ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

2 / 66
Gorilla1,幸先悪い一次試験

 ハンター試験に受かり身分証明を手に入れて脱オタク、女子力を磨いて素敵で可憐なゴレイヌさんに相応しい女子になってやる! ……それが、ハンター試験に臨むにあたって私が掲げた目標だった。

 

 

 けど何で私は初っ端からピエロと殴り合ってるんでしょうね。

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 ナビゲーターであるキリコの案内により、ゴン、クラピカ、レオリオのルーキー3人組は無事にハンター試験会場へとたどり着いていた。

 ハンター。その活動は様々であるが、この世で最も儲かる名誉ある仕事というのが世間一般による認識だ。その分ハンターになるための試験の難易度は高く、毎年多くの不合格者を出している。

 

 ナンバープレートを受け取ったゴンたちは、人の良さそうな笑みを浮かべたトンパという男に声をかけられた。聞けば彼は35回も試験に挑み続けているベテランらしく、ルーキーのゴンたちに親切にも目ぼしい受験者について紹介までしてくれるようだ。しかしある一点に視線が定められたとき、トンパは思わず口ごもる。それはトンパに釣られてその方向を見たゴンたちも同様であった。

 

「ねえトンパさん。あそこで殴り合ってる人たちは?」

「ありゃあ関わるもんじゃねぇ」

 

 間髪入れずに答えたトンパだったが、一応説明だけはしてくれるらしい。ゴンが指さした方向……人が遠巻きにする中、激しく殴り合っている男女について説明をしてくれた。

 

「44番奇術師ヒソカ。あいつは去年合格確実と言われながら、気にくわない試験官を半殺しにして失格した奴だ。他にも20人の受験生を再起不能にしているし、極力関わんねぇ方がいいぜ」

「……! そんな奴が今年も堂々と試験を受けてんのかよ! いやでも、そんな危ない奴と殴り合ってるあの姉ちゃんはどんな奴なんだ……?」

 

 レオリオの問いに、トンパはやや困惑した表情で答える。

 

「あいつは56番のエミリアだ。過去に二回ほど受験してるが、どっちも一次試験で落ちてる。……ヒソカと正面からやりあえるヤバイ女だとは思わなかったんだが……」

「見る限り双方かなりの達人のようだな」

 

 武人としての視線で観察していたクラピカが、一筋の汗を頬に伝わせる。ヒソカとエミリアはある一定の範囲内から出ずに戦っており、まるでそこには見えない闘技場があるように感じられた。繰り広げられる攻防は辛うじて目で追えるが、果たして自分はあの攻防に割って入ったとしてついていけるだろうか。

 

「流石はハンター試験。あなどれん……!」

「そ、そうだな。うへぇ……。あんな普通っぽいねーちゃんまで強いのかよ。こりゃあカワイ子ちゃんが居たとしても油断しねぇ方がいいな」

「あの2人凄いね! どっちも凄く強いや!」

 

 どんなに見た目が弱そうであれ、やはりここまでたどり着いた猛者。気を引き締めつつも冷や汗を流すクラピカとレオリオに対して、ゴンは素直に賞賛の目で二人の戦いを見ていた。

 

 そんな3人に、トンパは「それよりも」といってジュースの缶を取り出した。

 

「よければお近づきの印だ。あんな奴ら放っといて、お互いの健闘を祈って乾杯しようぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハンター試験の会場までたどり着いたところまでは良かったんだ。新人潰しで有名なトンパは私が新人でないと気づいたようで声をかけてくることなく、私はただ心穏やかに試験が始まるのを待てばよかった。

 そういえば今回の試験、偶然であるがどうやら私が「漫画」として見知っている主人公ゴンが受ける回のようだ。この地下に来る前、ナビゲーターに案内された先で定食屋のおっちゃんに「弱火でじっくり」と言った時は妙に感慨深い気持ちになったものである。

 ……でも漫画と同じ世界観とはいえ、今の私にとってここは現実だ。それが漫画どおりに進むとなるとちょっと気持ち悪いな。まあ漫画に沿って進むなら、どうせ知ってる範囲は少ないんだ。せいぜい知識として有効利用させてもらうさ。

 

 そして試験が始まるのを待っていた私であるが、ちょっと場所を変えようと思って移動した時だ。誰かの肩にぶつかったが、人が多いんだからいちいち気にしていても仕方ないだろう。そう思って特に気にも留めず進もうとしたんだけど……。

 

「駄目じゃないか♥ 人にぶつかったらあやまらなくっちゃ♦」

「!」

 

 咄嗟に"堅"という念でのガードをした私の腕に、何かが当たった。見ればオーラで覆われたトランプが2枚私の腕にあてがわれており、もし堅をしていなければそのトランプは容易く私の腕を切り落としただろう。

