実はリングを壊した時点で私もちょっと考えました。でも流石に屋内は無理かーと断念。
それはともかく幽☆遊☆白書って面白いよね!(ダイマ
それは正に、激戦であった。
「ズシ。このような達人同士の戦いは滅多に見られるものではありません。しかと目に焼き付けておきなさい」
「お、押忍!!」
ウイングは自身もまた生唾を飲み込みながら、目の前のリングで行われている試合に釘付けとなる。
現在ウイングと弟子のズシが観戦している試合はフロアマスターへの挑戦権に手をかけた男、死神ヒソカと、つい最近200階へと上がってきたウボォーギンという男のものだ。最近で言えばヒソカVSカストロ戦に次ぐ人気の試合で、チケットはかなり高額なものとなった。しかしここで金を惜しむほどウイングもケチではない。なんとしても、この試合は弟子であるズシに見せたいと思ったのだ。
実は対戦者の片割れ……ウボォーギンについては、ウイングも少々知る所ではある。といっても、直接の面識は無いのだが。
二か月ほど前からウイングは二人の少年に"念"を教える事になった。
彼らはズシをきっかけに未知の力である念に興味を持ち、ウイングに念とは何かと問うてきた。最初こそ表向きの方便である"燃"を教えたウイングだが(もちろん方便とはいえこちらも重要だ)彼らはウイングが思うよりもずっと速い速度で200階……念能力者がひしめく場所まで駆け上がったのだ。
少年の一人、ゴン=フリークスは今年度のハンター試験に合格しているため、いずれは教える必要があっただろう。
たまたまこの天空闘技場にはウイングがいたため彼らの動向を探ったハンター協会から連絡が来たが、そうでなくともウイングは才気あふれる少年二人に"念"を教えたのは自分なのだから、中途半端にせず可能な限り教えようと決意していた。
予想外だったのは念を覚えたばかりのゴンが能力者相手に非常に危険な試合をし大怪我を負った事だ。それにより彼には二か月、念を使う事及び念について探る事を禁止したウイングである。しかしその約束を守る二人は唯一許可された"燃"については真面目に毎日続けているようで、それは静寂の大河を彷彿とさせる彼らのオーラの流れからも感じられた。
……おそらく彼らが本格的に念の修業を始めたならば、その成長速度は凄まじいものだろう。それを思うと楽しみにも感じるが、反面その才能が恐ろしくも感じる。それについてはウイングは自身もまだまだ修行が足りないと反省するところだ。
今頃美しい宝石や貴重な石を求めて世界を飛び回っているであろう師範に知られたら「ひよっこウイングとはいえもう師匠だろうに、修行が足りないわさ!」と喝を入れられるだろうなと想像し、ウイングはわずかに身を震わせる。…………あの師匠は尊敬できる方だが、それ以上に怖いのだ。色々な意味で。
ともあれ、まだまだ教えた事はほんのわずかながらウイングに弟子が増えたのは事実。
指導するのはまだ先とはいえ、ウイングは出来るだけ彼らを気にかけるようにしていた。そしてある日、そんなウイングに2人から「用事で出かけていた友達が戻ってきた」と一人の女性を紹介された。
やや緊張した様子の女性はエミリア=フローレンと名乗り、ウイングは内心「ああ」と思い当たる。たしか彼女も今年度のハンター試験合格者だったはず。確認すれば肯定され、更に「貴女はすでに念を修得していましたね?」と問えばそれにもyesの返事が返って来た。
一見オーラが垂れ流し状態の一般人に見えるが、それについては「何故か普段は纏をしていないようだ」と協会からの書類に書いてあったのでウイングは納得済みである。
そしてエミリアが念を使えると知って不満そうに声を上げたのはキルアで、「なんだ、じゃあエミリアが留守してなきゃすぐ念について聞けたんじゃん。さっきウボォーギンとの会話で念について話してても何も聞いてこないから、知ってるとは思ったけどさ」と言いながら口をとがらせていた。しかしエミリアは「いや、私は独学だからちゃんとした師匠に学べるならそっちのがいいわ」と述べ、ウイングに「あの、私が言うのも変ですけど……二人の事よろしくお願いします」と頭を下げた。
多少人との会話に不慣れな印象を受けるが、その素直な様子には好感を覚えたウイングである。まだ会ったばかりだが、ズシに「友達だ」とゴンに紹介されたことを非常に喜んでいた様子を見るに少なくとも悪い人間では無いだろう。
そして彼女との会話の中で出てきた人物こそ「ウボォーギン」である。
