ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla33,8月31日。十六夜は立待月へ

 9月に入る直前のヨークシンはオークションの前だからか、その気取った都会然とした様相の中にもどこか浮足立った雰囲気を漂わせている。たった10日間の日程でどれだけの金が動くのかは知らないが、一年に一回の大イベントに誰もが何かしら特別な感情を抱いているのだろう。

 

 

 現在8月31日。

 

 

 ヨークシンのある場所にて、私はピエロ野郎の胸倉を掴んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月に入る一週間ほど前。私はゾルディック家の面々に加え、クラピカとヒソカを一か所に呼び出していた。

 

 

 本当なら機密性を考慮して以前のようにゾルディック家にて打ち合わせをしたいところなのだが、クラピカはともかくヒソカを私の責任であの家に入れるのは嫌だったからやめた。あいつ何するか分かったもんじゃないからな。…………あと、どちらかというとこちらが本音なのだが、キキョウ先輩の思惑を知った今ではゾルディック家の敷居を跨ぐのはちょっと……というか大分遠慮したい。

 

 これは最近になってミルキに聞いた話なのだが、以前ゾルディック家に滞在していた時にキキョウ先輩は私にどの程度薬や毒が効くのか食事の中にそれらを混ぜて様子を窺っていたようなのだ。だからおそらく彼女は私にどの程度の強さの薬なら効果があるのか把握している。恐ろしい。

 酔狂にもキキョウ先輩は元豚こと次男ミルキの嫁に私をあてがおうという腹積もりのようなので、今度泊まりでもしたら何を盛られるかわかったものではない。これに関しては元豚と私は否定意見で結託しているので早々にキキョウ先輩の思惑通りになるはずないが、避けておいて損は無いだろう。

 

 

 久々に会ったクラピカはイズナビのもとで念を修得した後、予定通り緋の眼の情報を得るため人体収集家の雇用主(多分ネオン様)を見つけたようだ。といってもこの時点ではまだ採用試験の途中らしく、あとは試験内容である依頼された品を持参して雇用先に向かえば合格するだろうとのこと。……タイミング的にはクラピカの自由がきくギリギリのタイミングに呼び出したようだ。

 ピエロ野郎の方は面識のある鋲男ことイルミに軽く挨拶をしていたが、まだ奴に関して詳しい説明はしていない。案の定イルミに「何でヒソカがいるの?」と問われていた。そして奴がチラッとこちらを見たので私は「それを含めて説明するわ」と答える。

 

 

 

 ……今回この面々を集めたのは、ヨークシンにて幻影旅団のクソガキ共を抹殺するための最終確認だ。

 

 

 

 幻影旅団という私のこれからの人生においての特大の地雷を処理するにあたって、集めた人材は我ながら最良のものだろう。

 

 ゾルディック家は言わずもがな殺しのプロ中のプロであるし、内部情報……といっても能力や容姿については私が知っているからこの場合奴らの居場所が知れたらそれでいいわけだけど、それをリークしてくれる内通者のヒソカも居る。クラピカはどうやら本当にこの半年で奴らに届きうる念能力を作り上げてきたようで、その佇まいは激しい感情を内に秘めているとは思えないほど落ち着いていた。オーラの流れも美しく、それを見たゼノじいさんがニヤリと笑って「ほほう、半年で一応それなりに仕上げてきたようだな」と言っていた。

 

 安定した戦力、情報、旅団特化のキー能力。以上から考えるに勝率としては十分だ。というか、間違いなく仕留めてもらわねば困る。……何しろクソガキ共の始末など、私がゴレイヌさんと結ばれるまでの通過点でしかないのだから。

 そんな通過点で躓いてたまるか。

 

 

