ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

31 / 66
Gorilla26,野獣VSピエロ

 それは200階クラスにて期待の新星ウボォーギンVS死神ヒソカの試合が行われる少し前の事。

 天空闘技場にエミリアの行方を追って訪れたウボォーギンが、予てより気まぐれな振る舞いが目立ち気にくわなかった幻影旅団4番ヒソカを発見しついでにぶん殴っていこうと決めて闘技場に登録してからは少し後の話。

 

 

 

 

 天空闘技場近くのバーでグラスをカウンターに勢いよく叩き付けるように置いたエミリアは、煩い音に迷惑そうな他の客の視線も気にせず目の前の痩身の男……ヒソカを眼鏡越しに睨みつけた。普段のピエロ然とした装いとは異なり、品の良いスーツを着こなしているヒソカはそれを涼しい顔で受け流してカクテルグラスに口をつける。

 エミリアはそれをますます眉間に皺を寄せて気にくわなさそうに睨むが、のれんに腕押し糠に釘といったヒソカの態度に深くため息をつくと自身もグラスに口をつけた。そして改めて口を開く。

 

「お前強い奴と戦いたいバトルマニアの類だろ? なんでウボォーギンと戦おうとしないのよ」

「う~ん……なんていうか、好みじゃないんだよね♠ 暑苦しくて。それにしても、君がウボォーギンと知り合いだっていうのには驚いたなぁ♦」

「好みじゃないぃ~? 我儘な奴! いいから早く戦いなさいよ。じゃないとあいつ帰らないわよ」

 

 今回エミリアがわざわざ嫌いなヒソカにコンタクトをとり、こうして話し合いの場に呼び出したのは彼とウボォーギンの試合をセッティングするのが目的だ。

 本心を言えばエミリアとしてはヒソカがウボォーギンに殴られる様を見たい気持ちの方が強いのだが、早く帰ってもらいたいというのも事実。そのためウボォーギンに心底迷惑している気持ちを前面に出して嫌そうな顔を作れば、それに対してヒソカはこう答えた。

 

「戦う、戦わないは僕の自由だよ♠ それを強制したいのなら、何か見返りをもらわないと♦ 例えば、君が僕と戦ってくれるとか♥」

「そんな暇無いわ。私は私で忙しいの」

「そうなのかい? 残念♥ でも、それなら君は僕に何を差し出せる?」

 

 そう言って意地の悪そうな表情で、隣の席から覗き込むようにエミリアの顔を見てくるヒソカ。エミリアはその顔を邪魔そうに手で押しのけると、しばし考えたのち何か閃いたような顔でこう提案した。

 

 

 

 

 

「じゃあウボォーギンと試合してくれたらクロロとの戦いの場を整えてあげる」

「………………。……………?」

 

 

 

 

 

 思いがけない提案だったのか、ヒソカは珍しくすぐに言葉を返せず沈黙した。そして数拍置いたのち口の端を吊り上げ、すうっと切れ長の薄い目をギリギリまで細めてエミリアを見つめた。

 

「君は何を知っているんだい?」

 

 店に居た他の客は、突如感じた寒気に悪酔いしたか店の空調が壊れたと思った事だろう。一方でわずかに居た念能力者数名は、青い顔で勘定を済ませるとそそくさ店を出ていく。

 しかしヒソカのオーラを向けられたエミリア本人は、先ほどと同じように邪魔そうな顔でヒソカの額に俗にいうデコピンをくらわせようとする。が、その指に秘められた「ピン」ではすまなさそうなオーラにヒソカはさっと避けた。

 

「避けるなよ」

「避けるよ♠ 君、強化系だろう? か弱い僕にそんな強烈なのくらわせようなんて酷いよ♦」

「馬鹿野郎お前強いだろ。か弱いとか何の冗談よ。それにお前が先に挑発してきたのが悪い。っていうか、なんで系統分かったし」

「僕のオーラ別性格診断を元に判断した結果だよ♥ 強化系は単純一途♦ ほら、簡単に系統を肯定しちゃうところとか正に単純そのものだろう?」

「やっぱお前ムカツク」

 

