ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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むかし話~流星街の食糧庫

 クソクソクソクソクソォォォォォォォ!!!!

 

 こんなところで死んでたまるか! こんな汚物の掃き溜めで死んでたまるか! こんな人生あってたまるか!!!!

 

 

 

 流星街と呼ばれる場所だと後に知ることとなるが、悪臭で肺が満たされるゴミ山で私が最初に吐き出した感情はこれに尽きる。何故自分がこんな場所に居るのか、自分が何者であるのかを疑問に思う前にただただ現状への不満と怒りで頭の中が真っ赤に染まった。感じる空腹も、吐き気のする異臭も、美しさのかけらもない景色も……その何もかもが気にくわなかったのだ。

 時々ガスマスクをした怪しい人間達が声をかけてきたが、こんな場所だ。何をされるか分かったものでは無いと、私はひたすら逃げ続けた。体は悪環境に蝕まれすぐに衰弱したが、それでもしぶとく動いていたのは現状に対する怒りの感情ゆえだろうか。這うようにして生き延びていた私は、限界が来る前にガスマスクの連中から食料と呼べるかもわからないモノを盗み泥水をすすることを繰り返した。おそらく当時の私の外見は地獄からはい出てきた餓鬼のごとく醜かったと思われる。

 

 そしてぎりぎりの所で死という敗北から逃げ続けた私は、ある日この場所が"流星街"と呼ばれる場所だと知る。するとその単語を聞いた途端、見た事も聞いたこともないはずなのに"知っていた"知識の中から突如として『念能力』という力についての知識が飛び出したのだ。

 そんな魔法のような力があるものか。そう思えるほど当時の私に余裕はなく、目覚めるかも分からない念という力に根拠もなく食いついた。浅はかであるが、結果的に私は最良の選択をしたといえよう。何故なら時間はかかったが、私は見事念能力の発露に成功したのだから。

 念を目覚めさせる方法は二通り。瞑想や禅を組むことでゆっくりと身につける方法と念能力者に無理やり開花させてもらう方法だ。当然念能力者どころか知り合いの一人もいない私は前者を選ぶしかなかったわけだが、ひたすら自身の体の中にある生命エネルギーを追い求めた私のそれはお世辞にも瞑想などと呼べる代物では無かった。まるで飢えた野良犬のように貪欲に浅ましく、怒りを糧に力を求めたのだ。だが今になって思えば、そんな極限状態が幸いしたのだろう。

 

 

 

 念能力には大きく分けて6つの系統がある。

 強化、放出、変化、操作、具現化、特質。その中で私は強化系に属していた。

 

 

 

 その系統はすぐに私に恩恵をもたらした。それが何かといえば、強化系はオーラと呼ばれる生命エネルギーを器に入った水に向ける事でそのかさを増すことが出来るのだ。本来これは自身の念の系統を知るための水見式と呼ばれるものだが、私にとってわずかな生命線である水が増える事にはそれ以上の大きな意味があった。

 たとえば同じ泥水でも、廃棄油が混じった物は流石に飲めない。だからかろうじて飲める泥水を少しでも増やせるというのは、非常にありがたい事だった。

 

 そして私の念能力の方向性は、それをきっかけに生き延びるためのものへと進化を始める。

 

 水が増えるなら他のものならどうなんだ? まず試したのはそれだった。ゴミ山の中から奇跡的に見つけた虫の湧いた腐ったかぼちゃから種を取り出し、種を喰らいたいのを必死に我慢して念を注いだ。そして壊れた鉢植えからこぼれていた土を集めて植えたのだ。

 初めは発芽すらしなかったが、私の能力が向上するにつれて変化は現れた。最終的に次代を残さない一代限りの(しゅ)であるが、この悪列極まりない環境で育つ植物を作り出せるようになったのだ。オーラを注ぐことにより強化され、成長を促され通常よりも早く育つ作物。これにより私はようやく飢餓を脱出した。

 私は自身の念能力に強化蘇生(パワーリザレクション)と名前を付けた。蘇生などと大げさかもしれないが、私はこの能力のお陰で生かされたのだ。名前くらい少し盛ってもいいだろう。

 

 こうして食料……それもこのゴミ溜めでは破格の新鮮な採りたて野菜を摂取できるようになった私は、徐々に思考する余裕というものを取り戻した。すると今度は衣食住で足りていない衣と住を手に入れようと思えてくるわけで。相変わらず声をかけてくるガスマスクどもを無視し、私は流星街の片隅にゴミで掘っ立て小屋を作った。……まあ小屋と呼ぶにはみすぼらしかったが。

