当初30話くらいの中編のつもりが気付けば倍の話数になっておりましたが、励みになるお言葉に後押しされてなんとかここまでたどり着けました。ありがとうございます。
そんなわけで、最終話です。
「私、恋人が出来ました!」
翌日、朝一番でゴン、キルア、クルーガー先輩と合流するなり開口一番に言った私。ゴレイヌさんの腕をぎゅっと抱きしめながらの、我ながら満面の笑みだったと思う。
隣のゴレイヌさんはと言えば、苦笑しながらも私の発言を訂正する様子はない。それがたまらなく嬉しい。
昨日、ゴレイヌさんから恋人にしてもらえるチャンスをゲットした私。だけど友達からって言ってくれたゴレイヌさんに対して、私はどうしても我慢できなかった。
だって、もう無理かもって思ったのに……受け入れてもらえたのだ。そこで冷静でいられるほど、私の情熱はぬるくない。狂おしいまでの愛を心の内に秘めたまま、友達からだなんて無理だった。我ながら理性のタガが緩すぎるけど、結果的に恋人の座をゲットできたので後悔はない。
でもってキスから始まり、いろいろ段階をすっ飛ばしてしまったわけで……。ふ、ふふふ……! 恥ずかしいけど、昨日の甘い時間を思い出すと顔がにやける……! きっかけは私からだったけど、途中からゴレイヌさんも積極的になってくれたし、押して押して押したかいがあったというものだ。抱きしめてもらってキスしてもらって、凄く幸せで凄く気持ちよかった。やっぱりというか当然だけど、写真のゴレイヌさんにキス練習していたのとまったく違った感覚で……ああもう! とにかく幸せでしょうがない! ゴレイヌさん大好き!
…………けどせっかく恋人になれたのに嫌われたくないから、今度からはもっと自重しよう。ゴレイヌさんにも「俺が言えた事じゃないが、場所はもう少し考えような」って言われてしまったし。
そして私の幸せ報告を聞いた三人はといえば。
「おめでとう、エミリアさん! よかったねー」
「……ま、おめでとさん」
輝かんばかりのエンジェルスマイルで祝福してくれたゴンと、半眼で呆れ顔なもののお祝いの言葉をくれたキルア。彼らの言葉はとても嬉しくて、第三者……それも親友、いや、心友とも言うべき相手達から今の幸福な現実を認めてもらった事で、はっきりと実感を抱くことが出来た。ああ! やっぱり夢じゃなかった! 私、本当にゴレイヌさんの恋人になれたんだな……。
だけど何故か祝ってくれた二人の頬が赤い。おっと、幸せオーラが強すぎたかな!? はっはっは! まいったなどうしよう! でも自慢したい気持ちがおさまらないなどうしよう!
そんな風に調子こいてたのだが、何も言わず可憐なほほ笑みをたたえていたクルーガー先輩がふいに発した言葉に、私はゴレイヌさんともども固まった。
「ホホホ! 幸せそうで何よりだわさ。でもお盛んなのはいいことだけど、場所はもうちょっと選んだら?」
「え……」
「ホホホ」
口に手を添えてうさん臭い笑いを続けるクルーガー先輩。あっれー? 今の台詞、ついさっき私の愛しい恋人からも同じような事言われたような……。
私は恐る恐る問いかけた。……嫌な予感が外れていることを願って。
「あの、もしかして見て……」
「ホホホ」
うさん臭い笑いを続けるだけで、麗しの美少女から否定の言葉が出てこない。と、いうことは……?
(見られたーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!)
この反応は確実に見てたこの人!! 私とゴレイヌさんとのい、イチャラブシーンを!
そして私は「もしや!?」と思いばっと振り返ってゴンとキルアを見た。そしたらすごい勢いで目をそらされた。え、ちょ、待っ。二人も!? 待って待って待って! 恥ずかしいお願いやめて!? ラブラブ自慢はしたいけどその現場を見られるとか恥ずかしすぎて死んじゃいそうだからやめて!?
