試獣召喚、という木下さんと会長さんの声が聞こえると同時に、二人の召喚獣が出現する。
先程、試験科目は古典と言っていましたが…。さて、どうなるのでしょうか。
木下さんはAクラスですし、その人が選んだ科目です。先程油断はしないと言っていましたし、おそらく得意科目で攻めてきてるのでしょう。
Aクラス 木下優子
古典 387点
表示された点数は、なるほど。さすがAクラスといったところですね。
須川さんに教えていただいたことですが、400点を超えると腕輪が装備されるらしいのですが、今回はないみたいです。
見たところ、武器は槍…いえ、ランスというべきですね。西洋鎧をつけてますし。
点数から見ても、中々に良い装備を揃えられていますね。
さて、FFF団会長さんの方は…?
少し処理に時間がかかっているのか、遅れて出てきました。
衣装は……会長さんが着ている服装のまんまですね。手に持っている鎌もありますので、あれが武器なのでしょう。
そして、点数はというと。
Fクラス FFF団会長
古典 398点
「「「はああああああぁぁぁ!?」」」
何でしょう、この反応に既視感を覚えたのですが。
いえ、私も驚いてはいますけども。
「Fクラスなのになんでそんなに点数が高いんだよ!」
「カンニングか!カンニングだな!」
「違いねえ!」
好き勝手に言ってますねえ。……主にFクラスが。
「味方だというのになぜそんなに貶せるのでしょうか…?」
呟くと同時にFクラスのみんなの方に目を向けます。……何故か逸らされました。
「いやだって、点数高いってことは頭いいってことだろ?」
「つまり女子からの人気も高くなるだろ?」
「点数が高い=モテるってことだろ?」
「「「つまり助っ人だろうがFクラスだろうが、俺たち男子の敵なんだよなぁ」」」
なんというか、ええ。そういうことらしいです。
「ああ、こいつは振り分け試験の時に来れなかったんだよ。それで須川に頼まれた時に、補充試験を受けたというわけだよ」
こちらのやりとり、というか騒ぎを聞いた学園長先生がわざわざ声を大にして言ってくれました。
まあこちらのやりとりだけが問題というわけではなさそうですね。私のいる位置が、Fクラスの方に近いからか、よく聴こえなかっただけで、Aクラスの方も結構ざわついていたようですし。
「……なるほどな」
「……人にはそれぞれ、理由がある」
「……わからんでもないが」
坂本さんと土屋さんがそう呟いていました。
あ、そういえば土屋さんと言えば……。
「あの、土屋さん」
私は気になることがあったので彼に話しかけた。
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〈木下優子〉
「ちょっと予想以上でびっくりしたわね」
対戦相手……FFF団会長と名乗る相手の点数を見て、私は面食らってしまった。
舐めてかかるつもりはなかったんだけど、それでもどこかで「Fクラスだから」という考えがあったのかもしれない。どうやら他の生徒も驚いているようだけど、これはまあ仕方ないわね。さっきの雪下さんと同じように、まさかFクラスからここまでの高得点者が出てくるなんて思ってもいなかったのだから。
「ごめんなさい、正直Fクラスだからって舐めてたわ」
「……そうか」
まずは、謝罪する。なぜそんなことをしたのか、自分でもよくわからないけど、なんとなくしないと気が済まなかったから。
「でも、ここからは全力。一切手加減なんてしないから」
「……ああ」
私は高橋先生の方をちらっと見る。いつでも始めていいですよ、という思いを込めて。
「では、始めてください」
Aクラス 木下優子 VS Fクラス FFF団会長
古典 387点 古典 398点
さて、僅差とはいえ、点数では負けている。だけど、ぎりぎりではあるが、腕輪が使用可能な点数には届いていない。勝ちの目は十分あるはず。
「さて、いくわよ!」
自分を鼓舞する意味を含め、声を出す。そのまま会長の召喚獣に突撃した。
開幕特攻……無謀と思われるかもしれないけど、変に様子見をしたりするより試合を動かす方が私には向いている。
ランスを後ろに引き、前に思い切り突き出す。
「……なるほど」
ランスが当たるというところで。
会長の召喚獣は。
左足を軸にして時計回りに回転した。
「っ!?」
せめて防がれたりすると思っていた私は、驚きを隠せない。
だって、そうでしょう?
