流星街を出て天空闘技場で定期的に荒稼ぎしてあとは引きこもっていた私だが、それがイコール鍛錬を怠っていたことには繋がらない。何故なら金を稼ぐために念能力者が多く居る200階以上までは基本進まない私であるが(一回間違えて進んでファイトマネーが無くなって愕然とした)、時たま上を目指す途中の念能力者と下層でぶつかることはあるし、なにより時々私と戦いに住居にダイナミック侵入してくるクソガキ共を叩きのめすには力が必要である。弱体化するわけにはいかないのだ。
よって私は
結果としては「体のパーツを美しく保つ」念能力の制約としてその要素を取り入れる結果となった。
これに関しては
これは気に入ってた服が着れなくなったことに危機感を覚えたのがきっかけだったりする。補整下着の能力を開発する前は鍛えれば鍛えるほど体格がガッシリしていってたからな……。流石に女としてヤバいと思った。後者に関しては完全に「あわよくば」的な欲の結果であるが、おかげで凹凸こそ少ないが特に手入れしていないにも関わらず私の体は第二次性徴後は順調にいい感じの"形"に育っている。もしかしたら手だけ、足だけのモデルなら出来るかもしれない。
そしてこの能力の本命は制約にある。念能力は制約と誓約というリスクを付加することによって自分の実力以上の能力を引き出せたりするのだが、私はそれを修行に利用することにしたのだ。そもそも能力自体が肉体の操作っていう「操作系」に属するもので強化系の私とは相性が悪いから、制約を課さないとろくな効果を発揮しないんだろうけど。
私が補整下着の能力の恩恵を受けるにあたって自身に課した制約はシンプルだ。「発動している間のあらゆる日常生活で肉体に負荷がかかり続ける」事……それが私の念能力、補整下着の制約だ。
日常的に使っていなければ体型の変化に効果を発揮できない能力だから、私は寝る時以外常時能力を発動している。発動中は分かりやすく言えば常に重りをつけて動いているようなもので、どんな動きでも強制的に筋トレになるってわけだ。まさに一石二鳥とはこのことよ。
思いがけないリスクといえば発動中は念が体の内側に向けて使われるためか見た目的にオーラが垂れ流しに近い状態に見える上に、その見た目どおり纏をはじめとした念の基礎すら出来なくなるところか。ざっくり言うと常人と同じ状態になる。
能力を解除すれば問題なく念能力者として力を振るえるが、その解除からの通常の纏、他の技に繋げるまでのタイムロスを無くさないと能力者に奇襲されたら終わりだからどっちにしろ念については別の修業が必要だけど。けどネトゲをしていようと漫画を読んでいようとアニメを見ていようと、些細な動き全てが筋トレになるのだから趣味との両立が出来るのだ。我ながら良い能力だと思う。……いい能力だよな? …………本音を言えばもうちょっと他に何かあった気がしないでもないが、そう思い直したのは能力を作っちゃった後だから考えないようにしている。
うん、この能力はいい能力なんだ。それでいいじゃないか。
そしてそんな風にして鍛え上げた体の性能を試す場所もまた、天空闘技場である。クソガキ共の襲撃に備えるには相手は実力不足な者ばかりだが、補整下着の制約の負荷は軽減は出来なくても重くすることは出来るので、限界まで負荷をあげてハンデを背負えばなかなか接戦になったりする。その中で自分に足りない"技術"と"工夫"を学ぶとなかなか勉強になるからな。私より弱くても格闘の基礎を修めた者の動きは非常に貴重な教材だ。そのせいで負けもするが、200階に上がらないためのカモフラージュとしては申し分ないので良しとする。私は名誉が欲しいんじゃなく金と強さが欲しいのだ。
ま、勝とうと思った勝負で負ける事なんてほぼ無いけどな。まったく天空闘技場はいい金ヅルだ。
強さがあれば生きられる。
私は満足に生きられるようになった今も、あの理不尽極まりない人生のスタートを忘れていない。もちろん、それに対する怒りも。
強くなることに対して、私は貪欲だった。
そして今回も私は天空闘技場にやってきていた。しかし相対した存在に少々の戸惑いが生まれる。
『さあ、彼女はまたこの天空闘技場に戻ってきましたーーーー!! 金の亡者、又は天空闘技場のハイエナ! 地味ながらなかなかのインパクトの二つ名がついた彼女の名前はエミリア選手! 若いですが実は結構な古参です。一回だけ200階クラスに上がった猛者と言えば彼女が見た目通りのか弱い少女でないことがお分かりいただけるでしょう! たまにしか現れないレアキャラなので今日の観客の皆さんはラッキーですよー! 私はかつて彼女と名勝負を繰り広げ「貴殿はなんのために戦うのか」と問いかけた真面目そうな武人に対して「金のために決まってんだろ!」と答えたエミリア選手が忘れられません! なんという名勝負の台無し感! しかしなんという潔さ!! 今日も彼女はファイトマネーのために戦います!』
毎回毎回ろくな紹介しやがらねぇな天空闘技場のアナウンサーは!!
『そして対するは、なんとなんとなんと……弱冠6歳、キルア選手ーーーー!! みなさん、驚きでしょうが侮ってはいけません。彼は幼いながら、初戦で好成績を叩き出し一気にここまで上がって来た有望株! さて、エミリア選手とキルア選手……どんな戦いが繰り広げられるのでしょうか!』
そう、今回の私の初戦の相手は6歳の子供だった。銀髪に猫目が特徴で、どういうわけか妙な既視感を覚える。知っていないはずなのに知っている私の妙な知識の中に、何か引っかかるものを感じたのだ。
しかし私のやることは変わらない。戦って勝つだけである。
が、子供はそんじょそこらの奴らとは格が違った。要は強かったんだ。……妙な技ばかり使って来てたけど。
けどハンデ有りとはいえ6歳の子供に負けてたまるかと、大人げなく私は子供の顔に拳を叩き込み完封した。少年よ、大海を知れ。
「おこちゃまは家でチョコでも食ってな」
ぺっと血を吐き出しながら言い捨て、ほんのちょっと感じた罪悪感から気絶した子供のポケットに小腹に入れる予定だった駄菓子をそっと忍ばせてから私は闘技場を後にした。
私はその後も勝ち続け、満足いく額を稼ぎさっさと天空闘技場を後にしたのだが、その間闘技場内ですれ違うと決まってあの子供が噛みついてきて鬱陶しかった。なんだよ、他にも負けた相手はいるだろうに何がそんなに気にくわない。試しに聞けば何かしらのハンデ込みで私が戦っていたと気づいていたらしく、それと捨て台詞が気にくわなかったらしい。ハンデに気づいたところは感心した。今まで気づいた奴居なかったからな。
でも子供の相手とか面倒くさいから徹底的に無視したけど。ふんっ、私は金さえ稼げればこんな場所に用は無いんだ。
しかしそれから6年後。……ハンター試験内で、思い出した記憶と思い出した過去に子供の正体を知った私は頭を抱える羽目となる。
能力紹介&過去話ふたつめ
前回にてご機嫌を取ろうと決意した後で過去にぶちのめしたことを思い出してキルアも思い出す流れです(ネタバレ
ヤッタネ、キルアの好感度がどんどん下がるよ!