「どこまで見てた!? ま、まさかキスの後まで……」
「「「え」」」
「…………え?」
焦りのあまり口から飛び出た言葉に、自分で墓穴を掘った事を知る。隣ではゴレイヌさんが額に手を当てて「あちゃー」というようなポーズをとっていた。そんなゴレイヌさんも素敵…………じゃなくて! 素敵だけど今はそうじゃなくて! あれ今私余計な事言った!? 言ったよね! 言ったな! 具体的に言うとキスの後という余計な事を言ったな! う、うわあああああああ!!
「あ、あのね? 今のは……」
「えっと、覗き見みたいなことしてごめんね? でもエミリアさんが心配で、つい。何処までって言ったら、二人がキスするところまでは見てた。あはは、知り合い同士のああいう場面ってなんか照れるね。でも俺たちその後はすぐにリーメイロに戻って来てたよ」
ゴンがすぐに答えてくれたけど、私としてはホッとしながらも自身が発した余計な一言で現在進行形で墓穴を掘っている真っただ中だ。クルーガー先輩は相変わらずニヤニヤしているし、キルアは何を想像したのかますます顔が赤くなってるし……おい想像するな! 想像するな思春期!!
「あ~、まあ、そのだな……。色々あって、エミリアとつきあうことになった」
私が羞恥で沸騰しそうになっていると、そこに更なる燃料が投下された。ご、ゴレイヌさんの口から私たちが恋人になった事実を言ってくれるなんて……! あんなに強引に、私の我儘をきいてもらった形なのに……! やばい本当に幸せすぎて死ぬ病気があったら私多分今この瞬間もう死んでる。それも満足気な顔で。ああああああ幸せ! ゴレイヌさん愛してる!
多分、ゴレイヌさんなりに軌道修正することで話題をそらしてくれたんだろうな。このままだとクルーガー先輩に二人共々からかわれる事必至なので、そのファインプレーにまたもやうっとり。
「……一応聞くけど、あんた一度は断ったわけだろ? 同情とか、そういう中途半端な気持ちでそいつ背負うには重すぎるぜ。ちゃんと面倒みれんの?」
私がゴレイヌさんにうっとりしていると、いきなりキルアがざっくり切り込んできた。その言葉がぐっさり私に突き刺さり、途端に不安になってくる。そうだよね、ゴレイヌさんの優しさに思いっきり私が付け込む形でお付き合いになだれ込んだようなものだし……つきあったからって、それイコールふられない、愛想をつかされないではないわけだし……。というか、キルアの言い回しが拾った犬猫に対するもののようでちょっと微妙な気分になる。
私は不安な気持ちのままゴレイヌさんを見上げた。するとゴレイヌさんはこんなことを言う。
「耳に痛いな。……エミリアとつきあうようになった経緯には同情や場の勢い、あとちょっとした打算ってのも確かにある」
「! おい!」
「けど、それだけじゃないさ。俺は確かにこの子を可愛いと思ったし、向けられる気持ちはこそばゆいが嬉しいもんだ。だからこれからゆっくり関係を育てていくつもりだよ。なんせ、まだ出会ったばかりだしな」
「ゴレイヌさん……」
「人の感情ってもんは、白か黒かみたいにはっきり分けられるもんじゃないだろ。特に愛だ恋だってのは。お前がエミリアを心配する気持ちは受け取ったが、今は俺に預けてくれないか? お前の友達、大事にするよ。…………ま、偉そうな事言ってても、俺の方が愛想つかされる場合だってあるんだけどな」
「そんなことはありえません!!」
最後を照れくさそうに冗談めかして言ってしめたゴレイヌさんだけど、私はそれを即座に否定した。私がゴレイヌさんに嫌われる可能性はあっても、私がゴレイヌさんを嫌うだなんてそんなこと……!
