ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla18,半年後の予約

 ゾルディック家滞在という稀有な体験をする事になった私だが、その内容は実に濃かった。

 朝は豚の訓練。昼はキキョウ先輩による淑女講座。夜は昼のうちに休ませておいた豚を叩き起こして再び訓練。就寝。ひたすらその繰り返しで、時間はあっという間に過ぎていく。

 

 キキョウ先輩の淑女講座は厳しい上に容赦ない言葉が的確に私の心を抉ってきたが、その分得られるものは多かった。とりあえず猫背は直ったし、食事の所作もかなり改善されたと思う。……背中に定規差し込まれたと思ったら定規型の刃物で固定されるまでもなく普通に背筋伸びたよね。

 言葉遣いに関しては身に馴染みすぎていてあまり直らなかったけど、どもったり変な発声の仕方をすると口にキキョウ先輩の扇がねじ込まれるので挙動不審さだけはずいぶん改善された……はず。話す時も前よりは相手の顔を見ることが出来るようになった。

 これだけでもかなりの恩恵である。他にもたくさんご教授いただいた事はあるが、流石に短期間で全て身につける事は出来なかった。でもメモだけは腱鞘炎になるくらい書きとったので、今後マナーブックと合わせて私の淑女バイブルにしようと思っている。

 

 

 でも色々教えてもらったのはいいけど、途中途中で挟まれた拷問訓練は果たして淑女講座だったのだろうか……。い、いや! 私のようなガサツな人間に根気よく淑女たる心構えを教え込んでくれたキキョウ先輩を疑ってどうする!

 

 彼女も言っていたじゃないか。先輩曰く「相手の方が特殊な性癖をもってらしたらどうするのです?」とのこと。つまりアダルティーな領分の話で、どんなプレイにも応えられるようになれという事なのだろう。

 流石人妻……! ちょっと疑問に思うことが無くは無いけど品性やしとやかさといった一般的な淑女の作法の他に、妻としてのイケナイ作法まで網羅してくださるというのか……! ゴレイヌさんが望むなら如何なる性癖でも受け入れるつもりだが、流石にいきなりでは心構えがなっておらず戸惑い、下手したら失望されるかもしれない。そんな時きっとこの経験も役に立つはずだ。……一瞬でも先輩を疑った自分が恥ずかしい。

 でも、あれだな。そんな事を言われるって事は、キキョウ先輩は旦那さんとそんなプレイを……とか質問していたら、何処からか現れた銀髪美丈夫に「誤解だ」と言われた。キルアさんのオトンとの初めての会話がそれっていうね。超真顔だった。

 

 そういえば拷問自体は細目チビのせいで(おかげだとは断じて言いたくない)耐性出来てたから、これだけはダメ出しばかりのキキョウ先輩に褒められたな。それが良いのか悪いのかは果てしなく疑問だが。……人生何が褒められるか分からないものだ。

 ちなみに鞭を振るったり焼きゴテ押し付けてきたのはカルト坊ちゃんだった。なんかこんな可憐な少女じみたお子様にそんなことさせていいのかと、されてる側なのに凄い背徳感だったんだけど。いや、本人無表情なのに凄く生き生きと拷問かましてきたけどな。でもこれなら「訓練の礼に俺がたっぷり躾けてやるよ!!」といきり立ってた豚にやられた方がましだったかもしれない。まあ豚は粋がるだけで昼夜の訓練でだいたい足腰立たなくなってたから無理だったけどな。

 

 

 

 

 そして気づけば数日はあっという間に過ぎ去り、ついにゴンさん達が試しの門を突破したという話を耳にした。ソースはカルト坊ちゃんで、物凄く忌々しそうに「キル兄様は連れていかせない……!」って鬼の形相でギリギリしていた。……顔立ちが綺麗なだけに恐ろしいな。

 で、それは私がゾルディック家に滞在し始めた期間から言えば二週間経つか経たないかくらいの事だったのだが……。

 

 その短期間で、私はこの世の理不尽を目の当たりにすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

「お前念使ったろ」

「使ってねぇ!!」

 

 私の前でそうがなり声をあげたのは、すっとした切れ長の目元が涼やかな黒髪黒目の細身の青年である。

 おい……おい……。ちょっと待て。

 

「はあぁ!? いや、指導しといてなんだけど、改めて見るとおかしいとしか言いようがないだろ! 誰お前!? 二週間でどうやってあの肉襦袢みたいな脂肪が取れるんだっつの! お前世の中のダイエッター舐めてんのか!! 絶対訓練が嫌でダイエット用に念能力開発したろ!! あれだろ? 能力解除したらボンッって元の体型に膨れ上がるんだろ?」

