ダイヤ「千歌さん!!」

 

千歌「っ!?」

 

ダイヤ「千歌さん、早く行きますわよ!」

 

千歌「…どこへ?」

 

ダイヤ「沼津市内の病院です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜『……さようなら。』

 

 

 

 

 

 


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