向日葵に憧れた海   作:縞野 いちご

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#5 マリー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Aqoursから抜けることを宣言してから2日が経った。

 

 

退部届を提出していなかった私は、まだAqoursを抜けたことにはなっていないみたいで、LINEのグループにも残ったままだ。

 

 

曜「…私は何を期待しているんだろう。」

 

 

心のどこかで抜けないでほしい、と誰かが声をかけてくれることを望んでいる自分がいる。

 

そんな心も断ち切らないといけない。いつまでもアヤフヤじゃ、なにも進まない、よね。

 

 

私は便箋と封筒を取り出す。

そして封筒には大きく、丁寧に

 

 

 

退部願

 

 

 

 

と書いた。

そして、便箋にも丁寧にネットで調べた定型文を書いていく。普段はあまり綺麗に字を書こうとしてないからか、私の字とは思えないくらい綺麗に書けていた。

 

それが一層私の心を締め付けていった。

 

 

 

あれからみんなはどうしたんだろう。

私のせいで練習もできていないのかな。

 

 

そのまま解散になったりしたら、千歌ちゃんや果南ちゃんのやりたかったことができなくなる。

 

 

 

 

 

みんなの悲しそうに部室を立ち去る姿が目に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

曜「自分で決めたことなのにさ…」

 

 

 

 

退部届に少しずつポタポタと染みができていた。

 

 

 

 

曜「泣くのはズルいよね……」

 

 

 

 

 

苦しいよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だれかたすけて…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、私は千歌ちゃんにいつもの場所に来て欲しいと連絡した。

 

 

正直、見てくれるかわからなかったけど、「わかった」という返信が来たので少し安心した。

 

 

 

 

 

 

 

そして私は千歌ちゃんを待っている。すっかり夏の暑さも薄れて、少し肌寒くなる季節になってしまった。

 

 

涼しい夜風が寂しさを増させる。人肌恋しいって今みたいなときに使うのかもね。

 

 

 

千歌「曜ちゃん。」

 

 

いつの間にか後ろには千歌ちゃんが立っていた。

 

 

 

曜「…来てくれて、ありがとう。」

 

 

海の方から千歌ちゃんを見ているから、建物の逆光でうまく千歌ちゃんの表情が見えない。

でも、とても笑えるような雰囲気ではなかった。

 

 

 

千歌「ねえ、教えて?」

 

 

千歌ちゃんのいきなりの質問。

何年も親友しているんだから、もう慣れた。

 

 

 

千歌「なんで梨子ちゃんだけをあんなに責めたの?」

 

 

 

 

 

 

曜「……ごめん。」

 

 

私にはこう言うしかなかった。

 

 

 

千歌「今日ね、梨子ちゃんに会いに行ったんだ。」

 

曜「どう、だったの?」

 

 

千歌「痩せてた。たった1日で。

一昨日から何も食べてないんだって。」

 

 

 

 

私のせいで、なの?

 

 

 

 

曜「梨子ちゃんには謝ってたって伝えて。もう二度とあんなこと言わないって。」

 

千歌「……うん。そうする。」

 

曜「それと、これ。」

 

 

私は退部届を千歌ちゃんに手渡した。

千歌ちゃんには何の紙なのか見えているのだろうか。

 

 

曜「それを渡しに来ただけだからさ。わざわざここじゃなくても良かったんだけど、なんか家に行くのは気まずくて……」

 

 

私が少し苦笑いしながら話すと、千歌ちゃんが唇を噛んでいる姿がふと見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌「ねえ、曜ちゃん。」

 

 

 

 

曜「うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌「友達、やめよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「え……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?

 

 

 

 

ここってベッド?私の家の?

 

 

 

 

私、いつの間に自分の部屋に帰ってきてる。

 

 

 

 

 

 

枕、湿ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌ちゃんと絶交したんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「…………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

何を言われたのか、何を言ったのか覚えてない。

 

 

 

ただ、もう関わらないようにしようって言われたのは耳に残っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消えて……しまいたい。

 

 

 

 

 

曜「……ち…か……ちゃ…………」

 

 

 

 

 

ブーッ、ブーッ

 

 

 

スマホが光って着信を知らせる。

 

 

 

 

 

 

マリちゃん

 

 

 

 

 

 

 

曜「もし…もし?」

 

鞠莉『Hello.』

 

曜「鞠莉ちゃん……」

 

 

いつもと同じように話しかけてくれる鞠莉ちゃんがとても心地よかった。

 

 

鞠莉『元気にしてる?』

 

曜「それなりには、かな…」

 

嘘をつく。

辛い。助けてほしい。今すぐ泣いてしまいたい。

 

鞠莉『あなたは一人じゃないのよ?』

 

曜「一人じゃない?」

 

鞠莉『マリーにはわかるわよ。

 

 

千歌と梨子が大好きなんでしょ?

