キリトin太刀川隊   作:ZEROⅡ

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どうも、長いことほったらかしにしていてすみません。

言い訳ににしかなりませんが、仕事を辞めたりなんだりと、色々忙しくて時間が取れませんでした。

それでようやく時間が取れて書こうとしたのですが、長いこと執筆から離れていたからか、まったく本編が書けませんでした。なので、ちょっとしたリハビリとして、もうちょっと本編が進んでからやる予定だった「キャリバー編」を、番外編として投稿します。

普通に本編未登場のキャラも出てきていますが、ご了承ください。


番外編
キャリバー①


 

 

 

 

 

『今年も残すところあと3日。皆様、いかがお過ごしでしょうか?』

 

 

という女性アナウンサーの明るい声が聞こえるテレビを、寝ぼけ(まなこ)でボーっと眺める。

 

 

「お兄ちゃん、また夜更かし?」

 

 

「学校の課題だよ。メカトロニクスの」

 

 

「メカトロ……ふーん」

 

 

妹の直葉にそう答えながら、俺はカップに淹れられた濃いめのコーヒーを口にする。

12月末、今年も終わりに近づいてきた年の瀬のこと。学校はとうに冬休みに入っており、今日明日はボーダーの防衛任務もないので、久方ぶりの完全オフの日だ。

なので昨夜は少し徹夜してしまったが、学校で選択したメカトロニクス・コースの課題に集中することができた。たまに太刀川さんから「レポートを手伝ってほしい」などという連絡が届いていたが、風間さんに報告してからは来なくなったので、もう大丈夫なんだろう。

 

 

「お兄ちゃん、これ見て」

 

 

という声とともに直葉は差し出した薄型タブレット端末を受け取り、画面を覗き込んだ。

表示されているのは、国内最高のVRMMORPG情報サイト《MMOトゥモロー》のニュース記事だった。ページカテゴリは《アルヴヘイム・オンライン》ことALO。言われるがままにぼんやりと記事のリード文を読み始めた直後、俺は声を上げてしまった。

 

 

「な……なにぃ!」

 

 

【最強の伝説級武器《聖剣エクスキャリバー》、ついに発見される!】

 

 

記事にはそのように記されていた。それを食い入るように読み進めながら、俺は短く唸る。

 

 

「うぅーん……とうとう見つかっちまったかぁ……」

 

 

「まあ、これでも時間かかったほうだと思うけどねー」

 

 

俺の向かい側で、直葉もトーストに自家製ジャムを塗りながら応じる。

 

 

《聖剣エクスキャリバー》。

それは、ALOにおいて最強にして唯一の武器と言われている。だがその存在は、公式サイトの武器紹介ページ最下部に小さな記述と写真で確認できるだけど、ゲーム内での入手方法はまったく知られていない。

……いや、正確に言えば、知っているプレイヤーが4人、ではなく5人だけいた。俺と直葉、明日奈、ユイ、そして俺のリアル友達である出水。その5人によってエクスキャリバーの秘密は保たれてきた。

 

 

「あぁーあ……とうとう誰かに取られちまったか……」

 

 

俺のそんなぼやきに対し、直葉はトーストを一口かじってから、俺の誤解を訂正した。

 

 

「よく読んでよ、まだ見つかっただけだよ。入手まではいってないみたい」

 

 

言われてから、俺は再度タブレット端末に視線を落とす。確かに記事には、エクスキャリバーの存在を確認したとは書いてあるが、誰が入手したという記述はなかった。

 

 

「なんだよ、驚かすなよ……」

 

 

それを読んだ俺は、ホッと息を吐いて安堵した。

 

 

数ヶ月前。俺/キリトと直葉/リーファとユイは、アルンフォーゲンで巨大ミミズ型モンスターに飲み込まれ、地下世界《ヨツンヘイム》に落とされた。

そこで俺たちは、4本腕の人型邪神級モンスターが、象のような水母(くらげ)のような邪神を攻撃している場面に出くわした。

リーファに「いじめられている方を助けて!」とお願いされてしまった俺は、4本腕をなんとか湖まで誘導して落とし、象水母邪神を勝利へと導いた。リーファによって《トンキー》と名付けられたそいつは、8枚の羽を生やした姿に羽化すると、俺たちを背中に乗せて地上へと繋がる通路まで運んでくれた。

