向日葵に憧れた海   作:縞野 いちご

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梨子ちゃん視点です。


#4.5 ふたりの友だち

 

 

 

 

 

 

 

 

曜『転校してきてすぐに千歌ちゃんと打ち解けて、自分に自信が持てないフリして千歌ちゃんの興味を向けさせて、挙げ句の果てには私のいた場所まで奪っていくんだ!!』

 

 

曜『そしてどこにいても善人ぶってるんだ!みんなの前では他人を心配するような素振りをして、ピアノの大会があれば自分を優先するんだ!みんながどうなるかなんて考えないで……本当にずるいよ!

 

一番ずるいのは梨子ちゃんだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。

いつも私はずるい。

 

 

曜ちゃんが言っていたことは的を射ている。

 

 

 

 

私の隠していることを見透かしているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

千歌「梨子ちゃん、入るよ。」

 

 

 

 

突然千歌ちゃんの声がしたかと思うと、ノックもせずに千歌ちゃんは私の部屋に入ってきた。

 

 

 

梨子「……。」

 

 

 

千歌ちゃんは絶句といった表情だった。いつもと明らかに違う私の様子を見て、慄いているようにも見える。

 

 

 

千歌「りこちゃん。」

 

 

梨子「……。」

 

 

千歌「…会いに来たよ。」

 

 

 

梨子「……。」

 

 

 

正直何を言えばいいかわからない。

 

せっかく会いに来てくれたのに、私からは千歌ちゃんに何もしてあげることができなかった。

 

 

 

千歌「…謝りたいんだ、梨子ちゃんに。」

 

梨子「……。」

 

 

 

千歌ちゃんは何かを知ってしまった。

直感的にそう感じた。

 

 

お母さん……かな。

 

 

 

 

千歌「こんな辛い思いをさせてごめんね。」

 

 

梨子「……。」

 

 

千歌「私ね、決めたの。」

 

 

梨子「……。」

 

 

千歌「梨子ちゃんがもう傷つかないように何とかするって。」

 

 

梨子「……。」

 

 

千歌「だから、気が向いたら私のところに来てよ。」

 

 

 

そのまま千歌ちゃんは立ち去ろうとした。聞きたいことはいっぱいある。でも、思ったことが言葉にできない。

 

 

だから

 

 

 

梨子「…よう…ちゃん。」

 

 

 

 

名前を呼ぶことにした。

 

千歌「!」

 

 

すると、予想より斜め上くらいの反応が千歌ちゃんから返ってきた。

 

 

 

梨子「…よう…ちゃんは?」

 

 

千歌「あれから、会ってない。」

 

 

 

やっぱり……。

 

 

 

 

勝手に考えることはいけないことだと知っていても、ふと過ってしまう。

 

 

 

梨子「……だめよ。後悔する。」

 

 

 

 

千歌「私は……もう決めたから。」

 

 

 

千歌ちゃんは誰のために傷ついているの?

 

自分のためではない……

 

 

曜ちゃんのため、だったとしたら間違ってる……

 

 

 

 

私のため……?

 

 

 

 

 

梨子「…わたしよりも曜ちゃんのことをまず考えてあげて。」

 

 

不安を取り払うために、私は千歌ちゃんに想いを伝えた。

 

 

 

千歌「……。」コクン

 

 

私の言葉に千歌ちゃんは小さく頷いた。

 

そのまま千歌ちゃんは私の部屋から何も言わずに出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は何をしているんだろう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千穂『りっちゃん可愛いんだから一緒にスクールアイドルやろうよー。』

 

梨子『わ、わたしは無理だよぉ。』

 

ようこ『勿体無いよねー。』

 

千穂『本当だよ!

ね?一回だけでも自分の作った歌を歌ってみたいでしょ?』

 

梨子『で、でも〜!』はわわ

 

千穂『うん!決まりー!!』

 

ようこ『いえーい!』

 

 

 

 

 

千穂『なんで無理したの!?』

 

ようこ『だって…ちほちゃんが楽しみにしていた大会だったから……』

 

千穂『無理したらどっちみちその先に進めないよ!』

 

梨子『千穂ちゃん!ようこちゃんは無理してでも頑張ったのにそんな言い方はないよ!』

 

千穂『そもそもなんでりっちゃんはようちゃんのケガを知ってたの!?』

 

梨子『そ、それは……』

 

千穂『知ってたなら止めてよ!