……でも、そうか。ゴレイヌさんの言葉を聞いて分かったけど、キルアは私を心配して言ってくれたのか。
「…………ありがとね、キルア」
「は? 何が? ……ったく」
お礼を言えば、キルアにむくれた顔で視線をそらされてしまった。出会ったころや再会直後はなんてクソ生意気で可愛くないガキだと思ったものだが、今はそんな彼の照れ隠しが非常に可愛らしく見えて仕方がない。……人の印象って変わるもんだなぁ……。
「素直に心配してたって言えばいいのに。キルアって素直じゃないよね」
「うっせ!」
からかい混じりのゴンの言葉に顔を赤くするキルア。それを見て、私は改めていい友人を得たと思う。多分彼らが居なければ、今の私はここにはいない。もし彼らと友達になれなくてもゴレイヌさんの嫁になるべく奮闘したのは間違いないけど、ここまでうまく行っていただろうかと考えると疑問が残る。……というか、ここ一年で彼らと過ごした時間が心地よすぎて、ゴンとキルアが居なかった場合の私が想像できなくなっていた。
念願だった愛する人と恋人になれて(本当はお嫁さんがいいけど今はまだ我慢)、素晴らしい友人を得た。こんなに幸福でいいのだろうかと疑問に思うくらいには、私は今幸せだ。
そんな風に私がじ~んと浸っていると、ちょんちょんと服の端を引っ張られた。見ればクルーガー先輩が何やら小さな紙袋を二つ持っていて、それを私に差し出している。……何だろう?
「? クルーガー先輩、これは……」
「アタシからのちょっとしたお祝いと、あとヒソカから」
「ありがとうございます! ……って、ヒソカ? そういえばアイツ今どこに?」
「ヒソカなら一足先に帰ったわよ。これをエミリアに渡してくれって言い残してね」
「ええ!? なによ、ちょっとくらい待ってくれてたらいいのに……」
紙袋を受け取りつつ、ちょっとだけ眉根を寄せる。あいつにだってゴレイヌさんとうまくいった事報告したかったのに、先に帰っちゃうなんて薄情じゃないか。けど祝いの品を残してくれるなんて気が利くな! さすが我が友! これでまたひとつ、ヒソカのために用意する墓石がワンランクアップした。
私は嬉しくなって、さっそくその場でクルーガー先輩からの祝いの品とヒソカの置き土産を見ようと袋を開けてみた。
両方ともコンドームが入っていた。
「うおおおおおおおおおおおい!!!!」
「エミリア!?」
取り出そうとしていた動きを止めて即行袋閉じたよね! こんなんゴンとキルアに見られたら居た堪れなくてもうこの場に居られないよ! クルーガー先輩もヒソカもなんてもん入れてくれてんだ! しかもご丁寧にそれぞれ別にって!! つーかグリードアイランドでコンドームとか売ってんの!?
そして勢いよく袋を閉じた拍子に、ヒソカのくれた袋からひらりと小さなメモが舞う。キャッチして読んでみると、そこにはこんなことが書かれていた。
『僕との約束があるんだから、それまでに妊娠して全力が出せないとか言わないように♠』
「あ、はい……。ごめんなさい……」
もっともなことが書かれていた。そうだよな……万が一そんなことになったら心情的にも全力で戦うなんて無理だし、身体的にも修業みっちり積んだうえでのガチバトルとか無理だもんな……。ただでさえ待たせているのに、更に期間が延長されるとかヒソカ的にも勘弁だろう。正直すまんかった。
私が何とも言えない顔をしていると、ぽんっと肩に手が置かれた。クルーガー先輩である。
「大人として、ちゃんと責任ある行動をしなさい。気持ちにばかり流されちゃ駄目よ?」
「は、はい。ごめんない。ありがとうございます」
とんでもない物よこされたと思ったけど、ここはお礼を言うべきなんだろうな。でも恥ずかしいものは恥ずかしいし、今の感情が上手く表現できなくてもやもやする。つーかこれどうしよう。
「エミリアさん、何もらったの?」
「あのヒソカが置き土産~? なんか変なもんでも入ってたんじゃねーの?」
「だ、だめだめだめ! 見ちゃ駄目!」
遠い目をしながら紙袋を抱きしめていると、ゴンとキルアがその中身に興味を持ったのか近づいてきたので慌てて遠ざけた。でもって咄嗟に背の高いゴレイヌさんに渡したんだけど……その拍子に袋が開いて、ゴレイヌさんに中身を見られてしまった。ぎゃああああああ! やめて見ないでーーーー!!
