向日葵に憧れた海   作:縞野 いちご

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#3 もう決めたから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜『Aqoursから抜けます。』

 

 

 

 

あれから1日が経って、私は何もできずにいた。

 

 

私には曜ちゃんを傷つけることしかできない。その事実が私にはどうしようもできなくて、悲しくて……

 

 

 

 

千歌「よう……ちゃん………」

 

 

 

 

 

私はどうしてあげればいいかわからなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

そういえば、あれから梨子ちゃんは大丈夫なのだろうか。

あの日、私とダイヤさんに支えられながら梨子ちゃんは家に帰った。

 

 

まさか梨子ちゃんと曜ちゃんの間であんな拗れがあると思わなかった。

 

 

 

もし……もしだよ?

私がイルカの時のようにどちらかを選択しなければならなかったら、私はどっちの味方になるの…?

 

 

私の視線の先にはベッドの上に置かれたみかん色とピンク色のイルカがいた。

 

 

 

千歌「梨子ちゃんの家に行こう。」

 

 

 

 

梨子ママ「どうぞ、上がってね。」

 

 

千歌「ありがとうございます。」

 

 

梨子ちゃんの家に行くと、梨子ちゃんのお母さんが出迎えてくれた。顔では笑ってたけど、明らかに無理してる顔。最近、時折梨子ちゃんが見せていた表情に似ていた。

 

 

梨子ママ「来てくれてありがとう。でも、梨子はね…。」

 

千歌「梨子ちゃんはまだ…」

 

梨子ママ「…あれから梨子は何も話さなくなって、部屋からも出てこなくなったの。」

 

 

千歌「ごめんなさい。私がちゃんとしていれば、喧嘩なんて起こらなかったんです。」

 

 

 

 

すると、梨子ちゃんのお母さんは悲しそうな目をして、梨子ちゃんの昔の話をしてくれた。

 

 

 

 

梨子ママ「梨子はね、東京で一度友達と大喧嘩して、こうして部屋に閉じこもってしまったことがあるの。」

 

 

 

 

 

 

え……?

 

 

 

 

千歌「…梨子ちゃんはそんな子じゃないです。」

 

梨子ママ「あの子はピアノとか絵を描いたりとか、一人で楽しむ趣味ばかり持っているでしょう?本当は誰かと一緒に何かすることが苦手なのよ。」

 

 

千歌「でも、梨子ちゃんは周りの子のことを考えて色々としてくれてます。」

 

 

 

梨子ママ「そのせいで墓穴を掘ってしまうのよ。」

 

 

千歌「そのせいで?」

 

 

梨子ママ「梨子が音ノ木坂学院出身なのは知ってるよね?」

 

千歌「はい。」

 

梨子ママ「音ノ木坂ってスクールアイドルで有名でしょう?そこでスクールアイドルをやろうって誘われているのよ。」

 

 

 

千歌「えっ…。」

 

 

 

梨子ちゃんはスクールアイドルを知ってたの?

 

 

梨子ママ「それで最初の一年は曲作りをしてあげていたんだけど、友達と上手くいかなくて…」

 

 

千歌「きっとそれは梨子ちゃんが悪いんじゃないです!梨子ちゃんはただ巻き込まれただけで…」

 

 

梨子ママ「友達がね、亡くなったの。」

 

 

 

 

千歌「え……」

 

 

 

 

梨子ママ「…あまり梨子にとっては言いたくないことだと思うけど、喧嘩してお互いが口も聞けないまま、その友達は海難事故で亡くなったの。」

 

 

 

千歌「う……そ…………」

 

 

 

梨子ママ「それから梨子は海に妙なこだわりを持つようになってね。

海の声を知りたいって言って、曲まで一から作ったのに、ピアノコンクールでは突然引けなくなったのよ。」

 

 

 

 

そんな辛いことが梨子ちゃんにはあったんだ……

 

 

 

 

 

 

梨子ママ「だから、千歌ちゃんのような優しい女の子に会えて、梨子は幸せだったはずよ。」

 

 

千歌「私は…優しくなんてないです……」

 

 

梨子ママ「優しいわよ。

 

だって、友達のことを自分のことのように悲しんで泣いてくれいるじゃない。」

 

 

梨子ちゃんのお母さんに言われて、私は泣いていることを感じた。私、泣いてる。

 

 

 

千歌「だって……そんなの……つらいとおもって……」

 

 

 

梨子ママ「ありがとう。多分、梨子の心の扉を開けてくれるのはあなたね。」

 

 

 

私にそんなことできるの…?

 

 

 

 

千歌「…梨子ちゃんに会いたいです。」

 

梨子ママ「梨子もきっとそう思ってるはずだから、会ってきてあげてね。」

 

 

私は少しだけ頷いて、二階の梨子ちゃんの部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

千歌「梨子ちゃん、入るよ。」

 

私はノックもせずに梨子ちゃんの部屋に入った。余計なことをすると鍵をかけられてしまいそうだったから。

 

 

 

そこで私が見た梨子ちゃんは私の知っているような梨子ちゃんとは違った。

 

梨子「……。」

 

梨子ちゃんの肌は透き通るような白さから、青白さへと変わっていたし、キリッとした切れ長の目には大量のクマがあった。明らかに痩せこけていて、髪もボサボサで……

 

 

たった1日でこんなに人って変わっちゃうの……?

 

 

 

 

千歌「りこちゃん。」

 

梨子「……。」

 

千歌「…会いに来たよ。」

 

梨子「……。」

 

 

 

本当に梨子ちゃんは何も喋らなくなってしまった。

 

喋り掛ける度に、瞳が揺れていたから私の言葉を聞いていてることはわかったけど、言葉ではなにも返してくれなかった。

 

 

千歌「…謝りたいんだ、梨子ちゃんに。」

 

 

梨子「……。」

 

 

千歌「こんな辛い思いをさせてごめんね。」

 

 

梨子「……。」

 

 

千歌「私ね、決めたの。」

 

 

梨子「……。」

 

 

千歌「梨子ちゃんがもう傷つかないように何とかするって。」

 

 

梨子「……。」

 

 

千歌「だから、気が向いたら私のところに来てよ。」

 

 

 

 

そう言ってお別れしようと思った時だった。

 

 

梨子「…よう…ちゃん。」

 

 

千歌「!」

 

 

梨子「…よう…ちゃんは?」

 

 

千歌「あれから、会ってない。」

 

 

梨子「…だめよ。後悔する。」

 

 

 

梨子ちゃんの言葉で、梨子ちゃんのお母さんの話を思い出した。

 

 

 

梨子ママ『喧嘩してお互いが口も聞けないまま、その友達は海難事故で亡くなったの。』

 

 

 

 

千歌「私は……もう決めたから。」

 

 

 

 

これ以上、曜ちゃんのことを縛り付けちゃいけない。

 

 

私にとっても曜ちゃんにとっても、このままの関係はきっと良くないってわかるから。

 

 

 

 

 

梨子「…わたしよりも曜ちゃんのことをまず考えてあげて。」

 

 

私はあえて、優しいね、とは声をかけなかった。そんな言葉を梨子ちゃんが求めているはずがないから。

 

 

 

千歌「……。」コクン

 

 

だから私は小さく頷いた。

 

 

 

 

 

ブブッ

 

 

 

 

LINE 今

ようちゃん

 

急なんだけど、いつもの場所に来てくれる?

 

 

 

 

 

 

 

 


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