ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla51,ぐだぐだ恋バナし

 私が衝撃の新事実にダメージをくらいつつもなんとか新たな決意を胸に立ち上がった、その後。

 

 私が目を覚ましたのはいいものの、灯台まで来ていたのは最初に場所の確認を行うためだったらしい。

 確認後、数合わせのグリードアイランドから帰りたくても帰れないプレイヤーを仲間に加える事、レイザーと十四人の悪魔攻略のためのシミュレーションのため一週間の期間を要した。

 

 

 

 

 

 一週間である。

 

 

 

 

 

 一週間、(他にもメンバーは居たけど)ゴレイヌさんと寝食を共にしたのである。

 

 

 

 

 

 ゴレイヌさんと

 寝食を

 共にしたのである!!!!

 

 

 

 

 

 

 興奮しすぎてここ一週間寝不足だった。

 

 あらかじめゴレイヌさん達が前メンバーと確認していたレイザー戦のスポーツ八種目に加え、想定できる限りのスポーツについての訓練などもこの一週間で行われたが……私としてはそれどころじゃないわけで。

 もちろんスポーツの練習は真面目に取り組んだ。結局はドッジボールになるんだろうなーと思いながらも、したことなど前世での体育の授業が最後であろうスポーツ各種を私なりに頑張って練習した。だけどそんなことよりも何よりも大事なのは"ゴレイヌさんと寝食を共にする"こと一点なわけで!!!!

 

 もうね、雑事全部引き受けたよね。主に食事と洗濯。

 

 私たちは一度集まった後は、効率よく練習を重ねるために拠点を設定し、そこでキャンプをしながら一週間訓練を重ねた。だから最初、その期間中の食事係などの持ち回りをある程度決めておこうと提案されたのだ。各自でいちいち町に戻って寝泊りや食事をするのは面倒だし、団体で動いているのをゲンスルーたちに気取られたらそれもまた面倒だし。

 でもってそこで私は「全部私がやります!」と全力の挙手でもってその期間の雑事の権利をもぎ取った。何人か「えっ」みたいな顔してたけど、これは譲れない。今こそクラピカとミトさんの教え、天空闘技場での家事修業の成果が試される時だと思ったんだ。譲れぬ。

 

 私の必死のお願いが功を奏したのか、無事に雑事を任せてもらえることになった。ふ、ふふふ……! これでゴレイヌさんに私の手料理を食べてもらえる!

 喜び勇んだ私は一週間、練習の時間以外は良妻アピールに努めた。何故か人数合わせに集めたプレイヤーの何人かから「よ、よかったら島外へ出たら俺の故郷に一緒に来ないか?」とか「あんたの料理美味しいな。嫁さんに欲しいくらいだ」みたいなこと言われたけど違うそうじゃない。お前らじゃなくて私はゴレイヌさんに尽くしているのだ。その他はおまけに決まってんだろ。褒められたいのはお前らじゃない。…………あ、ゴンさん達はもちろんおまけなんかじゃなく、友情に基づいて今までの恩返しもかねて精一杯尽くさせていただいた。天空闘技場ではわりと酷評が多かったキルアさんにも「美味しい」と言ってもらえたのは嬉しかったな。

 

 そして肝心のゴレイヌさんだけど……………………なんと! 「美味い」と褒めてくれたのだ!!

 

 嬉しさのあまり一瞬三途の川らしきものを渡りかけてしまった。それくらい嬉しかった。

 ゴレイヌさんの好みが分からなかったから、初回の時はこれでもかと種類を作ってバイキング形式で提供した。そこでゴレイヌさんの食の好みを把握した私は、それに基づき試行錯誤を重ねたのである。一回でも同じものがかぶらないよう、色んな私の料理を食べてもらえるようにと工夫するのはなかなか大変だったけど……それ以上に楽しかった。

 愛する人のために料理を作るという事が、こんなにも嬉しくて楽しい事だなんて初めて知った。…………それが出来るゴレイヌさんの奥さんが羨ましい。

 

 奥さん…………。うん…………。奥さん………………。

 

 

 奥さんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

 

 よくよく考えたらゴレイヌさんみたいな優良物件、売り切れていて当たり前だった。むしろ今の奥さんは複数の女性による壮絶な争奪戦が行われた上での勝者かもしれない。ゴレイヌさんみたいに素敵な人なら、きっとすごくモテただろうし。

 だからこれは出遅れた私が悪いのだ。もっと早くゴレイヌさんを思い出せていたなら……いや、よそう。前世の記憶なんてものを思い出せただけでも奇跡。もし一生ゴレイヌさんを思い出すことが出来なかったらと思うとゾッとするし、きっと現状はまだ幸せな方だ。

 

 だけど、それは別にして。

 ……どう頑張っても諦めきれない。だから可能性は低くても、私に残された手段はやっぱり愛人枠しか……!

