お待たせしました、Dクラス戦後編です。
結構ざっくりした感じですがよろしくお願いします。それではどうぞ。
先程の場所から移動したのだが。
「吉井隊長!横溝がやられた!」
「こっちもあと一人だ! 援軍を頼む!」
どうやらだいぶ劣勢のようだ。
そして吉井。お前隊長だったのか。知らなかったよ。
「須川君! 偽情報を流してほしいんだ!時間を稼いでほしい!」
「偽情報? なんだ来て早々だから詳しく説明してくれ」
吉井からわけを聞くことをまとめると。
吉井の役目は前線を長く保つことであり、そのためにはここでしばらく時間を稼ぎたいとのこと。
そのために、先生たちに向かっての嘘の放送をしろ、ということらしい。
なるほど、さっき世界史の田中先生が云々とか聴こえたが、そのためか。
田中先生は採点が甘いことに定評がある。採点時間は少し長いのだが、長期戦には向いている教師だ。
Dクラスは短期決戦狙いで採点の早い先生を呼び出しているので、割と厳しい状況ではあるのだが。
……自分で言っておいてなんだが、長期戦に向いている教師ってなんだ。これでは初老の先生が自ら戦地に赴いているような表現になってないか? まあいいか。
「なんだ、放送室に行くのか? じゃあ俺に任せろ」
話を聴いていたのだろうか、福村が横から話に入ってきた。
「いや、福村。お前は前線に戻った方がいい。俺と雪下で行けば」
「うるせえ! 俺だって女子と少しでも行動したいんだよ!(俺はあと少しの点数だから前線に留まるよりもお前たちを庇って行った方がいいと思うんだ!)」
「……福村君、本音と建前が逆になってないかな」
おお、あの吉井が至極まともなことを言っているだと!?
「うん、須川君が若干失礼なこと考えた気がするけど今はいいや。じゃあ福村君、そこまで言うんだから絶対に二人を守るんだよ!」
「おう、任せろ」
吉井、福村は建前を心の中に留めていたのにそれを読み取ったのか。
まあ、別にいいか。邪魔にはならないだろう。
俺たち三人は前線を離れ、放送室へ。
「さて、どういう放送を流すか、だが」
長期戦目的だからできれば教師陣をどこかにやって戦争をできる箇所を減らしたいところだが。
「須川。俺に考えがある。任せろ」
「ん? そうか、任せる」
どうやら福村に何か一計があるらしい。さて、どんなことを言うのやら。
放送機材を準備する福村を眺めながら、以前俺が同じことを頼まれたときに行った放送を思い出した。
「確かあの時は船越先生を呼び出したんだったな……」
船越先生。婚期を逃し、最近では単位を盾に生徒に交際を迫るようになったという数学の先生だ。
目を見張るほどの美人、というわけではないが年の割には綺麗な人だし、面倒見のよさそうな先生なのだから普通にしていればまだチャンスはありそうなのだが、本人は婚期を逃したということに焦りを覚えているのだろう。
強引なやり口に生徒から反感を買ってしまい、それが口コミでどんどん広がってしまっているという状態だ。
可哀想だとは思うが自業自得ではあると思う。
ちなみに人生一周した俺からすると、別に船越先生はありだと思う。だがせっかくだから同年代がいいというのが本音だ。
話がそれた。
あの時の放送後、吉井は大変な目にあったと聞いた。若干貞操も危なくなりかけたとかも。
あの時は何とも思わなかったのだが、今となっては申し訳ない気持ちでいっぱいである。
作戦としては申し分なかったし、その場の士気も上がったが、一人の人生を壊してしまうところだったのだから。
ピンポンパンポーン
お、用意が整ったようだな。
「連絡いたします」
廊下からも福村の声が響いてくる。きちんと放送されているようだ。
さてさて、福村。お前の考えとやら、聞かせてもらおう。
「船越先生、船越先生」
お前も船越先生…ってそうか。放送室に着く直前にDクラスの奴らが船越先生を呼んでいるというのがわかったから当然か。
「吉井明久君が体育館裏で待っています」
ん?