その途中で、俺たちは見たのだ。世界樹の根に包まれてぶら下がる巨大な迷宮と、最下部で輝く……黄金の長剣を。

 

 

「いつか取りに行こうと思ってたんだけどな」

 

 

「お兄ちゃん、ずっとボーダーで忙しそうだったからね。たまに休みの日は、新アインクラッドの攻略に取り組んでたし」

 

 

「しかし、どうやって見つけたんだ? ヨツンヘイムは飛行不可だし、飛ばなきゃ見えない高さにあっただろ、エクスキャリバーがあった場所は」

 

 

「誰かが私たちみたいにトンキーの仲間を助けて、クエストフラグ立てるのに成功したのかな……」

 

 

「そういうことになるのか……。あんなキモい……いや、個性的な姿の邪神を助けようなんていう物好き……いや、博愛主義者がスグの他にもいたとはビックリだなあ」

 

 

「きもくないもん! 可愛いもん!」

 

 

そう宣言しながらジロりと俺を睨むと、今年で16歳になったはずの妹は続けて言った。

 

 

「でもそれだと、誰かがあのダンジョンを突破して剣の入手に成功するのも時間の問題かもだよ」

 

 

「そう……だよな……」

 

 

「どうする、お兄ちゃん?」

 

 

トーストを食べ終えた直葉が、両手で牛乳のカップを持ちながらそう問うてくる。それに対して俺は、咳払いしてから答えた。

 

 

「スグ。レアアイテムを追い求めるだけが、VRMMOの楽しみじゃないさ」

 

 

「……うん、そうだよね。武器のスペックで強くなっても……」

 

 

「でも、俺たち、あの剣を見せてくれたトンキーの気持ちに応えなきゃいけないと思うんだ。アイツもきっと内心じゃ、俺たちがダンジョンを突破することを期待してるんじゃないかな。だってほら、俺たちとトンキーは友達じゃないか」

 

 

「ふーーん………さっき、キモいとか言ってたのに?」

 

 

じっとりとした視線を向ける妹に、俺は最大級の笑顔で尋ねた。

 

 

「つうわけで、スグ、おまえ今日ヒマ?」

 

 

「……まあ、部活はもう休みだけど」

 

 

それを聞いた俺は「よし!」と左掌に右拳をぶつけ、すぐに攻略方針を立てる。

 

 

「確か、トンキーに乗れる上限は9人だったな。てことは、俺とスグ、アスナ、カイト、クライン、リズとシリカ……あと2人か。エギルは店あるしなぁ……クリスハイトは頼りないし、レコンはシルフ領にいるだろうし……ユズさん、はダメだ。見返りが怖すぎる」

 

 

「あ、そうだ! シノンさん誘ってみようよ!」

 

 

「おお、それだ! これであと1人か……」

 

 

「じゃあ私、みんなに連絡するね。あと1人決まったら、お兄ちゃんからよろしく」

 

 

「おう」

 

 

タブレット端末を手に、メンバーへの召集連絡をしている直葉を尻目に、俺は最後の1人に誰を誘うかを考える。

あと俺の身近な人間でALOをやっているのは、那須隊オペレーターの志岐と、最近俺と出水が楽しそうだからって理由で始めた米屋くらいか。でも確か今日は那須隊が防衛任務に入ってたから志岐は無理だな。米屋も、無理っぽいな。年末になると親戚同士で集まることになってるって宇佐美が言ってたし。

 

 

「ん……宇佐美?………そうだ、アイツなら!」

 

 

パチンっと指を鳴らし、俺はすぐに携帯端末を取り出して電話帳をスクロールさせたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

いかに日曜日とはいえ、年の瀬の午前中に9人パーティがあっさり揃ってしまったのは、招聘した俺の人徳──などではなく、やはり《聖剣エクスキャリバー》が皆のネットゲーマー魂を揺さぶった結果だろう。

待ち合わせ場所となったイグドラシル・シティの大通りに看板を出している《リズベット武具店》の工房では、鍛冶妖精族(レプラコーン)の店主が皆の武器を順に回転砥石に当てている。

 

 

「ぷはぁーー!」

 

 

