向日葵に憧れた海   作:縞野 いちご

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#6 くも

 

 

 

 

 

 

ダイヤさんから部室に集まるように連絡があった。

一体なんの報告があるのかわからないけど、久しぶりにみんなに会うことになる。こんな状態で会うのは嫌だったけど、ちゃんとみんなは揃いそうだったし、そこでみんなに迷惑をかけるのも気がひける。それにこの封筒をみんなに見せないといけない。

 

 

 

みんなはどんな反応をするんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

私が部室の前に着くと、すでに部室では梨子ちゃんが着いていたみたいで、とても盛り上がっていた。

 

 

花丸「梨子ちゃん!嬉しいニュースだよ!」

 

梨子「え?え?」

 

ルビィ「ルビィたち、本戦に進めるかもしれないんです!」

 

 

 

梨子「う…そ……」

 

 

 

 

ダイヤ「素晴らしいパフォーマンスを運営の方に披露する必要がありますが。」

 

ルビィ「それでも、チャンスをもらえるなんて思ってなかったから!」

 

 

 

…本戦に進める?

 

 

 

 

 

梨子「千歌ちゃん、やらないと思う……」

 

 

 

善子「は、はぁっ!?」

 

 

梨子「……千歌ちゃんはあの時以来、スクールアイドルの話をしなくなったの。」

 

花丸「…千歌ちゃん。」

 

 

 

梨子ちゃんは私のことを気にしてくれていた。だからこそ、無理をさせたくないって、そう思ったんだろうけど。

 

 

 

千歌「…やろうよ。」

 

 

 

梨子「…!」

 

果南「千歌!」

 

 

 

私が部室に入ると、みんな驚いた顔をしていた。もしかしたら私が来ると思っていなかったのかな?

 

 

 

千歌「…それと」

 

ダイヤ「なんですか?それは。」

 

 

私がダイヤさんに封筒を渡すと、ダイヤさんはそれを手に取った。

 

そして少しの間も経たない間に、ダイヤさんの顔は強張っていった。

 

 

それはそうだよね。

 

 

ダイヤ「…どういうつもりですか。」

 

 

ダイヤさんの言葉を皮切りに、一年生の3人も封筒を覗き込んだ。

 

 

善子「な、なぁっ!?」

 

ルビィ「ど、どういうこと…?」

 

 

 

 

ダイヤさんに渡したのは退部願だから。

 

 

 

ダイヤ「あなた。さっき、やろう。とおっしゃいましたよね?」

 

千歌「うん。」

 

善子「じゃあ、これは何なのよ!?」

 

 

 

 

 

 

千歌「私のじゃないよ。」

 

 

花丸「え……」

 

 

 

みんなの怒って赤くなっていた顔が血の気が引くようにサーッと青くなっていくのが見えた。

 

 

 

 

梨子「曜ちゃんの…なの…?」

 

ルビィ「うそ……」

 

 

 

ルビィちゃんがダイヤさんの持っていた封筒を裏返して、曜ちゃんのものだと確認した。

 

 

 

果南「ち…か…。」

 

ダイヤ「千歌さん…!」

 

 

ここからなんて言っていいかわからなかったけど、とりあえず飄々とすることにした。

 

 

 

千歌「曜ちゃん、辞めちゃった。」

 

 

善子「ちょ、ちょっと!」

 

花丸「そんな言い方あんまりずら!」

 

 

 

すかさず善子ちゃんと花丸ちゃんが抗議しようとしてきた。

 

ただ、それだけでは済まないといった様子の果南ちゃんが私の視界に入った。

 

 

 

 

 

果南「ちかぁぁぁっ!!」

 

 

 

善子「!?」

 

ルビィ「ピギィッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

鞠莉「果南!落ち着きなさい!!」

 

 

 

果南ちゃんがここまで怒るところを私は見たことがないかも。

あまりの果南ちゃんの凄まじさに私は声が出なくなってしまった。

 

 

果南「なんで、なんで受け取ったの!?なんで止めなかったの!?

曜だよ!?誰よりも千歌の側にいてくれた曜なんだよ!?」

 

鞠莉「果南!」

 

ダイヤ「果南さん!冷静に!」

 

 

荒れ狂う果南ちゃんは鞠莉ちゃんとダイヤさんで押さえつけるのがギリギリだった。

 

 

 

果南「どうして!?

よりによって、どうして曜を一番傷つけることをしたの!?」

 

 

 

一番、傷つける?

 

 

 

梨子「しょうがなかったんです!」

 

黙っている私を見かねて、梨子ちゃんが答えてくれた。

 

梨子「千歌ちゃんだって辛かったんです。今までずっと一緒にいた友達とお別れしたいって、千歌ちゃんが思うはずないじゃないですか……。」

 

 

…違うよ。梨子ちゃん、勘違いしてる。

 

 

梨子「こうしている今だって、曜ちゃんは千歌ちゃんの大親友に変わりは…

 

 

 

梨子ちゃん、私はそんなに優しい子じゃないんだよ。

 

 

千歌「絶交した。」

 

 

 

 

 

梨子「え……。」

 

 

 

話がよく聞こえてない、といった様子なのでもう一度ゆっくりとはっきりと梨子ちゃんに言った。

 

 

 

 

 

千歌「私は曜ちゃんと絶交した。」

 

 

 

 

ヒヤッとしたものが私の背中に走った。みんなの空気を壊したことがわかる。

 

 

 

千歌「もうね、曜ちゃんを見たくないんだ…」

 

 

 

この一言で凍りついていたみんなの気持ちが怒っているものへと変わっていった。

 

 

 

善子「言いたくなかったけどね……あんたのせいよ!?

