向日葵に憧れた海   作:縞野 いちご

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今回は梨子ちゃん視点です。


#8.5 わたしの番

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「梨子ちゃん。」

 

梨子「どうしたの?」

 

曜「ここのステップなんだけどさ……」

 

梨子「ああ。3人で踊るところの部分ね?」

 

曜「もう少し動きが…………」

 

 

 

 

 

 

曜ちゃん

 

 

 

 

 

 

 

痩せたよね……

 

 

 

 

曜「…………だからね、私としたら」

 

梨子「曜ちゃん。」

 

曜「うん?何か気になった?」

 

 

ちょっと聞いてみよう。

 

 

 

梨子「最近、ちゃんとご飯を食べてる?」

 

曜「え?」

 

梨子「なんか痩せた気がして……」

 

曜「私が痩せた……?」

 

 

曜ちゃんは顔をペタペタと触った。

 

 

曜「三食抜いてるわけじゃないんだけどね。もし気になるなら、意識するよ。」

 

 

そう言って曜ちゃんはニコリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習が終わって、私と千歌ちゃんと曜ちゃんで帰っていた。

 

 

 

 

千歌「今回は披露できる時間が長いんだよね。」

 

梨子「そうね。今度は私たちなりのパフォーマンスも考えないと。」

 

千歌「歌詞も珍しく順調に書き込めてるから、梨子ちゃんの曲に合わせられるよ。」

 

梨子「東京に来たのがいい機会になったね。」

 

千歌「うん!」

 

 

千歌ちゃんはスクールアイドルの話をする時、いつも以上に楽しそうな顔になる。

 

私はこの眩しい笑顔に魅せられてるんだ。

 

 

曜「それじゃ作業が残ってるから、私は帰るね。」

 

 

あ……。

 

 

千歌「うん。曜ちゃんとルビィちゃんの作ってくれた衣装、楽しみにしてるね。」

 

曜「ありがとう。頑張るよ。

またね。千歌ちゃん、梨子ちゃん。」

 

千歌「バイバイ。」

 

梨子「またね。」

 

 

 

 

 

 

振り向いた瞬間に見せていた、寂しげな曜ちゃんの顔を、私は見逃してはいなかった。

 

 

 

 

 

 

梨子「千歌ちゃん。」

 

千歌「うん?」

 

梨子「先に帰っていてくれないかな?」

 

千歌「えー。どうしたの?梨子ちゃんも用事があるの?」

 

梨子「……そうだね。

私にとって、とても大事かな。」

 

千歌「私よりも?」

 

 

なんでそういう聞き方になるのかな?

 

 

梨子「千歌ちゃんは大事だよ。

でも、他にも私には大事にしたい人がいるから……。」

 

 

こう断ると、なんだか浮気をしてるみたいな気持ちになるなあ。千歌ちゃんとはそういう関係じゃないのだけど。

 

 

千歌「だいじな……!」

 

 

千歌ちゃんは何かに気づいた様で、さっきとは打って変わって真剣な顔つきになった。

 

 

千歌「……私もついていっちゃダメ?」

 

 

 

多分、気づいたんだよね?

 

でも……

 

 

梨子「私は二人で話をしたいの。だから、千歌ちゃんは待っててくれると嬉しいな。」

 

千歌「そっか……」

 

 

千歌ちゃんは何か考えたような素振りをした後に「じゃあ、帰るね!」と言って、笑顔で手を振った。

 

 

 

ありがとう、千歌ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

私はバスに乗って、曜ちゃんの家に向かった。初めてだけど、場所は千歌ちゃんに教えてもらったのでわかる。

 

 

 

梨子「……立派なお家。」

 

 

千歌ちゃんが教えてくれた通りに来ると、大きな家が建っていた。

 

 

 

 

渡辺

 

 

 

間違いない。曜ちゃんの家だ。

 

 

 

 

家に付いているインターホンを押す。

 

 

曜ママ『はい。』

 

梨子「曜ちゃんの友達の桜内です。」

 

曜ママ『さくらうち……?

