須川亮とRe:文月学園二年生生活   作:森野熊漢

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前回を書いてからほぼ一ヵ月経ってしまいました。
待ってくださっていた方がいましたらほんとすみません。
リアルが、リアルが忙しすぎたんです……!
今後もすぐに出せる!という状態にできるかは本当に怪しいですが、以前言ったように、Aクラス戦は絶対に書きたいのでそこまでは時間をかけてでも続けていく所存です。
よろしければ気長にお待ちいただけたら幸いです。できるだけ頑張って早く投稿できるようにしますが!


それではどうぞ!と言っても、日常回的なものですが。


一体弁当で何があったというのだ

Dクラス戦の翌日。

今日は雪下とは別々に投稿することになった。

というのも、雪下が今日は一人で学校に行けるようになりたいと希望したからだ。決して喧嘩したとかではない。

ということで、一人でFクラスまでやってきたわけだが。

 

「……お前ら、何してんだ」

「あ、須川くん、おはよう」

「おう、おはよう……よく腕を極められながら平然と挨拶を返せるな吉井……」

 

絶賛吉井が島田に腕関節を極められている最中だった。

あれだけ近づくなと言っても関節をかけられてるってことは、吉井は実はMだったのだろうか、という思いが芽生えてくる。

 

「いや違うからね!? 僕が教室に来た瞬間に急にやられたからね!?」

「……ふーん」

「え、なにその「わかったわかった、口ではそう言ってても実際は違うんだろ」みたいな反応いたたたたたた!」

「よ、し、いいいいい! あんたウチを無視してんじゃないわよ!」

 

意図的に無視しないと痛みで気を失いかねない状況にしている奴が何か言ってるんだが、俺はどうしたらいいんだろう。

 

「で、吉井。なんでお前は島田にそんなことされてるんだ?」

「わからないよ! 急に「昨日あんたのせいで補修室送りにされたじゃないの!」とか言われたんだから!」

「! 余計なこと言わないでいいの!」

「痛い痛い痛い!」

 

うん、すごいやつあたりだよな。補習室に送ったの、俺だし。

 

「とりあえず離せ、島田」

「は? なんであんたにそんなこと言われないといけないのよ」

「お前がうちの戦力を削りにかかってるからだろうが」

「吉井なんかよりウチの方が戦力になるわよ!」

「……数学だけな。それ以外は無能もいいところだ」

「……!! 須川! あんたねえ!」

「ああ、はいはい二人とも落ち着いて」

 

俺と島田がヒートアップし始めたところで吉井が割り込んできた。

 

「そうだな、落ち着けお前ら。特に島田、明久を離してやれ」

 

さっきは気が付かなかったが坂本も部屋にいたらしい。奥からこっちにやってきた。

 

「こいつは昨日の試召戦争で結構な点数を削られてるからな。補充してもらわないと困る」

「知らないわよそんなの!」

(……はぁ。こいつもう最初から戦力外にしてやりたい)

 

試召戦争で仲間の足を引っ張ることの不必要性を昨日説いたはずなのにまだわからないのか……。

俺が若干飽きれていると。

 

「おはようございます、須川くん」

「ん? ああ、おはよう雪下」

 

雪下が登校してきた。なぜか若干嬉しそうな表情をしている。

 

「聞いてください! 私、一人で登校できましたよ!」

「お、おお。そりゃよかったな。当然だとは思うが」

 

雪下の家から文月学園までは5分ほどあれば来れる距離だ。そんなに威張るほどではないと思うのだが。

 

「しかし、一人で登校って大変ですね。道中大変でした」

「あ、ああ。そうか」

「ええ、まさか雪山で遭難するとは思いませんでした」

 

ん? 待て。今こいつはなんて言った。

 

「まさかあんなところまで行ってしまうなんて考えもしてなかったのでびっくりしました」

「うん、俺の方がびっくりしてるからな」

 

雪山ってなんだ。何をどうしたらそんなところに行くことになるんだ。

 

「ええ、ほんとびっくりしました。ペンギンさんと仲良くなれたので良かったですけど」

「お前雪山って言ったよな!?」

 

雪下、お前が行ってたのは南極だというのか。

 

「…なあ、今までは親に送ってもらってたりしたのか?」

「…まあそのようなところですね。送ってもらってました」

 

だろうな。じゃないとそんなトンデモ経験をしながら毎日学校に来れるはずがない。

 

