ゲンスルーからの接触。
奴らが一坪の海岸線の件でツェズゲラに交渉という名の脅しをかけてくるのを聞いて、私はさてどうしようかと考える。
漫画と違ってこちら側には私とヒソカが居るし(一応私と組んでくれてるからか、レイザー戦が終わっても残ってくれた。嬉しかったのでオーラが回復したらこいつの怪我も治してやろうと思う)私の治療でゴンさん達の負傷も軽いものとなっている。少々時間をおけば、おそらくゲンスルー達を倒すことなど容易いだろうが……。
「あの」
やめた。一人で色々考えるのは、もうやめにしよう。
私はこれまでゴレイヌさんに会うために、そして今は好きになってもらうために我ながら頑張って来たと思う。だけどここまで来れたのは、決して自分一人の力じゃない。巻き込みたくなかった旅団との戦いでも、結局私はゴンさん達に助けてもらって、今も助けてもらいっぱなしで……。
だったら今私がすべきことは、その恩返し。それも独りよがりで勝手に行動するんじゃなくて、友達であるゴンさん達にも隠し事をしないで、何か悩んだら素直に話して相談する事。…………きっとこの選択は間違いじゃない。
「ん、何だ」
控えめに挙手した私に、ツェズゲラが問いかける。
ちなみにゲンスルーとの交信はすでに切れており、ゲンスルーの暴挙に怒ったゴンさんはさっきまで怒りを湛えて鼻息を荒くしていた。まあ、情報を得るためにゲンスルー達は、ゴンさん達が前に組んだ十五人の仲間を殺したようだからな。当然か。…………真面目に探して会わなかった結果とはいえ、合流前にゲンスルー達を仕留められなかった事が悔やまれる。
ツェズゲラはそんなゴンさんが自身の名を名乗りゲンスルーを挑発するような行為をしたことに対して、年上らしく諫めた。私が多少回復させたとはいえ、現在負傷、消耗しているメンバーが多い中もしゲンスルーが来たらどうするのか、お前は仲間を危険にさらしたんだ……と。
そしてゲームに勝つ気ならば、ゲンスルーに勝つしかないと言ったツェズゲラはゴンさん達に取引を持ち掛けてきた。すなわち、自分たちが時間を稼ぐからその間にゲンスルーを倒す算段を整えろ、というものだ。どうやらレイザーとの戦いで、ゴンさん達にゲンスルーに勝てる可能性を見出したらしい。まあ他にもカードうんぬんで色々理由はあるかもだけど。
しかしゲンスルーを倒すことがゲーム攻略への道ならば、答えは非常にシンプルだ。
私は全員の視線が集まるのを確認すると、多くの視線を浴びて緊張する中言葉を続けた。
「ゲンスルー組は、私が倒します。あとヒソカが」
「なっ」
私の提案に驚く面々に居心地悪くなりながらも、私は言葉を続け……ようとしたら、ヒソカが割り込んできた。
「ちょっと待った♠ ボクもかい?」
「どうせさっきの戦いで昂ったまんまでしょ。丁度いい発散相手じゃない。……それなりに強いみたいだし」
「う~ん、見てないから何とも言えないけど、ボクにも好みってものがあるんだけどね♦ あと、人に用意されたデザートは好みじゃない♠」
「贅沢言うんじゃ無いわよ」
思わず舌打ちしそうになるのを、ゴレイヌさんの前なので抑える。お淑やかお淑やか……!
