須川亮とRe:文月学園二年生生活   作:森野熊漢

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気付いたらUA数が1000を超えてました……!
皆様ありがとうございます!
そして、感想やご指摘を送ってくださった方、感謝です!


内容が面白いかどうかは相変わらず不安ですが、楽しんでいただければ幸いです。
お待たせしました。それではどうぞ。

注……投稿してからちょいちょい違和感のあるところを再編集し直していますのでご勘弁を。


雪下月華、Fクラス入り

「…………ん?」

 

雪下を連れ、Fクラスまで戻ってきた時だった。

 

「……どうしたんですか」、

 

扉に手をかけたところで動きの止まった俺に雪下が声をかけてくる。

 

「いや、さっきも話した通り、このクラスはもはや動物園と同義なところがあるって言っただろう」

「ええと、賑やかなクラスということでしたよね」

 

雪下は俺のFクラスへの辛辣な評価をいい風に捉え直している節がある。

ここに戻ってくるまでにある程度の改善を行おうと思ったのだが……どうやら失敗だったようだ。

まあ実態を知っていけば自ずと評価も変わってくるとは思うが。

 

「まあそうだ。だが今、やたらと静かだ。……Fクラスだとおかしいくらいに」

「あの、先生が怒ったとかではないんですか」

「それはないと思うな」

 

普通の高校ならそれも一つの可能性には入るだろう。

だが、ここはFクラス。そして担任はあの福原先生。絶対に声量負けしているだろうから、声を荒げたところでFクラス連中の声に負けるだろう。

唯一黙らせられるとしたら鉄人の一喝なのだが……そうだった場合は確実に俺たちの耳にも届いているはず。

なんせこんなボロ教室なんだ。ある程度の防音設備はあっても、鉄人にかかればそんなものはあってないようなものだろう。

 

俺たちより後に出たはずの鉄人の話が出るのはおかしいと思うのだが、まあ鉄人だからあり得てしまうという理由が成り立つから仕方ない。

 

「……まあ考えても仕方ないか。入るぞ」

「わかりました。……緊張しますね」

 

雪下が胸に手を当てて深呼吸していた。そんなに気負う必要もないと思うが……。

 

ガラッ

「すみません、戻りました」

「失礼します……」

「あっ、須川くん……と誰かな?」

「吉井……なんだ、お前だけなんで立ってるんだ」

「な、なんでもないよ、あははは」

「大方坂本にこの場を借りて告白でもしようとしたのだろうがやめておけよ、失敗したら2年が終わるまで気まずい仲になるだろうからな」

「ちょっと待って! なんで僕が雄二にそんなことするのが当然みたいな顔で話してるの!? やめてよ!」

「そうだぞ須川。変な噂が俺にも立つだろ。明久だけなら構わないが俺を巻き込むな」

「おのれ雄二! 貴様僕だけを犠牲にするつもりか!」

「あー、吉井。ぶっちゃけお前の同性愛疑惑とかどうでもいいからちょっと用事を済ませてもいいか」

「あれ!? 僕、須川くんのこと信じられなくなりそうなんだけど!? 僕たち友達だよね!?」

「……そうだな、多分」

「酷い!?」

 

……何故か知らないけど流れで吉井をいじってしまっていた。おかしい。こんなはずではなかったのだが。

 

「おい、須川。明久の同性愛疑惑は俺もどうでもいいんだが、お前の後ろにいる女子は誰だ?」

「雄二のせいでその疑惑が広がってるところもあるんだから少しは気にしてよ!」

「あーはいはい、明久。いい子だから少し黙っててな」

「子ども扱いいいいぃぃぃ!?」

「吉井、少し黙っててくれ。で、だ。雪下。自己紹介頼む」

 

俺が説明するよりも雪下本人に話させた方がわかりやすいだろう。

 

「あ、はい。えっと」

「おい、改めて見てみたがやっぱりあの子めっちゃくちゃ可愛くないか!?」

「そうだな! 姫路さんに続き女子が入ってくれるとは!」

「もう俺、このクラスに骨を埋めてもいいや」

「姫路さん、結婚してください!」

「あの……その……」

 

流石Fクラス。雪下が前に立つだけで騒ぎ出し始めた。

いや、さっきからも実はうるさかったんだが多分俺の耳がシャットアウトしてたんだろうな。

 

「おいみんな。自己紹介してくれるっていうのにうるさくしてどうする」

 

仕方ないから俺が口を挟むことにする。

 

「うるせー、須川」

「誰もお前なんか呼んでねえよ!」

「その女子生徒だけを目に入れたいのにむさい男が視界に入るな!」

「姫路さん、僕の名字を使いたくありませんか…? なんか違うな」

 