「ご、ごれいぬさん、それは」
「あ、あの野郎……」
ゴレイヌさんは紙袋を握り締めると、ここにはいないヒソカに向けただろう言葉を低い声で絞り出す。そして迷わず近くにあったゴミ箱に向けて紙袋を投擲した。その逞しさに私再び胸キュン。でもクルーガー先輩がくれた方に関しては「言いたいことは分かるが、勘弁してくれ……」と彼女に言うにとどめていた。これは、うん……仕方がない。
「結局あの中身なんだったんだ?」
「ね」
ゴン、キルア。君たちはまだ知らなくていい。というか頼む、もうこの話題終わりにしてくれ。
とまあ、なんだかんだわちゃわちゃしてたけど……いよいよお別れの時間がやってくる。ゴン達はクリア報酬のカードを選び終えて、あとはグリードアイランドから出ていくのみとなっていた。ちなみに私だが、ゴレイヌさんにお願いしてもう少しグリードアイランドに留まるつもりだ。つまりゴン達とはここでお別れである。
私は愛しい人が隣にいるにも関わらず、このお別れが寂しくて仕方がなかった。今までも離れていた期間はあるし、これが今生の別れというわけでもない。だけど寂しさに加えて……今までの思い出もぶわっと蘇ってきたもんだから、涙腺が緩むこと緩むこと。
「い、今までありがとね。前にも言ったけど、二人と友達になれて本当に良かったと思ってる。クルーガー先輩も、お世話になりました」
「ま、気にしなくていいわさ。アタシも色々面白いもの見れて楽しかったしね。……ちょ、あんた鼻水鼻水! もう、最後まで締まらない子ね~」
「す、すみません!」
「なんだよ、これが最後ってわけでもあるまいし泣くなって。お前最近涙腺緩みすぎ」
「だって!」
「あはは! でも、ちょっと残念。エミリアさんの念願が叶った事は嬉しいけど、もうちょっと一緒に旅してたかったな」
「あ、ありがとう。そう言ってくれて、嬉しい」
ゴンの素直な好意が嬉しかった。
クルーガー先輩がくれたポケットティッシュで鼻をかみ、涙をぬぐって笑顔を浮かべる。
「……私はずっと会いたかった人に会えた。次はゴンの番だね。お父さんに会いに行くんでしょう?」
「うん! そのためのカードも選んだんだ。だからグリードアイランドを出たら、行ってくる。親父に会いに!」
力強く宣言したゴンの姿が眩しくて、目を細める。見ればゴンの隣でキルアやクルーガー先輩も笑みを浮かべていて、改めてゴンの太陽のような魅力を感じた。
…………だからこそ、私はこの笑顔に陰ってほしくない。
「また、会おうね! そしたらお父さんの事きかせて!」
「もちろん!」
そう言って、自然と私たちはハイタッチをかわす。キルアも「しょうがねーな」と言いながらハイタッチにつきあってくれて、クルーガー先輩にはハグをした。クルーガー先輩は驚いていたけれど、「あんた本当にでっかい子供みたいだわさ」と苦笑しながら頭を撫でてくれた。
そんな光景を見て、ゴレイヌさんが一言。
「エミリアはいい仲間をもったな」
「! はい!」
迷いなく答えて、私は改めて三人に向き直った。そしてゴレイヌさんに寄り添いながら手を振る。寂しいけれど、多分近いうちにまた会うことになる。だからほんの少しの間の、さよならを。
「じゃあ、またね」
「うん! また会おう!」
「おう。せいぜいフラれないように頑張れよ、色ボケゴリラ」
「バイバイエミリア。機会があったら、また会いましょ」
短いやりとりの後、ゴンが呪文カードを唱える。
「
こうしてゴン、キルア、クルーガー先輩は一足先にグリードアイランドを去って行った。
私はゴレイヌさんと共にそれを見送って、しばらく無言のままに空を見上げていた。
「……さて、こうしてグリードアイランドに残ったわけだが……。するんだろ? 残りの攻略」
「すみません、つきあってもらって」
ゴレイヌさんが発した言葉に、私は申し訳なさで縮こまりながら頷く。本来ならばゴレイヌさんはグリードアイランドを出て、違約金を受け取れば今回のお仕事は終わりなのだ。それなのに、今こうして私の無理なお願いを聞いてくれようとしている。
「いいさ、どうせたいして時間はかからない。俺のバインダーにはツェズゲラたちのカードがまだ残ってるからな。エミリアのバインダーと合わせれば残りのカード枚数もそう多くないだろ」
