千歌ちゃんと最後まで合わせてから、練習が終わり、私は夕陽が射し込む道を歩いていた。
曜「…。」
千歌ちゃん。梨子ちゃんと喋ってるとき、すごい嬉しそうだったな…
曜「これでよかったんだよね…」
私が梨子ちゃんの代役をする。そうすれば、みんなは苦労しないでライブに臨める。
ガシッ!
曜「!!」
急に背後から誰かが私の胸を鷲掴んだ。こんな時に痴漢!?まさか自分がやられるなんて思ってなかった!
なんとか撃退しなきゃ…!
鞠莉「Oh〜!!これは果南にも劣らない、曜もなかな…!?」
曜「っ!!」
私の胸を掴んでいた誰かの腕を、逆に私が掴み返して、そのまま一本背負いをする形で投げ飛ばした。
鞠莉「Ohch!?」
曜「ま、鞠莉ちゃん!?」
犯人は鞠莉ちゃんだった。
鞠莉「エヘへッ♪」
曜「エヘへッ♪じゃないよ…。
本当にびっくりしたんだから。」
鞠莉「ソーリー、ソーリー。
ちょっとしたジョークのつもりだったんだけどね。曜も意外とナイスなものを持っていたから…」
曜「ああっ!恥ずかしいからそういうことはあまり言わないで!」
私たちは沼津の海辺にある水門にある展望台に来ていた。鞠莉ちゃんから、たまには2人でデートしない♪と言われたのがキッカケ。
鞠莉「で、どう?」
曜「…?」
鞠莉「もう。意外と曜って鈍感なのね?
千歌っちとよ。」
曜「千歌ちゃんと…?」
鞠莉「ハイ。あんまり上手くいってなかったでしょ〜?」
あぁ…。なるほど、3年生の3人はあれから見てなかったんだよね?
曜「あ、あぁ…。それなら、大丈夫!あの後、2人で練習して上手くいったから!」
鞠莉「いいえ。ダンスではなく…」
曜「えっ?」
ダンスじゃない…?
鞠莉「千歌っちを梨子に取られて、ちょっぴり…
嫉妬ファイア〜〜〜!!
が燃え上がってたんじゃないのぉ?」
!!?
曜「っ!?嫉妬〜?ま、まさかそんなことは…」
ないよ。と言い切る前に
曜「〜〜〜!」ぐい〜
鞠莉「ぶっちゃけトーク、する場ですよ?ここは。」
鞠莉ちゃんに頬っぺたを引っ張られて言えなかった。
曜「鞠莉ちゃん…」
鞠莉「話して。千歌っちにも梨子にも話せないでしょ?」
そう言いながら鞠莉ちゃんは、ベンチに座った。
でも、話すって…なにを?
『嫉妬』
曜「!」ドキッ
鞠莉「ほーら?」
鞠莉ちゃんはベンチに腰掛けて、隣に座るように促した。
曜「…。」
私はため息をつきながら、鞠莉ちゃんの指示に従ってベンチに腰を下ろした。
どこまで鞠莉ちゃんに話そう…
曜「私ね、昔から千歌ちゃんと一緒に何かやりたいなってずっと思ってたんだけど、そのうち中学生になって…」
今でも頭の中に思い浮かぶ。私が水泳部に入るって言ったときの千歌ちゃんの遠慮して無理に笑っている顔。
曜「だから、千歌ちゃんが一緒にスクールアイドルをやりたいって言ってくれたときはすごく嬉しくて。
これでやっと一緒にできるって思って…」
今度は千歌ちゃんのやりたいことを叶えるために、私が手助けするんだって思ってた。
曜「でも、すぐに梨子ちゃんが入って、千歌ちゃんと2人で歌を作って、気がついたら…みんなも一緒になってて…」
みんなといる時の千歌ちゃんの顔は本当に嬉しそうで…
曜「それで気づいたの。
千歌ちゃん、もしかして私と2人は嫌だったのかなって。」
段々視界が歪んでくる。足元の床が、ゆらゆらと動いて見える。
鞠莉「Why?なぜ?」
曜「私、全然そんなことないんだけど、なんか要領いいって思われてることが多くって。
だから、そういう子と一緒にって、やりにくいのかなって。」
千歌ちゃんがずっとそう思ってたのに、私がくっついていたんだとしたら、千歌ちゃんが不憫だよね。
鞠莉「ていっ!」ビシッ
曜「いたっ!」
突然、鞠莉ちゃんからチョップを受けた。そして、続けざまにほっぺを掴まれる。
鞠莉「なーに1人で勝手に決めつけてるんですか?」
曜「だって…」
鞠莉「うりゃうりゃうりゃうりゃ!」
私は数回ほっぺを押されてから解放された。
曜「あぅ〜」
鞠莉「曜はちかっちのことが大好きなのでしょう?」
曜「え…?」
鞠莉「なら、本音でぶつかった方がいいよ。」
曜「え……」
鞠莉「大好きな友達に本音を言わずに、2年間を無駄に過ごしてしまった私が言うんだから間違いありません!」
曜「あっ…。」
鞠莉ちゃんだからこそ、私の心の変化の機微に気づいてくれた…?
鞠莉「さあ、明日もハードな練習が待ってますよ?さっきみたいに痴漢に遭わないように気をつけてね♪」
曜「なんだかごめんね。鞠莉ちゃん。心配かけちゃったみたいで…」
鞠莉「Don't worry!!
同じメンバーなんだから、助け合いでしょ?」
こういうところは、やっぱり先輩なんだなって思う。いつもはハジけてる鞠莉ちゃんも、いざとなれば頼りになる。私もこんな人になりたいな…なんて思ってしまった。
曜「ありがとう。」
明日、千歌ちゃんと本音で話せたらいいな…