うん、こうなることは予測してた。

一人だけ着々と姫路と結婚する算段を進めている奴がいるのは無視するが。

……はぁ。

 

「この子は人の話をしっかり聴く男性が好きかもしれないぞ」

「「「「どうぞ、あなたのことを教えてくださいませ」」」」

 

やっぱりこいつら、真性のバカだ。

 

「あの、須川さん……」

「……気持ちはわかるが、やっと黙ったんだ。気にせず始めてくれ」

「はい……怖いですが」

 

俺自身がかつて向こう側の筆頭だったという事実だけは絶対に言えないな。

 

「雪下月華、です。転校してきたばかりですがよろしくお願いします……」

「「「「よろしく!!! 月華ちゃあああぁぁぁぁぁん!!!!!」」」」

「!?」

 

クラス男子の大半が放った叫びに雪下が完全に怯えていた。そりゃそうだ。

 

「えと……須川くんにしばらくサポートをお願いしています」

「……ん?」

 

なんだろう、急に雲行きが怪しくなってきた気がする。

 

「なので、しばらくは学校にいる間は須川くんと行動を共に」

「総員! 構えろおおおぉぉ!!!」

「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」

 

ヒュン!

 

「危な!」

 

なんで構えろって言葉と同時にカッターが飛んでくるんだよ! 普通狙いをつけるだろその号令の後は!

 

「おいお前ら、今はそんなことをしてる場合じゃないだろう」

 

ここで坂本が助け船を出してくれた。

 

「しかし代表! こいつを許しておけるかよ!」

「そうだそうだ!」

「男として、いや! Fクラスとして許しておけるか!」

「おいおい、お前ら。よく考えてみろ」

 

ふむ、こいつらが納得するようなことを言って場を収めてくれるつもりだな。助かる。

 

「さっさと戦争のことを話した後の方が時間がとれるだろう? だから今は我慢してくれ」

「坂本おおおおおぉぉぉ!?」

「「「「確かに」」」」

「納得してる!?」

 

どうやらこいつら、戦争前に戦力を自ら削ぐつもりらしい。なんてクラスだ。

 

「って、今戦争のことと言ったか。もう仕掛けるのか」

「ああ、俺たちはこのクラスの設備からおさらばしてAクラスの設備を手に入れる」

「……ふうん、なるほど。……そこでこのクラスの切り札の紹介をしていたってところか。さしずめ吉井の話を出したところでクラスが静かになったんだろうな」

「須川、お前よくわかったな」

「まあ、なんとなく想像がついた。吉井だし」

「ちょっと酷くないかな!?」

 

すまん吉井。だがこうでも言わないと俺が状況を分かったもっともらしい理由にならないんだ。

 

「まあ、ジョーカーの紹介はこのくらいだ。雪下がどのくらいかは知らないから今回は省くとするが……」

 

お、坂本が代表らしい顔つきになった。

 

「お前ら、このクラスは最強だ!」

「「「おお!!」」」

「この状況、全員が不満に思ってるだろう?」

「「「当たり前じゃあ!!!!!!」」」

「ならば全員、ペンを執れ! 出陣の用意だ!」

「「「うおおおおおおおおぉぉぉ!!!!」」」

「お、おおおおぉ……?」

 

クラスの迫力に圧されつつも、雪下が頑張って雰囲気に乗ろうとしてるのがなんだかかわいく思えた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

坂本から聞いたところ、俺たちFクラスはDクラスに挑むことになったらしい。

あの後、吉井が宣戦布告の使者としてDクラスに派遣され、ものの見事にボロボロにされてきていた。

……今度から俺もついていった方がいいかな。さすがにあれは可哀想だ。

結果としてはきちんと宣戦布告はしてきたようで、明日の昼休み終了後とのことだ。

その後、何やら調教やら折檻やら物騒な話も聞こえていたが……雪下にこの学校のことについて教えるのに忙しかったからよくは知らない。

吉井が何やら喜んでいたのは覚えているが……姫路もあの輪の中にいたな。だからか?