それでとても苦しんでる。私は邪魔なんだって。』

 

 

 

 

ダメだよ……

 

 

 

そんなの……

 

 

 

曜「やめ……て……」

 

 

 

鞠莉『曜……。』

 

 

 

 

曜「ない…ちゃ…う……からぁ……」グスッ

 

 

 

鞠莉『曜……』

 

 

 

 

止まらない。

 

涙も不安も何もかも止まらない。

大好きなのに、触れることができない。傷つけちゃうんだ。梨子ちゃんも、千歌ちゃんも……

 

 

 

鞠莉『私が言えた義理ではないのだけどね?言わないと伝わらないと思うの。』

 

曜「そんなこと…わかって」

 

鞠莉『わかっていないわ。』

 

 

鞠莉ちゃんには一体何が見えているんだろう。

 

 

鞠莉『あなた、地区予選のときに言っていたわよね?

ちかっちには言わなくても伝わっていたって。』

 

曜「…うん。」

 

鞠莉『きっと伝わってなんかいないわ。』

 

曜「伝わって…ない?」

 

鞠莉『ちかっちは、あなたが梨子へのフレンドシップとジェラシーで揺れていたなんてちっとも知らないわよ。』

 

曜「私は!そんな風に……」

 

 

 

梨子ちゃんへの嫉妬は消えたはずなのに……

結局、羨ましいって……

 

 

鞠莉『自分の気持ちから逃げてはダメ。ちゃんと伝えるのよ、自分の言葉で。』

 

 

曜「……なら、教えてよ。

鞠莉ちゃんは私のこと、どう思ってるのさ……」

 

 

なんでこんなことを聞いたのかわからない。

でも知りたい。

 

 

 

鞠莉『意外と素直になれない、可愛い妹……かしらね。』

 

 

 

 

 

なんでなんだろう?

私は酷いことをしているのに、どうして鞠莉ちゃんは助けようとしてくれるの?この前もそうだった。

 

私がAqoursの中での居場所を失くすと、必ず助けようとしてくれる。

 

 

 

 

でも、それが私には辛い。

 

 

 

 

 

邪魔をしていることが辛い。私がいなければ鞠莉ちゃんも悩む必要がないはずなんだ……

 

 

 

 

鞠莉『曜。これだけは約束して。』

 

曜「なに?」

 

 

鞠莉『たとえAqoursに何かあっても、あなたは離れないで。

あなたからAqoursを見捨てるようなことはしないでほしいの。』

 

 

曜「私は見捨てたりなんかしないよ。」

 

 

 

これはなぜか言い切れた。約束を破らない自信があった。

見捨てたりしない。ただ、邪魔をしないように影から応援しているだけ。

 

 

 

鞠莉『わかった。安心した。

あとは果南とちかっちのこと、頼んだわ……』

 

 

 

 

 

そして鞠莉ちゃんとの通話は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「……あとは。」

 

 

あとって何?

これから先はお願いってこと?

 

 

……これから先は鞠莉ちゃんは、どうなるの?

 

 

 

曜「せめて、鞠莉ちゃんが変なことをしないようにしないと……」

 

 

でも、どうすればいいの?今の私じゃ鞠莉ちゃんを説得することなんてできないよ……

 

 

 

 

私は甘えているの?鞠莉ちゃんの優しさに……。

 

そして、自分の情けなさに。

 

 

 

 

 

曜「誰かに甘える……」

 

 

 

ダイヤ『もっと頼ってくれていいのですよ?私はあなたの先輩なのだから。』

 

 

曜「ダイヤさん……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイヤ『もしもし、曜さん。』

 

曜「ダイヤさん……」

 

ダイヤ『元気ですか。』

 

曜「助けて…」

 

ダイヤ『え……』

 

 

 

 

鞠莉『はっきり言えるのは、あなたがとても大事なメンバーだってダイヤが思ってるってこと。

 

ふふっ♪要は、ダイヤは曜のことが大好きってことよ!』

 

 

 

 

もし、助けてくれるなら…!

 

 

 

 

鞠莉『もちろん、マリーもあなたのことが大好きよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「鞠莉ちゃんを助けて!」

 

 

 

 

せめて、助けてくれようとしている鞠莉ちゃんを助けたい。

 

 

 

 

 

きっとそれが千歌ちゃんや梨子ちゃん、果南ちゃんを助けることにもなるはずだから……

 

 

 

 

 

 

 

 


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