「生徒と教師の垣根を越えた、男と女の大事な話があるそうです」
おい福村、お前。
「至急体育館裏まdがふうっ!?」
気が付いたら全力で福村の腹に膝蹴りを叩き込んでいた。あれか! この放送はFクラスの奴がやると必ず吉井を犠牲にするイベントか!
そんなことより、まずいことに、まだ校内放送はつながったままだ。このままだと吉井に頼まれたことが遂行できない上に吉井がやばい。
どうする。どうしたらいい?
「失礼しました。今の放送は福村君のちょっとしたジョークです」
あれ、雪下。いつの間にお前は後ろからそこに。
「船越先生、福村君がここ、放送室であなたを待っています。少し体調が悪そうなのですが、船越先生に診てほしいとのことなので至急福村君の所まで来てください」
ナイスだ雪下! 放送室なら前線から離れている! いいアドリブだ。
「もう一件お知らせいたします」
ん?まだあるのか?
「今からお呼びする先生は少しお聞きしたいことがございますので、体育館裏に来ていただけますでしょうか。お呼びしたい先生は……」
ここから雪下は採点の早い、つまりDクラスの望む短期決戦に有利な先生の名前を告げていく。
すごいなあいつ。なんで教師の特徴なんてもう理解できてるんだ。
「簡単ですよ、さっき戦争中に聴こえてきたDクラスの人が呼び出した先生方の名前を覚えておいただけですから」
「なんでさらっと俺の考えてることを読み当ててそれに対して答えられるんだ」
尋ねる手間が省けてありがたいけどさ!
「さて、では私たちも向かいましょうか」
「ああ、そうだな。戦力を割いたとはいえ、Fクラスのメンツではまだ厳しいだろうからな」
そう言って廊下に出た俺を雪下は、あろうことか腕を抱き込んで止めてきた。
「あら、違いますよ須川君。私たちが行く場所は戦場ではないです」
「? ならどこに行くっていうんだ?」
前線以外に思いつくとするならば、代表の周りを固めるくらいしかないのだが。
「さっき放送で言ったでしょう? 体育館裏に来てくださいって」
「え? あれって先生たちをおびき寄せるための嘘の情報だろ? わざわざ本当にいかないでも」
「わかってませんね須川君。ここで行かずにすっぽかしたりしたら、今後同じ手段を使えなくなってしまうではありませんか」
……どうやら今の俺にもFクラス的考えが残っていたらしい。
確かに雪下の言うとおり、ここで約束を反故にしたりした場合、後の試召戦争で放送室を使えなくなってしまう可能性が大きくなる。前は船越先生だけだったから特に何もなかった……というよりは、後にはなったようだが吉井がきちんと船越先生に会っていたから咎められなかったのだろう。
だが今回は複数の先生を呼び出してしまっている。そのため、これを反故にするというのは今後のことを考えるとベストではないのだろう。
「はぁ……でもそれに俺って必要か? 雪下一人でもいいと思うんだが」
「必要ですよ。もしDクラスに出くわしてしまったら確実にやられてしまいます」
確かに可能性はあるが、やられるとは限らないような気もする。それに正直まだ戦況が気になる。
「あと、みんなの声がだいぶ納まってきました。特にFクラスは落ち着いているので、坂本君の指示でなんとかなるでしょう」
「はぁ……わかった。仕方ないな……」
正直、俺は雪下が試召戦争初体験者ということで甘く見ていた。だが、彼女は俺よりもしっかりと戦況を把握できていた。正直驚きが強いが、顔には出さないでおく。
「じゃあ行くか。それにしても先生を移動させるだけならもっと別の内容でもよかったとは思うんだが」
「それはですね」
そう言って彼女はどこからか大量の教科書とノートを取り出した。
「動かしたいのが、ちょうど私が教えていただきたい教科の担当の先生方ばかりで都合がよかったので」
彼女の容量の良さに、ついに驚きが顔に出たのは言うまでもない。