 

そして、さっき話にちらっと出た雪下だが、どうやら学力は悪くなさそうだ。真の実力は不明だが、話していてそう思った。

そして、彼女に積極的に近づいてこようとするバカ共だが……意外なことにしつこく誘ってくるということをしなかった。

きっと俺の言った「話を聴いてくれる男性が好きかもしれない」というのを真に受けてくれているのなら嬉しいのだが。

 

……………………。

 

いや、決して、雪下が絶対零度の視線で奴らを見ていたのを、偶然見てしまったからとか、そういうわけではない。

決して。うん。決して。俺の背中に走る寒気もきっと気のせいだ。

あの雪下がそんな目で人を見るとかあり得ない。うん、気のせいだと思ったら気が楽になってきた。

 

 

そんなこんなで放課後になった。

 

「さて、雪下。このあと時間はあるか?」

「大丈夫ですが……何かあるんですか?」

「そうだな、これからのためにやっておいてもらいたいことがあるんだが」

「ご一緒させていただきます」

 

なんとも簡単に了承がもらえた。こっちとしても嬉しい状況だ。

……いや、女の子と一緒に放課後を過ごすっていう意味は悪いが今は含んでないがな。

 

「それで、どこに向かわれるんですか?」

「ああ、それは」

 

そういや、あの場にはいたけどきちんと説明はしてなかったもんな。

 

「鉄人のところだ」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「失礼します、鉄人」

「失礼します」

「須川……お前は一体いつになったら」

 

入室早々、席に着いたままの鉄人にため息を吐かれた。なんとも失礼な教師だ。

 

「はあ、ここが補習室、ですか」

「ああ、またの名を洗脳部屋という」

「須川、そんなありもしない別名で呼ぶんじゃない」

 

補修室に連れていかれたら洗脳まがいの補修をされるって噂が流れているのを鉄人は知らないのだろうか。

……まあ鉄人だから仕方ないか。

 

「で、今日もやっていくのか? 準備はしてあるが」

「いえ、もともとはその予定でしたが……先生にお願いがありまして」

「……なんだ?」

「雪下に召喚獣の実践をさせてやりたいんですが……許可をいただけませんか」

「……なるほどな」

 

鉄人は目を閉じ、思案し始めた。

 

「お前たちFクラスは明日、Dクラスに戦争を仕掛けるのだったな」

「ああ、だが、俺たちは一年のころに何回か経験したのに対して雪下はゼロ。この状態じゃお世辞にも戦争に満足に参加なんてできませんからね。そこで練習させてやれれば、と思って」

「ふむ……」

 

しばらく考えた後、鉄人は立ち上がった。

 

「わかった、召喚許可を出そう。だが須川。お前が相手をしてやれ」

「ありがとうございます。もとよりそのつもりですよ」

「そう言うと思っていた。では、召喚を許可する! 科目は……現代文でいいな」

「問題ありません。雪下は?」

「私も、大丈夫です」

「よし」

 

そう言い、鉄人はフィールドを展開した。

「サモン!」

すかさず俺は召喚獣を呼び出した。

 

Fクラス 須川亮

現代文  91点

 

俺の前に俺自身をデフォルメしたような容姿の召喚獣が現れた。

武器は……これは棒かな? なんとなく中国っぽい雰囲気を出してる気がする。

 

「これが召喚獣、ですか。可愛いですね」

「ああ、雪下。お前もやってみろ。サモン、と言えば出てくる」

「わかりました。……サモン!」

 

そうして、雪下の召喚獣が出てきた。

 

Fクラス 雪下月華

現代文  53点

 

(……まあ、Fクラスとしては妥当な点数と言ったところか)

 

「これが私の召喚獣、なんですね」

 

ものすっごく笑顔で自分の召喚獣を見つめる雪下。うん、どっちも可愛いな。

うん。

だけどさ。

 

「なんでメイド姿に大盾なんだ……」

「え? 召喚獣ってそういうものじゃないんですか!?」

 

いや、召喚獣はそういうものだけど。なんというか、雪下のはなんか違うんだ。

もはや前線に出て戦うとかいうタイプではなくて完全に守りに徹するタイプだよな。

でもメイド姿ってなんだよ。動きにくいだろこれ。

あれか? 特殊な性癖をお持ちな方が楽しめるように学園長が弄ったのか?

 

「須川。マジマジと見ておらんとさっさとやることをやれ」

「あ、はい」

 

鉄人に注意されてしまった。けど、これに関しては俺が悪いとは思いたくない。

 

さて、そろそろ俺も真剣にやっていくとするか。

 

「さて、では今から召喚獣の動かし方を教えていく。しっかりやってもらうからついてきてくれよ」

「はい! よろしくお願いします!」

 

いい返事が返ってきた。これは俺もしっかりやらないといけないな。

そう改めて思い直し、俺は雪下に召喚獣の操作をみっちりと教えていくのだった。




ようやく戦争に突入です。
ちなみに須川くんが召喚獣の操作を教えられるのには理由があります。
もうしばらくでその理由を出しますのでお楽しみに……!
多分わかる人にはわかると思いますが。

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