向日葵に憧れた海   作:縞野 いちご

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鞠莉ちゃん視点です。今まで彼女の視点がなかった分、少し長いですがご容赦を…。


#4.5 三年生として

 

 

 

 

 

 

曜のことを話し合うということで、練習をお休みにして、一部のメンバーを除いて部室に集まっていた。

 

 

 

花丸「曜ちゃんをこのままにはできないよ。」

 

 

花丸が最初に口を開いた。

 

 

ルビィ「そうだね……」

 

ダイヤ「曜さんがいなくてもやっていけるようにしないとならないと思いますわ。」

 

善子「ケガしてるんだし、これ以上はね……」

 

 

思い思いに曜についての意見を話していた。私は少し考えを整理させてもらう。

 

 

ダイヤ「曜さんには衣装係としての役目もありましたが、ルビィも手伝いを通して経験しましたし、やっていけますね?」

 

ルビィ「う、うん!

曜ちゃんほど上手にはできないかもしれないけど。」

 

 

ルビィは褒めて伸ばした方が良いことはわかる。褒めちぎるくらいでいいと感覚でわかる。

 

鞠莉「大丈夫♪ルビィだって手先がExcelentよ☆」

 

 

そういえばさっきから梨子が会話に参加していないわね。私と同じで聞き役かしら?

 

 

 

梨子「っ!」ガタッ

 

 

What!?

いきなりなに?

 

まさかね……

 

 

鞠莉「梨子?どこ行くの?」

 

 

私の質問に答えることもなく、梨子はドアへと走っていった。

 

 

ダイヤ「梨子さん!」

 

 

 

部屋を出ていった梨子を追いかける形でダイヤも外に行ってしまった。

 

 

 

鞠莉「私たちも追いかけるわよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梨子を探し始めてからあまりしない間に、体育館の裏から曜の怒号が聞こえてきた。

 

 

曜「私の何がわかるって言うの!?」

 

 

 

居るはずのない曜の叫び声にみんなは驚いていたけど、梨子もそこにいることはわかったので、みんなで向かうことにした。

 

そしてやはり体育館の建物を背に、曜と梨子が立っているのが見えた。

 

 

 

 

鞠莉「曜!」

 

花丸「なぜ曜ちゃんがここに…?」

 

ダイヤ「今日は練習は休みだとお伝えしたはずでは…」

 

 

 

戸惑っている私たちを尻目に、曜が口にしたのは鋭い棘を含んだ言葉だった。

 

 

曜「悪いのはみんなじゃん」

善子「曜さ」

 

 

曜「悪いのはみんなの方だ!

私は悪くない!私は悪くない!!」

 

 

ルビィ「ピギッ」

 

 

善子のフォローも聞かずに、曜はいきなり感情を爆発させた。

 

 

ダイヤ「わ、私は誰が悪いかという話はしてい」

 

曜「だって騙したのはそっちなんだから!私は悪くない!」

 

 

 

曜は勝手に話し合いをしていたくらいで、簡単に怒る子ではないと思っていた。

ただ、精神が不安定になっているときに、自分だけ省かれるようなことをされたら、怒るに決まっている。

 

軽率だったわ……

 

 

 

 

梨子「曜ちゃん、落ち着いて!」

 

 

私の考えがまとまる間も無く、梨子が曜を制止した。

 

 

梨子「私も考えていたんだよ。これでいいのかなって。」

 

善子「どういうこと?」

 

梨子「曜ちゃんの言った通りだよ。曜ちゃんに嘘ついて、こんな話をしていていいのかなって。」

 

 

気持ちはわからなくないけど、梨子の曜へのフォローは私たちへの非難にも聞こえた。それは聞いててhappyな気分になり得ない。

 

 

 

花丸「でも…。でも……」

 

ダイヤ「…そうしたら花丸さんや私が悪いと間接的に言っていると受け取ってよろしいですか?」

 

 

あなた達ではなく私が原因なのだけど、ここで名乗り出ても話が迷走しそうね。

 

 

梨子「そんなこと言ってないです。

でも、曜ちゃんのことを考えればこうなるってことくらい予想できた気がして。」

 

 

鞠莉「意地悪な質問をしてもいいかしら?」

 

 

咄嗟に口から出ていた。あまりcoolになれないのは好ましくないけど、感情を抑えきるのは中々hardね……

 

 

梨子「…なんでしょうか?」

 

 

 

でも、聞きたい。

ずっと議論していた時も黙っていたあなたは何を考えていたのか。

 

 

 

鞠莉「あなただったらどうしたの?」

 

 

梨子「……。」

 

鞠莉「他人の批判はいくらだってできるわ。でもね?何かTryしようとすると上手くいかないものよ。」

 

梨子「私だったら……」

 

 

善子「どうだっていいわよ!

