ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla56.深夜の鬼ごっこ

 ゴレイヌさんの黒曜石のような瞳が、私をまっすぐに見つめている。私はその瞳に吸い込まれそうになりながらも、熱く熱のこもった瞳で私もまた彼を見つめた。

 二人の視線はぶつかり、誘われるように自然と距離が近くなる。そしてゴレイヌさんは私の片手をとり自分の頬にあて、もう片方の腕で私の腰を抱き寄せた。吐息がぶつかり合うほどの距離で、ゴレイヌさんは魅惑的な厚い唇を開き言葉を紡ぐ。その声は私にとって天上の音楽に等しいもので、思わず酔ってしまいそうだ。いや、もう私は酔っている。ゴレイヌさんという人そのものに。

 

『エミリア、君の事を誤解していたよ』

『ゴレイヌさん……』

『君は何て素晴らしい女性なんだ……! エミリアはとっても魅力的だ。……本当に、君が愛する相手は俺でいいのか?』

『も、もちろんです! あなた以外なんて考えられない!』

『エミリア……!』

『ゴレイヌさん……!』

 

 これ以上言葉などいらないと、私とゴレイヌさんは熱く抱擁をかわす。そして二人の顔が段々と近づいて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前マジふざけんなよ」

 

 

 

 ゴンさん達の修行に付き合うことになった翌朝。目が覚めたら額に青筋を浮かべたキルアさんに、開口一番で言われた。しかも拳骨付きである。

 

 咄嗟にオーラでガードしたので痛くはないが、訳が分からないので普通にショック。え、私キルアさんになにかしたっけ?

 しかも様子が変なのはキルアさんだけではなく、ゴンさんもクルーガー先輩も、どこかぐったりした様子だった。ちなみに私に拳骨をくれたものの私の防御力に負けたキルアさんは、その痛さにもんどりうっている。ああ! ただでさえ酷い怪我なのに無茶するから……! ……いやでも、怪我を押してまで拳骨してくるって私はいったい何をしたんだ。事情を聞かないわけにはいかなさそうな雰囲気だけど、聞くのが怖い。せっかくいい夢見て気分良く目覚めたのになぁ……。いや、でもいい夢だったけどおしかった。あとちょっとでゴレイヌさんとキスできたのに……。

 

 そういえばキルアさん、顔色が悪いうえに目の下に濃い隈が出来てるな。寝られなかったのだろうか。

 

 

 

 疑問符を頭の上に飛ばす私に、キルアさんがますます青筋を立てて眉間に皺を寄せた。その様子を見かねたのかゴンさんが先に口を開く。

 

「ははは……。エミリアさん寝てたから覚えてないかもだけど、昨晩大変だったんだよ?」

「え、何? まさか爆弾魔(ボマー)の襲撃でもあった!?」

 

 く! だとすればなんてタイミングだ! 昨日はオーラ回復のために早く寝ろって言われたから、みんなより早い時間に寝たんだよな。その間に襲撃があったとして、今は朝。すると襲撃の間私はずっと寝こけていたことになり、もしそうなら肝心な時に役に立たないと、そう怒られても無理はないかもしれない。

 しかし私の予想は見当違いだったらしく、クルーガー先輩が特大のため息を吐き出しながらすぐに否定した。

 

「いや、違くて。……エミリアあんた、ほんっとーに、ゴレイヌが好きなのね……」

「や、やだなクルーガー先輩ったら! みなまで言わないでくださいよ。本当の事だけど、流石に朝一番じゃ照れるっていうか……!」

 

 さっきの夢を思い出して、思わず顔が火照る。いや、本当にいい夢だった。ゴレイヌさんの体温までリアルに感じられて最高に幸せな夢だった。今までもゴレイヌさんの夢は頻繁に見ていたけれど、こんなのは初めて。これも実際にゴレイヌさんに会えたおかげだろうか。

 しかしにやける私の頭を、容赦ない拳骨が襲った。今度は完全に不意を突かれた上にその速度が半端なく速かったので防御できず、今度は私がもんどりうつ破目になる。

 

「~~~~~~!?」

「アホかぁ! いくら好きでも限度ってもんがあんのよ! 昨日も言ったけど、あんた本当にほどほどってもんを知らないわね!」

「え……え? あ、あの……クルーガー先輩。私なにかしました……?」

 

 涙目になる私に答えたのは、同じく手の痛みで涙目になっているキルアさんだ。

 

「おーともしたよ! 何したかって? エミリアお前、寝ぼけたままゴレイヌのもとに行こうと走り出すわ、止めたら凄まじい勢いで反撃してくるわ、かと思えばフェイント挟んで小賢しく逃げ出そうとするわ……! お前本当に寝てたんだよな!? なんだよあの動き! おかげでこっちは夜通し動きっぱなしだっつーの! しかもようやく捕まえたら、今度は俺達の事ゴレイヌと間違えてゴレイヌゴレイヌ言いながら抱き着いてくるわ……………してくるわ……!」

 

 ……………………は?

