ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla47,恋の痺れは甘い毒

 ゴン、キルア、ビスケ、ゴレイヌはヒソカに会うべく同行(アカンパニー)を使用した。

 

 呪文カードによる移動は瞬く間であり、気づけば目的地へと到着していた。そしてたどり着いた先は何処かの森の中であり、目の前には小規模の泉が存在している。

 その中心に、目的の人物は立っていた。

 

 

 

 

 全裸で。

 

 

 

 

 

「おやおや……♦ これは予期せぬお客さんだ♥」

「やっぱりヒソカ! ……だよね?」

 

 目的の人物が人違いで無かったことに安堵しつつ、ゴンが隣にいたキルアに確認してしまう程度には、ヒソカの印象は今まで見てきた彼の姿からはかけ離れたものだった。

 といっても、ただノーメイクなだけなのだが。

 もともとヒソカは端正な顔立ちをしているが、普段のピエロのような姿ではどうしても個性の方が際立ってしまう。そのため服装、髪型、メイクがリセットされ、ありのままの姿で佇むヒソカの印象はガラリと変わって見えたのだ。ゴンが一瞬でも「よく似た別人では」と思ってしまったのはそのためである。

 

 そしてそのヒソカであるが、全裸であるにも関わらず狼狽えもせず余裕を滲ませた表情で堂々と佇む姿はある意味男らしい。しかし均整の取れた体は美しいと言えるものであるが、だからといって見たいものでは無い。特にその股間部分は。

 突然来たこちらに非があるのは分かっている。分かってはいるが、見たくないものは見たくないのだ。キルアはそっと目の前の男の裸体から視線をそらした。

 

 ちなみに隣で指の隙間からヒソカの裸体をガン見していた師匠については見ないふりをした。

 

 時として人は、心の平穏のために見たくないものを積極的に無視するすべを必要とするのだ。

 こうして今日もキルアは大人の階段を上る。

 

 

 

 

 

 

「久しぶり♥」

 

 笑みを浮かべたヒソカだったが、そのオーラは挑発するような高ぶりを見せる。それに対してゴンとキルアは素早い反応速度をもって臨戦態勢に入り、するとヒソカはいっそう笑みを深めた。

 

「くくくくく、やっぱりそうだ♥ 臨戦態勢になるとよく分かる……♣ ずいぶん成長したんじゃないかい? いい師に巡り会えたようだね♥」

 

 以前会った時に比べて更に磨かれ洗練されたゴンとキルアのオーラに、ヒソカのオーラもまた躍動するように蠢く。そして以前より念の扱いに長けた二人にとって、ヒソカの強さはより明確に感じ取ることが出来た。____やはりこの男強いと、ごくりと生唾を飲み込む。

 しかしその緊張感も、次の瞬間台無しにされる事となった。

 

「ボクの見込んだ通り……♦ キミ達はどんどん美味しく実る……♥」

「「!?」」

 

 ヒソカのオーラと感情に呼応するように、"体の一部"が熱い熱と質量を伴って首を持ち上げたのだ。

 ある意味緊張感も警戒心も増したが、色々と台無しである。

 

 そしてそのヒソカの体の反応と、粘りついて張り付くような声色にぞわぞわと悪寒を感じたのはゴンとキルアだけではない。

 

「~~~~~~!! 何なんだこの変態ヤローは!」

 

 ゴレイヌが直球にヒソカを最も簡単に評する言葉でもって威嚇するように叫ぶが、はっと気づいたような表情になりキルアを見た。

 

「おい、出来れば会いたくないっていうのは……」

「意味、分かってくれた?」

「ああ。よく分かった」

 

 ゴレイヌは深く頷いた。たしかにいくら強かろうと、出来ればお近づきになりたくない男である。

 しかしゴン達のドン引き具合など気にも留めず、ヒソカはマイペースに質問を投げかけてきた。

 

「で、ボクに何の用だい? それとも用があるのはボクじゃなくてエミリアかな♦」

 

 その問いかけの中に出てきた名前に、真っ先に反応したのはゴンだ。警戒していた姿勢をとくと、身を乗り出すようにしてヒソカに問いを投げ返す。

 