こんな責任のなすりつけ合いなんて!」

 

ルビィ「よ、よしこちゃん…」

 

 

 

善子が間に入ってきた。

 

 

 

善子「私たちは曜さんのことを話していたわ。曜さんのいないところで。」

 

 

 

善子ははっきりと曜を見てそう言った。はっきりと言ったところに清々しさを感じるけど、その選択肢は正しくないわ。まだ青いわね……。

 

善子「でもそれは!」

 

 

曜「もういいよ。

ありがとう善子ちゃん。みんなもごめん。みんなのことを悪いなんて言って。」

 

 

花丸「そんな…」

 

 

曜「薄々は気づいてたよ。みんなの考えてることに。でも怖くて踏み出せなかったんだよ。」

 

 

鞠莉「ということは、もう踏み出せるのね?」

 

 

嫌な予感はするけれど、曜の考えていることを聞くのは悪くないかもしれない。そう思ってしまうのは魔が差しすぎているのかしら。

 

 

曜「うん。もう決めたよ。」

 

ダイヤ「しかし一体何を決めたと言うのです?」

 

 

曜「私ね」

 

 

曜が次の言葉を出そうとした時だった。

 

梨子「ダメ!」

 

 

梨子が出したとは思えないほど、普段よりとても大きな声が聞こえた。

 

するとダイヤが連鎖的に反応する。

 

ダイヤ「まさか、あなた…!!」

 

 

 

 

目まぐるしく変わる展開に目を丸くして様子を見ている一年生と火花を散らしている曜たち。正直、どうにかなる状況なの、これ……

 

 

 

パァンッ!!

 

 

 

軽快な音が鳴り響いたと思い見てみると、梨子が曜の右頰に強烈なビンタをしていた。

 

 

鞠莉「梨子……あなた………」

 

梨子「これ以上は言わせない!何としても私は……私はっ!!」

 

 

かなり梨子は頭に血が上っているみたいだった。

 

 

 

ルビィ「梨子ちゃん落ち着いて!」

 

花丸「ぶ、ぶつくのは良くないずら!」

 

 

 

なんとかなだめようと一年生が間に入ろうとしているけど、曜には多分届いていないわね。まずいわ……

 

 

 

曜「一番ずるいのは梨子ちゃんだよ!」

 

梨子「!?」

 

 

 

そしてダムが決壊したかのように、曜の今まで溜まりに溜まった感情が私たちにむき出しにされた。

 

 

 

曜「転校してきてすぐに千歌ちゃんと打ち解けて、自分に自信が持てないフリして千歌ちゃんの興味を向けさせて、挙げ句の果てには私のいた場所まで奪っていくんだ!!」

 

 

鞠莉「曜っ!!」

 

 

私は曜の肩を掴んだ。でも曜は止まろうとしていない。

Enough!!

これ以上はもうやめてよ……

 

 

曜「そしてどこにいても善人ぶってるんだ!みんなの前では他人を心配するような素振りをして、ピアノの大会があれば自分を優先するんだ!みんながどうなるかなんて考えないで……本当にずるいよ!

 

一番ずるいのは梨子ちゃんだ!」

 

 

 

 

終わった。

 

 

その場が一瞬にして凍りづけになった感覚を味わった。

 

みんなの顔からは明らかに恐怖が感じられる。もちろん私からも。

 

 

 

曜「がっかりした?

……そうだよ。明るいフリをして、本当の心の中は真っ暗。みんなのことだって信用してないから!!」

 

 

その場の空気に耐えかねた曜が追い討ちのようにそう言い放つと、まるは魂が抜けたように膝から崩れ落ちた。

 

 

 

ルビィ「は、花丸ちゃん!!」

 

ダイヤ「あ、あなたは……なんてことをっ!」

 

曜「当然でしょ?