 本当ならすぐにでもこんな場所出ていきたいところだったが、ガスマスクどもは何だかんだで危害を加えてこようとはしなかったのでしばらくはここに根を張る方が安全だと思えたのだ。……念能力という大きな力を得たが、それに見合わず私の体は貧弱だったからな。未知の土地に無防備に飛び出すには心もとなかった、というのが当時の私の本音だろう。忌々しいが、まるで鳥の雛の刷り込みのように……自我を得て初めて目にした流星街という場所に、無意識下で安心感を覚えていたのかもしれない。同時に吐き気がするほどの怒りも向けていたのだから、実に矛盾している。

 

 そして日々の糧を得ながら、私のやっと人間らしいと呼べる生活が始まった。

 

 しかし、それは同時に"奴ら"との戦いの始まりでもあった。

 

 ある日、丹精込めて育てた私の野菜たちが盗まれたのだ! おのれ、次世代を残せないから育てる種はいちいち探してこなければならないというのに……絶対に許してなるものか! そう憤怒で顔を赤く染めた私はすぐにコソ泥と思われるガキを捕まえて二度と繰り返させまいと、自分の行いの愚かさを思い知らせようとボコボコに叩きのめしてやった。その子供も飢えていることは分かったが、私は自分の事で精一杯。他人の事など気にかける余裕はなく、ただひたすらに自分の生命線を脅かすものが目障りでならなかったのだ。

 

 しかし子供は懲りなかった。しかも最初は一人だったのに、段々と増えた。何故だ。

 

 ガキどもは徒党を組んでは私から食料を奪い去り、そのせいで私は幾度となく飢えとの再戦を余儀なくされた。しかも奴ら、いつの間にか念能力を身につけていたという悪夢。後になって聞けば私の念の修業を見て技術を盗んだというのだから寒気がする。何だそのバカみたいな才能……!

 とにかく、これにより出し抜かれさえしなければ食料を守れる、見つけたらすぐボコれるという私のアドバンテージは無に帰した。なのでそこからは正面切っての食料をかけたバトルの連続である。忌々しいことこの上ない。

 奴らに勝つために私は必要以上に自身を鍛えることにのめり込んだが、ガキどもは私が強くなったらなったで次に会う時はそれを上回ってくる。特に最初に私にボッコボコにされたガキは途中から食料のためというより好んで私と正面から戦いたがり、それも強いってんだから鬱陶しくてしかたがなかった。

 

 

 

 気づけば私は完全に鴨にされ、クソガキ共に食糧庫扱いされていた。クソが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、なんで昔の事を思い出してたかって流星街を出て天空闘技場で荒稼ぎをしてリッチな生活をしている私の自宅に当時のクソガキの一人が勝手に上がり込んでソファーでくつろいでるからだよ。オイヤメロ、お前の汗臭そうな体で私の家を汚染するな。

 

「お、邪魔してるぜ!」

 

 しかも私が目の敵にしてるにも関わらず、旧知の友人に対するようないい笑顔ときたもんだ。あれだよな、これは喧嘩売られてるんだよな?

 

「表出ろカス」

「ん? なんだ早速か! いいねぇ、お前は相変わらず血の気が多くて楽しいぜ!」

「私は楽しくないんだよォォ! テメェこの野郎ドアだけでなく玄関の壁もろとも吹き飛ばしやがって……!」

「ああ、鍵かかってたからな。めんどくせーんで、つい」

 

 つい、で家を破壊されてたまるか。それに私は血の気が多くなんてない。いつも頭に血を登らせる原因はお前らなんだよ!!

 

 昔ひょろひょろだったクソガキは、いつのまにか筋骨隆々で体のデカイ野獣のような男に変貌していた。

 こいつは主に私と戦うために時々こうしてやってくる。来るたびに引っ越しているのだが、何故か毎回容易く引っ越し先が割れている謎。解せぬ。

 

 しかし望み通り殴り殺してやるよぉ! という心意気で睨みつけていた私に対し、男は何か思い出したように「いや、ちょっと待て」と言った。

 

「そういや、今回はこれやりに来たんだ。戦うのは後にしようぜ」

「はあ? お前が私に何かくれるとか嫌な予感しかしないんだけど。現金以外だったらいらないわよ」

「まあそう言うなって。その……あれだろ? 女って奴ぁ綺麗なモンが好きなんだろ。団長に無理言って売り払う前に一個分けてもらったんだ」

 

 そう言って取り出されたのは、円柱形の容器に液体が入った物。そしてその中には美しい緋色の……。

 

 

 

「いるかぁ!!」

 

 

 

 私は渾身の力を込めて奴の顔面に拳を叩き込んだ。

 

 そのせいで我が家に奴があけたのとは別にもう一つ巨大な穴が空き、私は泣く泣くまた引っ越すこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公の流星街時代と念能力をちょこっと紹介。日をまたぎましたがハッピーバレンタイン。外国では男性から女性に贈り物をするようです(というのにこじつけて書いてみたオチ

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