攻撃を防ぐことはあっても、躱すなんて。
それも、一切の無駄のない最低限の動きで。
それにより私は勢いを止められず、簡単に後ろをとられてしまう。
「……ちっ、遠いか」
ただ、幸いなことに勢いのおかげで、相手の獲物の範囲外にまで逃げられていたようね。危なかった。
「にしても……」
あの動き。タイミングを合わせてその場で回転させるだけという細かい操作をミスなく自然に行うだなんて。
私自身はそこまで動かしたことがないとはいえ、相手の動きは異常だと思う。
Fクラスは今日までに二回戦争しているけれど、会長はどちらにも参加していない。
なのに、どうしてあそこまでの動きができるのかしら…?
「……考え事か、余裕だな」
「余裕がないから考えてるのよ?」
「ふん、喋る余裕もあるようだな……どうした、こっちはいつでもいいんだが?」
「そっちがよくても、こっちがどうするかは勝手よ?」
「確かにな……ふん、冷静だな」
さっきからなんだろう、ひたすらに反応を観察されているような気がする。いや、気がするというより、確実に観察されている節がある。
そんなことを考えながら、召喚獣を向き合わせる。
しかし、そこからは動かすことができなかった。
「さて、そろそろ退屈だ。いくぞ」
「……来なさい!」
こちらとしては、攻め方を悩んでいたところに、向こうから向かってきてくれるのは好都合だ。
そう思いつつ構えていると。
会長の召喚獣はこちらに向かって。
ゆっくりと歩き始めた。
「…………なんで……」
ただ歩いてきているだけ。だというのに。
(なんで、動けないの……?)
ただただ歩いている、ただそれだけの無防備極まりない行動だというのに、私は動けない。
(まずい、まずいまずいまずい!)
思考がまとまらない。呼吸が止まる。その現実にただただ、焦りが生じる。
それを助長させるかのように、ゆっくり歩いてくる召喚獣が目に入る…!
「あ、ああああああぁぁぁ!」
怖い。怖い怖い怖い怖いコワいコワい!
歩いてくるアイツがさながら死神のように見えてきて怖い!
射程に入ったところで槍を突き出す。
が、悠々と鎌で受け止められてしまった。
「あ、あああああああぁぁぁぁぁ!」
何度も何度も。繰り返し突き出す。止められようが関係ない。
攻撃することをやめてしまえば、その瞬間に恐怖で押しつぶされてしまいそうだから。
「何をそんなに怖がられてるのかは知らんが……落ち着け木下」
遂に武器を抑え込まれてしまった。が、会長は攻撃することなく声をかけてくる。
そして言葉を聞いたことで若干落ち着きが戻ってきた。
「……っはぁ!はぁ……!」
「……ったく、なんでそんな半狂乱状態になってるんだお前は……」
別にこれでの勝ち負けで死ぬわけじゃない、と続けられた。
確かに頭ではわかってはいる。だけど身体が、精神が意に反して恐怖してしまっていた。
だけど、今の言葉でその恐怖も霧散した。
「……礼は言っておくわ。でも、あんたは絶好の機会を逃したのよ?」
「あの状態のお前を倒したところで空しいだけだろう」
……うん、この人は甘い。甘いけど……それはこちらへの一方的なものではなくて。
「……ありがと、もう大丈夫」
「……そうか」
一旦距離をとる。深呼吸を三回。
……よし。
「次で決めるわ」
「……そうか、来い」
返事を聞くか聞かないか、というところで、召喚獣を肉薄させた。
目前で全力で槍を突き出し。
そして。
ーズバァッー
「あ……」
私の召喚獣が切り裂かれて倒れ伏した。
とりあえず一巻分は次で終わる……かなぁ…?
更にその後の展開をどうしていくか。