ようちゃんのこと考えてあげてよ!』

 

梨子『ひっ!』

 

ようこ『もう、やめて!』

 

 

 

 

 

 

 

千穂『私ね、引っ越すんだ。』

 

 

梨子『…どうしていきなり?』

 

 

千穂『私はスクールアイドルをしたい。でも、問題を起こしちゃって音ノ木坂ではスクールアイドルできないから…』

 

 

ようこ『それって、私たちを見捨てるの?』

 

千穂『っ。』

 

梨子『ようこちゃん、千穂ちゃんはそんなつもりじゃ……』

 

 

 

ようこ『私が千穂ちゃんの夢を奪ったから?私とはいたくないんだ。

 

なら、早く他のところに行きなよ!』

 

 

千穂『…私は後悔しないよ。』

 

 

 

梨子『まっ!……まっ………て……。』

 

 

 

 

 

 

 

 

ようこ『ピアノ頑張ってよ。』

 

梨子『でも、私はようこちゃんと歌いたい……』

 

ようこ『だめだよ!』

 

梨子『どうして…』

 

ようこ『もう、終わったの。スクールアイドルは。』

 

梨子『終わってない!千穂ちゃんだっていつか…』

 

ようこ『もう、戻ってこないんだよ!』

 

梨子『ようこちゃん…』

 

ようこ『だから、梨子ちゃんはせめてピアノを頑張り続けてよ。』

 

梨子『……うん。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが私が最後に見たようこちゃんだった。

 

 

梨子「…久しぶりに千穂ちゃんとようこちゃんに会えたね。」

 

 

前は悪夢のようにリピートしていた音ノ木坂での夢。最近はめっきり見なくなっていた。

 

 

 

千穂ちゃんは今もスクールアイドルを続けているのかな。それとも…

 

 

 

千歌ちゃんのおかげかわからないけど次の日には私は外に出ようという気持ちになれた。

 

 

 

梨子「お母さん、少し外に出るね。」

 

 

梨子ママ「梨子!…もう平気なの?」

 

 

梨子「心配かけてごめんなさい。もう、切り替えることにしたよ。」

 

 

 

 

本当は嘘。切り替えることなんて不可能に近い。でも、だからこそ明るくしなければいけない気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梨子「はぁ……はぁ……」

 

 

 

ダメだね…。何も食べてないし、あれから運動をしてないから体力が落ちちゃってる。

 

 

梨子「ここに来て最初にやったのは体力トレーニングだったよね…」

 

 

階段を上る千歌ちゃんと曜ちゃんの背中姿が目に浮かんだ。

 

 

 

曜『頑張れー!梨子ちゃーん!』

 

千歌『一緒に頑張ろう!』

 

 

 

目の前にある緩やかな坂を私は全速力で走った。

 

 

 

 

二人が居てくれたから、もう一度挑戦しようと思えた。

 

梨子「はぁっ!はぁっ!」

 

落ちてしまった私を二人が引っ張ってくれたんだ。

 

梨子「はぁっ!はぁっ!」

 

だから

 

梨子「っ!」ダンッ

 

 

私は二人を支えてあげないと。

 

 

 

 

梨子「!」ハァ…ハァ…

 

 

 

坂を登ると、そこには一面のひまわり畑が広がっていた。

 

 

 

梨子「すごい…」

 

 

 

 

こんな場所が内浦にあるなんて知らなかった。伸び伸びとひまわり達が太陽に向かって顔を出していて、一つ一つのひまわりからエネルギーを貰える気がした。

 

 

 

梨子「あそこ…」

 

 

よく見ると、ひまわりとひまわりの間に道のように隙間が開いている場所があった。あそこから通り抜けることができるのかもしれない。

 

その獣道に惹かれた私はひまわりの間を歩いていった。

 

 

「おーい!こっちだよー!」

 

梨子「!?」

 

 

 

子どもの声が聞こえた。その声はこの先から聞こえる。

 

 

 

「かくれてたらみえないよー!」

 

「かくれんぼだもん!」

 

「かくれんぼならこえださないでよー。」

 

「いつまでもみつかんないんだもん。」

 

 

 

この声、どこかで聞いたことがある。

身近にいるのだけど、どこか聞いたことのない気がする。

 

 

 

 

「えいっ!」

 

「わっ!みつかったあ。」

 

 

 

梨子「拓けてる?あの先は…」

 

 

 

 

「よーちゃん、みーっけ!」

 

 

 

 

 

 

拓けた場所には大きなひまわりが一本咲いていた。キラキラと輝いているそのひまわりは、この内浦の海を見つめているように立っている。

 

そして

 

 

 

梨子「……曜ちゃん。」

 

 

 

ひまわりの足元には、曜ちゃんが静かに眠っていた。

 

 

梨子「ここで寝てたら、まだ暖かいとは言っても、風邪を引いちゃうよ。」

 

 

声をかけても曜ちゃんは起きることはなく、どこか安心しているようにスヤスヤと寝息を立てていた。

 

梨子「…ここが好きなんだね。」

 

 

でも、ずっとここにはいられないから曜ちゃんの家まで送っていかなきゃ。

 

 

梨子「私で運べるのかな…」

 

 

 

 

でも驚くことに、寝ている曜ちゃんを抱き上げると、予想よりはるかに軽かった。

私でさえ、多分痩せてしまったはずなのに、それを超えるほどに曜ちゃんは痩せてしまった。

 

 

泣いてはいけない。

 

曜ちゃんがこうなってしまったのは私のせいだから。

 

 

 

梨子「曜ちゃん、帰ろう。」

 

 

 

私が微笑みながら話しかけると、背中の上の曜ちゃんが頰を私の背中に擦りよせた気がした。

 

 

 

 

 

 

 


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