 

「…………え? 寝ぼけて? あはは、そ、そんなうっそだぁ……」

「嘘じゃないよ、エミリアさん」

「すみませんでした!!」

「何でゴンの言葉はすぐ信じるんだよ!!」

 

 え、……え!? マジで? でも大天使ゴンさんが嘘をつくとも思えないし……え!? ちょ、誰か嘘だと言ってくれ。

 だとすれば、何か? 私はゴレイヌさんに会えないことに対して一日たりとも我慢できなかったうえに、寝ている間にお三方に散々迷惑をかけたと……? 嘘だろ死にたい。というか恥ずかしさで死ねる。

 

「だ、抱きつくとかも本当!? あと私他に何かした!? キルアさんごめ、さっき聞こえなかったんだけど抱き着くの後に何して来たって言った!?」

「! それは……だな! その……ッ」

「言って。お願いだから教えて」

 

 聞くのは怖いけど聞かないのも怖い! え、寝ぼけた私何したんだ!

 そして衝撃の事実を教えてくれたのは、言いにくそうに口ごもったキルアさんでなくクルーガー先輩だった。

 

「チューしてきたのよ。ちなみにアタシ達全員に。……まさかアタシまで捕まるとは、不覚だわさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 死のう。

 

 

 

 

 

 

 

 …………いや死なないし死ねないけど! でも気分的に、なんていうかこう……! とりあえず私の中で何かが死んだ!

 嘘でしょちょっと待って私何してんの!? ゴレイヌさんにささげる予定のファーストキスを何乱発してんの!? いやそれも大事だけど何大切な友達と偉大なる先輩に狼藉働いてんの!? 穴! 穴はどこ! どっか埋まれる穴は何処! 無い! よし分かった掘ればいいんだな!!

 

「エミリアさんエミリアさん! 大丈夫だから! チューといっても頬っぺたとかだから!!」

「そ、そうだわさ落ち着きなさい! おもむろに"硬"で地面を殴りつけ始めるんじゃないわよ! 穴があったら入りたくて埋まれる穴を作りたい気持ちは分かったから落ち着きなさい!!」

 

 錯乱する私をなだめるべくゴンさんとクルーガー先輩が声をかけてくれるが、一度爆発した羞恥心がそう簡単に収まるはずもなく……。私は現実を振り払うように、ひたすら地面を殴り続けた。

 

 そして地面に三メートルほどの穴を穿ったところで、キルアさんが上から水をぶっかけてくれた事でようやく正気を取り戻せた私。でも正気に戻ったら思い返して余計に落ち込んだので、しばらくそのまま穴の底で体育座りしていた。もうヤダ恥ずかしい……。

 

 

 いやそれにしても酷いな! なんだよもう、私何なんだよもう! 修行の手伝いどころか今のところ迷惑しかかけてない!

 ただでさえゴレイヌさんにフラれて落ち込んでるのに、自業自得でもっと落ち込むってどういうことだよツライわ! 夢の中でくらい夢見たっていいじゃないと思ってたら、とんだ寝相だよ。なんでそれだけ動いていて起きなかったんだ私……。

 

「ったく、お前本当にゴレイヌが好きな」

「ゴメンナサイ……」

 

 そうこうしているうちに最終的に怒りが解けたのか、かわりに盛大な呆れの感情を滲ませているのはキルアさん。その彼に私はゴレイヌさんにしたのと同じポーズ……すなわち土下座でもって謝罪していた。最近このポーズが妙に様になって来た気がする。この先の人生でこのポーズを連発する気がしてしかたないのは気のせいだと思いたい。土下座が日常の人生なんて嫌すぎる。

 

「とにかく、迷惑かけた分はちゃんと修業手伝えよな!」

「も、もちろん! じゃあオーラも結構回復したし、まずキルアさんの手当てを……」

「ストップ! それもいいけど、ついでだから先にあんたの念の練度を見せてほしいわさ」

 