「はい、みなさん席についてください。補充試験を始めますよ」

 

そう言いながら福原先生が教室に入ってきた。

そういえば今日は補充試験にほぼ一日持って行かれる日だったか。

いや、一応忘れてはいなかったが、今この瞬間は忘れていた。

 

…そういや前回は点数の消費はなかったのだが、今回は受けることにした。

まあ理由としては、持ち点を多少伸ばしておこうと思ったからだ。

 

流石に「このクラスに入るために調整した点数」では心もとない。

 

「あー、まあ頑張るかぁ…」

「ええ、頑張りましょう」

 

適当に意気込む俺の隣で雪下はやる気を見せていた。

 

「…やけにやる気だな」

「まあ、そうですね。」

 

座布団を正しながら雪下は答える。

 

「あの点数のままだと、今後が怖いですから」

「ふーん……まあFクラスとしては妥当な点数だと思うが…」

 

先日行った雪下との模擬試召戦争の時に見た現代文しか把握してないのだが。

 

「あー…まあ、はい。そうですね、でもFクラスレベルの点数では上のクラスには太刀打ちできないですから」

「……そうだな」

 

大きい力にはより大きい力を。単純だが、わかりやすい力関係だ。

俺たちが行っている試召戦争なんてその最たるものだ。

ある程度は策によって左右されるが、基本の力となるのは個人の持ち点だ。

雪下の言う通り、保持する力は高ければ高いほど越したことはない。

 

「それでは、始めてください」

 

福原先生の合図とともに俺たちはテストに取り組み始めた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「うあー…づがれだー」

 

横で吉井が机に突っ伏していた。

まあ四教科を終了させたところだからな。無理もない。俺だって疲れた。

 

「うむ。疲れたのう」

 

そう言いながらこちらに近づいてきたのは木下。テストの時に邪魔になるからだろうか、髪の毛を後ろで縛って……つまりはポニーテールにしているのだが、妙に似合っているせいで、本当に男として見られたいのか?という疑問が付きまとってくる。

 

「さって、昼飯に行くぞ!今日はラーメンとカツ丼と炒飯とカレーにすっかな」

 

そう言いながら立ち上がったのは坂本。何やら恐ろしい量を食べる気でいるようだが、これが坂本の昼飯の一般的な量である。、もう一度言うが、恐ろしい量だ。

 

「あ、須川くん。お昼食べません?」

 

そう言いながらお弁当を片手に雪下が近づいてきた。

何というか、うん。俺以外にも昼飯を一緒に食べられるような友達をお前は作るべきじゃないだろうか。

雪下ならAクラスとかとも案外うまくやっていけそうな気がするのだが。

俺としては嬉しい申し出ではあるのだが、やはり少し心配になってしまう。

 

「ああ、いいぞ」

 

まあそう思いながらも申し出を受けてしまうのが俺なんだが。

 

「じゃあさっさと食べてしまうか」

「あ、待ってください」

 

弁当を広げようとしたところで雪下に止められた。

 

「せっかく今日は天気もいいですし、外で食べませんか?」

「ん?……ああ、確かにいいかもな」

 

確かにいい天気だし、さっきまで教室に缶詰でテストを受けていたんだ。

リフレッシュを兼ねる意味でもいいかもしれない。

 

「じゃあ外で食べられるところというと……屋上か?」

 

昨今、屋上への立ち入りが禁止になる学校が多い中、文月学園は屋上が開放されている。

俺としては、仮に何かあったとしても鉄人が察知して救助するからじゃないかと睨んでいるのだが。

 

「ええ、じゃあ向かいま……あっ」

 

元気に返事を返しながらリュックから水筒を取り出した雪下が急に悲しそうな表情になった。

 

「お茶……飲みすぎてほぼなくなってしまってたの忘れてました……」

「あー、仕方ないわな」

 

テストって変に緊張して喉が渇いたりすることあるよな。

 

「先に自販機で飲み物でも買ってから行くか。まだ時間は焦るほどではないし」

「うう、すみません……」

「気にするなって」

 

笑顔でそんなやり取りをしている俺たちだが。

 

((((ギリギリギリギリギリギリギリギリ))))

 

実はさっきから俺の背中に歯ぎしりの音とバッシバシ殺意が飛んできてるんだよな。

 

((((ザクッ、ザクッ、ザクッ))))

 

あ、畳にカッターを突き立てる音も追加された。

 

「………………………」

「ん? 雪下、行くぞ?」

「…………はい」

 

気のせいか? 前を歩く雪下の後ろ姿から、背中から受ける殺気を凌駕するほどの殺気を感じる気がするのだが。

俺か? 俺が何かしたか? 外で食うっていうのも人に見られないように俺を始末するための口実か?