「! エミリアさんと一緒に居るの!?」

「じゃあやっぱり名前のリストに載ってたのは本人か……!」

「あ、もしかして彼女がここに来てる事知らなかった? あの子は君たちの事探してたみたいだけど♠」

 

 ヒソカの言葉に、エミリアがゴレイヌに会うためにグリードアイランドに来ようとしていたことを知らないゴンとキルアは「もしかして自分たちを追ってきたのか」と思い至る。それも間違いではないのだが、彼女の大本命が自分たちのすぐ隣に居る事を彼らはまだ知らない。

 

 

「エミリアさん、目を覚ましたんだ……」

「あの寝坊女……」

 

 ほっと息をつくゴンに、悪態をつきつつもどこか安心した表情のキルア。そんな彼らに「意識を失ったまま目を覚まさない友人」の事情を聞いていたゴレイヌとビスケは、それぞれ明るい声で言葉を贈る。

 

「お前たちの友達本人だったのか! 驚きだが、元気になったみたいでよかったな」

「そうね。なんだかアタシまで安心しちゃったわさ」

 

 そしてゴンとキルアに声をかけた後、ゴレイヌはふと何か思い至ったように目を見開き腕を組んで考え込む。その表情は真剣で、しばらく唸ったあと顔を上げてヒソカに視線を向けた。

 

「……それにしても、昏睡状態から回復してからそう時間を置かずにグリードアイランドに来られるとは……凄いな。ゲームを入手したならもちろん凄いが、バッテラ氏に交渉したとしても途中参加でねじ込むにはそれなりの伝手と実力がいる。病床からの回復速度といい、キルアが言う通り結構な使い手のようだな。……なあ、そのエミリアって子は今はあんたと行動してるのか?」

「そうだよ♥ 行動を共にしてるっていうか、ボクがここに来た理由は彼女だしね♦ 一緒にゲームをしないかって誘われたんだ♥」

「げっ、ヒソカ誘ったのあいつかよ!? 何考えてんだ……」

 

 キルアが苦虫を百匹ほどつぶしたような表情で嫌そうに声を出すが、それに構わずゴレイヌは言葉を続けた。

 

「そうか。だとすれば、実力者二人が別々じゃなく一緒のパーティーを組んでいるならありがたい。なあ、本題なんだが……よければ俺たちの仲間にならないか? とあるイベントを攻略するために強い奴を探してるんだ」

「へえ、仲間? 別にいいけど♥ ボクたちもゲームの攻略をしてたから、そのイベントってのには興味あるな♦ ゴンとキルアも居るし、エミリアも賛成すると思うよ♣」

 

 あっさり承諾の意を伝えてきたヒソカを見て、キルアはじと目でゴレイヌに問う。

 

「おい、いいのか? 見ての通りあいつ危険な奴だぜ」

「そりゃあ、俺だって本当は嫌だが……」

「♠ 誘っておいてそれは失礼じゃない?」

「あ、悪いな。……って、なんで俺は謝ってんだ! いや、お前が変な反応するからだろ! 失礼云々言うならまずそのおっ立ててるモンひっこめろ!」

「そーだそーだ! いきなり来たのはこっちだけどさ、前くらい隠せっつーの!」

「と、とにかくだ。人柄はともかく、強そうなのは分かったからな。同じくらいの実力者とセットだって言うんなら、誘わない手はない」

「わたしも賛成です。あの方には何か近しいものを感じますし……ゴレイヌさんが言う通り、強さだけで考えるにしても得難い人材ですわ」

 

 ゴレイヌの意見に賛成したのはビスケだ。先ほど気が緩んで素の言葉遣いが出てしまったが、現在は猫を丁寧にかぶり直している。

 しかしいかに可憐な少女を装おうとも、全裸の男を真正面から見て平然としている事実がその可憐さを疑わしいものにしていた。……ヒソカがあまりにも堂々としているため、それが普通だと言わんばかりの空気がその事実を霞ませてはいるが。

 

 

 

 

「えっと、ところでエミリアさんは?」

 

 とりあえずこの流れだとヒソカとエミリアの二人を仲間に出来そうだと判断したゴンは、この場に居ないエミリアの事をヒソカに問いかける。元気になった姿を早く見たいという気持ちからか、その瞳はキョロキョロと忙しなく周囲を見回していた。

 