 エミリアは舌打ちすると、空になったグラスをカウンターに置きバーテンダー(顔を青くさせている)に追加を注文した。

 

「バージン・メアリーで」

「ブラッディ・メアリーじゃなくていいのかい? 君、さっきからノンアルコールばかりじゃないか」

「うっさい。で? さっきの条件は対価に見合う?」

「もしそれが本当なら十分な見返りだけど、色々聞きたいことがあるなぁ♥ まず、君って蜘蛛とどんな関係?」

「人生における障害物」

 

 キッパリと言い切ったエミリアにヒソカは再びしばらく沈黙すると、バーテンダー(顔を青くしながらも仕事をするプロ)に追加注文をした。

 

「彼女にロイヤルフィズを♥」

「ちょっと、勝手に注文しないでよ」

「僕の奢り♦ 君、今凄い顔してたよ? そんな時は飲まなきゃ♥ ロイヤルフィズは卵を使ってるから元気が出るし、レモンジュースの酸味もあるから口当たりがよくて女性にもおすすめだよ」

「ふーん……」

 

 くし形にカットされたレモンが縁に添えられ、赤いチェリーが浮かぶ透明度の高いレモン色のカクテル。目の前に置かれたそれを興味深そうに眺めたエミリアは、それに口をつけると意外そうに目を見開いた。

 

「美味しい」

「でしょ? それで、さっきの続きをいいかな♠」

 

 その後エミリアは自身と幻影旅団の関係について簡単に説明した後、とある筋に暗殺の依頼をしたことを告げる。

 

「その依頼を少し変更して、クロロだけ暗殺でなく捕獲か仲間との分離にしてあげりゅ。私的にはあいつら殺せれば相手が誰だろうと金がいくらかかろうと問題無いのよ」

「そう♠ ところで、僕が蜘蛛だって事も知ってるんだろう? 色々事情を知っているみたいだし♥ こんな事話していいのかな♠ あと、ちょっと呂律回って無いみたいだけど酔ってる? 何杯か勧めたのは僕だけど、そろそろやめたら?」

「はあ? 酔ってにゃいわよ。私はねぇ、昔っから、細目チビに変な薬使われてきたのよ。今さりゃ酒なんかでどうこうならないっつーの」

「あ、そうなんだ♠ ごめんね♦ ……それで、僕の事信用していいの?」

「信用なんかすりゅわけないでしょお前みたいな変態! ただ、お前みたいな気まぐりぇそうな奴が組織に入るってのは、どうせくりょりょと戦いたいだとかそんな理由だと…………うぷっ」

「すみませんバケツください♥」

 

 

 エミリアはヒソカとの交渉を途中まで覚えており、それが成立した事も忘れてはいなかった。

 が、どう話してどうヒソカを納得させたのかがさっぱり思い出せない。そのことを翌日二日酔いでガンガン痛む頭を抱えながら「もう酒は飲まない……」と悔やむエミリア。そしてその日の昼間、左頬を腫らしたヒソカに「君はお酒飲まない方がいいね♠」と言われスーツのクリーニング代を請求されるのだった。

 

 

 

 

 

 酒は飲んでも飲まれるな。古来より伝わる教訓である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ふふふ……! 殴られるヒソカが見られる。クロロを抹殺するための布陣がますます強固になる。多少手数料がかかるとしても、なんという一挙両得! 天才か私!)

 

 少し前にヒソカと交わした取引を思い出しほくそ笑む私は、まもなく試合が開始されるリングに目を向けた。

 

 

 待ちに待ったウボォーギンVSヒソカ戦の観客席は大いに賑わっていた。試合前に行われる観客の賭けによれば、その内容はヒソカが勝つ方に偏っているように感じる。期待されつつも新人のウボォーギンとフロアマスターに最も近い男として名を馳せているヒソカでは、やはり知名度が違うのだろう。ちなみに私はウボォーギンに100万賭けた。

 