 クラピカはハンター試験の時にヒソカに旅団の情報をやるから9月にヨークシンへ来るように言われた身であるため、集まった場にヒソカが居るのを見て「事前に知ってはいたが……こうして改めて会うと変なものだな」とつぶやいて微妙そうな顔をしていた。そんなクラピカに対してヒソカの返答はといえば「や♥ ちょっと予定が早まっちゃったけど半年ぶりだね♦ 見違えたよ」といった軽いもので、ねっとりとした絡みつくような視線にクラピカは眉をひそめてさりげない動作で奴との間に私を挟んだ。オイヤメロ盾にするな。

 クラピカに聞けば、どうやらヒソカは私と天空闘技場で取引した後クラピカに自分から今回の件に関わることを連絡していたようだ。その際に自分はクルタ族襲撃の時は旅団員では無かったことを念押ししていたらしい。…………いざという時に一網打尽とばかりにクロロとの戦いを邪魔されても嫌だという思惑からだろうけど、抜け目のない男である。

 

 

 

 そして暗殺一家に約2名の人材をくわえて打ち合わせをし、決まったのは以下の事だ。

 

 

 

・暗殺の決行は8月31日から9月1日。ヒソカが提供した奴らの集合場所の情報をもとに旅団が一か所に集まったところで、それぞれに監視の目を張り付けて居場所を把握。バラけたところ、もしくはバラけさせた後に各個撃破。

・暗殺対象は以前依頼した通りクロロ、フェイタン、シャルナーク、フィンクス、ノブナガ、パクノダ、コルトピの7人が最優先であるが、他団員を殺した場合でも一人当たり42億を追加で支払う。誰が団員を倒しても報酬は全てゾルディック家のものとなる。

・情報の提供と引き換えに団長であるクロロ=ルシルフルは他団員と引き離し誘導後、ヒソカが相手をする。殺しきれない場合は弱ったところを伏兵が仕留める。

・ウボォーギンのみ依頼主(私)が受け持つが、確実に倒すため補佐として一名同行する。

 

 

 とまあ、大まかに言ってだいたいこんなところだ。細かい打ち合わせはプロに全部任せたので、私が把握するのはこの程度で大丈夫だろう。実質私はウボォーギンの相手をする以外ノータッチだからな。それさえ済めば、あとはヨークシン観光でもしながら奴らの首が眼前に並べられるのを悠々と待てばいいわけだ。

 

 しかし概要を聞いた後難しい顔をしたのはクラピカである。

 

「仕事を決めるのを少々早まったな……。この日程では私が参加できるか怪しい。……まだ雇われたわけではないし、わざと落ちるか」

 

 とか呟いていたので、慌ててそれを止める。

 

「いや、クラピカの目的の本命って奴らよりも緋のッ……例の物を集める事でしょ? そのためのコネクションの方が大事なんだからそっちを優先しなさいよ」

「しかし……!」

「ま、わざわざ対旅団で能力作ってきておいて参加できないのはまぬけだよな」

「おいそこの棒っきれ黙ってろ」

 

 ミルキが馬鹿にしたようにクラピカを鼻で笑ったので、ムカついたからとりあえず延髄蹴りをきめておいた。

 …………こいつの半年間の頑張りを知っているので不本意ながら今回正式に雇うことを決めたが、やはりクビにしてやろうか。棒っきれがここ最近開発した発は遠距離からの攻撃が可能なので、奴が死ぬ可能性は低下するし暗殺には便利なんだけどな。

 

 

 まあ、ともあれそうなるとクラピカは参加できるかは未定か。少々惜しくはあるが、ゾルディック家はもともとクラピカをあてにしていないようだから作戦に支障はあるまい。プロに任せればいいんだよプロに。

 そう思った私は以前失った年長者としての威厳を取り戻すべく、お姉さんっぽい落ち着いた声色を意識してクラピカの説得にとりかかった。

 

「とにかくクラピカは雇用主から信頼を得る方が今後のために必要なんだから、日程が合わなかったら諦めなさい」

「くッ。………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………わかった。だがどうにか時間はひねり出す。面倒かもしれないが、状況の確認が出来るよう小まめに連絡をくれないか?」

 

