ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla20,緋色の小姑

 ゴンさん達にコバンザメしようと思った私、クラピカの師匠なう。

 

 何故だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴンさん達にくっついていく許可をもらった私は、久しぶりに天空闘技場を訪れていた。

 

 どうやら二人はここで修業するようだけど、たしかここはゴンさんとキルアさんが念を修得する場所だったなと思い出した私は彼らが念を覚えるまで不干渉を決め込むことにした。というのも、ちゃんとした流派の師匠に教えを乞うのが彼らにとって一番いいだろうと思ったからである。

 もしゴンさんとキルアさんが念についての疑問を私に問うてきた場合、存在を教える事は簡単だろう。しかしその結果教えてくれと頼まれたら、私にはそれが出来る自信が無い。漫画の知識を頼りに修行してきたとはいえ所詮自己流……変な癖をつけさせてしまってはいけないだろうし、ここは天空闘技場で出会うだろう師匠に任せた方がいいだろう。

 だからちょいちょい交流を挟みつつ、彼らの修業に対しては不干渉という距離感を保とうと思ったわけだ。

 

 

 

 そういうわけで、今回私は天空闘技場の試合には出ない。

 キルアさんはそれに対して不満だったみたいだけど、私として天空闘技場はただの金蔓。賞金が出ず、戦闘準備期間を過ぎれば登録が消去される200階以上を目指す気は無いのだ。

 

 

 私はゴンさんとキルアさんの試合を観戦しつつ、それ以外は天空闘技場周囲の歓楽街で女子力磨きに専念することにした。もともといろんな場所に行って視野を広げつつ女子力磨き! が目的だと2人にも言ってあるしな。

 

 …………でも試合を観戦していたら「おう、エミリアじゃねーか! こんなところで何してるんだよ。選手はあっちだぜ!」だの「期待してるぜ! 俺ぁ毎回あんたに賭けてんだ! 今回も泥臭くて熱い戦いを見せてくれよ!」だの「エミリアたん!? 何故エミリアたんが観客席に! 僕は君が獣のように戦う姿を見るのが好きなんだよぉぉ! 早くリングに戻るんだ! こっちは君の世界じゃない!」だの……ちょいちょい他の観客がうるせぇ!! 何だよお前ら静かに観戦させろよ!

 今まで観客側に来たことが無かったから初めて知ったけど、どうやら古参の天空闘技場マニアには結構私のファンが居るらしい。うんざりした顔で観客席から出ていく時に笑いをこらえながらスタッフのお姉さんが教えてくれた。……まあたしかに天空闘技場歴長いけど、こんな200階クラスまで行ってない小娘のファンとか何が楽しいんだ。

 

 お姉さんによれば。

 

「女性の選手は少ないですから、印象にも残るし目立つんですよ。それにあなたは今よりお若い時から参戦していますから、古参のファンにとっては娘みたいに思えてしまうんじゃないでしょうか。あと単純にあなたの戦い方が好きな方たちですね。……まあ、特殊な趣味の方も少なからずいらっしゃいますけど」

 

 ということらしい。……おい、特殊な趣味って何だ。特殊な趣味って。

 

 あとお姉さんまで「ちなみに私もファンですよ。今回は参加されないのですか?」と言って期待したような目で見てきたので、何だか選手としてじゃなきゃ私はここに居たらいけないような雰囲気に居たたまれなくなった。だからゴンさんキルアさんの試合を見たのは最初の数回だけ。周りがちょいちょい声かけて来て鬱陶しいったらない。

 それを愚痴ったらキルアさんには「観念してさっさと登録して来いよ」と言われたけど、それは断る。今の私に必要なのはむさくるしい天空闘技場観客からのエールじゃないんだよ!! ゴンさんにも「俺もエミリアさんが戦うところ見てみたいな!」と言われたから超迷ったけど今回は本当にパス。私が今必要としているのは女子力なんだ。ゴレイヌさんに会いに行くまで半年しか無いというのに、戦闘力を磨いている場合ではない。

 ゴンさんには申し訳ないが参戦はまたの機会にさせてもらおう。

 

 

 そういうわけだから結局ゴンさんキルアさんと友好を深める機会は、一緒にご飯食べたり周りのお店をちょっと見て回って観光っぽい事をしたくらいだ。そして天空闘技場を勝ち上がって個室を得た二人は今まで泊まっていた宿からそちらに移動してしまったので、私が意図するまでもなく一緒に居る機会は少なくなった。……安心したような寂しいような。

 

 まあ、天空闘技場ではゴンさんキルアさんは戦闘力及び念の修業、私は女子力修業と目的が違うのだ。それぞれ頑張ろうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして私が歓楽街で何をどうやって女子力磨きをしたかといえば、主にここではビジュアル面の強化である。具体的に言うとメイクに服に体の手入れ。天空闘技場目当ての観光客でにぎわう周囲の町は結構施設も充実しているので、選択肢は広い。

