ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla2,女子力について考える二次試験

 女子力とは!!

 

 それすなわち、約束されし勝利のブライダルウェポンである!!

 

 

 

 特徴として認識が男女で分かれることが挙げられる。個人差はあるが男は主に見た目に、女は主に内面に女子力の定義を見出すのだ。

 それすなわち見目の美しさ、プロポーション、身だしなみ、ファッションセンス、女性らしい仕草。単純である。だが、シンプルゆえに強力。

 それすなわち気配り、字や操る言葉の美しさ、家事能力、柔らかい応対によるコミュニケーション能力。行きすぎてやたら意識高い系になり自爆する者も居ると聞く。しかし極めれば同性からも崇拝の念を集める……ゆえに強靭。

 

 例を探せばきりがなく、明確に何が女子力と定義されるかは正直分からない。だが、それを手に入れた者はみな勝利(結婚)をつかみ取るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二次試験会場に到着した私は女子力について考えていた。

 

 きっかけは先ほどお子様に話しかけられたとき、上手く受け応え出来なかったからである。あえて面倒くさいから無視をしたと言いたいところだが……ゴレイヌさんの嫁を目指す上で、けして避けては通れぬ問題であると思い直し素直に己の非を認めたのだ。

 これも育った環境が悪いのだ。主にクソガキどものせいで肉体言語しか使用してこなかった弊害だろう。実に……実に遺憾極まりない。

 

 

 で、コミュニケーション能力を含めて改めて自分について考えてみたのだ。果たして私は身分証明を手に入れたところで、ゴレイヌさんに相応しい人間であるのだろうか……と。

 

 

 ゴレイヌさんは素敵だ。容姿が私の好みドンピシャなのを差し引いても、その内面の魅力と能力の高さが紙面内でのわずかな情報からでも読み取れた。

 彼は私の知るHUNTER×HUNTERの知識の中でグリードアイランドという、主人公の父親であるジンというプロハンターが作った念能力者専用のゲームで登場する。漫画の全体を通してみればわずかな登場回数と言えるが、その活躍は目覚ましいと私は感じていた。正直あらかじめ知っていた知識に後付けで記憶というものが付随した私にとって、時間の経過もあり漫画の内容は大体の流れは分かっても詳しい情報が曖昧だ。しかしその中でも彼が登場する場面だけは鮮明に覚えている。それだけ彼の存在は私の中で大きい。

 頭の回転が速く洞察力にも優れ、思慮深いけど咄嗟の判断力も兼ね備えている。堅実かつ柔軟。プロとしてシビアな面を持ちつつ、気に入った人間には素直に好意を示す包容力や人情深さも魅力だ。自分以上の実力者を前に格の違いを見せつけられつつも、機転でもって一矢報いる男らしいファイティング精神も格好いい。

 そして能力であるが、実際に会ったことが無いので一概には言い切れないがおそらくパワーだけなら私の方が上だろう。しかし着目すべきはそこではない。念能力者になった今なら殊更わかる……彼の念能力が、どれほど優れたものだったのか。

 ゴレイヌさんはゴリラの姿をした2体の念獣を作り出す能力を持っているが、その性能は凄まじい。何故なら念獣自体がある程度自立した動きが出来る上に、それぞれ"他者と入れ替わる""自身と入れ替わる"という特殊能力を持っているのだ。

 ちょっと考えただけでも念獣を形作る具現化系、体から離れた念を維持する放出系、念獣を操る操作系といった複数の系統を併せ持つ高度な念と言えるだろう。もっと言えば、念獣を形作ることがメインならゴレイヌさんは具現化系だ。だとすれば下手すると六性図によると対極に位置する苦手なはずの放出系もバランスよく取り入れている可能性がある。それによるリスクも特に見受けられないのだから恐れ入る。私の強化蘇生(パワーリザレクション)も結果的に複数の念系統の熟練度に精度が左右される能力となったが、私の場合必要とするのは強化系の両隣に位置する比較的得意分野の放出系と変化系だ。難易度が違う。

 そして系統で言うならもしかしたら特質系に属してもおかしくないテレポート能力が備わっているんだから、ゴレイヌさんの優秀さは火を見るより明らかだろう。

 ああ! やっぱり考えれば考えるほどゴレイヌさんが素敵過ぎて好きすぎて愛しすぎてヤバい……!

 

 

 

 そしてそんな素敵なゴレイヌさんであるが、身分証明を手に入れたところで今の私に彼の横に立つ資格はあるのだろうか。

 

 目標を女子力高めの可憐女子と定めたはいいが、それに到達するための具体的な手段についてはまだ考えていなかった私である。だから二次試験開始までの空き時間を使い、私が目指す理想と今の自分との差異を明確にしようと試みたのだ。

 

 

 結果。

 

 

「女子力どころか人間力皆無じゃねぇか!!」

『!?』

 

 思わず叫んだ。何だよ他の受験者ども。おいコラテメェらこっち見んな!!