……ああ!梨子ちゃんね?曜から話をよく聞いてるわ。ちょっと待っててね。』

 

 

待っていると、曜ちゃんのお母さんがドアを開けて顔を覗かせた。曜ちゃんに似てるけど、曜ちゃんと違って元気な感じよりも落ち着きのある雰囲気を出していた。

 

 

曜ママ「いらっしゃい。よくうちの場所がわかったわね。」

 

梨子「千歌ちゃんから教えてもらったんです。」

 

曜ママ「そう。千歌ちゃんと仲がいいのね?」

 

梨子「はい。千歌ちゃんも曜ちゃんも大切な友達です。2人とも、こんな地味な私を引っ張ってくれるんです。」

 

 

ここまで言ってしまったら変だったかな……

 

 

 

曜ママ「地味な子だとは思わなかったわよ?

 

品行方正で可愛らしい子に見えるかな。」

 

 

 

 

……よう……ちゃん?

 

 

 

曜ママ「うん?どうしたのかしら?」

 

 

梨子「い、いえ!」

 

 

私を真剣に見つめながら、優しい言葉をかけてくれる姿が、どこか曜ちゃんを感じさせた。

 

やっぱり親子……なんだよね。

 

 

 

曜ママ「今日は遊びに来てくれたの?」

 

梨子「はい、突然で申し訳ないんですが……。」

 

曜ママ「いいえ。

最近は千歌ちゃんが来ることも少なくなっているし、友達とうまくいってないんじゃないかと思って、少し不安だったところよ。」

 

 

梨子「……。」

 

 

曜ママ「さあ、上がっていって。曜なら、自分の部屋にいると思うから。」

 

梨子「ありがとうございます。」

 

 

 

 

そうして、曜ちゃんの家にお邪魔した私は、曜ちゃんの部屋に向かった。

 

 

曜ちゃんの部屋はドアが開いていて、中が夕焼け色に染まっているのが見えた。部屋の中に入ると、ベッドに横になっている曜ちゃんがいた。

 

 

 

スースーと寝息を立てている曜ちゃんの顔は可愛くて、思わずほっぺをさわってしまった。

 

 

梨子「千歌ちゃんみたい。」

 

 

そう思いながら顔をよく見ていると、さっき触った頰のところに何かの跡が残っていた。

 

 

 

なみだ……?

 

 

泣いていたのかな……

 

 

 

曜ちゃん、最近はずっとおかしかった気がする。空元気というか、無理をしているというか。

 

 

 

曜『……ぁう……っく!』

 

 

 

あの時から、曜ちゃんは……

 

 

梨子「あの時抑えていた腕は左だったよね。」

 

 

私は曜ちゃんの袖をめくって、腕を見ようとした。

 

もしかしたら、もしかしたら曜ちゃんは私たちにずっと何かを隠し続けていて……

 

そう考えると怖くなってしまった。

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

梨子「なに……これ…………」

 

 

 

 

真っ赤になって腫れている腕を見て、私は言葉を失った。

 

 

 

まさか、あれからずっとこの腕で練習をしていたの?こんなにパンパンに腫れてしまっている状態で?

 

 

 

私が曜ちゃんの腕の腫れているところをさすると

 

曜「いっ!」

 

と言って、曜ちゃんは顔をしかめた。

 

 

 

 

ダメ……

 

曜ちゃんを休ませなきゃ……

 

 

 

それからすぐに曜ちゃんは体を起こした。

 

 

曜「ん、ん〜?

あれ?梨子ちゃん?どうして私の部屋にいるの?」

 

 

まぶたを擦りながら、曜ちゃんは私を見つめた。

 

 

曜「急にどうしたの?何か相談したいことでもある?

……あ、千歌ちゃんのことでしょ!」

 

梨子「……違うよ。」

 

 

 

私から見た曜ちゃんはいつもそうだ。自分のことは後に考えている。

 

 

 

曜「……梨子ちゃん?