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その後、俺たちが先生たちに色々と教えてもらっている間に決着がついた。
どうやらDクラス代表の平賀を打ち取ったのは姫路らしい。そこは前と変わりないんだな、とか思ったのは内緒だ
俺たちはというと、放送室から出た後、きちんと体育館裏に向かった。
先生方も最初は怪しんでいたらしいのだが、俺たちがきちんと来て、わからないところ、質問したいところをしっかりと示したため、きちんと教えてくれた。そこからは俺たちの仕事兼自分たちのための行動。
しっかりと戦争が終わるまで先生方にお付き合いいただいた。
途中、校舎から断末魔の叫びが聞こえた気がしたのだが、きっと気のせいだろう。
決して将来が危うくなった生徒などいないはずなのだから。
そして、すべてを終えて教室に戻ってきた俺たちを。
「須川、雪下。よくやってくれた。おかげで予定よりも楽に勝つことができた」
戦後対談を終えたであろう坂本が迎えてくれた。
「いえ、うまくいって何よりでした」
「ああ、だがあの放送の後、どこにいたんだ? 戦争終了まで戦場にいなかったようだが」
「先生方を呼び出した手前、きちんとその場に行ってきたんですよ」
「……真面目だな」
坂本が呆れたような顔をしたが、雪下がさっき俺にした説明をすると一変。
「そこまでは考えてなかったな」と、悔しそうな顔を見せた。
「ところで戦後対談はどうなった。お前のことだから設備交換なんてせずに、条件を付けて終わりにしたんだろうが」
「……よくわかったな。確かにそうだ」
Bクラスの室外機を壊すことを条件にDクラスの設備を見逃すことにしたようだ。
俺としてはまともな机と椅子が欲しいところではあるが……まあ仕方ないだろう。
「そうか、まあBクラスに勝つため、だからな。戦争ってのは本格的な戦闘が始まる前から始まっているものだしな」
「……須川、お前そんなキャラだったか?」
人生を一回りしたら若いころとは様変わりするものなんだから仕方ない(と思いたい)。
「雄二! そろそろ帰ろうよ!」
そこに登場したのは吉井。船越先生の被害がないからか、すごく元気だ。
「あ、雪下さん! お礼を言ってなかったね! 本当にありがとう!」
「えっと、何のことでしょうか」
「ほら、船越先生のアレ!」
「ああ、あれですね。いえいえ、礼には及びませんよ」
なぜだろう、今回何もしてないのに吉井と目を合わせづらくて辛い。
「さて、じゃあ俺たちは帰るが……お前らは?」
「俺らはまだ少しやることがあるからな。学校にはいるさ」
今日こそ鉄人に世話にならないとだしな。
「ふーん……まあしばらくは試召戦争はあるからな。身体には気を付けとけよ」
「わかってるさ」
何とかは風邪をひかないっていうほどだし、俺は大丈夫だろう。
雪下は生活習慣がきっちりしてそうだし多分大丈夫だ。
「じゃあまた明日な。明久、行くぞ」
「あ、待ってよ雄二! じゃあね二人とも! また明日!」
坂本と吉井が出て行ったあと、俺たちも帰り支度を整え廊下に出た。
その時に姫路とすれ違ったのだが……何やら神妙な顔をしていたな。まあ思いつめていたって感じではなさそうだから変に首は突っ込まないでおくか。
「俺はまだ学校に残るが…雪下はどうする。疲れてるだろうから早めに帰った方がいいとは思うが」
「そうですね、少し名残惜しいですが今日は帰ります」
名残惜しいと言った意味がよくわからないのだが、あれか? 試召戦争の余韻にまだ浸っていたかったのか?
「まあまだ明るいから大丈夫だと思うが気を付けてな」
「はい、須川君。また明日もよろしくお願いしますね」
下駄箱で挨拶を交わし、俺たちはそれぞれ目的地に向かった。
雪下は自宅に。
そして俺は。
「失礼します。鉄人」
「須川……だからお前は(ry」
補修室、すなわち鉄人の元へ。
実は一番書きたいのがAクラス戦なので頑張っていきたいです。
上手な文章とは言えませんが、感想等いつもお待ちしてます。