 

 

 

 

 

 だって、好きなんだもの。

 

 

 

 

 どんなに無様でも恥ずかしくても、可能性があるなら私はそれにすがりたい。

 

 少し前……実際に会って、イメージと違って気持ちが冷めたらどうしようなんて考えてたのが馬鹿みたいに思えるほど、日に日に想いは募ってゆく。

 ゴレイヌさんは優しい。あんな出会い方をした私にも食事のお礼とかちゃんと言ってくれるし無視しない。

 ゴレイヌさんはカッコいい。凛々しい顔立ち、鍛え抜かれた逞しい体、安定した体幹、純粋で理性的な黒い瞳。耳の形も可愛くて、指の節くれ一つ一つまでが芸術だ。あの大きく優しく逞しい手で頭を撫でてもらったり、抱きしめてもらえたらどんなに幸せだろうか。

 ゴレイヌさんは賢い。ヒソカみたいな曲者や、ツェズゲラみたいなベテランハンターにも一歩も引かず己の意見を述べるしその内容も的確だ。日が経つにつれて周囲の信頼をその身に集めているのがわかる。

 ゴレイヌさんの表情一つ一つが愛おしい。笑顔なんて見た日には体が蕩けてしまいそうだ。

 

 数えればきりがないくらいに、どんどんどんどん、好きなところが増えていく。

 

 

 

 

 大好き。

 

 ゴレイヌさんが、好きで好きで、愛おしくてたまらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日めげずにゴレイヌさんへのアピールを続ける私に「もう相手いるってのに何頑張ってんだよ」と言ってきたのはキルアさんだった。

 

 クルーガー先輩はせっかく出た私の気力がちょっとの刺激でぬけて使い物にならなくなることを危惧してかそのことには触れないし、ゴンさんも気遣ってくれてるのかゴレイヌさんの奥さん云々については話してこない。そんな中直球で聞いてきたキルアさんに、私はいい話し相手が出来たとばかりに、自分の中では処理しきれなくなったゴレイヌさんへの想いをありったけ放出しつつ自分の考えを述べた。

 すなわち、少しでもゴレイヌさんの好感度をかせいで、奥さんに土下座してでも愛人枠に入れてもらう計画だ。

 

 

 そしたら思いっきり呆れた顔をされた。

 

 

「愛人ってマジ? お前馬鹿だろ」

「いいの。どんな形でもいいから、私はゴレイヌさんのそばに居たい」

「不毛だろ、そんなの。…………もしそれが叶ったとしてさ。お前、今度はゴレイヌの嫁さんの暗殺依頼出すんじゃね?」

「そんなこと……」

「しないって、言い切れるか? じゃなきゃエミリアお前、一生ゴレイヌにとって二番だぜ。我慢できんのかよ」

 

 痛い所をつかれ、一瞬息が詰まる。しかしそれを振り払うように顔をぶんぶんと左右に振ると、私は真っすぐにキルアさんを見つめた。

 

「だとしても、しないよ。我慢する。私はゴレイヌさんが大好きだけど、だからこそゴレイヌさんが悲しむことはしたくない」

 

 キッパリ言い切った。

 でもそこで終わればかっこよかったのに、悲しみとドロッと淀んだ嫉妬の感情がせりあがってきて視界がにじんだ。

 

「! お、おい泣くなよ! お前最近涙腺ゆるいぞ!」

「し、しかたないでしょ! 悔しくて悲しくてやるせないのも本音なのよ! 泣きたくもなるわ! でも……それでも、ただ押し付けるだけの愛で終わりたくないの! 私のゴレイヌさんへの愛はそんなに軽くないの! うぐっ」

「いや思いっきり押し付けてるだろ、今」

「そ、そりゃ多少はね? でも、私はゴレイヌさんを好きになる事で……色んな事を与えてもらったの。だからそんなゴレイヌさんから何かを奪うようなことは、したくないわ。…………………いや恋心は欲しいけど。ハート泥棒にはなりたいけど」

「あのなぁ……言ってる事滅茶苦茶だぞ」

「う、うん。自分でも馬鹿だって分かってる……。でも、そう簡単に捨てられる気持ちじゃないのよ……」

「ふーん……。恋って、怖いな」

 

 そうつぶやいたキルアさんは、どこか居心地が悪そうだった。まあこんな無様にあがく恋の感染者見たら「恋愛って面倒くさい」と思うようになる気持ちも分かるけど。我ながら自分が滑稽だし。