 あ、駄目だこれ納得してない。沈黙超長かった。

 でもクラピカ自身無理を言っているのは分かっているようだから、ここは折れてやるか。断ったら本当に仕事の採用試験わざと落ちてこっちに来そうだからなこいつ。クソガキ共の始末にかまけて本来の目的に近づくための雇用先を失ってどうする。一応(念の)弟子で(家事の)師匠で(未定だけど)結婚式参列者候補だし、無暗に道を踏み外させる必要も無いだろう。

 

「……わかったわよ。でも無理はしないようにね」

「……感謝する」

 

 

 とまあ、だいたいこんな感じでわりとあっさり蜘蛛抹殺チームの会合は終わったのだ。

 

 

 

 

 しかし8月31日。……蜘蛛の連中は、ヒソカが教えてくれた集合場所に現れなかった。

 

 

 

 

「逃げられちゃった♥ どうやら僕が裏切り者ってバレてたみたいだね♠」

 

 のうのうとこんな事言いやがったヒソカコノヤロウ!!!!

 

 

 

 私は作戦が初っ端から破綻したことを理解して頭に血が上り、手始めにそのピエロピエロした顔面を殴り飛ばしてやろうとヒソカに襲いかかった。しかし私の右ストレートが奴の顔面に到達する前に、すでに妙にボロボロだったピエロ野郎はふと何か思い出したような仕草で何かが入った黒いビニール袋を差し出す。たしか有名チェーンのドラッグストアの袋のはずだが、これが何だと言うのだろうか。高級シャンプーとかだったら受け取るがそれで詫びになるとは思うなよ。

 

「はいこれ、お土産♥」

 

 言うなり奴はそれから手を離し、ビニール袋は重力に従って落下する。

 そしてどさっと落とされたビニール袋から赤い液体と共に転がり出た"それ"を見て、私は思わず息をのんだ。

 

 いつも苦しむ私を見て楽しそうに三日月形に歪む鋭い瞳。憎たらしく吊り上がる薄い唇。奴に関して思い出される記憶はそんな表情と屈辱に満ちた様々なこの身に受けた痛みである。しかし何度殺してやろうと思ったか知れない相手は、現在無様にも首だけの姿となって私の眼前で醜態を晒していた。

 

 ようやく鈍い動きの頭でそれが何かを正確に理解した私は、喉の奥からせりあがってくるものに思わず口を押さえる。しかしそれは胃液などというものではなく、抑え切れず口から溢れ出したのは我ながらはしたないほどの哄笑だった。

 

 体を満たす予想以上の歓喜のままに動き、私はヒソカの胸倉を掴んで引き寄せると心の底からの賛辞を贈った。

 

 

 

 

「お前最高だな!」

 

 

 

 

 ああ、気分がいい! ざまぁみろフェイタン!!

 

 

 

 

 

 

「あ、ラッキーだね。労せずしてまず42億」

 

 マイペースにつぶやいた鋲男はちょっと空気読めと思った。

 

 

 

 

 

 

【A級賞金首幻影旅団:残り11名】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 逆十字を背負う男は"一つの詩"が書かれた一枚の紙を手に、それを黒曜石のような瞳で見つめていた。

 

 先ほど仲間のたしなめる声を振り切って「裏切り者ワタシが殺してくるよ」と出て行ったフェイタンは未だ帰らない。

 ひとつの懸念から後に続こうとしたノブナガ、ウボォーギン、フィンクスこそ止めたが、フェイタンが帰らないという事実が"詩"を裏付ける暗示に思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 偽りの卯月は戯曲を奏で

 あなたを遊戯に誘うだろう

 始まりの舞台に集ってはいけない

 朔の夜があなたを抱きしめるから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朔の夜……新月か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 8月は終わり、(こよみ)は9月へ。

 

 

 

 

 

 




十六夜=満月がちょっと欠けた状態の月
立待月=十六夜がもうちょい欠けた状態の月

ヨークシン編導入部分がまず難産。早くヨークシン編を書ききってゴレイヌさんにたどり着きたい……(´・ω・`)

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