 おずおずと治療の続きを申し出た私だったのだけど、それに待ったをかけたのはクルーガー先輩だ。

 

「キルアの怪我を治していくにしても、昨日の様子を見る限り時間はかかる。だったら治療半分、そして残りの半分でゴンの修業に協力してちょうだいな。同じ強化系のエミリアが近くに居れば、ある程度イメージトレーニングの手伝いになるかもしれないし。いい?」

「それは、もちろん」

「じゃあそれで決まりだわさ! さ、ちょっと休憩したらちゃっちゃとはじめちゃいましょう」

 

 

 そんなわけで私はゴンさんキルアさんの修業の手伝いをすることになったんだけど……。よくよく考えてみれば、私がもっていた前世の記憶の中にある漫画「HUNTER×HUNTER」の中の念修業は、そのほとんどがビスケット=クルーガーによるグリードアイランドでの指導から得た知識だ。つまり彼女は私にとっても師といえる人物。私がこの世界で能力を手にいれ、さらにはそれを磨くことが出来たのは彼女のお陰といっても過言ではない。修業の方法を知らなければ、多分念に目覚めても今のレベルまでもってこられたか怪しい。

 

 だからこそ、そんな彼女に恥ずかしい所は見せられない。これは気合を入れて臨まなければ……!

 

 

 私は落ち込んできた気持ちを奮い立たせると、気合いを入れるためにゴンさんとキルアさんの真似をした。

 

 

 

 

 

 

「押忍! よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一坪の海岸線の入手を経た後、合流したエミリアが新たにゴンとキルアの修業に加わることになった。何故か初日から彼女の寝相(といっていいのかは不明だが)に手こずらされるはめになったが、それによって改めてエミリアの実力を知った二人である。何しろオーラが回復途中であるにも関わらず、ゴン、キルア、ビスケの三人を翻弄して動き回ったのだ。

 正直ビノールトを相手にした時より厄介だった、というのがゴンとキルアの抱いた感想だ。

 

 昨晩の攻防中、途中からは面倒くさくなったのか修業の一環として使えると思ったからか、ビスケは傍観を決め込み「はいはい修業修業。エミリアをゴレイヌのところに行かせるな! がお題だわさ。気ぃ抜いたらすぐに抜かれるわよ。気張んなさい」などと言いだした。これに対してキルアは「ババァ……」と小声で言いつつ恨めしそうな顔でビスケを見たが、一人で苦戦するゴンを放っておくことも出来ずにそのままエミリアの無力化に参戦した。

 

 エミリアとの修業は、わずかながらくじら島での経験がある。しかしその時彼女はほとんどミルキの修業にかまけていた上に、それ以上に真剣に取り組んでいたのはミトの手伝いだ。少しだけ組手をしたことがある以外は、彼女の修業風景を見る機会は無かった。

 その後のヨークシンでウボォーギンと戦うエミリアを見て改めて実力者だと認識するも、そのイメージを上書きする奇行の数々によって知らず知らずとその認識は薄れ今に至る。だがゴレイヌの元へ行くため、寝ているはずだというのに凄まじい気迫をもって向かってくるエミリアを前に……自分たちはまだまだ彼女の実力には及ばないのだと思い知らされた。

 

 何しろ、もともとの身体能力が凄まじい上に"技"に優れているのだ。これに関してはハンター試験の最終試験でエミリアと対峙したキルアがその時の事を思い出し、「防御を攻撃の技に転じるとこうなるのか」と舌を巻いた。天空闘技場でわざわざハンデをつけて戦っていたのは何のためかと聞いた時、相手の動きを見て技を学ぶためだと……そうエミリアは言っていた。その積み重ねてきた結果が、この動きなのだろう。見様見真似のためか様々な流派が混ざりあうその動きは不規則で、読み辛い。しかもこちらがオーラを使えば、それに反応するように"流"でもってその動きにオーラの攻防力移動まで加わるのだ。そして技以前に彼女の本質はパワーファイター。現状エミリアのオーラが回復途中とはいえ、少しでも気を抜きその攻撃をまともに身に受ければ、ただでは済まないだろう。厄介なことこの上ない。

 

 

 

 そしてやっとの思いで腰にしがみついて引き倒せば、今度は「ゴレイヌさん!」と言って凄まじい力で抱きしめてくる始末。疲労困憊の所に更にオーラでの防御を強いられるという地獄である。

 ちなみにこの時ゴンとキルアは同時に捕まり、二人は罠にでもはまった気分を味わった。捕まえたというのに掴まるとはこれいかに。

 