『さあ、いよいよ期待の新人、天空闘技場に現れた超新星! ウボォーギン選手とヒソカ選手の試合が行われます! 会場を包む熱気から、この試合に寄せられる皆さんの期待が伝わってきます! 何しろウボォーギン選手は新人の身ながらわずか2日で200階まで駆け上がった男! 何故か200階に上がってからはすぐに試合を希望しませんでしたが、もしかするとその理由は今日この日、200階デビューをヒソカ選手との戦いで飾るためだったのかもしれません! おっと詮索が過ぎましたね! そして対するヒソカ選手ですが、なんと現在9勝3敗! 勝てばフロアマスター負ければ地上落ちというまさに分け目の勝負! 彼のリングに上がれば不敗の無敵伝説は続くのか? それとも途切れるのか! 注目の試合です!』

 

 …………ん?

 

「あれ、今9勝3敗って……え?」

「あ!」

 

 焦ったように声を上げたのはゴンさんで、隣に居たキルアさんは「あちゃー……。そういや、ヒソカの通算勝敗数って……」と呟いている。

 

「これでヒソカが負けたら200階からいなくなって、勝ったらフロアマスターになっちゃう!?」

「ってことは、ヒソカって奴がまた200階に勝ち上がるかゴンが200階で10勝しねぇと戦えなくなるな」

「やっぱり!?」

 

 冷めた口調で淡々と言うミルキの言葉に、ヒソカと天空闘技場で戦う気満々だったゴンさんはショックを受けたようだ。というか、私もすっかりヒソカの戦績とか忘れてた。

 

「ご、ごめんねゴンさん! 私がウボォーギンの戦いを組まなければゴンさんが戦えてたかもしれないのに……!」

「う、ううん。気にしないでエミリアさん! 先にヒソカと試合で戦いたいって言ったのはウボォーさんだし、俺は別に借りを返せれば戦う場所は天空闘技場じゃなくたって……」

 

 そうは言ってくれるけど、ゴンさん明らかに落ち込んでるし……! 

 私はオロオロしながらなんとかフォローと謝罪の言葉を探そうとしたが、私が何か言う前に口を開いたのは意外にもマチだった。

 

「情けないね。そんな事で落ち込んでどうするんだい。男なら奴がフロアマスターになったなら、自分もとっとと10勝して挑むくらいの気持ちでいな! ま、ウボォーが負けるとは思わないしその可能性は低いけど」

「! ……そうだよね。ありがとうマチさん!」

「…………ふんっ」

 

 ゴンさんの満面の笑みによる感謝が気恥ずかしかったのか、マチが少し顔を赤らめながらそっぽを向いた。…………レアだ。

 それにしてもこの1か月でウボォーギンどころかマチの好感度まで上げるとはゴンさん流石、流石ゴンさんと言わざるを得ない。……そのコミュニケーション能力を分けてもらうために、今度爪の垢とかもらえないだろうか。煎じて飲みたい。

 

 とりあえず気を取り直して試合を見る事にした私たちは、いよいよ戦いのゴングが鳴るリングに注目した。

 

 

 

「テメェは前から気にくわなかったんだ。気持ちよくぶっ飛ばせる日を待ってたぜ!」

「ククッ、お手柔らかに頼むよ♥」

「冗談! 全力で行くから覚悟しろよ!」

 

 

 短い会話の後、いよいよ試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果から言えば、試合はヒソカの勝ちに終わった。

 けどそれはヒソカの小賢しさがあったからで、実質引き分けみたいなもんだと思っている。

 

 

 

 

 つーかウボォーギンの野郎、闘技場のリングぶっ壊しやがった。

 

 やり過ぎだ馬鹿!!

 

 

 

 

 

 

 




痛っ、あ痛っ、ごめんなさいサブタイ詐欺でごめんなさい石投げないであ痛たたっ


<2019/9/7>追記↓
ぽぽりんごさんから本作主人公、エミリアとマチのイラストを頂きました!二人のやりとり的にこの近辺のお話がふさわしいかと思い、こちらに掲載させていただきます。
イラストが可愛いうえに、二人のやり取りが本当にそれっぽいというか、実際にこんな会話があったような気がします。マチはいいツッコミ
ぽぽりんごさん、素敵なイラストをありがとうございました!


【挿絵表示】


【挿絵表示】

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。