嘘をつかれて、信じろって言う方が無茶苦茶じゃない?」

 

 

ガンッ

 

 

ま、まずすぎる!このまま見過ごすわけには!

 

 

鞠莉「善子っ!」

 

 

 

私は叫んだけど、2人にはまったく届いていなかった。

今更わかった。先輩だと余裕ぶっていたのに、私は本当は無力なのだと。

 

 

 

善子「許さないわよ。」

 

曜「こっちのセリフだよ。」

 

善子「私が大好きだった、優しい曜さんを返せ!」

 

 

 

善子!それは言っちゃダメ…!

 

 

 

曜「優しくないんだったら私なんていらないんでしょ?」

 

 

善子「え……」

 

 

曜「ケガしてて練習できなくて、衣装も作れなくて、迷惑ばかりかけて、大会の邪魔をして、みんなを泣かせる私なんていらないんでしょ!?」

 

 

善子「ち、ちがっ!」

 

鞠莉「ストーップ!!」

 

 

 

とうとう私も声を荒げるしかなかった。というよりもそうせざるを得なかった。

 

 

曜「Aqoursなんて辞めてやる!!

みんなにとって私なんかいない方がマシなんでしょ!?」

 

 

梨子「お願いだからやめてぇぇっ!!」

 

 

 

泣き叫ぶ梨子の声が響く。

 

正直、心の底が一番見えないのはこの子。良い子すぎるというか、模範的すぎるのよ……

 

 

 

 

 

曜「…なら梨子ちゃんが辞めて。」

 

 

どうしたの…曜……

 

 

梨子「やめる……やめるよ……

みんなが、曜ちゃんが納得するなら、私がやめるよ………」

 

ダイヤ「ふ、ふ、ふざけるのも大概にっ!!」

 

鞠莉「Crazy.

曜、本当にどうしたの?」

 

 

私が想像している曜とはかけ離れてしまっている。

笑顔でヨーソローと元気よく挨拶をしてくれる明るい子ではなくなっていた。

 

 

 

 

曜「いっそのこと千歌ちゃん以外やめてよ。」

 

善子「!?」

 

鞠莉「……。」

 

ダイヤ「な、なぁっ!?」

 

 

 

 

 

どうして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌「よ…う……ちゃん……?」

 

 

 

 

 

 

ここにちかっちが来てしまうのよ……

 

 

 

曜「え……」

 

 

建物の脇からこちらを見て口を開けているちかっちがいた。

果南……。どうして止めてくれなかったの?

 

 

 

千歌「な、なにを……」

 

果南「……曜」

 

 

曜「みんなが私のことを騙してたから、怒ってたんだよ。」

 

 

千歌「でも、やめてって…」

 

 

 

 

 

 

 

曜「本当にみんな卑怯だよね。」キッ

 

 

 

違う。

こんなことは考えていなかったのよ…

 

 

 

でも、今更言い訳がましい

 

 

これは私の責任……

 

 

 

so stupid!!

 

 

 

 

千歌「みんなを傷つけないで。

 

曜ちゃんが出てってよ!」

 

 

 

果南「ち……か………」

 

 

 

曜「……。」

 

 

 

ちかっちの一撃とも言える一言で曜は静止した。

黙っている曜から感じられるのは……regret、それもとても深いものね。

 

 

 

鞠莉「曜……」

 

 

目の前に曜の顔がくるように近づいた。

 

 

曜「……ちゃんと……いいます」

 

 

 

ちゃんと?このタイミングで言うことなんてちゃんとしているわけない。

 

 

 

鞠莉「……聞きたくないわ。」

 

 

曜「わ、わたしは……」

 

鞠莉「やめて。」

 

 

曜「わたし……わたなべよ……ようは……」

 

 

私では曜を止められないと感じたその時だった。

 

 

果南「曜。」ギュッ

 

 

 

 

震えていた曜の身体がピタリと止まった。

 

 

幼馴染の大きさ。それ以上に果南への信頼の大きさ?