曜さんがあんなこと言ったのは!!」

 

 

千歌「!」

 

 

他の子から面と向かって、私のせいだって言われたのは初めてだった。

 

 

 

善子「曜さんはずっと一人で悩んでたのよ!」

 

花丸「もうやめて!」

 

 

花丸ちゃんが涙目になりながらも善子ちゃんを制止しようとした。でも、それだけでは止まる様子もなかった。

 

 

善子「それなのに…

そんな曜さんを突き放すようなことをしたら、曜さんがどうなるのかわかってるの!?」

 

 

千歌「わかってる!わかってるんだよ!!

わかってるよ…。

そんなことは私だってわかるよ…。

でも、もう嫌だったんだよ。私を助けようと、側にいようとすると曜ちゃんは必ず傷ついちゃう。

 

嫌だ!私は嫌だよ!」

 

 

泣かないって決めていたのに、堪え切れなくて涙がポロポロと地面に落ちた。

 

 

千歌「あんな顔をした曜ちゃんを見るのが……辛かったんだよ……」ポロポロ

 

 

 

もう元通りにすることなんて私にはできなかった。

 

曜ちゃんが壊れてしまったのは私が原因、私が曜ちゃんに無理強いさせたから。私といると曜ちゃんは頑張ろうとしちゃうから。

 

だから曜ちゃんのためにも、私は曜ちゃんを自由にさせてあげてなきゃダメなんだよ。

 

 

 

 

 

 

鞠莉「果南は私と縁を切ろうとしたこともあったわ。」

 

泣いている私を見かねてか、鞠莉ちゃんが私の近くまできて優しく語りかけてきた。

 

鞠莉「それもお互いに気持ちをぶつけなかったせいよ?

くだらないと言われたら、それまでのこと。」

 

私は相槌も打たずに黙っているのに、鞠莉ちゃんは気にせず話し続ける。

 

 

鞠莉「でも、そのすれ違いで私と果南はとても悲しい想いをした!

今までの人生で一番悲しいことよ。」

 

ダイヤ「鞠莉さん……」

 

鞠莉「このまま曜と疎遠になってしまっていいの?

私は良くないと思う。だって絶対に後悔する!なぜ、曜と一緒にいなかったのかって。

そのまま一生の心の傷になるわ!」

 

 

 

多分、そう。

 

このまま何も話さなければ、離れ離れになって、その後大人になっても口を聞かないまま、もう会わなくなってしまうと思う。

 

寂しい。一番近くに居てくれた友達が、遠い存在になってしまう。

 

 

 

千歌「……。」

 

 

 

梨子「千歌ちゃん。」

 

 

今度は梨子ちゃんの優しい声が聞こえた。

 

 

梨子「曜ちゃんが一緒にいてくれた理由はわかる?」

 

千歌「私が心配だったから。私一人じゃ何もできないからって…」

 

 

何を思ったのか、梨子ちゃんは微笑んでいた。

 

 

 

梨子「その気持ちも少しはあったかもしれない。でもね?曜ちゃんが千歌ちゃんといた本当の理由は違うよ。」

 

 

千歌「じゃあ、なに?」

 

 

梨子「曜ちゃんは千歌ちゃんが大好きだからだよ。

側にいたい。ただ、側にいて千歌ちゃんの笑ってる顔が見たいって、そう思ってたはずだよ。」

 

 

本当に曜ちゃんがそう思ってくれていたとしても……

 

 

千歌「私は…いやだよ。」

 

 

怒ったり、泣いたり、普段曜ちゃんが見せないような悲しんでいる姿を見たくないよ。

 

 

千歌「…そんな理由で、あんなに苦しまなきゃいけないの?」

 

 

梨子「それほど千歌ちゃんが好きだったんだよ。」

 

 

 

さっきまで怒っていたみんなの顔が、私を心配そうに見つめていた。

私はみんなの気持ちも聞かずに勝手に曜ちゃんが辞めてしまうことを許してしまった。

 

リーダー失格だ……

 

 

 

千歌「ごめんね。私が勝手なことばっかりして。」

 

果南「千歌。」

 

千歌「今日は少し落ち着いて考えたいから帰るね。」

 

 

 

辛かった。

 

みんなの心配そうに見つめてくる視線も私にかけてくれる優しい言葉も、全部辛くなってしまった。

 

 

 

部室を出た私は、どんよりとした曇り空を俯きながら歩いた。

歩く先に明るいものなんてなくて、この時にはすっかりラブライブのことを忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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