どうやらエミリアを訪ねて天空闘技場まで来たようなのだが、来たついでに200階にぶっ飛ばしたい相手がいるから闘技場に挑戦していくとのこと。
"ついで"で200階にいる相手をぶっ飛ばすという発言をするあたり、身の程知らずかただ者では無いかのどちらかだとは思ったが彼の場合は後者である。試合で件のウボォーギンを目にした時、ウイングはそのオーラに目を見張った。鍛え抜かれた体の素晴らしさもさることながら、彼の体を取り巻く力強く洗練されたオーラの存在感は、ウボォーギンが強者であることを如実に物語っていたからである。
ウボォーギンはわずか二日で200階まで駆け上がった。
ウイングが見立てた彼の強さを思うに下手をしたら一日でも200階到達を達成できた気もするが、何故かウボォーギンは最初非常にもどかしそうに試合をしていた。思い切り力を振るいたいのにそれが出来ない。言うなればそんな様子だ。
彼ほどの達人が思う存分に振る舞えば、念を覚えていない者(もしくは覚えた者も)はただでは済まないだろう。おそらくそれを考慮して力を抑えて戦っていたのだろうとウイングは推測した。しかし不慣れな様子も最初だけで、翌日には慣れたのか加減しつつも対戦相手を容赦なく叩きのめし順調に200階まで勝ち上がったウボォーギンはやはり強い。たった二日で、彼は観客の注目を一身に集めていた
注目といえば同時期にミルキという細身で怜悧さが際立つ顔立ちの青年も勝ち上がったが、彼は200階に到達するとすっと姿を消してしまった。その美麗な容姿から女性客や闘技場の女性スタッフから熱い視線を送られていた彼はウボォーギンとは別の意味で注目を集めていたので、消えた途端男性客たちはこぞって「臆病風に吹かれたんだろう」とささやきあった。
完全に嫉妬である。
彼についてはウボォーギンに注目するあまりタイミングが合わず試合を見ることが叶わなかったが、もし再度試合に出ることがあれば直接見てみたい相手だ。
そしてそのミルキと同じく、ウボォーギンは200階に到達した途端何故か姿を現さなくなった。注目の新人2人が試合登録をしない事に期待していた観客は不満の声をあげたが、ある日組まれたヒソカVSウボォーギンという試合に一気にその期待は最高潮に達した。現金なものだが、いつの世も手のひらとは簡単に翻るものである。
ウボォーギンより闘技場での実績があり、ヒソカへのリベンジマッチだったカストロ戦に比べれば注目度は低かったがそれでもチケットは飛ぶように売れ、その値段もかなり吊り上がった。しかし実際の試合を目にした観客は「買ってよかった」と自身の英断をほめたたえた事だろう。それほどに見ごたえのある試合だったのだ。
試合はウボォーギンによる"攻め"で開幕から派手に彩られた。野蛮人の聖地に相応しい戦いっぷりが人気のウボォーギンには、観客からも多くの声援が送られる。
しかし涼しい顔で攻撃を避け、時に念を使ってのトリッキーな動きでウボォーギンを翻弄するヒソカも流石である。おそらく彼の"発"である伸縮性と粘着性を兼ねそろえたオーラ……それを一度は無理やり引きちぎられるも、しかしヒソカがひるむ様子はなかった。すぐにオーラを整え次の手を繰り出し、力こそ正義とばかりに鍛え抜かれた肉体を武器に凶悪な威力の攻撃を繰り出すウボォーギンに対応した。
ウイングが見た感想としては、勝負としてはウボォーギンが優勢のように思えた。躱すなりいなすなりしているものの、ヒソカの負い続けたダメージは決して生易しいものでは無いだろう。だがヒソカは着々とポイントを稼いでいた。ヒソカ自身が負ったダメージより軽度だろうが、着実にウボォーギンにも怪我を負わせている。……よって、試合で勝っているのはヒソカなのだ。
そして白熱した戦いは会場中の人間全員の驚愕をもって終幕を迎える。
ヒソカの戦い方に業を煮やしたのか、ウボォーギンが右手に凄まじい量のオーラを集め始めたのだ。それを見て「まずい」とウイングが席から腰を上げた時。
…………………天空闘技場が、揺れた。
後に残ったのは中心から見事に砕け散ったリングと、先ほどまでの喧騒が嘘のように静まった観客席。
数拍置いたのち、砕けたリングの中心に立っていたウボォーギンが「だっ!?」と声をあげた。見れば念により吸着され念により若干強化された瓦礫がウボォーギンの後頭部を殴打していたのだ。
「はい♥ おしまい♠」
当然、その瓦礫をくっつけたオーラの先に居たのはヒソカである。
『ッ、てぃ、TKOにより勝者ヒソカ選手ーーーーー!!』
「なにぃぃぃぃ!? これで終わりかよ!?」