 

 

 

 酷かった…………。思ってた以上に酷かった…………。

 

 

 

 

 まず見た目。

 私は美人でも可愛くもないが不細工では無い。コンプレックスがあるとすれば三白眼だろうか。趣味のせいでド近眼ゆえ眼鏡もかけてるから余計目が小さく見える。

 だが容姿などいざとなれば女は化粧でどうでもなるのだ。整形という手段に踏み切ってもいい。極端な話もしゴレイヌさんがゴリラの雌しか愛せないというならゴリラになったっていい。けどゴレイヌさんの好みのタイプが分かるまでは保留。プロポーションは……これもゴレイヌさんの好み次第だな。巨乳が好きならどんな手を使っても盛り込むし、貧…微乳が好みなら私の体型はステータスである。

 …………やっぱり世間一般の男が好きな女らしい体型がいいのかな……。くそっ、何で途中まで同じ環境で育ったはずのクソガキ♀はあんな巨乳なんだ。私ときたら幼少期の栄養不足に加えて修行用の念のせいか凹凸が極端に少ないというに……! いや、でも修行用の念は発育性はともかく体のパーツは美しい形に保てるように調整済みだ。中でも尻の形には自信があるから、ゴレイヌさんが尻フェチであることを祈ろう。

 

 ま、まあ見た目は手段を選ばなければいくらでも変えようはあるからいいんだ。問題は他だった。

 

 

 

 会話などコミュニケーション能力。

 壊滅。敬語が使えないわけじゃないが、基本的に口が悪いし自分本位で他人の事を思いやれない。

 

 知識と教養。

 壊滅。学校とか通った事無い上にずっと引きこもってたから知識の偏りが酷い。前世の記憶? 忘れてることが大部分な上に常識がこっちと違いすぎてカスほどの役にも立たん。文字の読み書きは出来るが主にパソコンを使っているため肉筆はクッソ汚い。

 

 家事能力。

 金を盗まれたくないのでハウスキーパーは雇っていないから掃除はする。最低限。

 でも料理はそれこそデリバリーとかネットで真空パックのお取り寄せとかした方が美味しいし楽だからほぼしない。やろうと思ってもレシピを見なければ私に作れるのは切る、焼く、煮るみたいな料理だけだ。何故か見た目はだいたい茶色っぽくなる。

 

 気配り。

 壊滅。そもそも生まれてこの方他人に気を使う場面など無かった。しかも気配りそのものがよくわからない。前世の知識によればシェアする食い物を積極的に個々の皿に取り分ける配膳ババァになればいいようだが、自分の感性に当てはめると食いたいものは自分でさっさと摘まむから鬱陶しいことこの上ない。まあ私の場合誰かと食卓を囲む経験自体が無いけどな。

 気配りってなんだ。

 

 

 

 もうこのあたりくらいで苦しくなって考えるのをやめた。

 

 生まれて初めて死にたくなった。恥かしい死にたい。

 

 

(なんてことだ……! こんなんじゃ恥ずかしくてゴレイヌさんの隣に立てない……! つり合いがとれてなさすぎる……!)

 

 

 

 金だけ手っ取り早く手に入れる手段を確保し、引きこもり自分の趣味にばかり没頭していた結果がこれである。今まで疑問に思う事も無く過ごしてきたが、ここに来ていかにそれが愚かな行為であったかを思い知った。

 

 

 

 あれだな……。人って誰かに好かれたいって思った時、初めて自分の在り方を顧みるものなのかもしれないな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして突きつけられた現実に打ちのめされた私は、現在「生ごみ」と称された可哀そうな握り寿司を横にどけてメンチ試験官に人生相談をしていた。

 

 

 

 

 いや、二次試験も途中までは普通に受けていたんだ。

 

 正午から始まった二次試験を受け持つのは美食ハンターであるメンチとブハラ。そして二次試験最初の課題はブハラによる「豚の丸焼き」を作る事だった。二次試験会場であるビスカ森林公園に生息していた豚は大人の身の丈以上もある巨体を誇る種類しか存在していなかったが、まあ問題など無い。私も焼く系の料理なら得意だし、まだ金が無い時野生動物を捕まえて蛋白源にしていた時期もあるしな。

 とりあえず一匹さっさと捕まえて、腹を切り裂いて内臓をかき出した。近くに川があったから血抜きもかねてそこで豚を洗い、毛と皮だけ"周"で切れ味が増したサバイバルナイフで削ぎ取って火であぶる作業に移った。焼くまでに時間がかかるだろうと踏んだため、ここまでの作業はほんの10分程度で終了している。むしろ森林公園は湿原の近くだからか湿気が多く、火を起こす作業の方が苦労したくらいだ。幸い枯れた木を見つけたからまるまる引っこ抜いてきて火種にできたけど、他は元気な生っ木ばかりだったしな。試しに少し使おうとしたら湿ってて燃えないわ燻って煙が出て目が痛くなるわ最悪だった。

 ……まあ漫画だと豚を倒す描写はあれど料理中の作画はなかったけど、丸焼きなら最低限これくらいやっとけばいいだろ。

 しかしこの豚、そういう肉質なのか異様に火が通るのが早かった。前に丸焼き初挑戦した時は生焼けで食って腹くだしたんだけどな……。試験官としても生焼けなんか食いたくないから、そういう種類を指定したって可能性もあるのか。