その店の壁際にある長方形のテーブルに座り、《景気づけ》という名目で朝から小樽型のジョッキに入った酒を煽っている火妖精族(サラマンダー)の刀使いクラインに、その向かいに座るふわふわした水色の子竜を頭に乗せた猫妖精族(ケットシー)の獣使いシリカが訊ねた。

 

 

「クラインさんは、もうお正月休みですか?」

 

 

「おう、昨日っからな。働きたくてもこの時期は荷が入ってこねーからよ。社長のヤロー、年末年始に1週間も休みがあるんだからウチは超ホワイト企業だとか自慢しやがってさ!」

 

 

クラインは、あれでも小規模な輸入会社に勤めるれっきとした会社員だ。いつも社長に対して悪口を言っているが、SAOに2年間囚われた彼を見捨てず、生還後も即座に仕事に復帰できたのだから実際いい会社なのだろう。

などと壁際に寄り掛かりながら考えていると、そのクラインの隣に座る、青い短髪に真っ白なロングコートが目を引く男性プレイヤー。水妖精族(ウンディーネ)の魔法使いカイトが頬杖を付きながら会話に加わった。

 

 

「現にめちゃめちゃホワイトじゃないっすか。ボーダーなんて年末年始はあって無いようなもんですからね。おれとキリトも、明日からまた防衛任務ですし」

 

 

「はっはっは! ボーダー様も大変だな!」

 

 

うんざりしたように語るカイトの背中を、クラインはバンバンと叩きながら豪快に笑うと、途端に俺の方を見て言った。

 

 

「おうキリの字よ、もし今日ウマイこと《エクスキャリバー》が取れたら、今度オレ様のために《霊刀カグツチ》取りに行くの手伝えよ」

 

 

「えぇー……あのダンジョンくそ暑ぃじゃん……」

 

 

「それを言うなら今日行くヨツンヘイムはくそ寒ぃだろが!」

 

 

低レベルな言い合いをしていると、カイトの正面に座っている猫妖精族(ケットシー)の弓使いシノンがぼそっと一言。

 

 

「あ、じゃあ私もアレ欲しい。《光弓シェキナー》」

 

 

「キ、キャラ作ってそんな経ってないのにもう伝説武器(レジェンダリーウェポン)をご所望ですか」

 

 

「リズが造ってくれた弓も素敵だけどさ、できればもう少し射程が……」

 

 

すると、工房奥の作業台で、その弓の弦を張り替えていたリズベットが振り向き、苦笑しながら言った。

 

 

「あのねぇ、この世界の弓ってのは、せいぜい槍以上、魔法以下の距離で使う武器なの。百メートル離れたとこから狙おうとするなんて、シノンくらいだよ」

 

 

それに対してシノンはクスりと笑いながら、シレっと言い放つ。

 

 

「欲を言えばその倍の射程は欲しいとこね」

 

 

「えっ……あはは」

 

 

シノンのその要望に、リズはもう笑うしかなくなったようだった。

 

 

「たっだいまー!」

「お待たせー」

 

 

すると、工房の扉が勢いよく開いた。ポーションの買い出しに行っていたアスナとリーファだ。シリカとカイトが「おかえりー」と言葉を返すと、2人は手に提げたバスケットから色とりどりの小瓶をテーブルに広げていく。

そしてアスナの肩から飛び立ったナビゲーション・ピクシーのユイが俺の頭まで移動してポスンと座ると、鈴の音のような声ではきはきと言った。

 

 

「買い物ついでにちょっと情報収集してきたんですが、まだあの空中ダンジョンまで到達できたプレイヤーまたはパーティは存在しないようです、パパ」

 

 

「へえ……。じゃあ、なんで《エクスキャリバー》のある場所が解ったんだろう」

 

 

「それがどうやら、私たちが発見したトンキーさんのクエストとは別種のクエストが見つかったようなのです。その報酬としてNPCが提示したのがエクスキャリバーだった、ということらしいのです」

 

 

ユイのその言葉に、ポーション類を整理していたアスナが小さく顔をしかめて頷いた。

 

 

「しかもソレ、あんまり平和なクエストじゃなさそうなのよ。お使い系や護衛系じゃなくて、モンスターを何匹以上倒せっていう虐殺(スローター)系。おかげで今、ヨツンヘイムはPOPの取り合いで殺伐としてるって」

 

 