 視線をあげれば、ちょっと目を見開いたピエロメイクの男。……ああ、そういえば居たなこんな奴。

 そいつは少し驚いたような顔の後、気持ちの悪いねっとりとした笑みを浮かべた。

 

「へえ、君は"使える"んだね♠ 気づかなかったよ♥」

 

 妙に嬉しそうだが、腕をもっていかれるところだった私としては気に障る事この上ない。思わずメンチきったわ。……ん? あれ、何か今妙なデジャヴを感じたな。メンチメンチ……ああ、この後の試験の試験官がそういえばそんな名前だったっけ。どうでもいいけど美味しそうな名前だよな。

 

「おいおい兄ちゃんよぉ、肩がぶつかったくらいでそれは無ぇんじゃねーの?」

「でも謝らない君が悪いんだよ? 悪い子にはお仕置きしなきゃ♥」

「はあ? 男が細かい事でグチグチ言ってんじゃないわよ。ケツの穴が小さい奴ね」

「……君、口悪いねぇ♠ やっぱりお仕置きは必要かな♦」

 

 我ながら口調がチンピラだった自覚はある。そして自分の沸点が割と低い自覚もある。……でも結果的に、数分に及ぶピエロ男との攻防で体力を消耗したのは誤算だった。クソッ、試験が始まる前から念能力者と殴り合う予定とか無かったっつーに! しかもあの野郎か弱い乙女の顔面グーで殴りよって……! 許さん。まあ私も仕返しに奴の股間を思いっきり蹴り飛ばしてやったけどな! …………蹴った後妙に気持ちよさそうな笑みを浮かべてたなんて私は見てないぞ。

 で、思いがけず苛烈な殴り合いに発展していった私たちの戦いであるが、それは一次試験開始を告げるベルによって終止符をうたれた。こんな奴相手にしてて試験に落ちるのもアホらしいので、私はピエロの攻撃を弾いて距離をとると「後で覚えてろよ!」と捨て台詞を残してその場を離れることにした。うん、私ってばマジ冷静。

 

 にしてもあのピエロマジうぜぇ。

 私はピエロを完全に敵とみなし、隙あらば試験の途中で叩き潰してやると心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして始まった一次試験であるが、内容は私が知る通り第二試験会場まで試験官のサトツさんについて走っていけばいいという単純なものである。途中主人公一行らしき姿も見えたが、特に関わる必要も無いだろう。私は極力むさい男の汁から逃れるため、壁際を走りながら何処までも続く地下道を走り抜けた。

 そして地下道を抜けるとそこはヌメーレ湿原。通称詐欺師の塒と呼ばれる人間を騙して餌にする動物の巣窟らしいが、どんな動物だろうと所詮は獣。オーラで威圧してさっくり走り抜ければいいだろう。その時他の受験生まで気絶しようが私の知った事ではない。

 しかしさっさと再開しないかなーと待っていたら、なんか妙なイベント来た。サトツ試験官が偽物だとのたまう男が現れたのだ。男の主張によれば自分こそが本物の試験官で、サトツさんは人面猿が化けた姿なんだとか。

 ああ、あったあったこんなイベント。あれだろ、たしかさくっとピエロが片付けて終わりだろ。

 

 しかしあくび混じりに眺めていたら、試験官と偽物両方に飛ばされたトランプが私にまで飛んできて私はより一層ピエロ男が嫌いになった。野郎……。

 しかし現在は一次試験。いずれ進んだ先で潰してやろうと心に決めて、私はピエロから極力離れて走ることにした。あんな奴にかまかけてこれ以上体力使ったら馬鹿らしいからな。近くに居たら我慢できず殴りに行ってしまいそうだ。

 

 その結果、サトツさんの後について走っていたらオーラを使って動物を威圧する必要も無くすんなり二次試験会場まで到着した。

 

 途中でお子様にちょっと話しかけられた気もするが、私はハンターライセンスが欲しいだけで特に誰かと関わる気は無いから無視をした。………………けして話しかけられても友好的な会話に慣れない私が咄嗟に答えられなかったとかではない。断じて。「感じわりぃの」と銀髪猫目に言われた気もするが、気にしないでおこう。……ちょっと心に刺さったけど。

 

 ち、チィッ! 気にしない、気にしないけどせめて喧嘩腰以外の会話術も学ばなきゃってのは分かってるんだ……! くそっ、会話ってどうやればいいんだ。このままじゃゴレイヌさんに合わせる顔が無い! 女子力高めの素敵女子になれないじゃないか……!

 

 

 

 こうしてなんだかんだで第一試験を突破した私であったが、思いがけず最後に人間性の課題を突き付けられた。

 ……ハンターへの道のりより、女子力向上の方が私にとっての難題かもしれない。

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。