「ずいぶんな自信だが、勝算はあるのか?」
こちらを値踏みするようなツェズゲラの視線に怯みそうになるも、今回私を支えているのは長年続けてきた鍛錬の成果。搦め手には弱いけど、真正面からの戦いならそう簡単に負けない自信がある。皮肉だけど、これはクソガキ共という世間から見ても私から見ても最高クラスの念能力者を相手に戦って来たゆえの自信だ。早々に揺らぐものでは無い。
「ある。こう言っては何だけど、多分正面から戦うだけなら私はあなたより強い」
「! 言ってくれるな……! だがいくら自信があろうとも、俺達はここ一週間お前が戦うところを見ていない。それにお前のオーラは見ていて不安定だ。時々念を知らない一般人にすら見えるぞ? ……おそらく、ゴン達の方が強いだろうな。タフさや身体能力は認めるが、あの程度なら……」
「ちょっとタンマ。そいつ、普段から鍛錬用に自分に念かけて行動してるぜ。今は解除してるみてーだけど、多分訓練中はかけたり解いたり使い分けてたと思う」
「鍛錬用の念? 道理で強さの印象が定まらない子だと思ったわさ……」
「今は多分俺たちの回復でオーラを使っちゃったから、オーラだけじゃ判断できないかもだけど……エミリアさんは強いよ」
私の強さを保証してくれながらも、しかしゴンさんは納得いかない表情をしていた。……あれ、この表情のゴンさんって……。
「でもエミリアさん。俺達のためにっていう理由なら、ヒソカが居るとしても自分だけで戦うようなこと言わないでほしい。エミリアさんの強さは知ってるけど、俺達のゲーム攻略のためにエミリアさんを危険な目にはあわせられない。……こうして何も言わずに実行する前に話してくれたのは嬉しいけど……俺は納得できないよ」
「でも、だとしたらゴンさんその怪我で戦うって言うつもり?」
「ツェズゲラさんが時間稼ぎの取引を提案してくれたし、エミリアさんが治してくれたらもっと早く治る!」
ど、堂々と言い切られてしまった。いやいやいや、でもさ。正直私ゲンスルーになら負けないよ!? ここはゴンさん、私にまかせてさくっとグリードアイランド攻略しようよ! 漫画の展開的に考えたらここはゴンさん達が乗り越えるべき試練だけど、わざわざそれをなぞる必要は無いじゃない。だって念とかのレベルアップはこのままクルーガー先輩に指導してもらえば間違いなく成長できるんだし!
何も言わずに実行するのは不誠実だからと相談したけど、なんでこんな事に……。私はただゴンさん達の了承を得て、気持ちよくゲンスルーをぶっ飛ばしにいければそれでよかったのに。……でも結局、そんな私の考えは独りよがりだったのだろうか。だからこうして今、反対されてるのかな。
でも、私にだって譲りたくない気持ちはある。
「ゴンさん。これは、今までの恩返しでもあるの。今まで助けてもらった分、ゴンさん達のゲーム攻略に役立つなら私はそれに協力したい。私、馬鹿だから……腕っぷしくらいでしか、多分役に立てないし」
「君、それ自分で言ってて悲しくならない? ホントのことでも♦」
「お前ちょっと黙って…………静かにしていてくれると嬉しいんだけれど。ふ、ふふふふふ」
くっ! お淑やか! お淑やか!! 怒るな私。冷静な大人の女性をイメージするんだ……!
私がヒソカの入れるちゃちゃに青筋を浮かべていると、ゴンさんは真っすぐな瞳で私を見てきた。
「だったら、なおさら駄目! 恩返しなんていらない。友達を助けるのは当たり前なんだから!」
「! だ、だったら私の行動だって当たり前の事よ! 友達のゴンさん達の助けになりたい! それじゃダメなの!?」
「駄目! エミリアさんが抜けてて無茶するとこ、俺知ってるんだから! 前みたいに死にかけたらどうするの!? 真正面からなら勝てるって言ったけど、たとえば相手がグリードアイランドのカードを使ってきたら!?」
あ! しまった……それは考えてなかった。それによく考えると、私豚バラたちの能力は
「う、で、でも……! ひ、ヒソカだって居るし……!」
「ヒソカはエミリアさんに協力する!?」
「ボク? さっきも言ったけど、人に用意された
「ヒソカ!?」
我が友まさかの裏切り!? おいお前、だから強い奴と戦いたい奴じゃなかったっけ! なんでわざわざセッティングしてやってんのにこんな時だけ拒否するんだよ気まぐれ屋のひねくれ者が!!
「強化系同士頑固さで譲らねーな……とか思ってたら、ゴンのが押してるか」
「ま、今まで見た感じでもゴンは押しが強くてエミリアが押しに弱いのは一目瞭然だもんね。当然だわさ」
く! 傍観者にまわっている変化系コンビ、実況してないで私の援護を……「あー、無理無理。そうなったゴンをどうにかするの無理だから。お前も知ってるだろ?」そうだけど!!
「で、結局どうするんだ」
「俺たちも方針が決まらないと困るんだが……」
! し、しまった。ツェズゲラはどうでもいいけど、ゴレイヌさんに呆れられた……!