「そりゃ確かに穏やかじゃないな……」

 

 

「けどよぉ、それって何か変じゃねーか?」

 

 

俺も思わず唸っていると、カイトががしがしと頭をかきながら口を挟む。

 

 

「キリトの話じゃ《聖剣エクスキャリバー》ってのは、くそ強ぇ邪神がたくさんいる空中ダンジョンの最下層に封印されてんだろ? それを何でNPCがクエストの報酬として提示できるんだよ?」

 

 

「言われてみれば、そうですね。ダンジョンまでの移動手段が報酬、っていうなら解りますけど……」

 

 

頭上から下ろしたピナの頭を撫でつつ、シリカも首を捻った。

 

 

「──ま、行ってみれば解るわよ、きっと」

 

 

全員が疑問符を浮かべる中、シノンが相変わらず冷静なコメントを発する。

 

 

その直後──工房の扉がガチャリと開いた。

 

 

「えーっと……りずべっと武具店ってのはここでいいんだよな?」

 

 

その声の主に、工房にいた全員の視線が集中する。そこに立っていたのは、モコモコと柔らかそうな黒髪と3のように尖らせた口が印象的な影妖精族(スプリガン)の少年プレイヤーだ。

シリカと同じくらい小柄なその身に上下共に黒い衣服を着込み、さらにその上からすっぽりと包み込むようなポンチョを身に着けた少年。彼が工房の中をキョロキョロを見渡してると、壁際にいた俺と目が合った。

 

 

「おっ、キリト先輩。おまたせ、遅れてもうしわけない。こなみ先輩がなかなか解放してくれなくてな」

 

 

「それは災難だったな」

 

 

ペコリと頭を下げて謝罪する少年に、俺はそう応える。そんな俺たちの短い会話に口を挟むようにクラインが声を上げる。

 

 

「おいキリの字、そいつがおまえさんが言ってた最後の1人か?」

 

 

「ああ。ALOを始めてまだ2週間かそこらの新規プレイヤーだけど、センスは折り紙付きだ」

 

 

「どーもはじめまして。おれはユーマ、影妖精族(スプリガン)のユーマだよ。どうぞよろしく」

 

 

三の目に3の口という、表情を作るシステムがどう作用しているのかよく分からない顔で、ユーマは片手を上げて他のメンバーに自己紹介をする。

 

 

「皆を紹介する前に、ユーマ、まずは武器を出してくれ。そこにいるぼったくり鍛冶屋が耐久力を回復してくれるから」

 

 

「誰がぼったくりよ!」

 

 

俺がユーマにそう言うと、リズベットが工房の奥から怒鳴りながらやって来た。そして俺を軽く睨んだあと、視線をユーマに向けて声をかけた。

 

 

「ユーマ、ね。あたしがこのリズベット武具店の店主、リズベットよ。リズベットでもリズでも好きに呼んでちょうだい」

 

 

「ふむ……じゃあリズ先輩で」

 

 

ユーマに先輩と呼ばれたリズベットは、少しこそばゆそうに笑うと、すぐに誤魔化すように咳払いをしてから言葉を続けた。

 

 

「それじゃあ、武器を貸してちょうだい。あたしが責任もって回復してあげるわ」

 

 

「ほほう。では、よろしくお願いします」

 

 

「はい、お預かりします」

 

 

そんなやり取りをしながら、ユーマが開いたウインドウを操作してオブジェクト化した武器を手渡すと、それを受け取ったリズベットは珍しそうに声を上げた。

 

 

「へぇ、ナックル系か、見かけによらず武闘派なのね」

 

 

「たまにダガーも使うけどね」

 

 

受け取っていたのは、黒鉄の篭手(ガントレット)。ALOの装備の中で唯一、二対一体となっている《拳術》専用のナックル系武器だ。俺はあまりナックル系統の装備には詳しくないため名前までは出て来ないが、ユーマが所有するそれは、確か古代級武器(エンシェントウェポン)の一種だったハズだと記憶している。

 

 

「んじゃ、ちゃちゃっと回復させてくるわね」

 

 

受け取った武器を抱えて、リズベットは再び工房の奥に戻って行った。

するとそれを見計らって、テーブルから立ち上がったクラインがフランクな態度でユーマに声をかけた。

 

 

