ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla3,運命の壁を粉砕する三次試験①

 キルアは3次試験会場へと向かう飛行船の中で、ゴンと共にネテロ会長に持ちかけられたゲームに挑んでいた。その内容はネテロからボールを奪うという単純極まりないもので、それに対してネテロは見事奪えたらその場でハンター資格をくれてやろうなどと言ったのだ。それに対してキルアは完全になめられていることに苛立ち挑戦するも、結果は失敗。

 幾度か挑むもボールを奪えないことに徐々に苛立ちを高めていったキルアは、途中でその挑戦をやめた。ゴンはもう少しやるというのでキルアは一人汗だくの体のまま部屋を後にしたのだが、その心境は当然晴れ晴れとしたものからは程遠かった。

 

(クソー、スッキリしないなー。ま、しかたがないか)

 

 ふと、キルアの指先がビキビキと不自然に変形する。そんな時だ。曲がり角でキルアは誰かとぶつかる。

 

「うわっ」

「…………」

「……おい、ぶつかったら謝れよ」

 

 謝罪を求める相手の声などキルアの耳には届いていない。ただ思うのは、浮かび上がってきた衝動を目の前のモノで発散しようという呼吸するほどに自然な思考。そしてキルアは躊躇なくそれを実行した。

 

(あれ以上やってたら、殺してでもボールとりたくなっちゃうもんな)

 

 肉を切り裂き骨を断つ。そして自分が通り過ぎた後には、不格好なパーツに分かれた元人間の躯が散らばる……はずだった。

 しかし手先に感じたのは異様なる"硬さ"。

 

「いってぇ!?」

 

 突き指のごとく感じた痛みにキルアは思わず手を引っ込めたが、それを逃がすまいとキルアの手首を掴んだ者が居た。それは当然たった今ぶつかり、キルアが殺人衝動を静めるために殺そうとした相手である。

 

「あーん? テメェ今何しようとした。この試験にはぶつかったら人様の体切り落としにくる馬鹿しかいねぇのか」

「っ、お前は」

 

 キルアはその相手が誰であるかようやく認識したが、次の言葉を紡ぐ前に頭頂部に激しい衝撃を受けてそのまま意識を手放した。

 

 彼が目を覚ましたのは明朝、目的地に到着してからの事である。

 ネテロと勝負した後そのまま疲れて眠っていたゴンは気持ちの良い朝の目覚めを迎えたのだが、対照的にキルアは非常に不機嫌極まりないブスくれた表情で合流した。そしてゴン、クラピカ、レオリオから「その頭のタンコブはどうしたのか」と問われたキルアであるが、ますます不機嫌そうに顔をしかめるばかりで頑なに答えようとはしなかったとか。

 

 

 

 

 

 到着した三次試験会場では、下ろされた先であるトリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんから生きて下まで降りてくることが試験内容だと説明された。

 制限時間は72時間。各自降りるための方法を探し、ゴン、クラピカ、レオリオ、キルアもまた他の受験生同様床に隠された扉を発見する。そしてそれぞれ別の扉を選び、「地上でまた会おう」と別れ各自別の道へ進むはずだったが……何の偶然か、4人は「多数決の道」という数人が協力して進むタイプの試練が用意された部屋に落ちたのだった。しかし必要人数である5人に足りないため、はやる気持ちをもてあましながら彼らは5人目を待つことになる。

 ようやく表れた5人目はなんと一次試験で知り合ったトンパだった。なにはともあれ、これで進める。……そう思った時だった。

 

 

 

 進む道が開かれた方向とは別の壁が、鈍い音と共に吹き飛んだのだ。

 

「な、なんだぁ!?」

「か、壁が吹っ飛んだ……!」

「くっ、みんな無事か!」

「うん、大丈夫だよ! ビックリしたけど……あれ、キルア大丈夫?」

「別にへーきだし。……厄日だ」

 