 でもどんなに馬鹿臭くても、この想いを知らないまま過ごすのは物凄くもったいない事だと思う。

 

「そうね、恋するってことは、凄く怖い事よ。でも……それ以上に満たされる。だから苦しいけど、私は今凄く幸せなの。……いつかキルアさんも誰かを好きになれば、分かるようになるわ」

 

 そう言ってほほ笑む私。ふっ……。恋を語る私、今最高に乙女じゃない? 多分今のほほ笑み乙女度120%くらい行ってたわ。ご、ゴレイヌさん見てたかな? 我ながら今のは会心の乙女だったと思うけど……ああ! ゴレイヌさん今ツェズゲラと話し中かー! くっ……! 残念。

 

 

 まあとにかく、こうして私は初恋もまだまだなお子ちゃまに恋とはなんたるかを説いてやったわけだ。これからの人生の糧にするがいい。

 

 しかしキルアさんはどこかぼけっとしたような顔をした後、ぎゅっと眉根を寄せてこれでもかというくらいしかめっ面を作った。とても私の恋バナに感銘を受けた表情ではない。

 

「…………。俺は分かりたくねーな。だってすっげーめんどくさそうだし。てか、事実お前が凄まじく面倒くさいし」

「な、何よ! せっかくの人生の先輩からの経験談なんだから、ちょっとはありがたく受け取ったら!?」

「人生の先輩ぃ~? お前よくそんな事言えるな。言っとくけど、エミリアの精神年齢俺らとどっこいかそれより下だから」

「ぐっ」

 

 い、言い返せない……! でもさっき自分で「私みたいなの見たら恋愛とか面倒くさく思うだろうな」と考えたんだし、たしかにありがたく受け取れはちょっと図々しかったか。でもなんか悔しい。

 ふ、ふん! まあいい! 今のうちにせいぜい吠えておくがいいわ! そしていつか私と同じ思いをして悩め!

 

 …………いや、キルアさんのスペックだったら悩む間もなく相手をゲット出来るか。………………将来イケメン確定な上に生意気だけどめっちゃいい人だもんなキルアさん…………。あれ、考えてたら敗北感が。

 

「…………まあ、キルアさんはきっといい恋愛できるよ」

「今度は何しょげてんだよ」

「うるさい」

「はあ? 散々惚気られた上に自分の恋愛観べらべら垂れ流しておいて、聞いてやった俺に対してそれ言うか!?」

「うううううううう、うるさい! 話を振って来たのはキルアさんでしょ! いいじゃん少しくらい話聞いてくれたって! こ、この将来高スペックイケメンの勝ち組が!」

「貶す風に褒めんな! どういう反応していいのかわかんねーだろこの馬鹿!」

「ごめんなさい!」

「そこは謝んのかよ! わけわかんねーなお前はよ! ゴンといい、強化系はみんなこんなか!? 単純一途めんどくせー!!」

「あ、それってボクのオーラ別性格診断だよね? 覚えててくれてたんだ♥」

「!? ひ、ヒソカオメーはオメーでさらっと会話に入ってくんなよビビるだろ!」

 

 

 

 そのままちゃっかり会話に入ってきたヒソカを加え、私たちのぐだぐだな恋バナはしばらく続いた。

 

 

 

 

 

 

++++++++++

 

 

 

 

 

 

 一方、エミリアたちがグダグダな会話をしている傍らで、ビスケとゴンはのんびりお茶を飲みつつ休憩をしていた。

 

 

 

「はー。甘酸っぱ」

「? そのお茶そんな味なの?」

「いや違うけど、なんというか空気がね。あー青春青春。聞いてるこっちが恥ずかしいわさ」

 

 

 

 

 そしてだんだんと大きくなっていった会話が聞こえないはずもなく、恋バナの渦中の人ゴレイヌは自分に向けて一心に向けられる恋心にただただ戸惑っていた。彼と会話していたツェズゲラは、少し悩んだ末にゴレイヌの肩をぽんっと叩く。

 

「よくわからんが、あんなに想われて男冥利に尽きるな」

「あんた他人事だと思って……」

「他人事だからな」

「そうか……」

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中、ツェズゲラの仲間の一人である男はいつ「おい、ヤバいぜ! ゲンスルー組が97枚になってる……!」と言い出そうか迷っていた。その事実にはついさっき気づいたのだが、丁度エミリアの大きな声に遮られて完全にタイミングを逃していたのだ。

 

(言い出しづれぇ……)

 

 

 

 

 

 

 

 レイザー戦まであとちょっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




よく考えたらツェズゲラ仲間に加えてから練習期間あったんだぜ☆と気づいたのでレイザー戦前にもう一話。次こそ、次こそレイザー戦が書けるはず……!

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