 

それはとても大きいものなのだとわかる。

 

 

 

 

 

 

 

でも、取り憑かれたものから解かれたような顔をした曜が話したのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「Aqoursから抜けます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイヤ「鞠莉さん。」

 

 

鞠莉「……ダイヤ。」

 

 

ダイヤ「おかしなことを言いますが、あなたらしくないです。」

 

 

 

私と果南とダイヤは生徒会室にいた。

昨日のこともあって、Aqoursの練習は当分できそうになかった。

 

 

 

ダイヤ「いつものあなたなら、次のことに向けて策を練るはずです。」

 

鞠莉「そう…ね。」

 

 

 

正直、次に何をすればいいかが検討がつかない。

 

 

 

ブブッ

 

 

私のスマホの画面が光った。

 

 

 

鞠莉「……。」

 

メールはラブライブの運営局からだった。

 

 

 

果南「また何か背負う気でいる?」

 

 

果南は他人のことに敏感すぎる。

 

鞠莉「背負うも何も、誰かがなんとかしないといけないのよ。」

 

ダイヤ「なんとかとは?」

 

 

私は画面の文字を見ながら、メールの内容を二人に伝えた。

 

 

鞠莉「ルール違反に対する話よ。」

 

 

ダイヤ「……曜さんのことですか。」

 

果南「どうなるの。」

 

 

果南の問いかけに私は答えるしかないと思った。私が今のAqoursにできるベストは何か。

 

 

 

 

それは

 

 

鞠莉「……私が責任を取って理事長の座を降りるわ。」

 

ガッ

 

 

ダイヤ「果南さんっ!」

 

 

 

 

果南の座っていた椅子が飛び、私の頰に果南のビンタが飛んでくる寸前でダイヤが止めた。

 

 

 

果南「なんでよ……」

 

 

震える声で果南は私に問いかける。

 

 

 

果南「いつも勝手に!」

 

ダイヤ「果南さん……」

 

果南「鞠莉が大変だったら、私は助けたいのに、それなのに、なんで!?」ポロポロ

 

 

私はまた果南を泣かせてしまった。

 

 

 

ダイヤ「……せめて、鞠莉さんが責任をとることがAqoursのルール違反についてどう繋がるかを教えてください。」

 

 

 

鞠莉「わかったわ。」

 

 

 

あまり、二人には考えて欲しくなかったことなのだけどね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイヤ「顧問が責任を取る?」

 

鞠莉「そうよ。」

 

ダイヤ「まさか、この部の顧問って」

 

鞠莉「私だったのよ。」

 

ダイヤ「通りで申請から認可までの時間が短いわけですわ。しかし、それでは……」

 

 

果南「鞠莉はこれからどうするの?」

 

 

 

正直、わからない。

部員としては活動できるのか、それとも退部もしないとならない?

 

 

 

 

 

 

 

まさか

 

 

 

理事長の肩書きがなくなって、転校しないといけない?

 

 

 

 

果南「またいなくなるの?」

 

 

鞠莉「それは私にもわからないわ。」

 

果南「……。」

 

 

 

 

 

Why……

 

こんなことになるなんて……

 

 

 

 

鞠莉「ごめん。果南、ダイヤ。

それでも、私は行くわ。Aqoursはもはや私たちだけのものではなくなったのよ。リーダーはちかっちよ。それに他の子たちだって頑張ってる。」

 

ダイヤ「それはわかっていますわ。しかし…」

 

鞠莉「私は輝いてる果南とダイヤを見るのが好き。だから、その手伝いができればいいのよ。」

 

 

果南「……全然わからないよ。」

 

 

 

 

果南が納得してくれるまでは行けないけど、納得なんてしてくれるの?

 

 

 

 

 

鞠莉「でも……」

 

ダイヤ「でも?」

 

鞠莉「曜をこのまま放っておくわけにはいかない。」

 

果南「……。」

 

鞠莉「このままAqoursがラブライブに出場できなかったら、曜は今よりさらに追い詰められるわ。」

 

ダイヤ「それは!

そうですが……」

 

 

 

 

 

果南「曜……」

 

 

 

私は酷いことをしたのかもしれない。

果南は曜のあの退部宣言は自分のせいだと考えている。

 

 

 

鞠莉「安心して。曜は必ずAqoursに戻ってくるわ。」

 

 

 

確信はない。

でも、言ったことはやり遂げる。何としてでも。

 

 

 

目の前で力無くへたり込んだ果南を見て、私は固く誓った。

 

 

 

 

 


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