「でも、やっぱりクリア報酬のカードをせめて一枚くらい……」
「いや、俺はいいよ。必要なんだろ? あいつらのために」
「はい……」
「だったら俺は遠慮しとく。俺もあいつらのこと気に入ってるからな。それに俺はもともと金が手に入ればよかっただけだし、気にする事無いぜ」
「ゴレイヌさん……!」
私の我儘につきあってくれるだけでなく、更にクリア報酬のカード全部私に譲ってくれると言う。その用途を話したからこそだとしても、何て心の広い人なんだろう。
私はあふれ出した愛しさが抑えきれずに、心の赴くままにゴレイヌさんに抱き着いた。
「ゴレイヌさん、大好きです!」
その後、私とゴレイヌさんは見事指定ポケットカードのコンプリートに成功した。
ちなみに最後のカードNo.000についてだが、残念ながらクイズ大会で一番になって手にいれる事は出来なかった。だけどそこは無問題。カードを売り込みに来たプレイヤーに対し、私がポケットマネーでカードを買い取ることで穏便に片付いたのである。ふふっ、貯金まだ残ってて良かったな。20億ぐらい軽い軽い。
そしてエンディングを迎えたわけだが、私が選んだカードは「大天使の息吹」と「聖騎士の首飾り」。そして…………
このグリードアイランド編のすぐ後に、彼らはキメラアント編と呼ばれるHUNTER×HUNTERの中で最も長い章へと進むことになる。ここで私の知る知識とずれが出てくれたらいいのだが、そう楽観視して傍観できるほどこのキメラアント編は見過ごせる内容ではない。
ネテロ会長に進言したことで、あらかじめキメラアントの女王が討伐されていればよい。だけど私の信憑性の薄い話をどこまで信じてくれるかなんてわからないわけで、確認しようにも多忙なハンター協会会長にそうそう連絡がとれるわけでもない。
だから私が直接行って確かめるのだ。
そしてもし女王が生きているなら、私が王を産む前に女王を殺す。
もう「なんとかなるだろう」「脅威が迫ればその時対処すればいいだけ」「ゴレイヌさんさえ居れば他は知らない」なんて考えていられない。ゴンが、キルアが心身ともに傷つく可能性があるのなら……それを放っておくことなんて出来ない。
だって二人は、私の大切な友達だ。
大天使の息吹は、万が一に備えてゴンの恩人であるカイトを死なせないため。護衛軍の誰かが先行して生まれてしまい危機に瀕しても、その場さえ脱することが出来ればどんな大怪我でも治せるからな。その時間くらい私が稼いでみせる。あわよくば倒す。…………蟻ごときにゴレイヌさんの恋人の座を手にいれた私を殺せると思うなよ。
まあ、産まれる前に女王を殺すのが目標だけども。
カイトでなくても、他の誰かが重傷を負っても使えるから持っていて損はないだろう。…………ゴンがネフェルピトーと戦う際にGONさん化してしまった場合の後遺症は念のリスクによるものだから治せないだろうけど、まず私がGONさんになんてさせない。そこまで進ませない。その前に終わらせる。
そんな風にキメラアント編については、始まったとしても私が力でねじ伏せて無理やり終わらせるつもりだが……私の知る物語には更に先がある。
……念のリスクによって死の淵をさ迷うゴンのために、キルアはゾルディック家末の兄妹であるアルカを頼るのだ。そして彼女に宿る"ナニカ"と呼ばれる異質な、しかし強力な力をもった存在によってゴンさんを救う。
キメラアント編でイルミによる針の矯正から逃れたからこそキルアはアルカの存在を思い出し行動するのだが、多分キメラアント編が無くなっても針の存在さえ教えられたらキルアは自力でその呪縛から逃れる事が出来るだろう。私はそう信じる。
だけど懸念すべきはその後で、漫画のようにアルカとナニカを守りながら生きていくことをキルアが決意しても、あの家……ゾルディックからアルカを連れ出すことがまず困難だ。だからこその
最初はコネクッションでゼノじいさんかシルバの旦那に許可を出させるとか考えたけど、まず念の産物であるコネクッションに座ってくれるか疑問だし他の家族もいる。だから家族間のごたごたはとりあえず後回しにして、まずアルカを外に出させようと思ったのだ。アルカのもとに行くまでと、連れ出した後に関してはキルアに一任する。だけど必要ならば、協力は惜しまないつもり。キキョウ先輩にだって直談判してやるさ!