 

 

 

 最初に向かった先は下着屋だった。

 今までワイヤーの締め付けが嫌でワイヤーなしのスポーツブラとか履き心地の良いパンツばっかり着用してきたが、それではあまりに色気が無い。見えない場所ではあるが、まずそういう場所のオシャレから始めるのが上級者への道だと思っている。何事も一番下地の基礎がものを言うのだ。

 ……あとちゃんと胸のサイズにあったブラをつけないと形が崩れるっていうし、発育にも悪いっていうしな。店員のお姉さんに相談するところから始めたから、色々と懇切丁寧に教えてもらった。フィッティングの時は人に体を触られることに緊張してカチカチだったけど、店員の対応が柔らかくて助かった。……さすがプロ、慣れている。

 

 結果、気に入った下着を普段用に何種類かを色違いで購入。あと万が一の時用の勝負下g…………これは時が来るまでバッグの底に封印しておこう。店員に乗せられてつい買ってしまったけど、改めてそれを直視するとまだそれを着れる勇気は無い。

 

 

 その後は服屋で今まで縁が無かったスカートやらワンピースを始め、種類はガーリーな物からエレガント系まで一通りを購入。バッグや小物、アクセサリーも買った。基礎化粧品をはじめとしたメイク道具一式に美容液やらも買った。一応化粧品は持っていないわけじゃなかったけど、見たら使用期限全部過ぎてたからな……。今度から気を付けよう。

 

 ……実は店一件行くだけで気力が使い果たされるから、これらをそろえるまで数日を要してしまった。

 

 そして色々買ってみて感想が一つ。……店員の誘導が巧み過ぎるだろ。今まで話しかけられても完無視してたから耐性が無い私は、勧められるがままに色々買ってしまっていた。天空闘技場がある町という場所が場所なだけに店員が操作系能力者じゃないかと疑ったくらいだ。

 ……一気に荷物増えたけど、これは大きめのキャリーバッグをもう何個か買わないといけないかもしれない。

 

 

 そんな風に服装の選択肢を広げつつ、本屋で買った雑誌でメイクの練習をしたり勇気を出してエステに行ってみたり、オシャレなカフェやレストランに入ってキキョウ先輩のテーブルマナーを実践しがてらリア充感に慣れようとしてみたり……。そんな風に、私が表面上の女子力を磨いている時だった。

 

 

 

 

 クラピカから連絡が入ったのだ。

 

 

 

 

 どうやら以前私がオーラで描いた絵を指して「これが見えるようになったら(念が使えるようになったら)また連絡してほしい」と言ったことに対して詳しく教えてほしいようだ。

 なんでもやっとたどり着いたハンターとしての仕事を斡旋する紹介所で私と似たようなことを言われて、結局仕事を紹介してもらえなかったらしい。……旅団に相対する可能性が高いヨークシンまでに雇い主を得たいクラピカは焦っただろうな。

 

 少々迷った私だが、これは関係修復にちょっと役に立つんじゃないかと思い立つ。

 そう……。私は念というクラピカにとって初めて聞く概念を説明する役目を担えばいいのだ! 貴重な情報を教えた相手として、多少なりとも好感度はアップするはず! 旅団関係の情報を改めて教えるかどうかは保留だけど、それだけでも結構印象良くなるんじゃなかろうか。

 たしかクラピカにもちゃんと師匠は居たはずなので、指導は彼に任せればいい。私は彼がクラピカに接触する前に恩を着せるためにちょちょっと念について教えてあげればいいだけだ。

 ふふふ……やはり今の私には波が来ているな。

 

 そう思い立った私はさっそく「少し用事が出来たので出かけてくる」とゴンさん、キルアさんに告げてクラピカと直接話すために、互いが居る場所から丁度中間にある町で待ち合わせをした。電話だけじゃ分かりにくいだろうし、直接念を見せた方が早いしな。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし私はその選択を後悔するはめになる。

 

 

 

 

 

 

 

「角の埃がとれていない! やり直しだ!」

「服の干し方がなっていないぞ。これでは乾くのが遅い上に皺になるだろう!」

「味の決め手に欠けるな。それぞれの調味料が主張しすぎて、結果曖昧な味になっている。平たく言わせてもらうとまずい。作り直し!」

 

 以上、数日前から行動を共にしているクラピカから受けた言葉の一部である。

 

 

 現在私エミリア=フローレンは、クラピカの念の師匠をしている。そしてその対価にクラピカが私の女子力……というか、家事力の師匠になっている。

 

 