 しかし強く抱きしめられたのは最初だけで、次第にその力は弱くなる。だがエミリアが二人を解放する事は無く、ゴレイヌの名を呼びながら寝こける姿は幸せそうだった。

 その寝顔の間抜けさに、手こずらされた怒りだとか、寝ているくせにこちらを翻弄する動きに覚えた若干の嫉妬だとか……そんな感情が薄れ、うっかり「しょうがないな」などと思いかけたのだが……。

 

 

 

 すぐにその気持ちは吹き飛んだ。少なくともキルアは吹き飛んだ。

 

 

 

 今度は自分たちをゴレイヌと間違えてキスをしようとするエミリアから、逃れる事に必死になる羽目となったのだ。これには高みの見物で笑いながら見ていたビスケも巻き込まれ、鬼ごっこの第二ラウンドへと突入。

 

 結局全員がエミリアがゴレイヌへ向ける愛情を疑似的に体験する羽目となり、朝を迎えた。

 

 ちなみに最終的に捕まってエミリアの抱き枕にされたのはキルアである。そのため「ごめん、俺ちょっと限界かも……」と言って気絶するように眠ったゴンと、「疲れたわさ……。主に精神的に。悪いけどその子起きるまで面倒見ててね。アタシも寝る」と言ってさっさとキルアにエミリアを押し付けたビスケのせいで、結局キルアはエミリアが起きるまで一睡もできていない。そのフラストレーションが爆発し目覚めたエミリアに拳骨を食らわせたのだが、相手はちゃっかりオーラでガードするものだから、ダメージを受けたのはキルアの方だ。泣きっ面に蜂、という諺が今のキルアにはよく似合う。現在のメンバーの中で最も重傷だというのに、憐れな事この上ない。

 

 しかしエミリアも悪いと思ったようで、事情を聞いてからはひたすら謝って来た。

 

(悪気が無いのが余計質悪ぃ……)

 

 そして最終的に許してしまうあたり、自分もずいぶんと甘いものだとキルアはため息をつく。ゴンといい、どうにも強化系というのは変化系の自分と良くも悪くも相性がいいようだ。それに関してはなんだかんだ言いつつ、エミリアの世話を焼く羽目に陥っていたヒソカを見た時も抱いた感想である。変化系と強化系。相性はいいが、苦労するのは変化系。もし次にヒソカに会う事があれば、奴のオーラ別性格診断にそういった項目も追加するよう言っておこう。

 そんな事をつらつらと考えつつ、一応エミリアを押し付けて悪いと思ったのかビスケに「あんたは治療と修行の前にちょっと休んでなさい」と言われたキルアは現在見学中だ。ちなみに今はゴンがビスケに言い渡された放出系の修業"浮き手"を行っている。

 

「ところであの修業さ、レベルいっこあがってかなり難易度高くなったよな」

「当然よ。ホントはレベル5の修業だもの」

「ごっ」

 

 キルアの様子を窺いに来たビスケに問えば、返って来たのは思いがけない言葉。しかし彼女曰く、最低限それをクリアしなければ実戦では使い物にならないとのことだ。そしてもし身に付かなければ、三週間はまるきり無駄になる……とも。

 しかしもともとのやる気に加え、今のゴンのモチベーションはかなり高いものとなっている。それはゴンの修業を横目に見つつ、"練"を維持するエミリアの影響だ。

 

 

 

 "キルアの治療分のオーラを残しつつ、保つ限り練を続けよ"

 

 

 

 修業の手伝いをさせる前に、エミリアの実力を測りたいビスケが彼女にそう指示を出した。そして練を始めてすでに三時間ほど経過しているが、エミリアは未だ余力を残している。その事実にゴンは「自分も頑張らねば」と奮起しているようだ。

 キルアにしてみれても、自分たちがまだ到達できていないレベルの練を、長時間余裕をもって維持するエミリアを見て悔しくも奮い立つものがある。そして同時にゴンとキルアの二人の中で……とある決意が芽生えていた。

 

 

 

 

________________ 爆弾魔(ボマー)は俺たちで倒す!!

 

 

 

 

 それはウボォーギンとの戦いや昨夜の攻防を見る限り、本当にエミリアには爆弾魔(ボマー)達を倒せるだけの自信と実力があると思い知ったからだ。

 普段の様子、特にゴレイヌに出会ってからは見ていて不安になるほど危なっかしい場面が多々ある。しかし彼女が有する実力は確かなもの。もしかすれば、爆弾魔(ボマー)の能力が割れている以上ヒソカと協力すれば本当にあっさりと爆弾魔(ボマー)を倒せるかもしれない。しかしゴンもキルアも、それを良しとしなかった。