「ツェズゲラさん。さっきの条件で受けるよ!」
「……ということは、俺達が時間稼ぎをしている間にお前たちがゲンスルーに勝つための算段を整える。それでいいんだな? ちなみにさっきも言ったが、一週間の時間稼ぎを危険を冒しての三週間に引き延ばせば、奇運アレキサンドライトを譲ってもらいたい」
「うん!」
「おいゴン! ……ま、奴らが持ってないカードを持ってる時点で俺たちも狙われるのは時間の問題だけどさ」
「奴らが一坪の海岸線のオリジナルを持ってるであろう俺たちをまず狙うのは間違いない。実際オリジナルはお前たちの手にあるがな。……とにかく時間稼ぎの間、お前たちは怪我を治し鍛錬に励め。……悔しいが、奴らに勝てるチャンスがあるとしたら君達しか居ない」
……あれ、気のせいかな。意図的に私のさっきの発言がツェズゲラにスルーされて話が進んでいるような……。
「あの!」
「怪我なら大丈夫! エミリアさんが居るから、俺もキルアも多分すぐに治るよ。その分ゲンスルー達を倒すための手が考えられる!」
「あの、だから私が……」
「エミリアさん」
「は、はい」
「ヨークシン」
「う」
「旅団」
「でも」
「毒」
「えっと」
「レイザー戦」
「…………ごめんなさい……」
勝てない。私、私の友達であり大天使のゴンさんには勝てない……! なんだか最近謝ってばっかりな気がするし、その分心配かけたり迷惑もかけてるってことだよね。……ここで無理にでも「私が行く!」で強行したら今度こそゴンさん怒らせて、下手したら絶交……い、嫌だ! そんなの嫌だ!
「えーと、じゃあ話はまとまったと考えていいのかしら?」
「ああ。俺達は時間稼ぎで、お前たちはゲンスルー撃破に動いてくれ。正直ヒソカが居るのは心強いし、エミリアもお前たちが言う通りなら強いんだろう。なら確実に倒せる方向に話を進めよう。その方が建設的だ」
私が精一杯の勇気を振り絞って提案した案はこうして流れるように却下され、最後はクルーガー先輩とゴレイヌさんが話を畳んだ。
そしてあれよあれよという間にツェズゲラ組と、彼らと組んだゴレイヌさんは「忘れるなよゴン。奴らはここで五十人以上のプレイヤーを殺しているんだ。どうしてもクリアしたいなら……闘うしかない!」というツェズゲラの言葉を最後に
しかも。
「どうしてそんなに俺が好きなのか知らないが、告白してくれて嬉しかったぜ。俺も男だから、やっぱりそういうのは嬉しいさ。でも恋愛対象には見れない。ごめんな。……あと、妻が居るってのは嘘だ。悪かったな、エミリアの真摯な態度に嘘ついて」
ゴレイヌさんに真面目にふられたんだけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! うわああああああああああああああああああ!!!!
実は奥さんが居ないという私大歓喜の事実を知れたはずなのに、なんでこんなに悲しいの? ゴレイヌさんのお嫁さんになれる可能性が出来たんだと喜んで、もっと頑張れるじゃない! なのに何でこんなに体に力が入らないの!? なんで!? 優しさをはらんだ真面目なお断りの言葉って、こんなに苦しいものなの!? 知りたくなかった!!
「ご、ゴレイヌさん待っ」
べそかきながらもすかさずブックを取り出し、移動系のスペルを使おうとした私。だがそんな私の脚に、ヒソカの
「ぎゃふん!」
「うわ、人ってホントにそんな声出す時あるんだな」
き、キルアさんそんな冷静に言わないで……って、なんで眼鏡とるの!? 私が眼鏡無いとほぼ何も見えないってキルアさん知ってるよね!?
慌てふためく私。そんな私の後襟を掴んでずるずる引きずり出したのはクルーガー先輩だ。
「はいはい、あんたはこっち。友達の力になりたいんでしょ? 正式にフラれた事だし、今はこっちを優先なさい。あんたの回復の能力アタシも興味あるし、ついでにあんたの面倒も見てあげるわさ。強そうだけどいろいろ穴ぼこだらけな気がするのよねー、あんた」
「そうそう。せめてフラれたばっかなんだし、今はちょっと時間置けよ。すぐあと追いかけると重いし見苦しいぜ?」
「君に振り回されるのは飽きたけど、クロロ倒しちゃったからボクも実は今暇なんだよね♠ こうして青い果実の成長をじっくり見るのも一興♥ 君もたまにはボクにつきあいなよ♦」
「一緒に頑張ろうね! エミリアさん!」
友達は居るけど、味方が居ません。
ああああああ! ゴレイヌさんが、折角会えたゴレイヌさんがあらゆる意味で遠くなってゆく!
「ゴレイヌさーーーーーーん!」
私の声が響き渡るグリードアイランドの空は、今日も青い。
一応前進してなくも無いけど、距離的には振出しに戻りました。