「ああ、彼女かい♦ この先で休憩してるよ♥」

「じゃあ俺、呼んでくる!」

 

 ぱっと顔を輝かせてゴンがヒソカの指さした方向に走り出そうとした。……その時だ。

 

「ヒソカー。私これからちょっと出かけてくるけどー」

 

 その方向から間延びした声が聞こえ、それと共に段々がさがさ草を踏み分ける音が近づいてくる。そしてさほど時間を置かず草むらをぬけて姿を現したのは、今話題にあがっていたエミリアだった。

 

「エミリアさん!」

「エミリア!」

「え」

 

 ゴンとキルアの呼びかけに、完全に気を抜いていたエミリアは一瞬硬直した。しかしすぐさま嬉しそうな笑顔になり、顔をくるっと回してゴン達の方向を向く。……が、エミリアは顔を動かしたままその場で固まった。

 エミリアの視線はゴンとキルアを素通りし、奥に居たゴレイヌに向けられている。そして彼女の体は固定されたようにピクリとも動かない。まるで石か何かになったようだ。

 ただならぬ様子に「エミリアさん……?」と呼びかけながら近づくゴンであったが、その前にいつの間にか泉からあがっていたヒソカがエミリアに声をかけていた。

 

「エミリア、ゴンたちがイベントの攻略のために仲間になって欲しいみたいだよ♥」

 

 全裸のままで親し気にエミリアの肩に腕を回しながら話すヒソカを見て、こそっと「恋人同士か?」とキルアに問うゴレイヌ。それに対して何処か不機嫌そうなキルアは「違う」とキッパリ否定するが、ゴレイヌは内心で「恋人でないにしてもあんな変態と一緒に居るくらいだから、多分変わった女なんだろうな」と考えた。おそらく本人がその心の声を聞いたならば、一瞬自殺も考慮するほどの衝撃だろう。しかし幸いなことに、ゴレイヌはそれを口に出さなかった。賢明である。

 

 しかしエミリアはヒソカに声をかけられようとも一向に動く気配を見せず、数秒ほど空白の時間が生まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、変化は劇的だった。

 

 

 

 

 

 

 

「!!!!!!!!!?!!!!!!!!!!?!!!!!!!!!?」

 

 エミリアの顔が目に見えて赤く染まり、次いで全身が真っ赤になったと思えば、急にガタガタと痙攣するように震え始めたのだ。そして顔を両手で押さえたかと思えば蹲り、そしてすぐに立ち上がった。その際頭がヒソカの顎に激突したが、本人はそれに気づく様子もなく、次いで顔を可動域の許す限り動かしその視線をあちこちに彷徨させた。が、突如真正面……ゴレイヌを見据えて停止する。すると今度は餌をねだる鯉のごとく口をぱくぱくさせはじめ、その瞳は泣き出す一歩手前のように潤む。というか、そのまま泣いた。

 彼女にとって大事なはずの眼鏡がずり落ち地面に落ちたが、その視線はゴレイヌに固定されたままである。あまりにも強い視線に嫌でも自分が見られていることに気づいたゴレイヌであるが、その体は蛇に睨まれたカエルのごとくピクリとも動かすことが出来なかった。

 

(なんだ、このプレッシャーは……!)

 

 ゴレイヌとエミリアは初対面である。

 よってゴレイヌはこんなに強く、熱く、重く見つめられる理由など思いあたらず、ただひたすら困惑した。そして自身の体の動きを完封するがごとき圧力に恐怖した。

 

 …………しかし、その息が詰まりそうなほど濃密に圧縮された時間は瞬く間に終わりを告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、プレッシャーから解放されたゴレイヌの眼前には何か大きな影が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い返してみれば、多分私は少し怖かったのだ。

 

 

 

 

 

 ゴレイヌさんの事を思い出して、彼に会うために、彼に相応しくあるために、彼に愛してもらうために……ひたすら走ってここまで来た。滑稽なくらいに必死だった。

 だけどいざ、すぐに会える距離まで来ると……不安になった。

 

 私はこの世界でまだ一度もゴレイヌさんに出会っていない。

 前世の記憶という曖昧なものの中に居た彼に恋をして、その瞬間から私の世界は瞬く間に鮮やかな色彩で彩られたわけだけど……。もし、実際にゴレイヌさんに会って、理想と違ったら? 期待はずれだったら? …………常に写真を見てはドキドキしているけれど、会った途端にその感情が冷めてしまったら? 