 何故こうなったのか……。簡単に言えば私があっさり乗せられたせいなんだけど解せぬ。

 無事にクラピカと合流し念について教えた私は想定していた通りクラピカに「念を自分に教えてほしい」と頼まれた。しかしゴンさんキルアさんに対して教えなかったように、私としては変な癖をつけさせたくないし何より面倒くさいし「ハンター協会から合格者にはちゃんと念の師匠が派遣されるはず」と言って最初は断った。…………断ったんだけどさ……。

 主に私には時間が無いんだ一分一秒が惜しい的な主張をしたクラピカはしつこく食い下がって来た。そんなに生き急いでどうすると言いたくもあったが、実際半年後には旅団に接触するしな。時間が無い、という主張はもっともだ。

 でもちゃんとした師匠が現れると知っているのに、その申し出を受け入れるわけには行かない。そう思った私が再度断ろうとした時だった。クラピカはこんなことを言ったのだ。

 

「…………たしか君は、好きな人間に愛してもらえるよう女子力を磨きたいと言っていたな。どうだろう、念についての修業を受けてくれるのなら私が男性目線からの素敵な女性像をもとに君の至らない個所を指摘し、その女子力磨きとやらに協力するというのは」

 

 キキョウ先輩という淑女力の師を得た私にとっても、「男性目線」というワードは衝撃だった。

 そして気づいたら「是非ともお願いしたい!」と言ってクラピカの手を両手でつかんで申し出を受けていた。

 

 はい、自業自得。

 

 

 でもクラピカ、思った以上に容赦なかった。

 

「こんなことで愛する男を射止められると思っているのか!? 言わせてもらうが、今の君では到底無理だ。色々と女性としての魅力に欠けすぎている! 男性目線で多角的に私が考察したんだ間違いない!!」

「そんな力強く言わなくてもよくない!?」

「事実だ! 修行を引き受けてもらった分、私もそれの対価たるこの指導をおろそかにする気は無い」

「うぐ……!」

「! もうこんな時間か。さあ、次は私の念の修業だ。何を項垂れている! 早く準備をするんだ!」

 

 

 早く来いよクラピカの師匠(真)!!

 申し出を受けたのは私だけどこの小姑もしくは(しゅうとめ)(しゅうと)という言葉よりこっちのほうがしっくりくる)がキキョウ先輩と別方向に厳しくて辛い! 天空闘技場に帰ってゴンさんに癒されたい! もう嫌だ!! この小姑嫌だ!!

 

 改めて考えてみたらこういった家事能力はゴンさんが里帰りするのについていってミトさんに教えを乞えば、多分もっと優しく教えてくれたはず。天空闘技場で訓練するゴンさん達が念を修得して闘技場を去るまでには帰るつもりだけど、それまでの期間も今は辛い。もう、本当早く来てクラピカの師匠(真)!! 早くこの子の指導引き継いでくれよ!! 念起こすのと基礎だけは教えたからあとの指導は頼むよ!!

 

 

 

 クラピカとの距離が師弟関係として思いがけず縮まったのは嬉しいけど、なんか思ってたのと違う。……結婚式、呼んだら来てくれるだろうか。

 

 ああ、ゴレイヌさん。貴方のお嫁さんに相応しい人間になるための道のりはまだまだ遠いようです。

 

 

「エミリア! 早く始めるぞ!」

「分かったわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

++++++

 

 

 

 

 

 

 

 クラピカは一日の疲れと共に、新たに身につける力に対して充足感を感じていた。

 そしてつい厳しくしてしまいながらも、念という存在を教えてくれたエミリアに対して感謝もしていたのだ。彼女によればハンター協会から指導者たる人間が派遣されるとのことだが、クラピカにとっていつになるか分からないそれを待つのは苦痛でしか無かった。……自分は一刻も早く、幻影旅団を捕まえる、もしくは倒す手段を手に入れなければならない。それに……仲間の眼を見つけるための雇い主とコネクションも。

 

 そのためには一刻も早い念能力の習得が必要なのだ。

 

 

 

 

 

「ん? ああ……まったく。こんなところに荷物を放って……」

 

 一日の疲れを癒すために修行用にエミリアが借りた家の寝室に向かおうとしたクラピカの足に、何かがぶつかった。見ればそれはエミリアの荷物で、おそらく何か探すために出したはいいがしまいそこねたのだろう。

 これは明日厳しく指摘してやらねば。そう思いつつ、クラピカはせめて机の上にあげておいてやるかと荷物を持ち上げようとした。

 

 

 

 その時だ。

 

 

 

「…………!」

 

 

 

 

 荷物の隙間から覗き見え、わずかな部屋の明かりに反射したのは緋色の輝き。それを見た瞬間、自身の瞳もまた緋色に染まるのをクラピカは感じた。

 

 

 

 

 数年ぶりになる……同胞と視線が交わった瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 




※小姑はあくまでイメージです

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