向日葵に憧れた海   作:縞野 いちご

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#9 やくそく

 

 

 

 

 

梨子ちゃんが帰った後、部屋の中での会話を聞いていたのか、ママが私をじっと見つめたまま何か言いたげそうな素振りをしていた。

 

 

 

曜「ママ?どうかした?」

 

曜ママ「……それはあなたに聞きたいわ。」

 

曜「……。」

 

曜ママ「なにか梨子ちゃんとあったの?」

 

 

ママにはどんな話をしていたかは聞かれていなかったみたいだ。

 

 

曜「ちょっとライブのことで意見が食い違っちゃっただけだよ。その後も少し気まずかったけど、明日にはきっと直るから。」

 

 

そう言って私は笑った。

 

 

曜ママ「珍しいわね。ずっと一緒にいた千歌ちゃんとだってあまり喧嘩をしないのに……」

 

曜「そうだね……」

 

 

 

私が千歌ちゃんと怒鳴りあったりするような喧嘩をしたのは、いつが最後だっただろう?

 

 

高校の間にはなかったし。

 

 

 

中学のときも覚えてない。

 

 

 

 

小学生のときは………

 

 

 

 

 

曜ママ「とりあえず、早くシャワーを浴びてきなさい。そうしたらご飯を食べましょ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜ご飯も食べ終わり、私は自分の部屋に戻った。夕方に少し眠ってしまったから、衣装作りを今のうちに進めておかないと……

 

 

衣装も大分できてきて、あとは調整をしていくだけだ。今日は買ってきた小物とのバランスを考えていこう。

 

 

確かルビィちゃんと買いに行った小物は小物入れに入れておいたはず……

 

曜「あ。」

 

 

 

小物入れからアクセサリーを探していると、懐かしいものを見つけた。

 

 

曜「四つ葉のクローバー……」

 

 

 

私は小物入れにある、四つ葉のクローバーの髪どめを手に取った。

これは千歌ちゃんから貰ったもの。忘れられない、私にとって大事な約束が詰まった宝物だ。

 

 

 

曜「普段から髪どめを使う柄でもないし、御守り代わりにして持ってようかな。」

 

 

 

ラブライブは千歌ちゃんとの大切を果たせるチャンスなんだ。だから、なんとしても千歌ちゃんのことをサポートしたい。

 

 

曜「もう一踏ん張り、もう一踏ん張り。」

 

 

全員分のアクセサリーを見つけた私は、早速作業に取り掛かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あれ?

 

 

さっきまで私、自分の部屋にいたよね?

 

 

 

それにこの景色は……

 

 

 

 

 

千歌「よーちゃん。」

 

曜「!」

 

千歌「目をとじて?」

 

 

 

やっぱり、私が夕方に見た夢と一緒だ。

 

 

曜「……こ、こうかな?」

 

千歌「うん!それじゃ、えーとねぇ。

……あった!はい、これっ!」

 

 

目を閉じている私の手のひらに、千歌ちゃんが何かを渡したのが伝わった。

 

 

曜「目をあけてもいい?」

 

千歌「いいよ!」

 

曜「……わあ。」

 

 

私の手のひらには、先ほど部屋で見つけた四つ葉のクローバーの髪どめが握られていた。

 

 

曜「かわいい……!」

 

千歌「でしょ〜?」

 

曜「うんっ。」

 

千歌「くろーばーってもってると、こううん?になるんだって!」

 

 

千歌ちゃんは人差し指を突き出して、私に向かって胸を張ってそういった。

 

 

曜「ありがとう。」

 

千歌「これでようちゃんは、ずっとしあわせなのだ!」

 

曜「ふふふ♪そうだね!」

 

 

 

 

そういえばこの後……

 

 

 

 

曜「ねえ、ちかちゃん。」

 

曜「私からいっこ、やくそくしていい?」

 

千歌「なになに〜?」

 

曜「ちかちゃんのまえでは、もうなかない!」

 

千歌「なかない?」

 

曜「ちかちゃんもにっこりできるように、私もにっこりする!」

 

千歌「にっこり……」

 

曜「だって、ちかちゃんといっしょなだけでたのしいから!」

 

千歌「ようちゃん…!」

 

 

千歌ちゃんは驚いた顔をしてたけど、すぐにいつもの笑顔に戻った。

 

 

 

千歌「そしたら、ちかもやくそくをする!」

 

曜「ええっ!ちかちゃんはいいよ〜」

 

千歌「ヤダヤダ!ようちゃんばっかりじゃ、ふとーへーだもん!」

 

曜「ふとーへー?」

 

千歌「ちかがしたいの!おねがい!」

 

曜「……わかったよ。」

 

千歌「えへへ!

ちかのやくそくは……」

 

曜「やくそくは?」

 

 

 

このときの千歌ちゃんの温かい笑顔を、私は今でも鮮明に思い出すことができる。

 

 

 

 

 

千歌「ようちゃんがずっとにっこりできるように、ちかはずっとようちゃんの友だちでいる!」

 

 

曜「!!」

 

千歌「だってちかといっしょにいれば、ようちゃんはにっこりできるもん!」

 

 

 

千歌ちゃんの言葉とともに、千歌ちゃんの笑顔が白くぼやけていって、そのまま見えなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

ふたたび視界が開けてくると、私は自分の部屋で横になっていた。

 

 

 

 

私はあの日の約束をしてから千歌ちゃんとずっと友達だ。私が持っているクローバーの髪どめは、言わば私たちの約束の印。

 

千歌ちゃんはあのときの約束を守ってくれている。私が笑顔でいられるようにずっと友達でいてくれている。

 

 

 

 

 

私は

 

 

 

 

 

 

確かにあれから千歌ちゃんの前で泣くことはなくなった。悲しいことも辛いことも千歌ちゃんといれば乗り越えられた。

 

 

でも

 

 

 

 

 

曜『スクールアイドル……やめる?』

 

 

千歌『……。』

 

 

 

 

あの瞬間に私は千歌ちゃんを傷つけた。

 

 

 

 

 

 

私のよく使う魔法の言葉は、千歌ちゃんをずっと傷つけてきたのかもしれない。

 

いろいろと考えると、私が千歌ちゃんの前で笑顔でいる度に、千歌ちゃんの笑顔を奪っていっていたのではないかと嫌な思考回路がぐるぐると渦巻く。

 

 

 

 

曜「……。」

 

 

 

 

手元に置いてあったスマホが点滅をしていた。

 

 

 

 

メール 5時間前

ちかちゃん

よーちゃん、だいじょうぶ? 

 

メール 5時間前

ちかちゃん

なにか困ってたら私に相談してねo(^_^)o

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To:ちかちゃん

 

あのときの約束、まだ覚え

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「……。」

 

 

 

 

『作成したメールを破棄しますか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

ねえ、千歌ちゃん

 

 

 

 

 

 

私はこれからどうすればいいかな

 

 

 

 

 

 

 

 

『完了

 

メールを破棄しました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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