予感していた通り、次の日になっても腕の痛みは取れていなかった。
でも、千歌ちゃんに行くことを約束していたし、練習には行かなきゃ……
準備をして家を出ると、玄関の前に果南ちゃんが立っていた。
果南「おはよう、曜。」
曜「おはよう。ここまで来てくれるなんて、どうしたの?」
果南「ちょっと、曜と話したくてさ。」
果南ちゃんは柔らかい笑顔を見せながらそう言った。
果南「昨日の練習はどうだった?」
一緒に歩きながら言われたその第一声は、私に緊張感を与えた。
失敗してケガをした、なんて口が裂けても言えない。
それに、昨日の夜に私は……
曜「……。」
果南「曜?」
大会に出られないって言ったら、果南ちゃんは驚くんだろうなぁ……
果南「何かあったの?」
曜「……実は昨日ね、」
そこまで言って、私の中である事がふと浮かんだ。
ななみ先輩と果南ちゃんって友達だったんだ。
もしこのことを言って、果南ちゃんが先輩と喧嘩でもしたら……
果南「昨日?」
曜「……大会に出るのを辞退したんだ。」
果南「!?」
多分、これが正解なはず。
誰も傷つかないで済むはず。
果南「そ、そうなんだ……。」
果南ちゃんは面食らったような顔をした後に、腑に落ちないといったような顔になった。
曜「Aqoursの活動に専念したいって思ったんだ。」
私は前を見たまま歩いた。横にいる果南ちゃんの顔を見ることはできなかった。
果南「曜は本当にそれで良かったの?」
曜「……。」
私は
私は……
曜「みんなの役に立ちたいんだ。」
果南ちゃんの方を向かず、私はただ前を見ながら歩いた。
だって
今、果南ちゃんを見たら泣いちゃいそうだったから……
千歌「あっ!曜ちゃん!」
途中から同じバスに千歌ちゃんと梨子ちゃんが乗って来た。
千歌「おはよう。」
梨子「おはよう、曜ちゃん、果南さん。」
曜「おはよう。」
果南「おはよう。」
千歌「今日も頑張ろうね〜!」
曜「そうだねっ!」
果南「……。」
千歌「果南ちゃん?」
果南「えっ?あ、あぁ……。」
梨子「どうかしましたか?」
果南「ううん、なんでもないよ。」
梨子「……。」
千歌「……?」
善子「曜さん。」
曜「うん?」
善子「ストレッチ、一緒にやらない?」
練習の初めにやるストレッチは基本は二人一組でやる。善子ちゃんとは今までそんなにはやったことなかったなあ。
曜「もちろん。私とストレッチとは、さてはよーしこー、気合いが入っていますな!?」
善子「よしこ言うなーっ!
……ちょっと話したいことがあるのよ。」
曜「?」
話したいこと?
善子ちゃんから?
曜「まあ、とりあえずやりながら話そうか。」
善子「うん。」
善子ちゃんが私の背中を押す。
曜「それで、話って?」
善子「……曜さんは私たちのこと、どう思ってるの?」
……え?
曜「それってどういう……」
善子「ごめん。わかりづらかったわ。
曜さんにとって、水泳部とスクールアイドルのどっちが大切?」
まさか善子ちゃん、飛び込みの大会と予選が被ることを知ってる?
曜「き、急にどうしたの?こんなことを聞いて。」
善子「……果南さんと水泳部の先輩の話を盗み聞きしたのよ。」
水泳部の先輩って、ななみ先輩……?
善子「その先輩、曜さんにラブライブに出てほしいって果南さんに言ってたのよ。」
曜「!?」
ななみ『私は曜のやりたいことをやってほしいと思ってる。』
曜「……。」
善子「でも、それは私だってそう思ってる。曜さんの好きなことを曜さんにやってほしいって。」
曜「善子ちゃん……。」
善子「……だから曜さんの気持ちを聞きたかったの。」
でも、私は……
ダイヤ「そろそろダンスレッスンを始めますわよ。準備をしてください。」
花丸「はーい。」
千歌「曜ちゃん!善子ちゃん!ストレッチはもう終わりだよ〜」
善子「よしこ言うなっ!!」
曜「……うん。」
善子「……私に教えてくれなくてもいいけど、自分でちゃんと考えてよ。」
曜「心配してくれてありがとう。」
善子「堕天使ヨハネには迷える仔羊を助ける義務があるのよ!」
曜「そういうことを言わなければ、かっこいいのになー。」
善子「むぅっ……!」
でも、善子ちゃんのお陰で気持ちが軽くなったかな。
本当にありがとう。
鞠莉「何を話してたの?」
善子「……内緒よ。」
鞠莉「シークレット?
お姉さんに相談してくれないなんて、冷たいんじゃない?」
善子「……私の思ってることを伝えただけよ。」
鞠莉「ヨハネちゃんは何を思ってたのかしらね?」
善子「だから、秘密よ。」
鞠莉「意思が固いのね。
……そういう子の方が私は好きよ。」
善子「なによそれ……。」
鞠莉「ふふ♪」
善子「……。」
まあ、私の本心は……
好きなものを諦めちゃダメなんだって教えてくれたのは曜さんたちだから、今度は私が助けないとって思ったのよ。
善子「……これじゃあ堕天使ではないわね。」
千歌さんたちと笑顔で話している曜さんを見て、私は頰を緩ませた。