 驚くレオリオとトンパ、冷静に吹き飛んだ破片で仲間が怪我をしていないか確認するクラピカ、元気に返事をするゴン。そしてなんの偶然か、丁度タンコブが出来ていた場所に結構大きめの破片の襲撃をうけたキルア。……そんな彼らの前に現れたのは、眼鏡をかけた一人の女だった。

 

「やった別の部屋だ! ……っと、先客か」

「お、お前が壁をぶっ壊したのか!? 爆弾でも使ったのかよ危ねぇな! 見ろよ怪我人出たぞ怪我人!」

「あ、その、ごめん」

 

 タンコブを余計に膨らませたキルアを指さし抗議するレオリオに、女は思わずといった風に謝罪した。ふと気になってクラピカが女が出てきた壁の穴を覗けば、思った以上に壁は厚くざっと見積もっても1mはあるだろう。なるほど、たしかに爆弾でも使わなければ穴など開けられまい。それにしては爆発音は無く火薬の臭いもしないが、他に思い当たる方法もない。恐らく彼女は爆弾の専門家か何かなのだろうとクラピカは見当をつけた。様々な達人が集まるハンター試験だ。そんな人間が居てもおかしくはない。

 そして覗いた先の部屋の壁……そこに書かれた文章を読み、クラピカはなぜ彼女が壁を壊してまで他のルートを求めたのか悟る。

 

『知力の道。君はこの道であらゆる知識や知恵を試されることだろう。まずは下記の問題を解答せよ。さすれば道は開かれる』

 

 そう書かれたプレートの下には回答を入力する電子版があり、その横には問題文が書かれた別のプレートが用意されている。そして彼女も最初は頑張ったのだろう。問題を解くために必要ならば使えということなのか、別に用意されていた机上の紙に何やら色々書きなぐってあった。しかし用意されていたペンが全てへし折られている所を見ると、どうやっても解けなかったのだろう事が窺えた。それをふまえると女が何故かうっすら涙目である理由も分かった気がする。

 全て推測であるが、クラピカは思わず憐憫の瞳で女を見た。

 

(ああ、馬鹿だったんだな……)

 

 可哀そうに。見た感じ難問でも無かろうに。

 

 

 

 その後、邪魔はしないし必要なら協力するからどうか自分もこの道についていかせてくれと頼み込んできた女はエミリア=フローレンと名乗った。そこでようやく彼女が一次試験前にヒソカと殴り合っていた者だと思い出すが、反対する者はトンパとキルアだけだった。

 レオリオはもとからフェミニストの気があり必死に頼み込むエミリアにほだされ、クラピカは事情を悟った故の哀れみで、ゴンは持ち前の社交性で「いいよ、一緒に行こう!」と快諾して多数決の道で2回目の多数決は「連れてってやる」派に傾いたのだ。

 トンパは「ヒソカと殴り合う危ない女」だと主張し嫌がり、キルアは何故か見た瞬間からエミリアを目の敵にして「絶対嫌だね! こいつには別に用意された道があるだろ!」と拒否したが、結局は言い争って時間を無駄にしてもしょうがないという事で同行を許す結果となった。

 

 

 こうして多数決の道は、思いがけず6人の受験者によって攻略される運びとなったのである。

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 第三試験会場に向かう飛行船内でトイレを探してたら、角で誰かとぶつかった。見れば銀髪猫目のお子様で、私はピエロにぶつかった時の自分を棚に上げてぶつかったことに対して謝れと要求した。まあ、あれだよ。出来る大人の女としたら子供の指導とか出来なきゃダメじゃん? と思った結果だよ。

 そしたら野郎、どこぞのピエロのごとく攻撃してきやがった。ムカついたので教育的指導として拳骨を食らわせた後、廊下に放置するのはまあ可愛そうなので適当な場所にあった長椅子に放り投げておいた。ふふ……アフターフォローが出来る私偉い。これは女子力高いんじゃないだろうか。