「馬鹿か! そんなことで念能力作るとか馬鹿か! 正真正銘これが今の俺の体型だし、こうしたのはお前だよ!!」

 

 怒鳴り返されるが、それに対して今度は突っ込み返せなかった。

 いや、薄々は気づいてたよ? なんか縮むの早いなって。でもまさかそんな馬鹿なと思って気づかないふりしてた。だってあのこびりついた頑固な脂肪が二週間で無くなるとかあるわけないだろ常識的に考えて。

 

 私の前に立つ青年……ミルキは、二週間前の豚の面影何処行った状態のイケメンに変貌していた。思わず唾吐きそうになるくらいイケメンだった。いや、あのキキョウ先輩と銀髪美丈夫の子供だからパーツ自体はもともと整ってたんだろうけど……! でも何だこの敗北感……!

 

「いやでもやっぱりマジあり得ないから!! あの巨体から痩せたらまず間違いなく脂肪が詰まってた分の皮余るだろ!! なんできっちり締まってんのよ!! だるんだるんになった皮何処行ったし! いつの間に切除手術したお前!?」

「知るかよ!! 何で成果出たのにテメェがキレてんだ!! あれか? あれだろ! ひがみだな! 俺の美貌に恐れ嘶いてるんだろうお前地味だもんなぁ!!」

「うっぜぇ!! 調子こいてんじゃねぇぞ豚が!!」

「豚? 何処が? 今の俺の何処が豚だって!? はーっははは! お前のお陰で今最高にいい気分だぜありがとうよ! もう一度言ってやるが、こうしたのはお前だからな。精々歯ぎしりしながら俺に見惚れてろよブス!!」

 

 (元)豚があまりにも調子こいてナルシスってたので、思わず腹パンしてギロチンチョークきめてしまった。(元)豚は白目向いて気絶したが知らん。せいぜい床ではいつくばってろ。

 

 それにしても本当に豚の生まれ変わりようが凄すぎて引く。

 

 でもこれだけ逆切れしといてなんだけど……もしかしてこの豚の急激な痩せようは、私の念能力に原因があるのではなかろうか。

 私の念能力強化蘇生(パワーリザレクション)は自分以外に施す場合、私自身のオーラを注ぎ込んで対象の体力回復を促す。傷がある場合はその治りも早めることが出来るが、それすなわち新陳代謝の促進である。

 つまり過度の訓練と急激な回復を繰り返すことが思いがけぬダイエット効果を生んだ的な…………。……まあどうでもいいか。とりあえず私的にはデブからぽっちゃりレベルまでもっていってやれば成功だと思ったので、この結果は大成功といえる。超スレンダーにしてやったぜ。

 キキョウ先輩にも大絶賛していただいたし、彼女の淑女教育の対価に差し出せるだけの成果を出せたといえるだろう。カルト坊ちゃんは(元)豚の変わりように気味悪がってたけどな。

 

 

 

 そしてキルアさんが独房から出て銀髪美丈夫なパパンと話した後、ゴンさん達のもとへ行くために家を出た事を知ると私もすぐに準備をした。

 

 事前にゴンさん達が試しの門を突破したら出ていく旨は伝えてあったので、キルアさんが出て行ったことに発狂寸前レベルで叫ぶキキョウ先輩に今までのお礼を言って私も本邸を出ていこうとした。……出ていこうとした。

 けど私のパーカーを左右からがっちりつかんで離さない方たちが居て無理だった。……キキョウ先輩とカルト坊ちゃんである。

 

 ゴンさん達が来たら出ていくと伝えた時に彼らやキルアさんとはハンター試験で一緒だった事も話してあったので、当然この後私が彼らに合流しようとしている事はキキョウ先輩も承知している事だろう。これはよもやキルアさんを監視して逐一連絡しろとか言われるんじゃ……?

 しかし私の心配は杞憂に終わり、キキョウ先輩は「キルをよろしくね」と一言告げただけだった。……でもその声は先ほどまでの甲高いものから一変し、平坦な声だったものだから私としては逆に怖かったというか……。なんていうか、短い付き合いだけどキキョウ先輩が私みたいな奴に大事な跡取りのキルアさんをよろしくなんて言うとは思えないんだよな。色々裏を勘繰ってしまって恐ろしい。

 え、先輩。それどういう意味スか。多分額面通りに受け取っちゃいけない奴ですよね? アレっすか。キルアさんにこれ以上妙な影響でないように見張っとけよお前ってことスか。無理です。ゾルディック家の常識とか知らない私には無理です。それに個人的にキルアさんの事応援してるんで、貴女にも恩はあるけど彼に関しては邪魔するような事したくないっていうか……!