プロ根性を振り絞り勝者を告げる実況者とウボォーギンの叫びがヒソカの小馬鹿にしたような声に続き、そして更に続いて観客からの歓声が一瞬にして会場中を埋め尽くした。
ヒソカVSウボォーギンは、こうして幕を下ろしたのである。
試合の後、ウボォーギンは再度戦うことなく闘技場を去った。ゴンとキルアに聞いたところ「ま、気にくわんが殴れたからいいか。この後にお楽しみもあるしな」と言っていたようで、どうやら本当にぶっ飛ばしたい相手……ヒソカを殴れたらそれでよかったらしい。それに関してならば彼は目的を達成できたと言って良いだろう。彼の機嫌を良くしている後のお楽しみ、とやらは知らないが。
そしてウボォーギンに勝ったヒソカはフロアマスターへの挑戦権を得たわけだが、彼はあっさりフロアマスターに勝ってしまった。これを見た観客はヒソカとウボォーギンの両名が元々200階フロアマスターよりも強かったのだと悟る。少々フロアマスターが不憫になったウイングであるが、そこは天空闘技場。負ける可能性は常にあるのだから仕方がない。
しかし驚くのはその後。
二か月の念禁止が解けたゴンの快進撃が始まったのだ。
ゴンとキルアはウイングの予想通り瞬く間に念の基礎を修得していき、そして次々に勝利を重ねた。ゴンに全治二か月の怪我を負わせたギドらも含め倒し、順調に勝ち星を増やしていったのだ。
………しかし、これには少々理由がある。
200階クラスに念使いは数多くいるが、言い方は悪いがいずれもフロアマスターに挑む権利を掴むことが出来ず燻っている者達ばかり。その中でも特出していた者達……ヒソカはフロアマスターになり、カストロはヒソカ戦にて死亡。そして準備期間が90日あるため実力者たちは常に天空闘技場に詰めているわけではなくわりと自由に動いたりもする。要は余裕があるのだ。
天空闘技場に常に張り付いているのは、新人であるゴンとキルアを狙ってきたギド、サダソ、リールベルトといった3人組のような新人狩りでうまい汁を吸おうとしている連中が大半である。多少偏見もあるが、見当違いでも無いだろう。そうでなくとも実力は新人狩り3人と同格か少し強い程度の者が多く、彼らではゴンたちの相手には力不足だった。
つまり単純に運が良かったのと、純粋な実力による勝利。理由と言っても要はただそれだけのことだ。
もちろん無敗とはいかなかったが、そんな有象無象を蹴散らして……否、彼らとの戦いを常に糧として成長していったゴンは一か月ほどで10勝を掴むという偉業を成し遂げた。これはつまり彼が戦いたがっていたヒソカへの挑戦権を得たのである。これを快進撃と言わず何と言うのか。
ズシなどは「本当にやっちまったッス……」と呆然とつぶやいていたが、彼の才能とたゆまぬ努力を目にしてきたウイングとしては驚きながらもその結果は受け入れられるものだった。
………………本当に自分は、とんでもない逸材を弟子にしてしまったのかもしれない。
そしてゴンが10勝する一方で、キルアは途中から試合をせず「俺はそろそろいいや。色々参考になったし」とニヤリと笑っていた。もう彼のお眼鏡にかなう闘士は居ないという事なのかと、その真意を測りつつ冷や汗を流すウイングは苦笑した。
(この子達を師範が見たら、色々言いながらも気に入るんだろうな)
ぼんやりと、そんなことを思いながら。
ゴンとヒソカの戦いの結果はヒソカの勝利で終わった。
しかし先日凄まじい戦いを見せつけられたにも関わらず、ひるまず立ち向かったゴンは良く奮闘したといえる。そして試合には負けたものの、当初の目的であった「借り」はなんとか返せたようだ。
ヒソカを殴りとばし"44"と書かれたプレートを突き返した少年の背中は力強かった。
ウイングは思う。眩しいと。
師範が才能がある者を宝石やその原石に例えるわけだ。
そしてきっと、彼らならその磨き方を誤らないだろう。短い期間ではあったが、ウイングはそんな信頼をよせるほど彼らの事が好きになっていた。
だからこそウイングは天空闘技場を去る二人の少年に向かって言葉を贈る。
「二人ともお元気で。前にも言いましたが、たくさん修行してそれと同じくらい遊びなさい。君たちの器が何処まで大きくなるのか、私も見てみたい。また会える日を楽しみにしていますよ!」
少年たちは満面の笑みを浮かべてから、すっかりズシからうつったお馴染みのポーズで応えた。
「「押忍!!」」
天空闘技場編、完!!
え、主人公?居る居る、居ます。多分観客席のどこかで「やれー!ぶっとばせー!」とか叫んでます。