後ろからの殺気を感じられなくなった気がするけど、雪下の殺気が強すぎるからだよな?そうだよな?

 

「須川くん、自販機はどこに……って、どうしてそんな離れてるんですか!?」

「いえ、なんでもないっす、はい、すみません」

「急に下手!? え、どうしたんですか!?」

 

恐ろしい。最近の若者って本当に恐ろしい……。

あ、俺も今は若者だったわ。

 

そんなこんなで自販機に着いたところ。

 

「よお、お前らも飲み物か?」

「坂本に島田か。まあそんなところだ」

 

先に自販機で飲み物を買ってきたであろう坂本と島田と出くわした。

 

「弁当片手にしてるようだが……食堂で食うつもりか?」

「いや、今日は屋上でって話になってな。先に飲み物を買ってから行こうと思ってた」

「そうか、俺たちも屋上にいるんだが一緒にどうだ?」

 

坂本が俺にだけわかる様に目配せしてきた。……なるほど、吉井が危ないかもしれないしな。

 

「わかった。雪下も構わないか?」

「……ええ、別に構いませんよ」

「じゃああいつらにも言っておくわ、じゃあ先に行ってるな」

 

そう言って二人は去って行った。

 

「……あいつらって、誰のことでしょう」

「まあ妥当なところで吉井に土屋、木下あたりじゃないか」

 

そう言うと、雪下はああ、と納得した。ここ数日であいつらがよく一緒にいるのを見ていたため納得したらしい。

ようやく自販機に到着したところで、雪下はお茶を、俺は適当にコーラを購入し、屋上へ。

 

「今日はいい天気ですねえ……ほんとお弁当日和です」

「確かになあ……ゆっくり食うには良い気候だよ」

 

そんな他愛もない話をしながら屋上の扉を開いた俺たちの目に飛び込んできたものは。

 

 

少し離れたところで震えている木下

全身マナーモード状態で倒れている土屋

同じく倒れている坂本

その坂本の顔を掴み何やらしていた様子の吉井

以上のメンバーとは全く違う方向を見ている姫路、島田

 

 

うん、何があった、これは。

 

「あ、須川君に雪下さん……」

「……吉井、何やってんだ?」

「んーと、まあちょっとね」

 

そう言いつつ吉井は坂本の顔を揺さぶっている。いや、よく見ると揺さぶっているのではなく頭と顎を掴み無理やり咀嚼させているような……?

 

「あの、明久君?なにもありませんよ?」

「ごめん、見間違いだったよ」

 

一体何のやりとりがあったんだ。

 

「お弁当美味しかったよ、ごちそう様」

「うむ、大変良い腕じゃ」

 

何故だろう。木下はともかく、吉井の言葉からは欠片も言葉通りの意味を感じ取ることができないんだが。

 

「特に雄二が『美味しい美味しい』って凄い勢いで」

 

その言葉を受けてか、坂本が首を頷かせたのだが……なぜ弁当を食べただけならそんな弱々しい返し方をしているんだ。

喜ぶ姫路と対照的に力ないやりとりをする他のメンバー。途中で島田が虫を触ってしまったらしく、屋上から去り、姫路も「スプーンを忘れました」と言いながら、出て行った。

残ったメンバーはここぞとばかりに姫路の残していったものに群がっていったが……あれはなんだ?小さ目の容器?ってことはデザートの類か?

 

「あ、木下君が食べるようで……え、全部ですか!?」

 

何やら話し合った後、雪下の言葉通り、木下が容器を手にとり、そして。

 

「むぐむぐ。なんじゃ、意外と普通じゃとゴパァっ!」

 

空中に血の華を咲かせ、木下は泡を吹いてその場に倒れこんだ。

 

「……なんでしょう、これ」

「……わからん」

 

一体俺たちは何を見ているのか……。

吉井、坂本、復活していた土屋が木下の看病をし始める中、俺たちは微妙な面持ちで成り行きを見ているのだった。




次回、Bクラス戦に突入する予定です。
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