と、そんな風に考えてのカードの選択だ。もしかしたら他にもっといい組み合わせがあるかもしれないけど、ゴレイヌさんには「ゴンとキルアが危険な目に遭うかもしれないから、それの対処のために欲しい」としか説明していないため相談できない。私が考えられる最善はこれが精いっぱいだった。
…………これから、私はゴレイヌさんといったん離れるつもりだ。せっかく恋人になれたんだから、本当なら一時でも離れたくない。でもゴレイヌさんを私の我儘で危険な目に遭わせるなんて嫌だ。これだけは譲れない。
ゴレイヌさんは彼が気に入っているゴンとキルアのためなら自分も行こうかと申し出てくれたけど、必死になってお願いして来るのを止めてもらった。それに対してゴレイヌさんは不満そうだったけど、私が絶対に譲るつもりがない事を悟ると深くため息をつきながらも了承してくれた。……やっぱりゴレイヌさんは優しい。
「まったく。恋人になったんだから、頼ってくれてもいいんだがな。それとも俺は頼りないか?」
「違います! でも、あのですね……。これは私にとって、一つの区切りでもあるんです」
「区切り?」
私にはゴレイヌさんを危険な目にあわせたくない、という以外にも一人で行きたい理由があった。
「はい。……私、今とても幸せです。でも自分の幸せばかり優先して、友達の窮地を放っておいたら……きっと恥ずかしくてゴレイヌさんの隣に立っていられない」
「…………」
「だから、ゴレイヌさんには待っていてほしいんです。待っていてくれたら、私はそれだけで頑張れる。どんなことがあっても、乗り越えられる。これは過去の自分からの決別です。胸を張って、あなたの横に立てるようになったら……私はまた、あなたに会いに来たい」
押しかけて押して押して恋人にしてもらって、あげくこんな身勝手な事を言っている。本当に私は我儘で勝手だ。
だけどこのまま友人たちの危機を、苦しみを……見て見ぬふりして、自分の幸せだけに浸って惚けてるような人間ではきっとゴレイヌさんの隣にずっと立っているなんて無理だ。ふさわしくない。だからこれは私にとって必要な事なのだ。
でも不安で不安で、ゴレイヌさんの顔を見るのがちょっと怖い。こんな女やっぱり嫌だとフラれてしまうだろうか。
けど勇気を出して、恐る恐るゴレイヌさんを見上げて問いかけた。
「会いに来ても、いいですか?」
返答は、とても優しいキスだった。
「行ってこい。待ってる」
「!」
その言葉に途端に勇気が湧いてくる。ああ、やっぱり私……この人を好きになってよかった。愛してよかった!
私はぎゅっとゴレイヌさんに抱き着いて、絞り出すような声で「ありがとう」と告げる。そして今度は私からキスをすると、今自分に出来る最高の笑顔を浮かべてこう言った。
「行ってきます!」
一つの記憶から始まった。愛は世界に色を付けてくれた。私の世界は広がった。
そして私はまた、一歩を踏み出す。これから歩む、未来へ向けて。
この理不尽な世界はきっと、また私に牙をむく。だけどきっと守り通して見せる。この幸福を、どんなに傷だらけになっても抱え込んで放さない。
だからまず、この幸福をわかちあいたい友人たちの助けとなろう。そして愛する人に相応しい自分にちょっとでも近づけたなら……。
ゴレイヌさんに、会いに行こう!
ゴレイヌさんに会いに行こう!完
ふと思い立ち、NGLに行く前に電話をかける。
「あ、もしもしヒソカ? お前どうせ暇だろちょっと付き合えよ。もしかしたら強い奴と戦えるかもしれないから! な!」
使えるものは使わないとな! ヒソカも戦えて一石二鳥だし早くゴレイヌさんの所に帰りたいし!
あと元豚にも声かけて雇うか。あいつの能力なら女王探索に役立ちそうだし。
よーし! まずは蟻討伐頑張るぞ!
ゴレイヌさんに会いに行こう!完!
ここまでおつきあいいただき、ありがとうございました!