本当にどうしたの?」

 

 

 

 

私は泣きそうだった。

 

ずっと痛い思いをしているのに、私たちの前ではずっと笑顔でいようとしている曜ちゃんの姿が、あまりにも健気で、見ているだけでも痛々しかった。

 

 

曜「り、梨子ちゃん……」

 

梨子「お願い!!」

 

曜「!?」

 

梨子「もう……もう無理をしないで!」

 

曜「無理?無理なんて……」

 

梨子「無理してるよ!その腕で無理してないわけない!」

 

 

曜「え……」

 

 

 

私の一言で、曜ちゃんの顔は一瞬にして暗くなった。その表情は何かに怯えている様にも見えた。

 

 

 

曜「見ちゃったの……?」

 

 

曜ちゃんの質問に私は首を縦に振って答える。

 

 

 

曜「あはは、はは……。

どうしてかな?この前はルビィちゃんにもバレちゃうし、私もがんばってるんだけど。」

 

 

曜ちゃんは苦笑いをして、頭の後ろを手でかいた。

 

 

 

曜「でも、平気だから。」

 

梨子「……。」

 

曜「痛そうに見えるけど、案外痛くないんだよ?」

 

 

 

嘘だ。

 

 

 

梨子「ダメだよ。怪我をしてるんだから休まなきゃ。」

 

曜「今休んだら、みんなにも迷惑かけるよ。」

 

梨子「迷惑になんてならないよ!私は曜ちゃんに無理をさせるほうが……」

 

曜「迷惑にならないわけないじゃん!!」

 

梨子「!!」

 

 

そうだ。曜ちゃんがここまで迷惑をかけないようにしたのは、予備予選のときに一番大変な思いをしたからだ……。

 

私が抜けて、その代わりに曜ちゃんがフォローをしてくれた。でも、それはとても大変なことで、かなり無理をしていたんだと思う。

 

 

 

しかも今回は前と違って、あと一週間もない状況。

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも……私は……

 

 

 

 

曜「……もう少しでひと段落つけるから、頑張らせて?」

 

梨子「……私が曜ちゃんの分までカバーする。」

 

 

 

曜「なに……言ってるの?」

 

梨子「曜ちゃんがしてくれたように、今度は私が曜ちゃんを助ける!」

 

曜「っ。」

 

梨子「私が曜ちゃんが抜けたとしても、大丈夫なくらい頑張るよ!曜ちゃんが休んでもみんなに負担がかからないように!!」

 

 

 

今度は私が曜ちゃんを助ける番だよ。今から、9人で踊るのと同じパフォーマンスを曜ちゃん抜きでやらなくちゃいけないのは大変だけど……

 

 

それでも、これ以上曜ちゃんが苦しんでいるのを見過ごすわけにはいかないよ。

 

 

 

曜「どうして……」

 

梨子「曜ちゃん?」

 

 

曜ちゃんは肩を震わせ、俯きながら叫んだ。

 

 

曜「どうして!?人のために頑張ることがそんなにいけないことなの!?」

 

梨子「そ、そんなこと言って……」

 

 

いけない、なんて言ってない。

でも、それはとても悲しいこと。誰かのために誰かが傷つく道を選ばせたりはしたくない。

 

まして、それが私の友達なら尚更……

 

 

 

曜「私は悲しませたくないの!!

みんなが私に期待してくれているのを裏切りたくないの!!」

 

梨子「よ、ようちゃん……」

 

曜「おねがい……

おねがいだからぁ…………」

 

 

 

曜ちゃんは泣いていた。

 

曜ちゃんへのプレッシャーの大きさはすごかったことが改めてわかった。

 

千歌ちゃんが背負っているリーダーとしてのプレッシャーは私は身近に感じていた。

その千歌ちゃんの押し潰されそうな気持ちは、この前にみんなで解決した。その時から千歌ちゃんには迷いがなくなった気がする。

 

 

 

梨子「曜ちゃん……。

私はね?本当は曜ちゃんが苦しんでいる顔を見たくない。でも、曜ちゃんが泣いている顔も見たくないの。」

 

 

 

でも、本当は解決なんかしてなくて、そのプレッシャーのしわ寄せが曜ちゃんに行っただけだったのかもしれない。

 

曜ちゃんも千歌ちゃんと同じで、1人で抱え込むタイプなんだと予備予選のときに知った。

 

 

ただ、曜ちゃんは千歌ちゃんよりも強い。耐えることができてしまう子なんだ。

 

 

 

 

でも、その先はきっと…………

 

 

 

 

梨子「……だから約束して。

1人で、もし辛いと思ったら私に相談して。

 

1人で苦しまないで。」

 

 

 

このことはきっと、千歌ちゃんには話したくないこと。

 

 

 

曜「……わかった。」

 

 

 

 

なら、私が支えないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

もう、大事な友達が苦しむ姿は見たくないから……。

 

 

 

 

 

 


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