向日葵に憧れた海   作:縞野 いちご

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#11 デート

 

 

 

 

 

 

 

練習を抜け出す形で家に帰ってきた私は、ベッドの上に寝転んでいた。

 

 

 

 

眠りたくはない。

 

 

 

 

今、目を閉じるとさっき見た光景が目に浮かんでくるから。

 

 

 

 

みんなの唖然とした顔。

 

 

いや、梨子ちゃんだけは唖然というより諦めたような表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

その後すぐに飛んできた言葉は

 

 

 

 

 

千歌「それ……ほんとうなの?」

 

 

 

悲しそうな表情を浮かべながら、千歌ちゃんは私を見ていた。

 

 

 

 

私はどうするべきだったのか。

 

 

 

 

 

 

 

すぐに謝るべきだった?

 

 

 

それだと、本当に心の中で梨子ちゃんを嫌いだと思っていたことを認めざるを得ない。

 

 

 

 

 

すぐに否定するべきだった?

 

 

 

とっさに言い訳のように否定しても信じてもらえるはずがない……

 

 

 

 

結局、私が取った選択肢は

 

 

 

 

曜「……。」

 

 

 

 

ただ黙っている、というものだった。

 

 

 

 

 

どう考えても、黙ってしまうのは一番良くなかった。

よく考えればわかるはず。

 

そう。

よく考えればわかるはずなのに……

 

 

 

 

ダイヤ「あなたは何をしたのかわかっているのですか?」

 

 

ダイヤさんからの冷たい言葉がささる。

 

 

ダイヤ「大会前2日前という日に……あなたは…!」

 

果南「ダイヤ、やめな。」

 

ダイヤ「しかし!」

 

 

梨子「やめてください。」

 

ダイヤ「梨子さん。わかっているんですか?」

 

梨子「わかってます。私なりに自覚はしてますから。」

 

ダイヤ「っ……。」

 

 

 

梨子ちゃんの言葉でダイヤさんは引き下がった。

 

 

 

 

 

つまり梨子ちゃんが場を収めてくれたわけだった。

 

場を荒らした私と対照的に。

 

 

 

それが私には悔しいとも悲しいともなんとも言えない気持ちにさせた。

 

 

 

だから私はその場からいち早く逃げたくて、みんなに背を向けて走った。

 

 

 

今日の中で腕の痛みが感じられなかったのは、あの一瞬だけだった。

 

胸の中が吐きそうなほどムカムカして、気持ち悪くて、切ないような、やるせないような…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とにかく、もうあそこに私の居場所はない。

 

 

でも今の私からAqoursを取ってしまったら、一体何が残るっていうんだろう?

 

 

 

 

ブーッ、ブーッ

 

 

 

 

ベッドの上に放り投げてあったスマートフォンが鳴った。

 

画面を起動させて見てみると

 

 

 

LINE 30秒前

 

よしこちゃん

明日の練習はお休みになったわ。明後日のライブに向け…

 

 

 

善子ちゃん……

 

 

 

善子『まあ。気が変わったら、気軽に話してよ。いつでも聞くから。』

 

 

 

 

 

 

……私は何を考えているんだ

 

 

 

ここにきて人に頼るなんてずるすぎる。ましてや後輩になんて。

 

 

 

ブーッ

 

曜「!」

 

 

スマホのバイブに反応して見てみると、画面には善子ちゃんの上にもう一件来ていた。

 

 

 

LINE 20秒前

 

マリちゃん

明日は私とデートしない?

 

 

 

 

 

デートか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日は練習も休みになったようで、私はいつもより少しだけ遅く起きた。

 

それなのに体は全然休まっていなくて、どんよりとしたものが私を覆っている感覚だった。

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

……あっ。

 

 

 

 

鞠莉『Chao〜♪』

 

 

 

インターホン越しで鞠莉ちゃんが手を振っていた。

 

 

曜「どうして私の家を?」

 

鞠莉『果南から聞いたわ。』

 

 

私の家の場所がメンバーにどんどんとバレてる。

まあ、隠す理由もないけど。

 

 

曜「それは置いておいて、どうして私の家に?」

 

 

私も随分と白々しいなあ、なんて思うけど一応聞いてみる。

 

 

鞠莉『あら?昨日からメールをチェックしてないの?』

 

曜「まあ……。

昨日は色々とあったから……」

 

鞠莉『Sorry.

