「ネオン=ノストラード? ああ、団長が古代文明の占い文化にはまってた頃に興味あるかな~って、前に俺が教えた占い師ね。何、興味あるの?」
「少しな」
クロロがそう言ってシャルナークに情報操作を頼み、件の占い師の顧客リストに自身の名前を滑り込ませたのは8月初めのころだった。
そして手元に占いの結果が届いたのは8月半ばを過ぎた三週目を越えて更に四週目。無理に割り込ませた分遅れに遅れたわけだが、いくらなんでも予言として利用するには遅すぎるだろうとあきれ果てたクロロとシャルナークである。
占いの結果はその月に起こる出来事が四つから五つの四行詩で表されるため、残念ながらすでに三週分の出来事はクロロが預言を知りうる前に終わってしまっている。しかしその占いについての信憑性を検証するには三週間分の出来事で十分なため、その内容からクロロはこの占いを記した者が「予知」の能力を持つ念能力者であると半ば確信を得ていた。そして「欲しいな」と薄い笑みを浮かべながらも、無視できない今週……四週目の占いの結果に注視する。
偽りの卯月。戯曲。遊戯。始まりの舞台。朔の夜。
これらを三週分の占いの傾向に当てはめて考え、クロロは最もその占いの解釈に相応しいだろう答えとして「卯月(幻影旅団4番ヒソカ)の策略により、ヨークシンの集合場所に集まれば自分及び幻影旅団全員が死に絶える」という考えに至った。他の解釈も考えたが、最悪を思えばこれこそが相応しい。
そも、ヒソカがクロロと戦うために旅団に入ったことはクロロも理解していた。
そしてクロロにはヒソカに雇われてもおかしくはない相手に心当たりがあった。
「それにしても、団長お目が高いね! 俺が話した時はマフィア連中の面白そうな噂を拾った程度だったけど、ここ数年でその子かなり顧客を獲得してるよ。それも上物ばっかり! 噂じゃ十老頭にもファンがいるんだってさ。ネオン=ノストラードの占いが有名になるのに比例して父親の率いるファミリーも一気にのし上がって来てるし、もしかしたら本物も本物。予知能力持ちの念能力者かも」
「かも、じゃなく多分本物だ。これ当たってるよ」
「え、マジ?」
占いの結果を届けに来たシャルナークに、クロロは占いの内容が記された紙を渡す。シャルナークはそれを受け取り最初の三週間分の結果を読んで大笑いした後(クロロは後に不機嫌そうにその三週間分の結果を破り捨てた)最後の予言詩に目を通して眉をひそめた。
シャルナークは今回占い師について調べるついでに、暇つぶしにと他の顧客の占いの結果とその行動を照らし合わせて彼なりに占いの信憑性を検証していたのだ。それによれば占いの結果を無視して"死"を暗示させる行動を変えなかった者は漏れなく死んでいる。そしてクロロの占いの結果に記された"朔の夜"は十分に死を連想させる単語であった。それも先の予言で自分達蜘蛛を12月の暦に当てはめて記している傾向を考えると、朔……つまり新月とは月が全て欠けた状態を示す。よって最悪の解釈をすれば"全滅"を意味するのである。
9月のオークション襲撃は幻影旅団の今までの仕事の中でも最も大規模なものとなるのは間違いないが、それでもマフィアごときがいくら束になろうと負ける気はしない。
だがこうも大きな懸念事項を示されると、少々思うところはある。
「どうする? 始まりの舞台ってことは、多分予定通りの集合場所に集まったら駄目って事だよね」
「だろうな」
「ヒソカ一人なら別に怖くないけど、俺たち全員の死が暗示されてるってことは協力者を考えた方がいいか……」
「ああ。……そういえば言ってなかったが、9月に雇おうと思っていたゾルディック家は全員予定が埋まっているそうだ」
「げっ」
嫌そうに声を上げるシャルナークに、クロロはうっすら笑みを向ける。
「怖気づいたか?」
「まさか。それにさ、もしヒソカがゾルディック家を雇ったなら面倒だけど、団長はオークションの品を諦める気なんて無いでしょ?」
「当然だ」
その微塵も揺るぎのない答えを聞いて、シャルナークは嘆息する。しかしその様子はどこか嬉しそうでもあった。
「だよね。う~ん、だったらこの予言をもとにした予想はまだほとんど憶測だし、とりあえずヒソカをハブって集合場所を変えるってのから始めるでOK?」
「ああ。予言は今週分だが、集合は8月31日……おそらくそれさえ避ければ死の予言だとしても回避できるだろう」
「で、その後に仮定ゾルディック家雇い主ヒソカを殺して依頼を白紙に戻すと。まあヒソカの奴は前から危険分子だし、直接刃向かうならこのあたりで切り捨てもありかな。みんな……っていうか、俺もあいつ嫌いだし。いくら前の4番を倒したからって、なんで団長がヒソカの入団を認めたのか俺未だに分からないよ。あいつすぐサボるしさ~」
ブツブツと溜まっていた不満をこぼし始めるシャルナークに制止の声をかけると、クロロは今後の方針を簡潔にまとめた。