 

 ……私はそれが恐ろしい。

 

 勝手に理想を押し付けて、勝手に惚れている私が身勝手なのは分かってる。でも、この一年であまりにも私の世界は変わってしまったから……それを失うのは嫌だと思う。怖いと思う。

 だから自分の心の中でまで言い訳をして、すぐにゴレイヌさんに会わないための口実を作っていたのではないだろうか。

 もう我慢できないと、なりふり構わずグリードアイランドまで来たってのに……馬鹿じゃないのか。

 

 

 馬鹿だ。本当に馬鹿だ、私。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、私の心配は杞憂だったらしい。

 

 

 

 

 ヒソカを呼びに来たらその場にゴンさん達がいて、私は嬉しくなった。まさか向こうから会いに来てくれるなんて思わなかったから。

 しかし喜びは次の瞬間驚愕に塗り替えられる。

 

 だって、ゴンさんたちの中に……ゴレイヌさんが居たのだ。

 

 

 

 

 ゴレイヌさん。

 

 ゴレイヌさん。

 

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 ゴレイヌさん?

 

 

 

 え、

 

 

 

 

 

(えええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーー!?)

 

 

 

 

 

 

 

 初めて生で目にするゴレイヌさん。彼を見た瞬間、私は改めて恋の奈落に転げ落ちた。真っ逆さまだった。むしろ自分から飛び込んだ。ダイブした。ホールインワンした。もう自分が何言ってるかよくわかんない。

 

(や、ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!! ゴレイヌさんかっこいい……! 凛々しい漢らしいかっこいい! ど、どどどどどどどどどうしよう。口から心臓出そう……!)

 

 一気に体中が沸騰するように熱くなり、特に顔は酷かった。多分ヤカンを頭の上に乗せたらお湯が沸くんじゃないだろうか。それくらい熱くなって、貧血みたいに頭がくらくらし始める。心臓は早鐘を打ち、全身を熱い血潮が駆け巡る。悲しくも無いのに涙があふれて視界が滲み、口からは言葉のていを成さない声が漏れ出て、私は酸素を求めるように口をパクパクさせて喘いだ。 

 視界はゴレイヌさん以外を映し出さなくなり、彼の細部まで瞳に納めようと、網膜に焼き付けようと、私の瞳は彼を捉えて放さない。

 

 

 

 

 ああ、やっぱり好きだ。恋に理屈なんていらないと、改めて思い知らされる。

 私の体の細胞全てが彼の事を……ゴレイヌさんを求めてる。これを愛と、恋と呼ばないのなら、私はなにを愛だ恋だと呼べばいい。たとえこれが愛でも恋でもないと言われても、私にとってこれは紛れもなく愛であり、恋なのだ。

 

 好き。あなたが好きです。愛しています。

 

 

 

 

 

 ___________ゴレイヌさん。やっぱり私は、あなたが好きです。好きすぎて、死んでしまいそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恋の痺れは、酷く甘美な毒だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、思考がまとまらない。どうしよう、どうすればいいんだろう。

 私は自分の感情も思考も制御できないまま、溢れ出たそれらは混乱となって私の頭と体を塗りつぶした。

 

 頭の中がスパークするように色んな考えが浮かんでは弾けて、次第に真っ白に塗りつぶされていく。体は痙攣したように震え、何かよりどころを探すように腕が彷徨った。

 

 そして……何かを掴んだ瞬間、私の意識は一瞬完璧に途切れる。視界は白一色で、後に聞いたところ私はこの時白目をむいていたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次に意識を取り戻した時……私は全裸のヒソカをゴレイヌさんに向かってブン投げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………………。

 

 

 

 あれ?

 

 

 

 

「いぎゃあああああああああああああああああああああああ!?」

「うわああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 

 

 私とゴレイヌさんの叫び声が、グリードアイランドの空にこだました。

 

 

 

 

 

 




★恋の痺れ毒デバフ効果:混乱

★ヒソカ絡みの一波乱:物理(全裸以外ヒソカに特に非は無し

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