曜のことだからてっきり見てると思ってたわ。』

 

曜「……それで私に何かあるの?」

 

鞠莉『じゃあ、改めて。

 

今日はマリーとデートしましょ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一度は断ったものの理事長命令(?)を出されて、私は家の外に引きずり出された。

 

 

 

鞠莉「どこか行きたいところとかある?」

 

曜「ええ?決めてなかったんだ……」

 

鞠莉「私は女の子だし、やっぱりエスコートしてもらいたいじゃない?」

 

曜「いやいや。私も女の子だから。」

 

 

鞠莉「遠慮なんてNo good!どこでもいいのよ?明日に響かないような場所ならね?」

 

曜「まあ、遠出は無理だよね。」

 

 

 

鞠莉「なら、あそこに行く?」

 

曜「あそこ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「鞠莉ちゃんって、意外とここ好きだよね。」

 

鞠莉「イヴニングは特にね。」

 

 

 

私と鞠莉ちゃんは、いつか二人きりで話しをしたことのある展望台に来た。

 

 

 

 

曜「デートって言っても、ここだとあまりすることないね。」

 

 

 

私は青い空を見上げながら言った。

 

 

 

 

鞠莉「ねえ、曜。」

 

曜「うん?」

 

 

 

鞠莉「ハグしない?」

 

曜「は?」

 

鞠莉「聞こえなかったかしら?ハ…」

 

曜「いやいや!聞こえた、聞こえた!!」

 

鞠莉「そう。なら、レッツ…」

 

曜「いやいやいや!

いきなりハグってよくわかんないし、それって果南ちゃんの十八番だし…」

 

鞠莉「あら?私がやるんじゃプライスダウン?」

 

 

ハグに値段とかってあるの…?

 

 

曜「と、とりあえず恥ずかしいからパスで。」

 

鞠莉「もうっ。曜って本当にシャイなんだから。」

 

 

やれやれ、といったような声色で鞠莉ちゃんは言った。

 

 

曜「鞠莉ちゃんが大胆すぎなの。」

 

鞠莉「ん〜?

それはどうかしらね。」

 

曜「鞠莉ちゃんからは私たちとは違う大物感があるよ。」

 

 

ふと鞠莉ちゃんの顔を見ると、難しい顔をしていた。

 

それは何かを悩んでいるような顔。鞠莉ちゃんにしては珍しかった。

 

 

 

鞠莉「でも果南のことについてはちゃんと踏み込めなかったわ。」

 

 

曜「…鞠莉ちゃん。」

 

 

振り返って背中を向けた鞠莉ちゃんからは、何とも言い表せないような空気が漂っていた。

 

 

鞠莉「このままだとお互いに傷つくだけよ。」

 

曜「お互い?」

 

鞠莉「私と果南のように。」

 

 

 

鞠莉ちゃんは相変わらずこっちに顔を向けなかった。

 

私には鞠莉ちゃんがどんな顔をして、どんな気持ちで私に話しかけているのかわからなかった。

 

 

鞠莉「大会が終わったらハッキリ伝えるんだよ。」

 

曜「……。」

 

鞠莉「曜の気持ちをちゃんと伝えなきゃ。」

 

 

 

その後「こーんな暗い話はこれからはタブーね♪」と言って、鞠莉ちゃんは笑顔に戻った。

 

結局、私と誰との間の問題かは言わなかったけど、昨日のことを考えれば誰かなんて決まってる。

 

 

 

 

明日で色々な意味での踏ん切りがつく気がする。

 

 

 

水泳部のことも

 

スクールアイドルのことも

 

梨子ちゃんとのことも

 

 

 

もちろん鞠莉ちゃんに言われたことも

 

 

 

 

とにかく明日はライブが成功しますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、なんとしても成功させなきゃ……

 

 

 


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