「おう、ユーマっつったか? オレ様はクラインってんだ。クライン先輩って呼んでいいぜ」

 

 

「わかった。よろしくな、クライン先輩」

 

 

「おーおー、キリの字と違って素直だなおめぇ。にしてもチビっこいな。ひょっとしてリアルでもこんくらいか?」

 

 

「よく言われるよ」

 

 

わしゃわしゃと黒髪を撫でてくるクラインと戯れるユーマ。それに続くように、アスナやリーファ、シリカがユーマのもとに集まって自己紹介を始めていく。俺はそこから少し離れた壁際に背を預けながらその様子を眺める。

皆の中心でわいわいと賑やかに笑っているユーマの姿を見て、俺は思わず頬を緩ませながら、アイツと出会った日の事を思い出していた。

 

 

俺がユーマ/空閑遊真と出会ったのは、12月の中頃だった。とある事情によりボーダーから追われていた空閑は、実力派エリートこと迅悠一の手引きによってボーダーに入隊することになり、来月の正式入隊日まで《玉狛支部》に身を置くことになった。それからも本部と玉狛の間でひと悶着あったのだが、迅さんの暗躍によって事なきを得た。

 

それから個人的に玉狛とも親しかった俺は空閑とも仲良くなり、彼をALOの世界に誘った。当初はVRMMO対して興味どころか知識すらも皆無だったが、空閑は瞬く間にその魅力に取り込まれた。もちろん、玉狛での訓練もあるので、ずっと入り浸っているわけではない。諸事情により、眠らなくても問題ない空閑は、主に深夜の時間帯にログインしている。

 

まだキャラを作成してから二週間しか経っていないが、完全スキル制のALOにおいて並外れたセンスを持つユーマはメキメキと頭角を現した。高難度のダンジョンでも十分に活躍できるだろう。

 

 

──おれはあいつに《楽しい時間》を作ってやりたい。

 

 

あの日……迅さんはそう言っていた。だから沢山の遊び相手がいるボーダーに空閑を入隊させたと。それについて異論はない。俺もボーダーに入隊してから、ランク戦で出水や米屋と戦り合うのがすごく楽しいから。

 

だけど、楽しい時間を作れるのは、ボーダーに限った話じゃない。

VRMMOも一緒だ。気心知れた仲間たちと異世界に飛び込み、困難かつスリリングなミッションに挑むのも、最高に楽しい時間だ。それを空閑に知って欲しくて、俺はアイツをこの世界に誘った。それが正解だったのかどうかは、今はまだ分からない。

 

だけど今──ユーマは楽しそうに笑っている。それだけで、今は十分だと思えた。

 

 

などと考えていたら、工房の奥でリズベットが叫んだ。

 

 

「よーっし! 全武器フル回復ぅ!」

 

 

「おつかれさま!!」

 

 

のねぎらいを全員で唱和。新品の輝きを取り戻したそれぞれの愛剣、愛刀、愛弓を受け取って身に着ける。次にテーブルで指揮能力に長けたアスナが7分割したポーションを貰い、腰のポーチに収納。持ち切れない分はアイテム欄にしまった。

9人+1人+1匹の準備が完了したところで、俺はぐるりと皆を見回し、軽い咳払いをしてから言った。

 

 

「みんな、今日は急な呼び出しに応じてくれてありがとう! このお礼はいつか必ず、精神的に! それじゃ──いっちょ、頑張ろう!」

 

 

「おー!」と、やや苦笑混じりの唱和に聞こえたのは気のせいだと思い込みながら、俺はくるりと振り返って工房の扉を開ける。そしてイグシティの真下のアルン市街から地下世界ヨツンヘイムに繋がる秘密のトンネルを目指して、大きく一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

つづく




原作は7人が制限だったんですけど、話の都合上9人に変更しています。それらしい理由も思い浮かばなかったので。どうぞ、ご了承ください。


出水/カイトのアバター姿は、青色の髪に、太刀川隊の隊服の色の黒を白に、赤を青に変えたイメージ。

遊真/ユーマは、見た目は黒トリガーを持つ前の姿そのもの。装備も同様に、上下共に黒の衣服で、上からポンチョ(バッグワーム)を纏う。武器のナックルは、黒トリガー戦闘隊の腕部分をイメージ。

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