「集合場所は変える。嫌がってたのに伝言を引き受けてくれたマチには悪いが、ヒソカには「伝達間違い」だと電話で伝えしばらく様子を見ようと思う。さっきお前が言ったように、ヒソカが暗殺一家を雇ったというのは俺たちの憶測でしか無いからな」
「え~。憶測でも何でもいいからヒソカは
「まあ待て。奴を気にしすぎて仕事に集中できなくてもつまらんだろう。それに単なる解釈の間違いなら惜しい。……ヒソカは戦力としては美味しいからな」
「そうだけど……」
「安心しろ。裏付けが取れたらすぐに殺して依頼を白紙に戻し、その後悠々と仕事をしたところで遅くはないさ。オークションは十日間あるからな。……邪魔する者は残らず殺せと言いたいところだが、ゾルディック家を正面から相手するのは正直しんどいし面倒くさい」
「ああ、戦った事あるもんね団長。ゾルディックってそんなに強いの?」
「面倒くさい」
「…………団長、早くお宝ゲットして愛でたいんだね」
面倒くさいと繰り返したクロロに対し、その内心を察したシャルナークは軽く言及するにとどめて「じゃ、裏付けがとれたらヒソカは殺してゾルディック家とは戦わない方針でいいんだね」とまとめた。
「けど裏付けってどうやって取るの? あんまり時間かけるのは嫌なんだけど……」
「なに、すぐさ」
クロロは手元の四分の一になった紙をひらひらとそよがせて示す。
「ネオン=ノストラードから能力を盗む。たしか人体収集家という側面を持つ女だろう? オークションには当然来るだろうし、仕事ついでに頂くさ」
「ああ、そういうことね。でもそれならオークション前にさっさと盗れば?」
「わざわざ出向いて盗むのも面倒だ。それに一応例の予言は今週の出来事……変に動いて予言の回避に失敗するのも馬鹿だしな。今週を越えてから動いた方が何かと気楽だ」
「へえ、意外。いくら念能力者の予言でも、団長にしちゃ消極的じゃない?」
「何、俺はこれでもスピリチュアルな事は信じるたちなんだ」
「うわっ、嘘くっさー」
「何とでも言え。……とにかく、能力を盗んで占い、ヒソカの予言にそれらしい事が書かれていれば黒だ」
そう言って話を閉めようとしたクロロであるが、シャルナークはひとつ気になり疑問を投げかける。
「え、でも能力を奪えても占うには生年月日と血液型も必要なんでしょ? 団長ヒソカのプロフィール知ってるの?」
「問題ない。前に「6月6日って僕のバースデーなんだ♥ 誕生日プレゼントに僕と戦ってよ♦」だの「団長ってAB型っぽいけど多分そうでしょ♠ 僕B型なんだけど、ABとBの同性間の相性って悪くないんだって知ってた?」とか言ってたからな。把握済みだ」
「うわぁ……」
一歩引いたシャルナークはクロロに同情の視線を向けるが、それに関してオールバックスタイルのクロロは団長然とした表情を崩さず無視をした。しかしその内心は珍しく容易に掬い取れるもので、シャルナークは「みなまで言うな」という意思を感じてそれ以上は言わなかった。人には時に触れてほしくない話題がある。
しかしどうしても一つだけ言いたいことがあった。
「団長、ヒソカの声まね気持ち悪い。しかも真顔で言うのヤメテ」
「悪い。俺もそう思った」
その後集合場所を変更しヒソカを欠いた団員にだいたいの説明をしたのだが、ヒソカが団長であるクロロを始め蜘蛛を殺そうとしている裏切り者という可能性を示されて我慢ならぬといきり立ったのは沸点が低いメンバーである。今まで溜まっていただろう不満が大義名分を得て爆発した結果だろう。
中でも一番フットワークが軽いフェイタンが「早い者勝ち」とばかりにヒソカを殺すべく飛び出していった。そして未だ彼は戻らず連絡も取れない。
「少々予定は変わるが、仕事は問題なく決行だ。地下競売のお宝丸ごとかっさらう」
「……俺が許す。殺せ。邪魔する奴は残らずな」
そんな事をカリスマぐんばつの幻影旅団団長のキメ顔で言いつつ、内心「ちょっと面倒くさい事になりそうだなー」と爽やか青年フェイス時の口調でぼやくクロロである。
現在A級賞金首幻影旅団は、大仕事の前に思いっきり出鼻をくじかれていた。
思いがけず感想欄にて「ネオンの能力いつ盗まれたん?」という疑問が多かったので作中で補足しようと今回のお話となりましたが、答えは「普通に客として占ってもらった」でした。そしてこれを書くためだけに何故か一話まるまる団長と童顔筋肉がだべっていたという罠。
実は前回のお話の最後らへんにこのあたりの説明文を書く予定だったのですが、単に書き忘れてただけという(テヘペロ
あ、スミマセンスミマセン石投げないで下さ……!
いつも感想に執筆意欲を頂いております!返信出来たり出来なかったり中途半端で大変申し訳ないのですが、お言葉を励みになんとかゴレイヌさんにたどり着けるよう頑張ろうと思います(立ちはだかるヨークシンという壁を前に白目むきつつ