 

 ビビって思わず固まる私だったが、そんな私の肩をぽんっと叩く人物が居た。

 見ればそこに居たのは私が本邸に来るきっかけになったにも関わらず、この二週間ほぼ話したことが無かったゼノ老人だった。

 

「ま、そう固まるな。行くんだろう?」

「え、ええ」

「ミルキのことはワシからも感謝しておく。よく短期間であそこまで絞ったもんだ」

 

 さりげなく私が出て行き易い空気を作ってくれる爺さんに感謝するほかない。これは下手に先輩に返事をしないでうやむやにして出ていくのが得策と見た!!

 しかし私が「いえ、こちらこそお世話になりました」というシンプルな言葉を残して出ていこうとした時だった。次に発せられたゼノ老人の言葉に……私の脳内に雷鳴のごとく天啓じみた考えが閃いた。

 

 

 

 

 

「達者でな。もし殺したい奴がいたら連絡してくれ。ミルキを痩せさせた礼に、3割引きで請け負うぞ?」

 

 

 

 ニヤリと凄みのある笑みでそうのたまったゼノ老人。

 

 

 3割引き。殺したい奴。ヨークシン。ゾルディック家。十老頭。

 それらの単語が一瞬で普段あまり動きのよろしくない私の頭を駆け巡り、思わず身を乗り出すようにして私は叫んでいた。

 

 

 

「それ今すぐ使っていいですか!」

「は?」

「割引を、今、使っても、いいでしょうか!!」

「あ、ああ。構わんが、そんなに殺したい奴がいるのか?」

「はい!」

 

 勢いよくグイグイ身を乗り出して握り拳を作る私にゼノ老人は若干呆れたような雰囲気で「まあ、いいだろう。それでターゲットは?」と問うてきた。いつのまにか銀髪美丈夫ことシルバの旦那もこちらを見ていたが、その迫力ある視線に怯む暇も無いほど私の胸は熱く滾っている。

 私はなんて……なんていう好機を手に入れたんだ!!

 

 

 

 

 

 

「半年後ヨークシンでゾルディック家で現役の方全員雇います!! ターゲットは幻影旅団で!!」

 

 

 

 

 

 

 ざまぁ見やがれクロロぉぉぉぉぉぉ!!!!

 鋲男もカルト坊ちゃんもひい爺さんも残してやるもんか!! 全員私が雇ってやる!!

 

 

 私は思いがけず黒歴史こと忌々しい関係性を一気に消去できるかもしれないビッグチャンス到来に歓喜した。これでまた一歩ゴレイヌさんの嫁になる未来へと近づいたぞ……! ふふ、ふふふふふ……! 笑いが止まらん……!

 

 

 

 

 ゴレイヌさんとの明るい未来を奴らのせいで台無しにされてはたまったものでは無い。幸い金はある。

 

 だから死ねクソガキ共!! お前らとの腐れ縁もここまでだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【エミリア=フローレン 半年後に暗殺一家を予約 ターゲット:幻影旅団(ただし予算節約のため一部のみ)】

 

 

 

 

 




感想にいつもガソリン注いでもらってるのに最近返信出来たり出来なかったりな雑魚作者ですみませんorz
いつも本当に励みになっております!嬉しいので出来るだけ更新速度でお返しできればと思う所存。



そして痩せさせといてなんだがミルキルートは無いんだすまない



すまない




※追記
主人公はマハの事をひい爺さんと言っていますが、正確にはマハはゼノの祖父で高祖父だそうです。作者も感想で指摘してもらうまで完全に勘違いしていたので、あえて直さずこちらで補足とさせていただきます。記憶朧げな主人公がそこまで覚えてるかといったら絶対に覚えてないんだぜ……!














ついでに主人公の身長について、数値を打ち込むと身長差を図解してくれるサイトを見つけたのでそれを参考に巨体(豚)と対比してざっくり描いてみたのでよければ参考までにどうぞー。並べてみると意外とそこまで小さくないのです。
ただし作者の残念クオリティなので注意。

【挿絵表示】

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