 

 

 

 

 

 湧き上がる闘争心。負けたくない。自分たちも、もっともっと強くなりたい。

 だとすれば、越えるべきなのだ。立ちふさがる壁を。

 

 格上との戦いを糧に、経験を喰らい、強くなる。

 

 

 

 

 

「ふふ~ん、いい表情ね。ゾクゾクしちゃう」

「うっせ」

 

 ゴンとエミリアを見つつ、武者震いするキルア。そんな彼を見て、ビスケはニヤニヤと笑う。キルアはそれに対してそっぽを向いたが、ふいにビスケが真剣な声色でこう言った。

 

「いい感じにやる気出てるみたいだから、ついでにちょっとアドバイスしたげるわさ。……キルア、あんた強くなりたいなら、その気持ちを強く保たなくちゃ駄目よ。格上にも挑もうっていう、その気概をね」

「は? どういう……」

「アンタの弱点の話」

「!?」

「あんた、少しでも自分より強いと思った相手に対して見切りが早すぎるのよ。昨晩も積極的にエミリアに向かっていったのはゴンの方。……別に慎重なのは悪い事じゃないけど、あんたはちょっと自分を過小評価しすぎね。常に相手のマックスを計ろうとし、最悪の事態を考えて行動する。その結果せっかくのポテンシャルを活かしきれてないわさ。ゴンほど真っすぐになれとは言わないけど、意識しときなさい」

 

 ビスケの言葉にキルアの頬を冷や汗が伝い、ふと長兄の顔が脳裏をよぎる。「自分より強い相手とは戦うな」……そんな台詞と共に。

 しかしキルアはそれを振り払うように首をふった。

 

「…………っす」

「返事が小さい!」

「押忍!」

「よし! ……だから今回の戦い、出来たらあんた達だけでやりなさい。もちろん複数を相手にしろなんて言わないけど、少なくとも一人は自分で倒すつもりでね。アタシもそれが出来るようにあんた達を鍛えるつもり。ゴンへのあの課題もその一つよ」

「もともとそのつもりだっつーの」

「ふ~ん、そう。ま、頑張んなさいな」

「…………おう」

 

 不貞腐れたようにしながらもしっかりと返事をしたキルアを見て、ビスケは笑みを深める。

 

「あ、でも策無しに挑むには今のあんた達じゃ無謀だから、作戦はきっちり考えとくのよ」

「それも分かってるっつーの!」

「そう? ほほっ、ごめんなさいね。火が点いたのはいいけど、若さって怖いもんだからね。……熱くなりすぎて自意識過剰で突っ込んで自爆されても嫌だし、一応言っておこうかと思って。……張り合いたい気持ちも分かるけど、あの子……エミリアね。多分あの実力を手にいれるために積んできた研鑽は相当な物よ。オーラの総量に、それを操る技術。どれも才能だけじゃなくて、確かな日々の努力が感じられる。自分に常時負荷をかけるなんていう念もそうだけど、あの子は常に己を鍛える事を怠っていないわさ。一見そうは見えないけどね」

「……で? 何が言いたいんだよ」

「追い付きたいだろうけど焦り過ぎは禁物って話」

「発破かけたいのかブレーキかけたいのかどっちなんだ……」

「う~ん、ブレーキかけつつアクセルかけろ、みたいな?」

「はああ!? わけわかんねー!」

「いいの! いい? あんた達だって近年まれにみる才能を持ってるわさ。だからそれくらいの矛盾は飲み込んで強くなれっての!」

「無茶苦茶言うなお前……」

 

 重々しくため息をつくキルアだったが、とりあえず当面の目標は決まった。

 

 

 

 

 三週間、出来る限りのことをやって自分たちで爆弾魔(ボマー)を倒す。エミリアとヒソカの力は出来れば借りない。

 

 

 

 

 

「ま、色ボケゴリラの力なんか借りずにやってやろーじゃん」

 

 

 

 

 爆弾魔(ボマー)との戦いまで、あと最長二週間と六日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想返したり返せなかったりで毎回毎回中途半端で大変申し訳なく……!しかしながら、頂く感想を励みになんとかここまで書いてこられました。このお話もあとちょっとかと思われますが、お付き合いいただけたら幸いです。

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