 

 まあそういうわけで第一課題は無事に合格。

 

 しかし「なんだ、私の料理もなかなかだな」と調子に乗っていたら、次でボロックソだった。もう一人の試験官であるメンチ御所望の第二課題である握り寿司……。作り方をバラす忍者が持っていく前に、豚を洗う時についでに捕獲しておいた魚で寿司の形をしたものをいち早く作って持っていったにも関わらず「ゲロ以下の味がする生ごみ」と酷評された。

 

「あんたね~。折角寿司の形してたから期待したのに、これはいくらなんでも無いわよ! すし飯は固く握りすぎて餅みたいになってるし、上の魚の切り身も何これ。骨を全部除こうとした努力は買うけど繊維がぐっちょぐちょで舌ざわり最悪よ。体温がうつって生暖かいし、あと魚自体がよりにもよって一番泥臭い奴使ったわね。味見くらいしてから使いなさい。しかもワサビ多すぎ! 口に入れただけで吐くかと思ったわ!」

 

 以上、私の寿司の形をしたものへの評価である。

 いや、いいんだ。この試験は後々登場するハンター協会のジジイのおかげでゆで卵を作るという単純なものへと変わる。寿司を作ったのは何も行動せずそれを座して待つのは流石に馬鹿だろうと思い、あわよくば一人先に合格したいという欲もあったからだ。だからここで寿司の出来が不合格になることは何の問題もない。

 

 が、女子力の無さを自覚した後だっただけに私の心は抉られた。骨を全部除いたあたりなど、精一杯考えて「気配り」を発揮した結果だっただけに余計に。

 

 

 

 そして、ふと思い立って私はメンチを見た。

 

 料理が出来る。それだけで女子力内でのパラメーターはぐんと上がるだろう。しかも彼女は最高峰の料理人であったはず。そんじょそこらの女子とは格が違う。

 周りを見れば、さっきグラサンの兄ちゃんが「魚」というキーワードを漏らしたためほぼ全員が魚の入手のため外へ行き人はまばらだ。帰って来てから寿司を作る時間もあるし、まだ試験官には余裕があるはず。

 そこで私はコミュニケーション向上の第一歩の意味も込めて、思い切って彼女に話しかけたのだ。

 

 

「どうすれば料理が上手くなりますか」

 

 と。

 

 

 意外なことにメンチは会話に応じてくれた。どうやらメンチもなかなか完成品が来なくて暇だったらしい。ブハラが「寿司を作り直さなくていいの?」と聞いてきたけど、私にとってこの会話は今現在それ以上の価値があるのだ。そんなもの後回しである。

 私が「好きな人のために料理が上手くなりたいけど壊滅的過ぎて絶望している」と縋るように説明すると、メンチはふんふんと頷いて腕を組みながら「まあ、あれじゃあね」と私の生ごみを見た。

 

「ふ~ん、でも好きな人のために料理が上手くなりたいなんて健気じゃない。食べる相手の事を考えて作るってことは美味しい料理を作るための最低条件だから、技術が伴っていなくてもそういう心は大事だわ」

「その、いずれは結婚して毎日おいしいもの作ってあげたいなって、思うんですけど……。私もとが貧乏舌だから、味付けとか特に苦手っていうか……」

「あら、味覚はある程度幼少期で完成しちゃうけど諦める必要はないわ。美味しいものを食べて味を覚えて、舌を肥えさせなさい。そしたら味付けの感覚も鋭くなる。あと初心者は基礎を学んでレシピに沿って作る事。変なアレンジや感覚任せは自殺行為よ」

 

 こんな感じに結構真面目にアドバイスしてくれていたメンチ。慣れない敬語でつっかえつっかえだったけど、頑張って会話した甲斐があった……! そして興が乗ったのか、受験者が寿司を作って持って来るまでの間人生相談やら恋愛相談やら女子力についての雑談やらでずいぶんとメンチと喋った。主にメンチが話題をふってくれたので私にしてはかなり普通に会話出来ていたんじゃなかろうか。

 多分メンチにとっては単なる暇つぶしだったんだろうけど、ちょっとこの人女神なんじゃないかって錯覚しそうになった。

 

 

 

 二次試験自体はその後一度全員不合格を言い渡された後、空から降って来たジジイによって再試験の流れとなった。外敵から卵を守るため谷の間に巣をつくるクモワシの卵を使ってのゆで卵は、まあ問題なく合格。クモワシ卵超うめぇ。

 

 そして私は3次試験会場に向かう飛行船に乗り込む前に、改めてさっきの会話の礼をメンチに言った。すると「ま、せいぜい試験も恋愛も頑張んなさい!」と言ってもらえてちょっと嬉しかった。……あれ、もしかして私人生で初めてまともな人間とまともな会話出来たんじゃ……やめよう。深く考えると鬱になる。

 

 

 

 

 さて、次は3次試験か。

 とりあえず女子力については常に考えつつ、試験頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 


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