 

 

 そして翌日まで寝たり持ってきた本を読んだり適当に時間をつぶし、予定時刻よりずいぶん遅く飛行船は目的地へと到着した。どうやら時間以内に塔のてっぺんから下まで降りればいいようで、この時私は「楽勝」と高をくくっていた。たしか漫画では囚人と戦ったりとか罠を抜けたりとか、そういう試練を潜り抜けていたはず。誰かと共闘する場合コミュ障な自分では心もとないが、まあ試練自体はかる~く抜けられるだろう。

 

 

 

 

 

 そう思ってた時期が私にもありました。

 

 

 

 

 

 何だよ知力の道って! 初っ端から問題が意味不明だよ!! せめてヒントくらい書いておけよ!!

 

 よりにもよって私が選んだ道は知能を試される系だった。どう頑張っても設問の答えを導き出すことが出来ず、私は用意されていたペンを全てへし折ったところで方向転換することにした。

 あれだろ? たしかこの試験って主人公たちも壁ぶち抜いてたりしたよな。だから壁を砕いて別の部屋から別のルートに行ってもルール違反じゃないんだよな? 問題を解いたら開かれるだろう扉を壊してもその先に待つのはこれと同じような問題集ばかり……だとすれば、序盤で別の試練が用意された道に進んだ方が利口ってものだ。

 

 

 そして私はそれを実行し、硬で覆った拳で壁を一か所粉砕した。

 

 

 その結果、何故か主人公一行にコバンザメのごとくくっ付いていかせてもらうことになった。……同行を頼み込むとき非常に緊張したが、了承してくれたレオリオ、クラピカ、ゴンはいい奴である。流石少年漫画の主人公とその仲間だけあるな。懐が大きい。

 しかし私はキルアに完全に嫌われたようだ。物凄く拒否された。

 

 

 ……今になって気づいたが、後々ゴレイヌさんに気に入られる主人公ゴンと銀髪猫目もといキルアの心象を悪くしてはまずい。くっ、何故そんな当たり前のことに今まで気づかなかったのだ!! しかし私はすでに飛行船で殴り倒したこと、今の壁粉砕で飛んだ破片をぶつけた事でキルアの中では敵とみなされたようだ。さっきから視線が合うとすげー睨まれる。これはまずい、非常によろしくない。ただでさえ誇るものが無いのに、その上ゴレイヌさんが気に入った人間から「アイツ最悪だから関わるなよ」とか言われたら初見での私の印象は最悪のものとなってしまう……!

 

 

 

 

 よ、よし。幸いこの三次試験、時間はある。試練も仲間と共に切る抜けるタイプだ。

 何とかうまくこの時間を利用してキルアに取り入るもとい印象を良くするぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけ



 飛行船内での試験官たちの会話

サトツ「そういえばルーキーではありませんが、56番も注目ですね。どうやら"使える"方のようですよ」
メンチ「えー! あの子が? そのわりにはオーラ垂れ流しだったけど」
サトツ「実は私の試験前に44番の彼と戦う場面がありましてね。見事でしたよ? 垂れ流しの状態からすぐさま纏、堅へとつなげた淀みないオーラの流れは」
メンチ「へぇ、そうなの。念使いとばれたくないのか、それとも何かの制約かしらね」
ブハラ「そういえばメンチの課題はあれだったけど、あの子のブタの丸焼き下処理が丁寧で美味しかったなー」
メンチ「あんた全部おいしいおいしいって食べてたじゃない」
ブハラ「まあ、そうなんだけどさ。中には内臓も取り出してない奴とかあったし、それを考えると嬉しいもんだよ」
メンチ「あんたそんなのまで合格出してたの!? もうちょっと美食ハンターとして自覚を持ちなさいよ!」
サトツ「まあまあ。しかし、今年は実に豊作な年になりそうですね。我々の役目は終わりましたが、試験結果を楽しみに待つことにしましょう」





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